再現答案
以下会社法についてはその条数のみを示す。
〔設問1〕
第1 Dの主張
(1)株主への利益供与
Dは、Aらに対し、本件取引により120条1項に反する株主への利益供与をしたとして、責任追及の主張をすることが考えられる。Cに対しては同条3項、A、B及びEについては同条4項がその根拠である。
(2)任務懈怠
Dは、A、B及びEに対し、本件取引を取締役会で賛成して決定したことにつき、423条1項の任務懈怠の責任を追及することが考えられる。
第2 Dの主張の当否
(1)株主への利益供与
本件取引では甲社がCから本件土地が2億円で購入しており、本件土地の適正価格は2億円であったということであるから、120条2項でそれが同条1項の株主への利益供与だと推定されることはない。本件土地が換金しづらかったといったという事情も見当たらないので、120条1項の株主への利益供与には当たらない。よって、このDの主張は否定される。
(2)任務懈怠
取締役は、355条の忠実義務を負い、会社との委任契約に基づき民法644条の善管注意義務を負う(忠実義務と善管注意義務の内容は同じであると解されている)。これが423条1項の任務である。
株式会社は利益を獲得することが予定されているので、会社の財産にマイナスが生じないようにすることだけでなく、利益を獲得できる機会を逃さずに活用することも423条1項の任務に含まれる。積極的に行動した結果としてマイナスが生じたときに後知恵で取締役の責任を追及することを否定する経営判断の原則が認められているが、利益を獲得できそうな機会があるのに消極的に行動しないということは経営判断の原則から正当化されない。
本件では、本件土地より倉庫に適した土地があったのだから、本件取引により甲社の財産にマイナスが生じていないとしても、利益を獲得できそうな機会をみすみす逃したとして、A、B及びEは任務を怠ったと言える。得べかりし利益がこれによって生じた損害である。
以上より、このDの主張は正当である。
〔設問2〕
本件提訴請求の根拠は、847条3項である。株式会社である甲社が請求の日から六十日以内に責任追及等の訴えを提起していないことは認められるので、この訴えの適法性は同条1項の請求の適法性にかかっている。
甲社は公開会社ではないので、同条2項より、株主であるDは、その要件を満たす。Dは、甲社監査役のFに対し、本件提訴請求をしており、386条1項から、会社の取締役に対する責任追及の訴えについては監査役が会社を代表するので、その点も要件を満たす。Aは、349条、特にその4項を根拠に、株式会社を代表するのは取締役であり、代表取締役である自分が提訴請求を受けていないことは不適法であると反論することが想定される。しかし、先に見たように明文の規定があることに加え、取締役が自分で自分の責任を追及するのは困難であるという実質的な理由もあるので、このAの反論は認められない。
また、Aは、335条2項より、監査役は子会社の取締役を兼ねることができないところ、Fは甲社の子会社である乙社の取締役であり、そのようなFは甲社の監査役ではないので、そのFに対する提訴請求は不適法であると反論するかもしれない。しかし、Fに対して乙社取締役就任をお願いしたのはAであり、そのようなAがこうした主張をすることは信義則(民法1条2項)に反して許されない。
Aは、847条1項ただし書に該当すると主張するかもしれないが、単に背景事情としてAとDが対立していたというだけでは、それに該当しない。
以上より、本件訴えは適法である。
以上
感想
〔設問1〕では、司法試験の出題趣旨や採点実感で経営判断の原則に言及されていたことを思い出し、そのことを論じるべきだと判断しました。Fの子会社である乙社取締役就任がわざわざ書かれているということはどこかで使うのだろうと思い、〔設問2〕で上のように書きました。