平成25年司法試験論文刑事系第2問答案練習

問題

次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。

 
【事 例】
1 平成25年2月1日午後10時,Wは,帰宅途中にH市内にあるH公園の南東側入口から同公園内に入った際,2名の男(以下,「男1」及び「男2」とする。)が同入口から約8メートル離れた地点にある街灯の下でVと対峙しているのを目撃した。Wは,何か良くないことが起こるのではないかと心配になり,男1,男2及びVを注視していたところ,男2が「やれ。」と言った直後に,男1が右手に所持していた包丁でVの胸を2回突き刺し,Vが胸に包丁が刺さったまま仰向けに倒れるのを目撃した。その後,Wは,男2が「逃げるぞ。」と叫ぶのを聞くとともに,男1及び男2が,Vを放置したまま,北西に逃げていくのを目撃した。
 そこで,Wは,同日午後10時2分に持っていた携帯電話を使って110番通報し,前記目撃状況を説明したほか,「男1は身長約190センチメートル,痩せ型,20歳くらい,上下とも青色の着衣,長髪」,「男2は身長約170センチメートル,小太り,30歳くらい,上が白色の着衣,下が黒色の着衣,短髪」という男1及び男2の特徴も説明した。
 この通報を受けて,H県警察本部所属の司法警察員が,同日午後10時8分,Vが倒れている現場に臨場し,Vの死亡を確認した。
 また,H県警察本部所属の別の司法警察員は,H公園付近を管轄するH警察署の司法警察員に対し,H公園で殺人事件が発生したこと,Wから通報された前記目撃状況,男1及び男2の特徴を伝達するとともに,男1及び男2を発見するように指令を発した。

2 前記指令を受けた司法警察員P及びQの2名は,一緒に,男1及び男2を探索していたところ,同日午後10時20分,H公園から北西方向に約800メートル離れた路上において,「身長約190センチメートル,痩せ型,20歳くらい,上下とも青色の着衣,長髪の男」,「身長約170センチメートル,小太り,30歳くらい,上が白色の着衣,下が黒色の着衣,短髪の男」の2名が一緒に歩いているのを発見し,そのうち,身長約190センチメートルの男の上下の着衣及び靴に一見して血と分かる赤い液体が付着していることに気付いた。そのため,司法警察員Pらは,これら男2名を呼び止めて氏名等の人定事項を確認したところ,身長約190センチメートルの男が甲,身長約170センチメートルの男が乙であることが判明した。その後,司法警察員Pは,甲及び乙に対し,「なぜ甲の着衣と靴に血が付いているのか。」と質問した。
 これに対し,甲は,何も答えなかった。
 一方,乙は,司法警察員P及びQに対し,「甲の着衣と靴に血が付いているのは,20分前にH公園でVを殺したからだ。二日前に俺が,甲に対し,報酬を約束してVの殺害を頼んだ。そして,今日の午後10時に俺がVをH公園に誘い出した。その後,俺が『やれ。』と言ってVを殺すように指示すると,甲が包丁でVの胸を2回突き刺してVを殺した。その場から早く逃げようと思い,俺が甲に『逃げるぞ。』と呼び掛けて一緒に逃げた。俺は,甲がVを殺すのを見ていただけだが,俺にも責任があるのは間違いない。」などと述べた。
 その後,同日午後10時30分,前記路上において,甲は,司法警察員Pにより,刑事訴訟法第212条第2項に基づき,乙と共謀の上,Vを殺害した事実で逮捕された【逮捕①】。また,その頃,同所において,乙は,司法警察員Qにより,同項に基づき,甲と共謀の上,Vを殺害した事実で逮捕された【逮捕②】
 その直後,乙は,司法警察員P及びQに対し,「今朝,甲に対し,メールでVを殺害することに対する報酬の金額を伝えた。」旨述べ,所持していた携帯電話を取り出し,同日午前9時に甲宛てに送信された「報酬だけど,100万円でどうだ。」と記載されたメールを示した。これを受けて,司法警察員Qは,乙に対し,この携帯電話を任意提出するように求めたところ,乙がこれに応じたため,この携帯電話を領置した。

