問題
〔第1問〕(配点:100)
インターネット上で地図を提供している複数の会社は,公道から当該地域の風景を撮影した画像をインターネットで見ることができる機能に基づくサービスを提供している。ユーザーが地図上の任意の地点を選びクリックすると,路上風景のパノラマ画像(以下「Z機能画像」という。)に切り替わる。
Z機能画像は,どの会社の場合もほぼ共通した方法で撮影されている。公道を走る自動車の屋根に高さ2メートル80センチ前後(地上約4メートル)の位置にカメラを取付け,3次元方向のほぼ全周(水平方向360度,上下方向290度)を撮影している。そのために,Z機能画像では,路上にいる人の顔,通行している車のナンバーや家の表札も映し出される。さらに,各家の塀を越えた高さから撮影するので,庭にいる人や庭にある物ばかりでなく,家の中の様子までもが映し出される場合がある。また,上下方向290度を撮影していることから,マンションの上の方の階のベランダにいる人やそこに置いてある物も映し出される場合がある。これにより個人が特定され得るばかりでなく,庭,ベランダ,室内等に置いてある物から,そこに住む人の家族構成や生活ぶりが推測され得る。さらに,このような情報は,犯罪を企む者に悪用されるおそれもあり得る。しかしながら,会社側は,事前にZ機能画像の撮影日時や場所を住民に周知する措置を採っていなかった。
インターネット上で提供されるZ機能画像が惹起するプライバシーの問題に関して,会社側は,基本的には,公道から見えているものを映しているだけであり,言わば誰もが見ることのできるものなので,プライバシー侵害とはいえない,と主張している。特にX社は,以下のように,より積極的にZ機能画像が提供する情報の価値を主張している。まず,その情報は,ユーザー自身がそこを実際に歩いている感覚で画像を見ることができるので,ユーザーの利便性の向上に役立つ。また,それは,不動産広告が誇大広告であるか否かを画像を見て確かめることによって詐欺被害を未然に防止できるなど,社会的意義を有する。
ところで,Z機能画像をめぐっては,個人を特定されないことや生活ぶりをのぞかれないことをめぐる問題ばかりでなく,次のような問題も生じている。Z機能画像には,公道上であっても,その場所にいることやそこでの行動を知られたくない人にとっては,公開されたくない画像が大量に含まれている。また,ドメスティック・バイオレンスからの保護施設など,公開されては困る施設も映されている。加えて,路上や公園で遊ぶ子供が映されていることで,誘拐等の誘因になるのではないかと案ずる親もいる。さらに,インターネット上に公開されたZ機能画像の第三者による二次的利用が,頻繁に見られるようになっている。
こういう中,Z機能画像をインターネット上に提供することの中止を求める声が高まってきた。
20**年に,国会は,「特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復に関する法律」(以下「法」という。)を制定した【参考資料】。法は,システム提供者に対し,Z機能画像をインターネット上に掲載する前に,A大臣に届け出ることを求めている(法第6条参照)。また,法は,システム提供者が遵守すべき事項を規定している(法第7条参照)。A大臣は,Z機能画像の提供によって被害を受けた者からの申立てがあったときは,法に定める手続に従って被害の回復のための措置を講じることとされている(法第8条参照)。
法が制定されてから,多くの会社は,法の定める遵守事項を守り,また個別の苦情に応じて必要な修正を施している。X社も,人の顔や表札など特定個人を識別することのできる情報と車のナンバープレートについてはマスキングを施し,車載カメラの高さも法が定める高さに改めた。しかし,X社は,家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像については,法で具体的に明記されていないとして,修正しなかった。数件の申立てに応じて,X社に対して,そのような画像に必要な修正をすることを求める改善勧告がなされた。しかし,X社は,それらの修正を行わなかった。その結果,X社は,A大臣から,行政手続法の定める手続に従って,特定地図検索システムの提供の中止命令を受けた。
〔設問1〕
あなたがX社から依頼を受けた弁護士である場合,どのような訴訟を提起するか。そして,その訴訟において,どのような憲法上の主張を行うか。憲法上の問題ごとに,その主張内容を書きなさい。
〔設問2〕
設問1における憲法上の主張に関するあなた自身の見解を,被告側の反論を想定しつつ,述べなさい。
【参考資料】特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復に関する法律
第1章 総則
(目的)
