平成23年司法試験論文刑事系第1問答案練習

問題

〔第1問〕(配点:100)
 以下の事例に基づき,甲,乙及び丙の罪責について,具体的な事実を摘示しつつ論じなさい(特別法違反の点を除く。)。

1 甲(35歳,男)は,ある夏の日の夜,A県B市内の繁華街の飲食店にいる友人を迎えに行くため,同繁華街周辺まで車を運転し,車道の左側端に同車を駐車した後,友人との待ち合わせ場所に向かって歩道を歩いていた。
 その頃,乙(23歳,男)と丙(22歳,男)は,二人で酒を飲むため,同繁華街で適当な居酒屋を探しながら歩いていた。乙と丙は,かつて同じ暴走族に所属しており,丙は,暴走族をやめた後,会社員として働いていたが,乙は,少年時代から凶暴な性格で知られ,何度か傷害事件を起こして少年院への入退院を繰り返しており,この当時は,地元の暴力団の事務所に出入りしていた。丙は,乙の先を歩きながら居酒屋を探しており,乙は,少し遅れて丙の後方を歩いていた。
 その日は週末であったため,繁華街に出ている人も多く,歩道上を多くの人が行き交っていたところ,甲は,歩道を対向して歩いてきた乙と肩が接触した。しかし,乙は,謝りもせず,振り返ることもなく歩いていった。甲は,一旦はやり過ごしたものの,乙の態度に腹が立ったので,一言謝らせようと思い,4,5メートル先まで進んでいた乙を追い掛けた上,後ろから乙の肩に手を掛け,「おい。人にぶつかっておいて何も言わないのか。謝れ。」と強い口調で言った。乙は,振り向いて甲の顔をにらみつけながら,「お前,俺を誰だと思ってんだ。」などと言ってすごんだ。甲は,もともと短気な性格であった上,普段から体を鍛えていて腕力に自信もあり,乙の態度にひるむこともなかったので,甲と乙はにらみ合いになった。
 甲と乙は,歩道上に向かい合って立ちながら,「謝れ。」,「そっちこそ謝れ。」などと言い合いをしていたが,そのうち,甲は,興奮のあまり,乙の腹部を右手の拳で1回殴打し,さらに,腹部の痛みでしゃがみ込んだ乙の髪の毛をつかんだ上,その顔面を右膝で3回,立て続けに蹴った。これにより,乙は,前歯を2本折るとともに口の中から出血し,加療約1か月間を要する上顎左側中切歯・側切歯歯牙破折及び顔面打撲等の怪我をした。
 丙は,乙がついてこないので引き返し,通行人が集まっている場所まで戻って来たところ,複数の通行人に囲まれた中で,ちょうど,乙が甲に殴られた上で膝で蹴られる場面を見た。丙は,乙が一方的にやられており,更に乙への攻撃が続けられる様子だったので,乙を助けてやろうと思い,「何やってんだ。やめろ。」と怒鳴りながら,甲に駆け寄り,両手で甲の胸付近を強く押した。
 甲は,一旦後ずさりしたものの,すぐに「何だお前は。仲間か。」などと言いながら丙に近づき,丙の腹部や大腿部を右足で2回蹴った。さらに,体格で勝る甲は,ひるんだ丙に対し,丙が着ていたシャツの胸倉を両手でつかんで引き寄せた上,丙の頭部を右脇に抱え込み,「おら,おら,どうした。」などと言いながら,両手を組んで丙の頭部を締め上げた。
 丙は,たまらず,近くの歩道上にしゃがみ込んでいた乙に対し,「助けてくれ。」と言った。
 乙は,丙が助けを求めるのを聞いて立ち上がり,丙を助けるとともに甲にやられた仕返しをしてやろうと思い,丙の頭部を締め上げていた甲に背後から近寄り,甲の後ろからその腰背部付近を右足で2回蹴った。
 甲は,それでもひるまず,丙の頭部を締め上げ続けたので,乙は,さらに,甲の腰背部付近を数回右足で強く蹴った。
 そのため,甲は,丙の頭部を締め上げていた手をようやく離した。
 丙は,甲の手が離れるや,乙に向かっていこうとした甲の背後からその頭部を右手の拳で2回殴打した。
 甲は,乙及び丙による上記一連の暴行により,加療約2週間を要する頭部打撲及び腰背部打撲等の怪我をした。また,丙は,甲による上記一連の暴行により,加療約1週間を要する腹部打撲等の怪我をした。