3 他方,司法警察員Pは,甲の身体着衣について,前記路上において,逮捕に伴う捜索を実施しようとしたが,甲は暴れ始めた。ちょうどその頃,酒に酔った学生の集団が同所を通り掛かり,司法警察員P及び甲を取り囲んだ。そのため,1台の車が同所を通行できず,停車を余儀なくされた。
 そこで,司法警察員Pは,同所における捜索を断念し,まず,甲を300メートル離れたI交番に連れて行き,同交番内において,逮捕に伴う捜索を実施することとした。司法警察員Pは,甲に対し,I交番に向かう旨告げたところ,甲は,おとなしくなり,これに応じた。
 その後,司法警察員Pと甲は,I交番に向かって歩いていたところ,同日午後10時40分頃,前記路上から約200メートル離れた地点において,甲がつまずいて転倒した。その拍子に,甲のズボンのポケットから携帯電話が落ちたことから,甲は直ちに立ち上がり,その携帯電話を取ろうとして携帯電話に手を伸ばした。
 一方,司法警察員Pも,甲のズボンのポケットから携帯電話が落ちたことに気付き,この携帯電話に乙から送信された前記報酬に関するメールが残っていると思い,この携帯電話を差し押さえる必要があると判断した。そこで,司法警察員Pは,携帯電話を差し押さえるため,携帯電話に手を伸ばしたところ,甲より先に携帯電話をつかむことができ,これを差し押さえた【差押え】。なお,この差押えの際,司法警察員Pが携帯電話の記録内容を確認することはなかった。
 その後,司法警察員Pは,甲をI交番まで連れて行き,同所において,差し押さえた携帯電話の記録内容を確認したが,送信及び受信ともメールは存在しなかった。

4 甲及び乙は,同月2日にH地方検察庁検察官に送致され,同日中に勾留された。
 その後,同月4日までの間,司法警察員Pが,差し押さえた甲の携帯電話の解析及び甲の自宅における捜索差押えを実施したところ,乙からの前記報酬に関するメールについては,差し押さえた甲の携帯電話ではなく,甲の自宅において差し押さえたパソコンに送信されていたことが判明した。
 また,司法警察員Pは,同月5日午後10時,H公園において,Wを立会人とする実況見分を実施した。この実況見分は,Wが目撃した犯行状況及びWが犯行を目撃することが可能であったことを明らかにすることを目的とするものであり,司法警察員Pは,必要に応じてWに説明を求めるとともに,その状況を写真撮影した。
 この実況見分において,Wは,目撃した犯行状況につき,「このように,犯人の一人が,被害者に対し,右手に持った包丁を胸に突き刺した。」と説明した。司法警察員Pは,この説明に基づいて司法警察員2名(犯人役1名,被害者役1名)をWが指示した甲とVが立っていた位置に立たせて犯行を再現させ,その状況を約1メートル離れた場所から写真撮影した。そして,後日,司法警察員Pは,この写真を貼付して説明内容を記載した別紙1を作成した【別紙1】。
 また,Wは,同じく実況見分において,犯行を目撃することが可能であったことにつき,「私が犯行を目撃した時に立っていた場所はここです。」と説明してその位置を指示した上で,その位置において「このように,犯行状況については,私が目撃した時に立っていた位置から十分に見ることができます。」と説明した。この説明を受けて司法警察員Pは,Wが指示した目撃当時Wが立っていた位置に立ち,Wが指示した甲とVが立っていた位置において司法警察員2名が犯行を再現している状況を目撃することができるかどうか確認した。その結果,司法警察員Pが立っている位置から司法警察員2名が立っている位置までの間に視界を遮る障害物がなく,かつ,再現している司法警察員2名が街灯に照らされていたため,司法警察員Pは,司法警察員2名による再現状況を十分に確認することができた。そこで,司法警察員Pは,Wが指示した目撃当時Wが立っていた位置,すなわち,司法警察員2名が立っている位置から約8メートル離れた位置から,司法警察員2名による再現状況を写真撮影した。そして,後日,司法警察員Pは,この写真を貼付して説明内容を記載した別紙2を作成した【別紙2】。
 司法警察員Pは,同月10日付けで【別紙1】及び【別紙2】を添付した実況見分調書を作成した【実況見分調書】

5 甲及び乙は,勾留期間の延長を経て同月21日に殺人罪(甲及び乙の共同正犯)によりH地方裁判所に起訴された。なお,本件殺人につき,甲は一貫して黙秘し,乙は一貫して自白していたことなどを踏まえ,検察官Aは,甲を乙と分離して起訴した。
 甲に対する殺人被告事件については,裁判員裁判の対象事件であったことから,H地方裁判所の決定により,公判前整理手続に付されたところ,同手続の中で,検察官Aは,【実況見分調書】につき,立証趣旨を「犯行状況及びWが犯行を目撃することが可能であったこと」として証拠調べの請求をした。これに対し,甲の弁護人Bは,これを不同意とした。