第1条 この法律は,特定地図検索システムによる情報の提供が,インターネットの普及その他社会経済情勢の変化に伴うコンテンツに対する需要の高度化及び多様化に対応した利用者の利便の増進に寄与するものであることに留意しつつ,当該情報の提供に伴い個人に関する情報が公にされることによる被害から適確に国民を保護することの緊要性に鑑み,当該被害の防止及び回復に関し,基本理念を定め,国及びシステム提供者の責務を明らかにするとともに,システム提供者の遵守事項,被害回復のための措置,被害回復委員会の設置その他必要な事項を定めることにより,国民生活の安全と平穏の確保に資することを目的とする。
(定義)
第2条 この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる。
一 特定地図検索システム インターネットを通じて不特定又は多数の者に提供される地図に関する情報の検索システムであって,文字,記号その他の符号又は航空写真を用いて表現される情報提供の機能を補完するための機能として,画像の情報を提供するZ機能を有するものをいう。
二 Z機能 地図に対応する道路,建築物,工作物等及びその周辺の状況を路上等を移動する車両に設置した水平方向に360度回転するカメラにより撮影した画像の情報を,電磁的方式(電子的方式,磁気的方式その他の人の知覚によっては認識することができない方式をいう。)によりインターネットを通じて不特定又は多数の者に提供するための機能をいう。
三 システム提供者 インターネットを通じて特定地図検索システムを提供する事業を営む者をいう。
四 個人識別情報 個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ,それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。
五 個人自動車登録番号等 個人の所有する自動車に係る道路運送車両法(昭和26年法律第185号)の規定による自動車登録番号又は車両番号をいう。
六 個人権利利益侵害情報 個人識別情報及び個人自動車登録番号等以外の個人に関する情報であって,公にすることにより,個人の権利利益を害するおそれのあるものをいう。
(基本理念)
第3条 特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復のために講ずべき措置は,Z機能の特性に鑑み,当該情報の提供が国民の生活の安全と平穏に重大な被害を及ぼすおそれがあり,かつ,国民自らその被害を回復することが著しく困難であることを踏まえ,国の関与により,その被害を適確に防止するとともに,現に発生している被害を迅速に回復することが極めて重要であるという基本的認識の下に,行われなければならない。
(国の責務)
第4条 国は,前条に定める基本理念にのっとり,特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復に関する施策を総合的に策定し,及び実施する責務を有する。
(システム提供者の責務)
第5条 システム提供者は,特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復について第一義的責任を有していることを認識し,その提供すべき画像の撮影及び編集,インターネットによる当該情報の公開及び管理その他の各段階において,自らその被害の防止及び回復のために必要な措置を講じる責務を有する。
第2章 被害の防止及び回復に関する措置
(提供開始の届出)
第6条 システム提供者は,インターネットにより特定地図検索システムを提供しようとするときは,あらかじめ,その旨及びその内容をA大臣に届け出なければならない。その内容を変更しようとするときも,同様とする。
(遵守すべき事項)
第7条 システム提供者は,特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復のために必要な次に掲げる事項を遵守しなければならない。
一 提供すべき画像の撮影に当たっては,これに用いるカメラを地上から1メートル60センチメートルの高さを超える位置に設置してはならないこと。
二 提供すべき画像に個人識別情報若しくは個人自動車登録番号等又は個人権利利益侵害情報が含まれている場合には,特定の個人若しくは個人自動車登録番号等を識別することができないよう,又は個人の権利利益を害するおそれをなくすよう,画像の修正その他の改善のために必要な措置をとらなければならないこと。
三 インターネットにより提供した画像に個人識別情報若しくは個人自動車登録番号等又は個人権利利益侵害情報が含まれていたことが判明した場合には,特定の個人若しくは個人自動車登録番号等を識別することができないよう,又は個人の権利利益を害するおそれをなくすよう,画像の修正その他の改善のために必要な措置をとらなければならないこと。この場合において,改善のために必要な措置をとることができないときは,インターネットによる特定地図検索システムの提供を中止しなければならないこと。
四 提供すべき画像の撮影又はインターネットにより画像を提供するに当たっては,適時かつ適切な方法で,対象となる地域の住民に対する周知の措置を講じるよう努めること。
五 特定地図検索システムによる情報の提供に伴う被害に関し,苦情等の申出があった場合には,当該申出に対し適切な措置を講じるよう努めること。
