再現答案
〔設問1〕
第1 生存権を具体化する法律の合憲性
25条1項は国民の権利という観点から生存権を規定し、25条2項は国の責務という観点から生存権を規定している。どちらも抽象的な規定である。よって、生存権を具体化する法律について、立法府には広い裁量が認められる。
第2 年齢を理由にした異なる取扱い
14条1項で平等権が規定されている。そこで禁止されている差別とは不合理な区別のことであり、合理的な区別は許される。同項で列挙されている事柄についての区別は、不合理性が推定される。
年齢は、同項で列挙されている事柄ではない(社会的身分は、人が社会生活上占める継続的な地位のことであり、年齢はこれに当たらない)。よって不合理性が推定されることはない。
新制度では、遺族について、例えば39歳の女性と40歳の女性、54歳の男性と55歳の男性とで、遺族年金が受給できなかったり受給できたりするので、年齢を理由にした異なる取扱いがされている。これは、年齢が高くなると職を得ることが難しくなるので、一定年齢以上の遺族に年金を支給するという趣旨である。確かに、1歳違いで遺族年金を受給できたりできなかったりするのは不合理であるようにも思われるが、どこかで線引きしなければならないので、これが不合理であるとは言えない。
以上より、年齢を理由にした異なる取扱いについては、合憲である。
第3 性別を理由にした異なる取扱い
新制度では、遺族について、例えば50歳の女性と男性のように、遺族年金を受給できたり受給できなかったりするので、性別を理由にした異なる取扱いがされている。第2と同じ枠組みで考える。
性別は、14条1項で列挙されている事柄であり、それについての区別には不合理性が推定される。ある企業において、性別を理由にした定年の違い(女性のほうが低かった)が、同項に反すると判断された判例が存在する。給与所得者の平均年収や就業形態(正規雇用か非正規雇用か)について、現実に男女差があることが、この区別の理由である。しかし、これは現状を固定化することにもつながりかねず、不合理性を覆す事情にはならない。
以上より、性別を理由にした異なる取扱いについては、違憲である。
第4 旧制度との関係
一度生存権を具体化する制度(法律)が作られると、そこには期待や信頼が発生するので、原則としてその制度(法律)から水準を後退させることはできない。いわゆる制度後退禁止原則である。
新制度案では、既に生じている遺族年金受給権を消滅させてしまうので、一度作られた生存権を具体化する制度(法律)から水準が後退している。経過措置があるといっても、5年だけであり、しかも3年目からは支給額が半減されることになっている。例えば40歳から65歳までだと25年間遺族年金を受給することになるので、5年では短すぎる。この不利益を、旧制度の下では同じ事情でも受給できている人がいるという不公平感をなくすという理由では正当化できない。
よって、既に生じている遺族年金受給権を消滅させてしまう部分は、違憲である。
〔設問2〕
第1 生存権を具体化する法律の合憲性
25条1項は救貧政策を、25条2項は防貧政策を規定したものであり、両者を区別する見解もあるが、〔設問1〕で述べたXの意見のほうが素直な文言解釈である。
25条はあくまでも目指す目標を定めたにすぎないとするプログラム規定説は妥当でないけれども、同条を根拠に具体的な請求をすることができるとする具体的権利説も、月額○○円を請求できるほど具体的な規定ではないので妥当ではない。Xの意見である抽象的権利説が妥当である。
第2 年齢を理由にした異なる取扱い
14条1項では、不合理な区別が差別として禁止されており、合理的な区別は許されるというXの意見は妥当である。しかし、同項列挙の事柄についての区別には不合理性が推定されるという意見は、あまりにも機械的すぎであり、妥当ではない。区別の程度や態様、その理由などから総合的に判断して、不合理な区別は許されないと解する。