〔設問1〕 【逮捕①】及び【逮捕②】並びに【差押え】の適法性について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。

 
〔設問2〕 【別紙1】及び【別紙2】が添付された【実況見分調書】の証拠能力について論じなさい。

 

実況見分調書

平成25年2月10日
H警察署
司法警察員 P  印

被疑者甲ほか1名に対する殺人被疑事件につき,本職は,下記のとおり実況見分をした。

1 実況見分の日時
平成25年2月5日午後10時から同日午後11時まで
2 実況見分の場所,身体又は物
H公園
3 実況見分の目的
(1)Wが目撃した犯行状況を明らかにするため
(2)Wが犯行を目撃することが可能であったことを明らかにするため
4 実況見分の立会人

5 実況見分の結果
別紙1及び別紙2のとおり

以 上

【別紙1】
司法警察員2名が犯行状況を再現した写真
(約1メートル離れた場所から撮影したもの)
 立会人(W)は,「このように,犯人の一人が,被害者に対し,右手に持った包丁を胸に突き刺した。」と説明した。

 

【別紙2】
司法警察員2名が犯行状況を再現した写真
(約8メートル離れた場所[Wが指示した位置]から撮影したもの)

 立会人(W)は,「私が犯行を目撃した時に立っていた場所はここです。」と指示し,その位置において「このように,犯行状況については,私が目撃した時に立っていた位置から十分に見ることができます。」と説明した。
 本職も,Wが指示した位置から司法警察員2名が犯行を再現している状況を目撃することができるか確認したところ,本職が立っている位置から司法警察員2名が立っている位置までの間に視界を遮る障害物がなく,かつ,再現している司法警察員2名が街灯に照らされていたため,司法警察員2名による再現状況を十分に確認することができた。
 そこで,本職は,これらの状況を明らかにするため,Wが指示した位置から司法警察員2名によ
る再現状況を写真撮影した。

 

 

練習答案

以下刑事訴訟法については条数のみを示す。

 

[設問1]
 1.逮捕①の適法性
 逮捕①は第212条第2項の準現行犯逮捕として適法である。
 平成25年2月1日午後10時2分にWは110番通報し、それを受けてH県警察本部所属の司法警察員が現場のH公園でVの死亡を確認した。そこでH県警察本部所属の別の司法警察員が、P及びQに対し、必要な情報を伝えるとともに、男1及び男2を発見するように指令を発した。
 そしてPは同日午後10時30分にH公園から約800メートル離れた路上において、着衣と靴に血が付いている甲を、Vを殺害した事実で逮捕した。甲は、被服に犯罪の顕著な証跡があり(第212条第2項第3号)、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるので、これを現行犯人とみなすことになる。
 以上より冒頭で述べた適法という結論になる。
 2.逮捕②の適法性
 逮捕②は第212条第2項の準現行犯逮捕としては不適法であるが、第210条第1項の緊急逮捕としては適法である。
 逮捕①の甲とは違って、乙の被服には犯罪の顕著な証跡がなく、その他第212条第2項各号に当てはまらない。よって同条の逮捕をすることは不適法である。甲との共犯が疑われるといっても、逮捕の要件は個人ごとに判断されなければならない。
 ただし、逮捕②は別途第210条第1項の要件は満たすので、その限りでは適法である。Qは司法警察職員であり、殺人罪(刑法第199条)は死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪である。Wの目撃状況に加えて乙自らの自白もあるので、その罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある。急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないのも明らかである。よってこの理由を告げて乙を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。
 3.差押えの適法性(以下、本問で問われている差押えを[差押え]と表記する)
 [差押え]は第220条第1項第2号により適法である。
 同号により、一般的に、逮捕の現場で差押えをすることができる。本問の状況が「逮捕の現場」に当たるかが問題になり得る。というのも、文字通りの逮捕の現場から約200メートル離れた地点で[差押え]がなされているからである。しかし本件で文字通りの逮捕の現場から移動したのは、そこで取り調べをすることが通行の支障を生じさせていたからである。だから近くのI交番に行こうとしたのである。また、[差押え]を受けた物は甲のズボンのポケットに入って文字通りの逮捕の現場から甲と共に移動してきた携帯電話である。これらの事情から、[差押え]は逮捕の現場でされたと言ってもよい。
 [差押え]はPが甲のズボンのポケットに手を入れたのではなく、甲が転倒して自然にポケットから出てきたものをPがつかんだだけであるので、その点でも適法である。

