浅野直樹の学習日記

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浅野直樹

平成29(2017)年司法試験予備試験論文(刑事訴訟法)答案練習

問題

 次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。

【事例】
 平成29年5月21日午後10時頃,H県I市J町1丁目2番3号先路上において,Vがサバイバルナイフでその胸部を刺されて殺害される事件が発生し,犯人はその場から逃走した。
 Wは,たまたま同所を通行中に上記犯行を目撃し,「待て。」と言いながら,直ちに犯人を追跡したが,約1分後,犯行現場から約200メートルの地点で見失った。
 通報により駆けつけた警察官は,Wから,犯人の特徴及び犯人の逃走した方向を聞き,Wの指し示した方向を探した結果,犯行から約30分後,犯行現場から約2キロメートル離れた路上で,Wから聴取していた犯人の特徴と合致する甲を発見し,職務質問を実施したところ,甲は犯行を認めた。警察官は,①甲をVに対する殺人罪により現行犯逮捕した。なお,Vの殺害に使用されたサバイバルナイフは,Vの胸部に刺さった状態で発見された。
 甲は,その後の取調べにおいて,「乙からVを殺害するように言われ,サバイバルナイフでVの胸を刺した。」旨供述した。警察官は,甲の供述に基づき,乙をVに対する殺人の共謀共同正犯の被疑事実で通常逮捕した。
 乙は,甲との共謀の事実を否認したが,検察官は,関係各証拠から,乙には甲との共謀共同正犯が成立すると考え,②「被告人は,甲と共謀の上,平成29年5月21日午後10時頃,H県I市J町1丁目2番3号先路上において,Vに対し,殺意をもって,甲がサバイバルナイフでVの胸部を1回突き刺し,よって,その頃,同所において,同人を左胸部刺創による失血により死亡させて殺害したものである。」との公訴事実により乙を公判請求した。
 検察官は,乙の公判前整理手続において,裁判長からの求釈明に対し,③「乙は,甲との間で,平成29年5月18日,甲方において,Vを殺害する旨の謀議を遂げた。」旨釈明した。これに対し,乙の弁護人は,甲との共謀の事実を否認し,「乙は,同日は終日,知人である丙方にいた。」旨主張したため,本件の争点は,「甲乙間で,平成29年5月18日,甲方において,Vを殺害する旨の謀議があったか否か。」であるとされ,乙の公判における検察官及び弁護人の主張・立証も上記釈明の内容を前提に展開された。

〔設問1〕
 ①の現行犯逮捕の適法性について論じなさい。

〔設問2〕
 ②の公訴事実は,訴因の記載として罪となるべき事実を特定したものといえるかについて論じなさい。
 ③の検察官の釈明した事項が訴因の内容となるかについて論じなさい。
 裁判所が,証拠調べにより得た心証に基づき,乙について,「乙は,甲との間で,平成29年5月11日,甲方において,Vを殺害する旨の謀議を遂げた。」と認定して有罪の判決をすることが許されるかについて論じなさい(①の現行犯逮捕の適否が与える影響については,論じなくてよい。)。

 

再現答案

以下刑事訴訟法については条数のみを示す。

〔設問1〕
 現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者が現行犯人だとされ(212条1項)、212条2項各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす(準現行犯)とされる(212条2項)。①の逮捕は犯行から約30分後、犯行現場から約2キロメートル離れた場所で行われたので、現行犯逮捕とは言えない。そこで212条2項の準現行犯逮捕の要件を満たすかどうかを検討する。
 Wは犯人を追跡したが、甲が発見されたのはWが犯人を見失ってから約30分後のことであり、犯人として追呼されているとき(212条2項1号)には当たらない。甲はWから聴取していた犯人の特徴と合致するとしてもやはり当たらない。罪を行い終つてから間がないと明らかには認められないからである。甲は兇器を所持していなかったので、同項2号にも当たらない。身体又は被服に犯罪の顕著な証跡もなかったので、同項3号にも当たらない。誰何されて逃走しようともしていないので、同項4号にも当たらない。以上より、①の現行犯逮捕は違法である。甲は職務質問に対して犯行を認めているのだから、そのまま聴取を続けて、逮捕状により逮捕すべきであった。

〔設問2〕
 
 公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならず、訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない(256条3項)。これは裁判所に対して審判範囲を画定することと、被告人に対して防御のポイントを示すことが目的である。前者が第一義的な目的である。
 ②の公訴事実は、甲の実行行為については十分に事実が特定されていると言えるが、乙にとっては「甲と共謀の上」としか記載されていないのでこれで訴因が明示されているかが問題となる。しかしながら、検察官は共謀の詳細を把握していないかもしれず、これでできる限り事実を特定していると言えるので、訴因の記載として罪となるべき事実を特定したものといえる。裁判所にとっては審判範囲が明確だからである。被告人の防御に関しては、裁判が進むにつれてポイントが絞られてくるはずなので、そのときに被告人の防御権を尊重すればよい。
 
 1で述べたように、②の公訴事実は訴因の記載として罪となるべき事実を特定したものといえる。よって、③の検察官の釈明した事項が訴因の内容とはならないと考えられる。このように釈明したとしても、裁判所の審判範囲は変わらないからである。そのような細かいことで訴因の変更を要するとすれば手続きがあまりにも繁雑になる。
 