六 前各号に掲げるもののほか,特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復のために必要な事項として政令で定めるもの
(被害回復措置)
第8条 A大臣は,特定地図検索システムによる情報の提供により被害を受けた者から申立てがあったときは,措置を講じる必要が明らかにないと認める場合を除き,当該申立てに係る被害及びこれと同種の被害を回復するために必要な措置について,被害回復委員会に諮問しなければならない。
2 A大臣は,前項の規定による諮問に対する答申があった場合において,同項の申立てに係る被害及びこれと同種の被害を回復するため必要があると認めるときは,システム提供者に対し,画像の修正その他の提供に係る情報の改善のために必要な措置をとるべき旨を勧告することができる。
3 A大臣は,前項の規定による勧告を受けた者が,正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において,第1項の申立てに係る被害及びこれと同種の被害を回復するため特に必要があると認めるときは,その者に対し,その勧告に係る措置の実施又はインターネットによる特定地図検索システムの提供の中止を命ずることができる。
4 A大臣は,前項の規定による命令をしたときは,その旨を公表しなければならない。
第3章 被害回復委員会
(委員会の設置)
第9条 A省に,被害回復委員会(以下「委員会」という。)を置く。
(所掌事務)
第10条 委員会は,次に掲げる事務をつかさどる。
一 第8条第1項の規定による諮問に応じて,調査審議し,A大臣に対し,必要な答申をすること。
二 特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復のために国が講ずべき施策について,A大臣に意見を述べること。
2 委員会は,その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは,A大臣に対し,資料の提出,説明その他必要な協力を求めることができる。
3 A大臣は,第1項第一号の答申に基づき講じた措置について,委員会に報告しなければならない。
(組織等)
第11条 委員会は,委員10人をもって組織する。
2 委員は,優れた識見を有する者のうちから,A大臣が任命する。
3 委員の任期は,3年とする。
4 その他委員会の組織及び運営に関し必要な事項は,政令で定める。
練習答案
以下日本国憲法についてはその条数のみを示す。
[設問1]
私がX社から依頼を受けた弁護士である場合、X社がA大臣から受けた、特定地図検索システムの提供の中止命令という処分の取消しの訴え(行政事件訴訟法3条2項)を提起する。あわせて執行停止(行政事件訴訟法25条)も申立てる。そして以下のような憲法上の主張を行う。
1.営業の自由(22条1項)
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する(22条1項)。職業選択の自由を有するということは、その職業に必然的に付随する営業の自由も有するということである。また、現代においては営業活動が法人を通じて行われることも多いが、日本国憲法の人権規定は性質上可能な限り法人にも適用されるべきであり、法人も営業の自由を有する。X社はおそらく法人であろうが、営業の自由を有するのである。X社がA大臣から受けた、特定地図検索システムの提供の中止命令は、そのX社の営業の自由を侵害するものであり、違憲である。
2.表現の自由(21条1項)
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する(21条1項)と定められている。この表現の自由も法人にも保障されるべきものである。X社による特定地図検索システムの提供は、「集会、結社及び言論、出版」には含まれないかもしれないが、少なくとも「その他一切の表現」には含まれる。ある表現をそもそも表現に当たらないとして規制するようなことがあってはいけないので、「その他一切の表現」には文字通りおよそ全ての表現を含めるべきである。現にX社の特定地図検索システムは、各ユーザーが任意の場所から見える風景を見て詐欺被害を未然に防止できたほうがよいという思想の表れだとも解釈できる。本件中止命令は、こうしたX社の表現の自由を規制するものであり、違憲である。
[設問2]
1.被告側の反論
A大臣によるX社への、特定地図検索システムの提供中止命令は、公共の福祉という観点からなされたものであり、違憲ではない。
営業の自由(職業選択の自由)に関しては「公共の福祉に反しない限り」という留保が付されている。表現の自由にはそのような留保が付されていないが、「国民はこれ(この憲法が国民に保障する自由及び権利)を濫用してはならない」(12条)と定められており、また権利同士の衝突という論理的必然性から、公共の福祉による一定の制約を免れ得ない。