本件では、年齢を理由にした異なる取扱いがされているが、子どもがいる場合の差額は2万円であり、その程度はそれほど大きくない。〔設問1〕記載の理由は合理的である。年金は、その性質上、年齢による区別を予定しており、年金を受給できない場合に年齢不問の生活保護を受給することが妨げられるわけではない。
以上より、年齢を理由にした異なる取扱いの部分は、合憲である。
第3 性別を理由にした異なる取扱い
14条1項に列挙されている事柄だからといって不合理性は推定されないのだけれども、性別については、24条1項から、別異に考えるべきである。性別による区別がやむを得ない場合のみ合理的な区別として許容されると解する。
本件では、〔設問1〕で述べたように、性別を理由にした異なる取扱いがされている。給与所得者の平均年収や就業形態が異なるからというのがその理由であるが、そうすると性別は間接的な理由となる。平均年収や就業形態を遺族年金の受給要件とすることもできる。
以上より、性別による区別がやむを得ない場合ではないので、合理的な区別として許容されず、不合理な区別であるため、性別を理由にした異なる取扱いの部分は、違憲である。
第4 旧制度との関係
Xが言うような制度後退禁止原則にも一理はあるが、そのような原則を認めてしまうと、立法府の裁量の幅が狭まってしまい、かえって生存権の保障にもとる事態にもなりかねない。よって、合憲性を判断する一つの要素にはなるけれども、制度後退禁止原則のような強い原則は認められない。制度後退禁止原則を根拠にして違憲という判断をした判例も存在しない。
本件では、旧制度の下では同じ事情でも受給できている人がいるという不公平感をなくすという理由だけでなく、限られた財源の中でより適切に生存権を保障しようと新制度案が考えられた。確かに、既に生じている遺族年金受給権が消滅したり、金額が減額されたりする可能性があるが、3年目からは減額されるとしても、5年の経過措置がある。減額されない2年に限っても、一般に仕事を探すには十分な期間である。
以上より、旧制度との関係で違憲となることはない。Xの意見は妥当ではない。
以上
感想
分量からしても内容からしても、過去問に見られるような典型的な問題ではないとすぐに直感しました。〔設問1〕を書き終わる頃まで「批判的な見地から意見をまとめてください」という部分を読み落としており、合憲を支えるXの意見を書いてしまいました。子の有無による異なる取扱いについても書くべきか悩みつつも、はっきりとした誘導はなく、結局盛り込みませんでした。
全体)見落とし、悔やまれますね。また、新制度案のどの規定のどの部分の憲法適合性を論じているのか明示がなく、評価を落とされると思います。
設問1第1、設問2第1→憲法適合性を論じるという観点からいえば、この総論部分は浮いてしまっています。総論ではなく、規定をすること自体の適合性を問題とするのであれば、そもそも遺族年金制度は現存するので、不要なものだと考えます。
設問1第2、設問2第2(新制度案第3第1項2項)→「合理性を厳密に検討すべきかがポイントになりそうですね」への解答を、特別意味説・例示説の対立点だけで終わらせてよかったものか。いわゆる威力ある合理性の基準(青柳)の話、すなわち国籍法違憲判決等の射程論のことかと私は読み取りました。そのうえで、立法裁量が絡むのでリーマン税金訴訟事件から合理性の基準なのかな、と。似た判例が平成29と平成30に出ていますね。
区別の趣旨は記述がありますが、その趣旨自体の合理性審査がされていません。区別程度の合理性審査と混同している印象です。
当てはめにおいては、生活保護を含めた制度全体からみた合理性の審査が欠けていることが残念です。
設問1第3・設問2第3(同)→これも同じことが言えそうです。平等権の審査は、①区別の認定②区別の合理性の審査からなるはずです。②において、区別の目的の正当性と区別手段の正当性を審査するものと私は理解しています。
当てはめにおいて、女性の就労促進の観点が欠けていることが残念です。
設問1第4・設問2第4(新制度案第5・第6)
立法裁量の広狭を論じてほしいとの誘導に読めました。その論述が欠けていることが残念です。
そうですね、ご指摘いただいたようなことが書ければよかったと思います。