2 甲は,二人組の相手に前後から挟まれ,形勢が不利になった上,周囲に多数の通行人が集まり,騒ぎが大きくなってきたので,この場から逃れようと思い,全速力で走って逃げ出した。
 乙は,「待て。逃げんのか。」などと怒鳴りながら,甲の5,6メートル後ろを走って追い掛けた。
 丙は,乙が興奮すると何をするか分からないと知っていたので,逃げ出した甲を乙が追い掛けていくのを見て心配になり,少し遅れて二人を追い掛けた。
 乙は,多数の通行人が見ている場所で甲からやられたことで面子を潰されたと思って逆上しており,甲を痛めつけてやらなければ気持ちがおさまらないと思い,走りながらズボンの後ろポケットに入れていた折り畳み式ナイフ(刃体の長さ約10センチメートル)を取り出し,ナイフの刃を立てて右手に持った。
 乙の後方を走っていた丙は,乙がナイフを右手に持っているのを見て,乙が甲に対して大怪我をさせるのではないかなどと不安になり,走りながら,「やめとけ。ナイフなんかしまえ。」と何度か叫んだ。
 甲は,約300メートル離れた車道上に止めてあった自分の車の近くまで駆け寄り,車の鍵を取り出し,左手に持った鍵を運転席側ドアの鍵穴に差し込んだ。
 乙は,甲に追い付き,その左手付近を目掛けてナイフで切りかかった。甲は左前腕部を切り付けられて左前腕部に加療約3週間を要する切創を負った。
 その頃,甲と乙を追い掛けてきた丙は,乙が甲に切りかかったのを見て,乙を制止するため,乙の後ろから両肩をつかんで強く後方に引っ張り,乙を甲から引き離した。

3 甲は,その隙に車の運転席に乗り込み,運転席ドアの鍵を掛け,エンジンをかけて車を発進させた。
 甲が車を発進させた場所は,片側3車線のアスファルト舗装された道路であり,甲の車の前方には信号機があり,その手前には赤信号のため車が数台止まっていた。
 甲は,前方に車が止まっていたので,低速で車を走行させたところ,乙は,丙を振り払い,走って同車を追い掛け,運転席側ドアの少し開けられていた窓ガラスの上端部分を左手でつかみ,窓ガラスの開いていた部分から右手に持ったナイフを車内に突っ込み,運転席に座っていた甲の頭部や顔面に向けて何度か突き出しながら,「てめえ,やくざ者なめんな。逃げられると思ってんのか。降りてこい。」などと言って甲に車から降りてこさせようとした。
 甲は,信号が変わり前方の車が無くなったことから,しつこく車についてくる乙を何とかして振り切ろうと思い,アクセルを踏んで車の速度を上げた。乙は,車の速度が上がるにつれて全速力で走り出したが,次第に走っても車に追い付かないようになったため,運転席側ドアの窓ガラスの上端部分と同ドアのドアミラーの部分を両手でつかみ,運転席側ドアの下にあるステップに両足を乗せて車に飛び乗った。その際,乙は,右手で持っていたナイフを車内の運転席シートとドアの間に落としてしまった。なお,甲の車は,四輪駆動の車高が高いタイプのものであった。
 甲は,乙がそのような状態にあり,ナイフを車内に落としたことに気付いたものの,乙から逃れるため,「乙が路面に頭などを強く打ち付けられてしまうだろうが,乙を振り落としてしまおう。」と思い,アクセルを更に踏み込んで加速するとともに,ハンドルを左右に急激に切って車を左右に蛇行させ始めた。
 乙は,それでも,開いていた運転席側ドア窓ガラスの上端部分を左手でつかみ,右手の拳で窓ガラスをたたきながら,「てめえ,降りてこい。車を止めろ。」などと言っていた。しかし,甲が最初に車を発進させた場所から約250メートル車が進行した地点(甲が車を加速させるとともに蛇行運転を開始した地点から約200メートル進行した地点)で,甲が何回目かにハンドルを急激に左に切って左方向に車を進行させた際,乙は,手で自分の体を支えることができなくなり,車から落下して路上に転倒し,頭部を路面に強打した。その際の車の速度は,時速約50キロメートルに達していた。甲は,乙を車から振り落とした後,そのまま逃走した。
 乙は,頭部を路面に強打した結果,頭蓋骨骨折及び脳挫傷等の大怪我を負い,目撃者の通報で臨場した救急車によって病院に搬送され,救命処置を受けて一命を取り留めたものの,意識は回復せず,将来意識を回復する見込みも低いと診断された。