本件における公共の福祉はプライバシーの権利である。すべて国民は、個人として尊重され、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については最大の尊重を必要とする(13条)ということから、本人の意に反してみだりに私生活を公開されない権利、つまりプライバシーの権利を有していると言える。家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像は私生活である。
このような権利と権利の衝突は、国会が国権の最高機関であること(41条)からして立法により解決されるべきであり、現に特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復に関する法律(以下「法」という。)が制定されている。本件命令はこの法に則ってなされており、その点においても正当性がある。
2.私自身の見解
私自身は、A大臣によるX社への特定地図検索システムの提供の中止命令は違憲であり、取消されるべきだと考える。
確かに被告側が反論するように、X社の営業の自由や表現の自由は、プライバシーの権利をもとにした公共の福祉と調整されなければならない。ましてやその調整のための法まで制定されているのだから、それには従わなければならない。
本件中止命令の根拠は法8条3項である。そこから同2項、同1項と逆算すると、特定地図検索システムによる情報の提供により被害を受けた者からの申立てがあったはずである。その被害は、法7条2号及び3号を参考にすると、個人権利利益侵害情報(法2条6号)であると考えられる。そうなると、個人権利利益侵害情報とはあいまいで不明確ではないかという問題が生じる。31条に代表される罪刑法定主義の原則から、自由が奪われるためにはそれが明定されていなければならないからである。
とはいえ、概括的な規定も一定必要であり、一般人が合理的に解釈できる程度は許容される。法2条6号の「個人識別情報及び個人自動車登録番号等以外の個人に関する情報であって、公にすることにより、個人の権利利益を害するおそれのあるもの」もその基準から許容される。しかし、法制定の経緯からしても、家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像はそこに含まれない。法制定以前よりそのような画像があることが認識されていたにもかかわらず、個人識別情報(法2条4号)や個人自動車登録番号等(法2条5号)のように明定されなかったからである。それよりもむしろ画像撮影の高さ制限(法7条1号)によってこれに対処しようとしている。この制限を遵守していたX社にとって本件中止命令は不合理な不意打ちになる。法2条6号は家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像を除外して合憲となる。
以上より、本件中止命令は、法2条6号の適用を誤ったものであり、違憲である。
以上
修正答案
以下日本国憲法についてはその条数のみを示す。
[設問1]
私がX社から依頼を受けた弁護士である場合、X社がA大臣から受けた、特定地図検索システムの提供の中止命令という処分の取消しの訴え(行政事件訴訟法3条2項)を提起する。あわせて執行停止(行政事件訴訟法25条)も申立てる。損害が生じれば国会賠償請求訴訟(国家賠償法1条1項)も提起する。そして以下のような憲法上の主張を行う。
1.営業の自由(22条1項)
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する(22条1項)。職業選択の自由を有するということは、その職業に必然的に付随する営業の自由も有するということである。また、現代においては営業活動が法人を通じて行われることも多いが、日本国憲法の人権規定は性質上可能な限り法人にも適用されるべきであり、法人も営業の自由を有する。X社はおそらく法人であろうが、営業の自由を有するのである。X社がA大臣から受けた、特定地図検索システムの提供の中止命令は、そのX社の営業の自由を侵害するものであり、違憲である。
2.表現の自由(21条1項)
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する(21条1項)と定められている。この表現の自由も法人にも保障されるべきものである。X社による特定地図検索システムの提供は、「集会、結社及び言論、出版」には含まれないかもしれないが、少なくとも「その他一切の表現」には含まれる。ある表現をそもそも表現に当たらないとして規制するようなことがあってはいけないので、「その他一切の表現」には文字通りおよそ全ての表現を含めるべきである。
まず、X社の特定地図検索システムは、各ユーザーが任意の場所から見える風景を見て詐欺被害を未然に防止できたほうがよいといった思想の表れだとも解釈できる。インターネット等を活用して情報の透明性を高めて各個人が主体的に判断を下すのが望ましいという思想である。仮に特定地図検索システムそのものが思想の表れでないとしても、思想を形成するための材料ということで、表現の自由の保障の範囲内にある。事実の報道の自由が表現の自由に含まれることは言うまでもないとした判例も存在している。
