以下民法についてはその条数のみを示す。
〔設問1〕
第1 表見代理(109条1項)
Cは、表見代理を根拠として、本件消費貸借契約に基づき、Aに対して、貸金の返還を請求することが考えられる。
Aは、第三者であるCに対して、他人であるBに代理権を与えた旨を表示した者である。Bは、Cとの間で、その代理権の範囲である本件消費貸借契約を締結した。よって、Aは、その責任を負うようにも思われる。ただし、Cは、Bが代理権を与えられていないことを過失により知らなかった。本件消費貸借契約はAの入院費用のためであるところ、Aが入院した令和2年4月10日から、本件消費貸借契約が締結された同年4月20まで、Aはずっと意識不明であったことをCは知っており、AがBに代理権を与えなかったことを知ることができたからである。
以上より、表見代理は成立しない。
第2 信義則(1条2項)による追認
この無権代理による本件消費貸借契約を、本人であるAが追認すれば、Aに効力を生じる(113条1項)。そして、Cは、その追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる(114条)。
この追認をするかどうかということは、財産に関する法律行為であるため、後見人であるBが、被後見人であるAを代表する(859条1項)。無権代理行為をした者が、本人の後見人になった場合は、信義則上、追認を拒絶できないと解する。本件では、無権代理行為をしたBが、本人であるAの後見人になっている。よって、Bは、信義則上、追認を拒絶できない。
以上より、Cは、本件賃貸借契約に基づき、Aに対して、貸金の返還を請求することができる。
〔設問2〕
第1 債権者代位権(423条1項)
Dは、Aに対して500万円の債権を有する債権者である。Aは、本件不動産以外にめぼしい財産がなく、その不動産にはEの所有権が登記されているため、自己の債権を保全するため必要がある。債務者であるAに属する権利は、本件売買契約を詐欺を理由として取り消す権利である(96条1項)。その債権の期限は令和5年4月末日に到来しており、同条2項の要件を満たし、金銭債権であって強制執行により実現することのできないものでもないから同条3項の要件も満たす。
債権者代位権は、いわば他人間の法律関係に横から口出しするのであるから、必要最小限度にとどめるべきである。同条1項ただし書の債務者の一身に専属する権利とは、権利を行使するかどうかを債務者の意思に委ねるべきものであると解する。本件売買契約を詐欺を理由として取り消す権利は、その権利を有するAの意思に、それを行使するかどうかを委ねるべきものである。よって債務者の一身に専属する権利に該当する。
以上より、Dは、債権者代位権を行使することはできない。
第2 詐害行為取消権(424条1項)
DはAに対する債権者である。同項の行為には不作為も含まれる。債権者の保護という観点からは、不作為を除外する理由はないからである。Aが、本件売買契約を詐欺を理由として取り消す権利を行使しないという不作為は、債務者が債権者を害することを知ってした行為に当たる。不作為という行為を取り消すということは、作為をするということである。よって、Dは、裁判所に、Aが、本件売買契約を詐欺を理由として取り消す権利を行使することを請求することができる。受益者であるEは、実際には本件不動産が3000万円相当の価値を有していることを知っており、同項ただし書には該当しない。第1で述べたことより、同条2項ないし4項の要件も満たす。
また、相当の対価を取得しているときではないため、424条の2の適用場面ではない。そして、この取り消す権利は可分ではないため、424条の8第1項も適用されない。
以上より、Dは、Eに対し、本件登記の抹消登記手続を請求することができる。
以上