 

[設問2](以下本問で問われている実況見分調書を[実況見分調書]を表記する)
 [実況見分調書]は違法に作成された事情が見当たらず、公判前整理手続という適時に証拠調べの請求がされているので、伝聞証拠に該当しない限り証拠能力が否定されることはない。
 よってWが犯行を目撃することが可能であったことを立証趣旨とする部分の証拠能力は認められる。具体的には別紙2のWの発言以外の部分全てである。
 別紙2のWの発言部分と別紙1の全ては、Wが証人として公判期日に証言するのが原則であり、例外的な事情がない限り供述に代えて書面を証拠とすることはできない(第320条第1項)。別紙1の写真はその下に添えられたWの発言と一体となって初めて意味を成すものであり、ここではWの発言と同視してよい。
 その例外的な事情(伝聞例外)を1つずつ検討する。Wが死亡等の理由で公判期日において供述することができないという事情は見当たらないので、第321条第1項第3号の伝聞例外には該当しない。第326条や第327条に書かれている被告人や弁護人の同意もない。また、第328条に規定されている、いわゆる弾劾証拠にも、ここで挙げられている立証趣旨からして該当しない。以上いずれの伝聞例外にも該当しないので、この部分の証拠能力は否定される。
 以上より、[実況見分調書]の別紙2のWの発言以外は証拠能力が認められ、その他の部分(別紙2のWの発言と別紙1の全部)は第320条第1項により証拠能力が否定される。

以上

 

修正答案

以下刑事訴訟法については条数のみを示す。

 

[設問1]
 1.逮捕①の適法性
 逮捕①は第212条第2項の準現行犯逮捕として適法である。
 通常は逮捕をするために令状が必要であるが、現行犯は罪を犯したことが明白で誤認逮捕の恐れがないために許容されている。そしてさらに一定の場合には現行犯でなくても現行犯に準じるものとして、令状なしの逮捕が認められている。それが第212条第2項に規定される準現行犯逮捕である。準現行犯逮捕として適法かどうかは、罪を犯したことが明白であるかどうかという基準で判断されなければならない。以下ではこの観点から本件の逮捕①について検討する。
 平成25年2月1日午後10時2分にWは110番通報し、それを受けてH県警察本部所属の司法警察員が現場のH公園でVの死亡を確認した。そこでH県警察本部所属の別の司法警察員が、P及びQに対し、必要な情報を伝えるとともに、男1及び男2を発見するように指令を発した。そしてPは同日午後10時30分にH公園から約800メートル離れた路上において、Wの目撃情報通りであって、着衣と靴に血が付いている甲を、Vを殺害した事実で逮捕した。
 司法警察員が確認しているように、Vが殺害されたことは確実である。そして甲の被服に犯罪の顕著な証跡がある(第212条第2項第3号)。包丁で人を刺し殺すと返り血を浴びることは容易に想定され、またそれ以外の理由で服や靴に血が付着することはめったにないので、犯罪の顕著な証跡と言える。そして罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる。犯行時刻から30分しか経っておらず、Wの目撃情報通りに甲が発見されたからである。以上より、甲は現行犯に準じるほど、Vを殺害したのが明白である。よってこれを現行犯人とみなすことになる。
 以上より冒頭で述べた適法という結論になる。
 2.逮捕②の適法性
 逮捕②は第212条第2項の準現行犯逮捕としては不適法であるが、第210条第1項の緊急逮捕としては適法である。
 逮捕①の甲とは違って、乙の被服には犯罪の顕著な証跡がなく、その他第212条第2項各号に当てはまらない。よって同条の逮捕をすることは不適法である。乙がV殺害の犯人であることは明白でない。
 乙が自白のように甲との共犯でV殺害の罪を犯したとすると、乙は実行行為を担当していないので、殺人罪の共謀共同正犯になる。そうすると、乙が甲と共謀したことについて明白でなければ準現行犯逮捕をすることができないことになる。そして本件では乙の自白とWの目撃情報以外に乙と甲の共謀を明白にする事情がない。よって準現行犯逮捕は不適法である。
 ただし、逮捕②は別途第210条第1項の要件は満たすので、その限りでは適法である。Qは司法警察職員であり、殺人罪(刑法第199条)は死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪である。Wの目撃状況に加えて乙自らの自白もあるので、その罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある。急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないのも明らかである。よってこの理由を告げて乙を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。
 3.差押えの適法性(以下、本問で問われている差押えを[差押え]と表記する)
 [差押え]は第220条第1項第2号により適法である。
 差押えは令状により行うのが原則であるが、逮捕の現場で行うこともできる(第220条第1項第2号)。逮捕の現場には差押えすべき物が存在する可能性が高いにもかかわらず、令状を待たなければならないとなると隠滅のおそれもあるので、例外的に認められるのである。(準)現行犯で令状なしで逮捕ができるのだから、それよりも法益侵害の度合いが低い差押えが令状なしでできない理由はない。
 しかし本問の状況が「逮捕の現場」に当たるかが問題になり得る。というのも、文字通りの逮捕の現場から約200メートル離れた地点で[差押え]がなされているからである。しかし本件で文字通りの逮捕の現場から移動したのは、そこで取り調べをすることが通行の支障を生じさせていたからである。だから近くのI交番に行こうとしたのである。また、[差押え]を受けた物は甲のズボンのポケットに入って文字通りの逮捕の現場から甲と共に移動してきた携帯電話である。これらの事情から、[差押え]は逮捕の現場でされたと言ってもよい。「逮捕の現場」を不当に拡大解釈して、差押えしたい物が存在する場所に理由もなく被疑者を移動させて別件の差押えをするような事態は避けなければならないが、本件ではそのような危険がないと言える。
 そもそもこの携帯電話を差押えるべきだったのかという疑問も考えられる。後に判明したところによると、この携帯電話はV殺害の罪とは関係なかっただけになおさらである。しかし[差押え]の時点では、乙がこの携帯電話に事件と関係するメールが送ったと考えるのも自然である。後に関係がなかったとわかったからといって、その差押えが遡って違法になることはない。仮にそうなると差押えを萎縮させてしまうことになる。