 

練習答案

以下刑法についてはその条数のみを示す。

 

[甲の罪責]
 1.第一暴行
 本文1にあるように、甲は乙と歩道上に向かい合って立ちながら言い合いをしているうちに、乙の腹部を右手の拳で1回殴打し、乙の髪の毛をつかみながらその顔面を右膝で3回立て続けに蹴った(これを本答案では第一暴行と呼ぶ)。これにより乙は加療約1か月を要する怪我をした。このように甲は乙の身体を傷害したので傷害罪(204条)が成立する。
 2.第二暴行
 その後甲は丙の腹部や大腿部を右足で2回蹴り、さらに丙の頭部を締め上げた(これを本答案では第二暴行と呼ぶ)。これにより丙は加療約1週間を要する怪我をした。先ほどと同様に甲には傷害罪が成立する。
 この第二暴行は、丙が両手で甲の胸付近を強く押した後で発生しているので、正当防衛や緊急避難が成立しないかが問題となり得る。しかし甲は自ら丙に近づいて第二暴行に及んでおり、自己又は他人の権利を防衛するためやむを得ずにした行為でも、自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるためにやむを得ずにした行為でもない。よって正当防衛(36条)も緊急避難(37条)も成立しない。
 3.乙を車から振り落とした行為
 本文3にあるように、甲は乙が外側から飛び乗った自車を蛇行運転させ、そのことにより乙を車から振り落とした。その結果乙は頭部を路面に強打し、救命処置を受けて一命を取り留めたものの、意識は回復せず将来意識を回復する見込みも低いと診断されるほどの大怪我を負った。
 甲が乙を車から振り落とした際の車の速度は時速約50キロメートルに達しており、そのような状況で車から人を振り落とすと一般にその人が死亡する危険性が高い。それにもかかわらず、甲は「乙が路面に頭などを強く打ち付けられてしまうだろうが、乙を振り落としてしまおう。」と思って、車を加速して蛇行させた。つまり甲は乙を殺すという故意でそのための行為をした。乙は死亡していないので甲には殺人未遂罪(203条)が成立する。
 ここでも正当防衛(36条)や緊急避難(37条)について検討しなければならない。乙が甲を攻撃しようと甲の車を追いかけていたからである。乙は最初ナイフを持って追いかけてきたが、甲の車に飛び乗る際にナイフを落としてとても拾えないような状態になり、甲もそのことを認識していた。つまり甲は乙が素手で甲の身体や車を傷つけられるという危険を感じていた。これは急迫不正の侵害であり、自己の身体、財産に対する現在の危難である。そして乙を車から振り落とそうとした行為はやむを得ずにした行為である。乙を車に乗せたままだと車の窓ガラスを割って攻撃される等の危険があり、そうした危険から逃れるには乙を振り落とす以外に考えづらいからである。しかし生じた害(乙の生命の危険)が避けようとした害(甲の身体や財産の危険)の程度を超えているし、防衛の程度も超えている。よって過剰防衛(36条2項)や過剰避難(37条1項ただし書)が成立し、甲の殺人未遂罪は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
 4.結論
 以上より、甲には2つの傷害罪と1つの殺人未遂罪が成立し、殺人未遂罪には過剰防衛と過剰避難が成立する。これら3つは併合罪(45条)の関係に立つ。

 