本件中止命令は、こうしたX社の表現の自由を規制するものであり、違憲である。
[設問2]
1.被告側の反論
A大臣によるX社への、特定地図検索システムの提供中止命令は、公共の福祉という観点からなされたものであり、違憲ではない。
営業の自由(職業選択の自由)に関しては「公共の福祉に反しない限り」という留保が付されている。表現の自由にはそのような留保が付されていないが、「国民はこれ(この憲法が国民に保障する自由及び権利)を濫用してはならない」(12条)と定められており、また権利同士の衝突という論理的必然性から、公共の福祉による一定の制約を免れ得ない。
本件における公共の福祉はプライバシーの権利である。すべて国民は、個人として尊重され、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については最大の尊重を必要とする(13条)ということから、本人の意に反してみだりに私生活を公開されない権利、つまりプライバシーの権利を有していると言える。家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像は私生活である。
このような権利と権利の衝突は、国会が国権の最高機関であること(41条)からして立法により解決されるべきであり、現に特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復に関する法律(以下「法」という。)が制定されている。本件命令はこの法に則ってなされており、その点においても正当性がある。
2.私自身の見解
私自身は、A大臣によるX社への特定地図検索システムの提供の中止命令は違憲であり、取消されるべきだと考える。
確かに被告側が反論するように、X社の営業の自由や表現の自由は、プライバシーの権利をもとにした公共の福祉と調整されなければならない。ましてやその調整のための法まで制定されているのだから、原則としてそれには従わなければならない。ただしその法自体が違憲(法令違憲)であったり、法の適用が違憲(適用違憲)であったりすれば、その限りではない。
本件中止命令の根拠は法8条3項である。そこから同2項、同1項と逆算すると、特定地図検索システムによる情報の提供により被害を受けた者からの申立てがあったはずである。その被害は、法7条2号及び3号を参考にすると、個人権利利益侵害情報(法2条6号)であると考えられる。
そうなると、個人権利利益侵害情報とはあいまいで不明確ではないかという問題が生じる。31条に代表される罪刑法定主義の原則から、自由が奪われるためにはそれが明定されていなければならないからである。とはいえ、概括的な規定も一定必要であり、一般人が合理的に解釈できる程度は許容される。法2条6号の「個人識別情報及び個人自動車登録番号等以外の個人に関する情報であって、公にすることにより、個人の権利利益を害するおそれのあるもの」も、個人識別情報(法2条4号)や個人自動車登録番号等(法2条5号)に準じるものだと読み取れるので、その基準から許容される。
このように個人権利利益侵害情報の内容が十分に明確だとしても、法制定の経緯からして、家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像はそこに含まれない。法制定以前よりそのような画像があることが認識されていたにもかかわらず、個人識別情報(法2条4号)や個人自動車登録番号等(法2条5号)のように明定されなかったからである。それよりもむしろ法は画像撮影の高さ制限(法7条1号)によってこれに対処しようとしている。その高さ制限は1メートル60センチという平均的な身長と同程度であり、その制限下で撮影された画像は公道上を歩く人が目にする風景と大差ない。そのような画像であってもインターネット上で公開されると悪用される危険性があるという反論もあろうが、本気で悪用しようとすればインターネット上に公開されていなくても自らあるいは誰かに頼んで公道から撮影してそうした画像を手に入れることもできるので、その点を過大に評価すべきではない。この高さ制限を遵守していたX社にとって本件中止命令は不合理な不意打ちになる。法2条6号は家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像を除外して合憲となる。
以上より、家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像(法7条1号の高さ制限を遵守して撮影されたもの)が公開されることを被害だと判断してなされた本件中止命令は、法の適用を誤ったものであり、違憲である。
以上
感想
Googleのストリートビューが題材にされているとすぐにわかったのでイメージはしやすかったです。練習答案でもそれなりに書けたような気はします。というよりむしろ修正答案でどう修正すべきかよくわからなかったと言ったほうが正確かもしれません。採点実感の辛口具合には驚きました。