 

[設問2](以下本問で問われている実況見分調書を[実況見分調書]を表記する)
 [実況見分調書]は違法に作成された事情が見当たらず、公判前整理手続という適時に証拠調べの請求がされているので、伝聞証拠に該当しない限り証拠能力が否定されることはない。
 よってWが犯行を目撃することが可能であったことを立証趣旨とする部分の証拠能力は認められる。これは発言内容の真実性とは関わらず、物理的にWが犯行を目撃することが可能であったことを示そうとする証拠なので、伝聞証拠には当たらないからである。具体的には別紙2のWの発言以外の部分全てである。Wの発言部分は、Wが犯行を目撃した時にその場所に立っていたという、Wが目撃した犯行状況を明らかにするという立証趣旨の一部になってしまい、その真実性が問題となるので、伝聞証拠である。
 Wが目撃した犯行状況を明らかにすることを立証趣旨とする部分(別紙2のWの発言部分と別紙1の全て)は伝聞証拠であり、Wが証人として公判期日に証言するのが原則であって、例外的な事情がない限り供述に代えて書面を証拠とすることはできない(第320条第1項)。別紙1の写真はその下に添えられたWの発言と一体となって初めて意味を成すものであり、ここではWの発言と同視してよい。いわば図像という手段による言述である。
 その例外的な事情(伝聞例外)を1つずつ検討する。Wが死亡等の理由で公判期日において供述することができないという事情は見当たらないので、第321条第1項第3号の伝聞例外には該当しない。第326条や第327条に書かれている被告人や弁護人の同意や合意もない。また、第328条に規定されている、いわゆる弾劾証拠にも、ここで挙げられている立証趣旨からして該当しない。以上いずれの伝聞例外にも該当しないので、この部分の証拠能力は否定される。
 以上より、[実況見分調書]の別紙2のWの発言以外は証拠能力が認められ、その他の部分(別紙2のWの発言と別紙1の全部)は第320条第1項により証拠能力が否定される。

 

感想

論点は拾えたかなという感触でした。逮捕②については緊急逮捕のことを書くべきだと思いましたが、出題の趣旨ではそのことに触れられていなかったので、余計な部分かもしれません。全体として結論に問題はないとしても、説明が足りない部分が多かったので、修正答案では分厚く記述しました。

 




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