[乙及び丙の罪責]
 1.甲への素手での暴行
 本文1にあるように、乙は甲の後ろから、計5回程度その腰背部付近を右足で蹴った。丙はその直後に甲の背後からその頭部を右手の拳で2回殴打した。甲は、乙及び丙による上記一連の暴行により、加療約2週間を要する怪我をした。その際に乙と丙との間に意思の連絡があったかどうかはわからないが、なかったとしても同時傷害の特例(207条)で乙と丙は共犯の例により、傷害罪(204条)が成立する。
 しかし、乙及び丙には正当防衛(36条1項)が成立するので、この傷害罪は不可罰である。甲が丙の頭部を締め上げたり、乙に向かって攻撃しようとしていたりしたことは、丙及び乙の身体への急迫不正の侵害である。そして先の傷害罪の構成要件に該当する乙及び丙の行為は、そのそれぞれ他人の権利を防衛するためにやむを得ずにした行為なので、正当防衛が成立する。
 2.乙が甲にナイフで切りかかった行為
 本文2にあるように、乙は車に乗って逃げようとしていた甲の左手付近を目掛けてナイフで切りかかり、それによって甲は加療約3週間を要する切創を負った。よって乙には傷害罪が成立する。丙は乙がナイフで甲に切りかかることを全力で阻止しようとしており、仮に先の甲への素手での暴行の際に乙と丙が共犯関係になっていたとしても、その共犯関係から離脱しているので、丙に傷害罪は成立しない。
 乙には正当防衛も緊急避難も成立しない。進んで逃げようとしている甲に対してわざわざ追いかけて攻撃するに及んでいるからである。
 3.乙が甲に車から降りてこさせようとした行為
 本文3にあるように、乙は窓ガラスからナイフを車内に突っ込み、甲の頭部や顔面に向けて何度か突き出しながら、「てめえ、やくざ者なめんな。逃げられると思ってんのか。降りてこい。」などと言って甲に車から降りてこさせようとした。甲が車に乗って移動するのは自由であり、車から降りる義務はない。よって乙は暴行を用いて甲に義務のないことを行わせようとしている。実際に甲は車から降りなかったので強要未遂(223条3項)が乙には成立する。
 4.結論
 丙は素手で甲を暴行した行為につき傷害罪が成立するが正当防衛により罰せられない。乙は丙と同様に素手で甲を暴行した行為については傷害罪が成立するが正当防衛により罰せられないものの、ナイフで甲に切りかかった行為については傷害罪が成立し、甲に車から降りてこさせようとした行為については強要未遂罪が成立する。この両者は併合罪の関係に立つ。

以上

 

修正答案

以下刑法についてはその条数のみを示す。

 

[甲の罪責]
 1.第一暴行
 本文1にあるように、甲は乙と歩道上に向かい合って立ちながら言い合いをしているうちに、乙の腹部を右手の拳で1回殴打し、乙の髪の毛をつかみながらその顔面を右膝で3回立て続けに蹴った(これを本答案では第一暴行と呼ぶ)。これにより乙は加療約1か月を要する怪我をした。甲に乙の身体を傷害しようという故意まで存在したかどうかはわからないが、少なくとも乙を暴行しようという故意はあり、そして甲は乙の身体を傷害した。よって傷害罪(204条)が成立する。208条の暴行罪の「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」という規定から、「暴行を加えた者が人を傷害するに至ったとき」は暴行罪ではなく傷害罪に該当する。
 2.第二暴行
 その後甲は丙の腹部や大腿部を右足で2回蹴り、さらに丙の頭部を締め上げた(これを本答案では第二暴行と呼ぶ)。これにより丙は加療約1週間を要する怪我をした。先ほどと同様に甲には傷害罪が成立する。
 3.乙を車から振り落とした行為
 本文3にあるように、甲は乙が外側から飛び乗った自車を蛇行運転させ、そのことにより乙を車から振り落とした。その結果乙は頭部を路面に強打し、救命処置を受けて一命を取り留めたものの、意識は回復せず将来意識を回復する見込みも低いと診断されるほどの大怪我を負った。
 甲が乙を車から振り落とした際の車の速度は時速約50キロメートルに達しており、そのような状況で甲が乗っていたような車高の高い車から人を振り落とすと一般にその人が死亡する危険性が高い。それにもかかわらず、甲は「乙が路面に頭などを強く打ち付けられてしまうだろうが、乙を振り落としてしまおう。」と思って、車を加速して蛇行させた。つまり甲は乙を殺すという故意でそのための行為をした。乙は死亡していないので甲の行為は殺人未遂罪(203条)の構成要件を満たす。
 ここで正当防衛(36条)について検討しなければならない。乙が甲を攻撃しようと甲の車を追いかけていたからである。乙は最初ナイフを持って追いかけてきたが、甲の車に飛び乗る際にナイフを落としてとても拾えないような状態になり、甲もそのことを認識していた。つまり甲は乙が素手で甲の身体や車を傷つけられるという危険を感じていた。これは急迫不正の侵害である。そして乙を車から振り落とそうとした行為は、自己の身体及び財産を防衛するためにやむを得ずにした行為である。乙を車に乗せたままだと車の窓ガラスを割って攻撃される等の危険があり、そうした危険から逃れるには乙を振り落とす以外に考えづらいからである。時速50キロメートルに達するまで加速したという点が相当かどうがという点については、例えば時速30キロメートルで乙を振り落とすことが可能だったとしても、自らの身体及び財産に対する急迫不正の侵害に直面しているときにそこまでの調整を甲に求めるのは酷であり、相当性の範囲内であると言える。また、乙が甲を攻撃しようとしたのは先に甲が乙を攻撃したからであり、自ら招いた侵害については正当防衛が成立しない場合もあるが、ちょっとした口論から甲が乙に暴行して傷害を負わせたことに対し、乙が甲をナイフまで持って追い回して車に乗ってもまだ追跡をやめないというのはもはや甲が自ら招いた侵害とは言えず、正当防衛が成立する。よって36条1項により、この行為は不可罰である。
 4.結論
 以上より、甲には2つの傷害罪が成立し、これらは併合罪(45条)の関係に立つ。殺人未遂については正当防衛により不可罰となる。

