労働審判本人申立の方法

労働審判について質問されることが何度かあったので、ここにまとめておきます。特に本人申立を念頭に置いています。

 

1.労働審判とは

労働審判とは労働関係のトラブルを裁判のような手続で解決する制度です。2006年に始まってから利用件数は着実に増えています。裁判と聞くと大変そうだと思うかもしれませんが、以下に書くように申立をする労働者にとって有利な点がいくつかあるので、頑張れば本人申立も可能です。裁判所からの公式情報としては裁判所|労働審判手続裁判所|労働審判のQ&Aをご覧ください。

 

2.対象

労働関係のトラブル全てが労働審判の対象になるわけではありません。労働審判の対象は労働者と事業主との間の個別労働紛争です。労働組合を通じた集団的な賃上げ要求や、労働者間のトラブルなどは対象になりません。もっとも、たいていの事例は労働者と事業主との間の個別労働紛争の側面を持ちます。例えば、上司からのパワハラであれば、事業主に安全配慮義務違反や使用者責任を問うことができます。

 

3.期間

3回以内の期日で結論を出すというのが労働審判の大きな特徴です。およそ1ヶ月ごとに期日が開かれるので、全体で3ヶ月くらいだと思えばよいです。

 

4.管轄

原則として、相手方の所在地を管轄する地方裁判所、または勤務をしていた事業所を管轄する地方裁判所のどちらかです。一般の民事訴訟と比べると、勤務をしていた事業所の管轄でも申立をすることができるのが労働者にとっての利点になります。

 

5.代理

代理ができるのは原則として弁護士です。ただし弁護士以外でも社労士や労働組合の担当者などが代理人として許可されることもあります。そのあたりの運用は裁判所ごと、事例ごとに異なります。

 

6.費用

本人申立であれば、印紙代と切手代のみです。印紙代は訴額によって異なります。詳しくはwww.courts.go.jp/osaka/vcms_lf/30617001.pdfをご覧ください。印紙代は民事訴訟の訴えの提起の半額であり、例えば訴額が160万円なら6500円です。

 

7.申立

申立書が労働審判申立の際の根本をなす書類です。まずはサンプルを見たほうが早いので、裁判所|東京地方裁判所(民事部)から裁判所が例示しているものをご覧ください。

 

訴えの種類は、労働者としての地位確認(解雇が無効である)といった確認の訴えと、未払い賃金請求などの給付の訴えの二種類に大別できます。それ以上の詳しいことをここではとても書ききれません。労働基準法などの実体法の知識も必要です。次の2冊に載っている各種の申立書をよく読んで自分の場合に当てはめると、申立書らしくなります。

 


労働審判実践マニュアル Ver.1 補訂2版作 者:出版社:

発売日: 2010-2-26

 


すぐに役立つ労働審判のしくみと申立書の書き方ケース別23


作 者: 

出版社: 三修社

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 8.証拠

裁判類似の手続なので証拠が求められます。といっても賃金未払いでは雇用契約書(労働条件通知書)、タイムカード、給料明細があれば足りるでしょう。パワハラなどではICレコーダーで暴言を録音するといった事前の証拠集めが重要です。証人になってくれるという同僚がいたらそれも大きな証拠になります。本人や同僚が陳述書という形で自由に記述した文書を証拠として提出することもできます。http://www.courts.go.jp/sapporo/vcms_lf/30210008.pdfのような証拠説明書にまとめるのが通例です(リンク先は通常の民事訴訟のものなので適宜書き換えてください)。労働審判委員会が職権で証拠調べをすることができるのも通常の民事訴訟には見られない特色です。

 

9.第1回期日~第3回期日

労働審判では最大でも3回の期日しかありません。ですので期日前に追加の証拠などがあれば提出すべきですし、答弁書が送られてきたら補充書面という形で反論をしておくのもよいでしょう。手続は原則非公開ですが、関係人の傍聴が認められることもあります。

 

10.解決

労働審判での和解率は7~8割程度だと言われています。和解が成立しなければ審判が下されることになります。その審判に異議を申し立てると地裁での通常の民事訴訟に移行します。労働審判の申立書の「申立人」を原告に、「相手方」を「被告」にすればそのまま民事訴訟の申立書になりますし、証拠も共通して使うことができます。同じ裁判所で同じ申立書と証拠を用いて長期間裁判をするくらいなら労働審判で和解しておこうという動機付けが働くので、先ほど書いたような高い和解率になっていると考えられます。

 

 




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