再現答案
以下刑法についてはその条数のみを示す。
第1 間接正犯一般
甲の罪責を検討するために、先に間接正犯一般について論じる。
刑法では、個人主義の観点から、実行行為をした者が罪責を負うのが原則である。しかし、人をあたかも道具のように利用して実行行為を行った者は、その者が実質的な行為者なので、罪責を負う。間接正犯である。人の意思を抑圧して利用した場合には間接正犯が成立する。実行の着手は、法益侵害の危険性が発生したときに認められる。間接正犯の場合は、被利用者を基準にして考える。
第2 Yの行為について
甲は、Yに対し、「さっきのブドウを持ってきて。…お金を払わずにこっそりとね。」と言った。Yは、ちゅうちょしたが、甲から強い口調で言われ、甲の指示に従うことを決めた。甲とYは親子であり、6歳というYの年齢も考慮すると、甲はYの意思を抑圧したと言える。よって、甲の指示通りにYがブドウを持ってきたとしたら、間接正犯として、甲に窃盗罪(235条)が成立する可能性がある。
もっとも、実際には、Yはブドウを持ってこなかったので、窃盗罪は成立しない。しかも、そのブドウが置いてある果物コーナーの場所が分からなかったとのことである。窃盗罪の保護法益は他人の占有する財物であり、その物を見つけて近づいていない段階では法益侵害の危険性は発生していない。よって実行の着手が認めらず、窃盗未遂罪(243条)は成立しない。
以上より、甲は何らの罪責も負わない。
第3 Xの行為について
甲は、Xに対し、C店から牛肉を取ってくるように言っている。しかし、本件の事情からは、Xが13歳であることの考慮すると、Xの意思を抑圧したとは評価できない。よって間接正犯は成立しない。
Xとの共同正犯(60条)について検討する。共同正犯は、犯罪を実行することにつき意思連絡をして、それに基づいて実行行為が行われたときに成立する。
本件では、甲とXが、C店から牛肉を取ってくることにつき意思連絡をして、それに基づいてC店が占有する牛肉の占有をXが自己に移転させ窃取している。X自身は13歳であるので罰されないが(41条)、違法な行為であることには変わりない。責任は個別化しても違法は連帯するので、甲にはXの共同正犯として窃盗罪が成立する。
甲は実行行為を担当していないが、そのような場合にも共同正犯が成立する。共同することにより犯罪の実行を容易にするということに変わりはないからである。このような共謀共同正犯と挟義【原文ママ】の共犯(61条の教唆と62条の幇助)との区別は、主観的客観的状況から自己の犯罪として実現する正犯意思の有無で判断する。本件では、甲からC店から牛肉をとってくることを提案し、エコバッグという道具も提供している。そしてその牛肉を食べるという利益も甲とXが共同で受けている。よって甲は共謀共同正犯である。
甲がXにとってくるように言ったのは牛肉2パックであり、実際にXがとってきたのは牛肉5パックとアイドルの写真集である。しかし、Xがこれらをとってきたのは同じ機会に甲から渡されたエコバッグを用いてのことであり、意思連絡と因果関係がある。同じ構成要件内の具体的事実の錯誤については故意(38条1項)も阻却されない。
以上より、甲は、牛肉5パックとアイドルの写真集全体につき、Xとの共同正犯として、窃盗罪の罪責を負う。窃盗罪の成立には不法領得の意思が必要であるが、それも認められる。
〔設問2〕
第1 既遂か未遂か
仮に事後強盗罪が成立するとしても、事後強盗罪の既遂にはならず、せいぜい未遂にとどまるとの主張があり得る。事後強盗罪(238条)の既遂か未遂かは、財物の取得の点により決める。言い換えると、同条の「窃盗」が既遂か未遂かで判断するということである。いわゆる万引きについては、精算せずにレジを通過して店外へ出た時点で既遂となると解する。
本件では、甲は本件液晶テレビをトートバッグに入れたのだけれども、精算せずに店外に持ち出す前にFに見つかったと思って、箱ごと陳列棚に戻している。よって、窃盗が未遂であるから、事後強盗罪も未遂である。
第2 強盗の機会
事後強盗罪の暴行又は脅迫は、強盗の機会になされる必要がある。そうでなければ窃盗罪と暴行罪又は脅迫罪がそれぞれ別々に成立するにとどまる。
本件では、甲はE店から約400メートル離れた公園で約10分間とどまっており、誰も追ってこなかった。それ以降にE店に戻ってから甲はFの胸部を押すという暴行を加えているので、強盗(窃盗)の機会になされたとは言えず、事後強盗罪は成立しない。
第3 暴行の程度
事後強盗罪の暴行は、一般に反抗を抑圧するに足りる程度のものであることが必要である。本件では、35歳の女性である甲が、同じく35歳の女性であるFの胸部を1回押しているだけである。35歳の女性が同年代の女性の胸部を1回押すということは、一般に反抗を抑圧するに足りない。よって事後強盗罪は成立しない。
以上
感想
記述の正確性や美しさはともかくとして、論じるべき点は論じられたかなという手応えです。