 

[乙及び丙の罪責]
 1.甲への素手での暴行
 本文1にあるように、乙は甲の後ろから、計5回程度その腰背部付近を右足で蹴った。丙はその直後に甲の背後からその頭部を右手の拳で2回殴打した。甲は、乙及び丙による上記一連の暴行により、加療約2週間を要する怪我をした。これらの行為は傷害罪(204条)の構成要件を満たす。
 乙は丙の「助けてくれ。」という言葉に応じて甲を暴行したのであり、丙はそうして乙に助けてもらって甲が乙を攻撃しようとしているところを暴行した。さらに、もともと乙と丙は旧知の仲でこの日も共に行動しており、どちらも甲から暴行を受けたというこの行為以前の事情もある。よってこれら乙及び丙による甲への素手での暴行は現場で共謀して共同で行われたものであると評価でき、乙と丙は共犯になる。
 しかし、乙及び丙には正当防衛(36条1項)が成立するので、この傷害罪は不可罰である。甲が丙の頭部を締め上げたり、乙に向かって攻撃しようとしていたりしたことは、丙及び乙の身体への急迫不正の侵害である。そして先の傷害罪の構成要件に該当する乙及び丙の行為は、そのそれぞれ丙及び乙の身体という他人の権利を防衛するためにやむを得ずにした行為である。乙も丙もすでに甲から傷害を負わされており説得などができるような状況ではとてもなかったし、警察などに助けを呼ぶ時間的余裕もなかった。乙及び丙の甲への暴行は素手で行われており、丙及び乙への侵害をやめさせるのに相当な程度であった。以上より正当防衛により、この傷害罪については乙も丙も不可罰である。
 2.乙が甲にナイフで切りかかった行為
 本文2にあるように、乙は車に乗って逃げようとしていた甲の左手付近を目掛けてナイフで切りかかり、それによって甲は加療約3週間を要する切創を負った。よって乙には傷害罪が成立する。進んで逃げようとしている甲に対してわざわざ追いかけてナイフで攻撃するに及んでいるのだから、正当防衛は成立しない(先の素手での暴行の応酬とは別個の行為である)。
 このように乙が甲にナイフで切りかかった行為は、先の甲・乙・丙間での暴行の応酬とは別個の行為であり、乙と丙の現場共謀による共犯の射程外である。そして新たに共謀がなされたわけでもない。丙は乙がナイフで甲に切りかかることを全力で阻止しようとしていることからもそのことがわかる。よって丙に傷害罪は成立しない。
 3.結論
 丙は素手で甲を暴行した行為につき傷害罪の構成要件を満たすが正当防衛により罰せられない。乙は丙と同様に素手で甲を暴行した行為については同様に正当防衛により罰せられないものの、ナイフで甲に切りかかった行為については傷害罪が成立する。

以上

 

 

感想

少しずつ練習でもましな答案が作れるようになってきているように感じます。しかし正当防衛と緊急避難をごっちゃにしていたのはいただけません。また、共犯の成立を並列的に記述するのではなく、きちんと結論を出すべきでした。

 

 




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