[設問1]
再配分の特徴は、資源や富といった財を平等主義的に配分することに主眼が置かれ、それを所有する人間の個性やアイデンティティは問われないということである。例えば、統計的に女性のほうが所得が低いとしても、生活保護法では所得や資産などの要件を満たせば一律に扶助を受けられるのであって、性別などの属性が問われることはない。これは昔から社会正義の実現のための手段の中心とされてきた。
承認の特徴は、人間の個性やアイデンティティといった多様性を尊重することである。例えば、性的マイノリティの人たちに配慮して、行政手続で必要とされる書類の性別欄で男か女のどちらかに丸をつけることを強制することをできるだけしないでおこうといったことである。これは社会正義の実現のための手段としては、比較的最近になって主張されるようになってきたものである。
[設問2]
再配分と承認の両方が必要であるという筆者の見解の論拠は、現実問題として承認への要求が高まっているのだから、それと再配分とを切り離しておくのは得策ではないということである。
確かにこの筆者の現状認識は的を射ている。しかしながら、私は筆者のこの主張には反対である。その理由は、承認は公共的な社会正義にはなじまないということである。
公共的な存在である大学が、これまでは女子大だったのをこれからはトランスジェンダーの人も受け入れようとする動きがある。そうなると、大学がトランスジェンダーであるかどうかを判断しなければならなくなる。しかし本来的に性自認というものは私的なものである。大学の授業料を無償化したり、給付型奨学金を拡充したりするほうが、その人の性自認が何であれ、大学に通いやすくなる。
当然のことながら、トランスジェンダーの人たちに対する侮辱発言などは問題である。しかしそれは対象がトランスジェンダーの人たちであっても少数民族の人たちであっても、侮辱することそのものが問題なのであって、大学が公共的にトランスジェンダーの人たちの認めることで解決する問題ではない。