 2で述べたように、③の検察官の釈明した事項が訴因の内容とならないとしても、それとは別に被告人の防御権を尊重する必要がある。乙としては、平成29年5月18日のアリバイを証明したのに、同年5月11日の共謀を認定されると、不意打ちだと感じるだろう。乙としては同年5月11日のアリバイも主張できたかもしれない。例えば乙が甲方に平成29年5月17日から18日まで泊まっていたとして、その際に5月18日ではなく17日の共謀を認定することは許されるとしても、5月18日と5月11日とでは7日も違うので、別の機会である。以上より、「乙は、甲との間で、平成29年5月11日、甲方において、Vを殺害する旨の謀議を遂げた。」と認定して有罪の判決をすることは許されない。

以上

 

修正答案

以下刑事訴訟法については条数のみを示す。

〔設問1〕
 現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者が現行犯人だとされる(212条1項)。これには(1)犯人と犯罪の明白性、(2)逮捕の必要性、(3)時間的場所的近接性が要求される。現行犯逮捕が日本国憲法で例外的に認められたのは、事実誤認のおそれがなく、またその場で逮捕する必要性があるためであるため、上記(1)〜(3)が要求されるのである。
 (1)犯人と犯罪の明白性は、逮捕者にとっての明白性である。①の現行犯逮捕をした警察官にとって、Wから聴取していた犯人の特徴と合致し職務質問で甲が犯行を認めたことだけでは、犯人と犯罪が明白であるとは言えない。また、(2)逮捕の必要性はあるものの、(3)時間的場所的近接性はない。①の現行犯逮捕がされたのは、犯行から約30分後の犯行現場から約2キロメートル離れた路上であり、犯人がずっと追跡されていたということもなかったからである。以上より、212条1項の現行犯逮捕としては違法である。
 212条2項各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす(準現行犯)とされる(212条2項)。そこで212条2項各号に該当するかを検討する。
 Wは犯人を追跡したが、甲が発見されたのはWが犯人を見失ってから約30分後のことであり、犯人として追呼されているとき(212条2項1号)には当たらない。甲は兇器を所持していなかったので、同項2号にも当たらない。身体又は被服に犯罪の顕著な証跡もなかったので、同項3号にも当たらない。誰何されて逃走しようともしていないので、同項4号にも当たらない。以上より、212条2項の現行犯逮捕としても違法である。

〔設問2〕
 
 公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならず、訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない(256条3項)。これは検察官が主張する犯罪事実である訴因により、裁判所に対して審判範囲を画定することと、被告人に対して防御のポイントを示すことが目的である。前者が第一義的な目的であり、審判範囲が画定されているというのは、他罪との識別ができるという意味である。
 ②の公訴事実は、甲の実行行為については十分に事実が特定されていると言えるが、乙にとっては「甲と共謀の上」としか記載されていないのでこれで訴因が明示されているかが問題となる。しかしながら、甲の実行行為については事実が特定されている以上、共謀の場所や日時が示されていなかったとしても、その行為に係る共謀ということで他罪と識別できるほど十分に審判範囲は画定しているため、訴因の記載として罪となるべき事実を特定したものといえる。
 
 1で述べたように、②の公訴事実は訴因の記載として罪となるべき事実を特定したものといえる。よって、③の検察官の釈明した事項が訴因の内容とはならないと考えられる。このように釈明したとしても、裁判所の審判範囲は変わらないからである。そのような細かいことで訴因の変更を要するとすれば手続きがあまりにも繁雑になる。
 
 2で述べたように、③の検察官の釈明した事項が訴因の内容とならないため、裁判所が検察官に訴因変更を命じる義務は発生しない。とはいえ、被告人の防御権が侵害される場合には、裁判所は求釈明等によって争点を顕在化させなければならない。
 本件の争点は,「甲乙間で,平成29年5月18日,甲方において,Vを殺害する旨の謀議があったか否か。」であるとされ,乙の公判における検察官及び弁護人の主張・立証も上記釈明の内容を前提に展開された。にもかかわらず、それとは別の機会であり争点となっていなかった「乙は,甲との間で,平成29年5月11日,甲方において,Vを殺害する旨の謀議を遂げた」という事実を認定して有罪の判決をすることは、被告人である乙の防御権を侵害する。よって、裁判所は、求釈明等によって争点を顕在化させなければならず、それをせずに有罪の判決をすることは許されない。

以上

 

 

 



平成29(2017)年司法試験予備試験論文(刑法)答案練習

問題

以下の事例に基づき,甲及び乙の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く。)。

1 甲(40歳,男性)は,公務員ではない医師であり,A私立大学附属病院(以下「A病院」という。)の内科部長を務めていたところ,V(35歳,女性)と交際していた。Vの心臓には特異な疾患があり,そのことについて,甲とVは知っていたが,通常の診察では判明し得ないものであった。
2 甲は,Vの浪費癖に嫌気がさし,某年8月上旬頃から,Vに別れ話を持ち掛けていたが,Vから頑なに拒否されたため,Vを殺害するしかないと考えた。甲は,Vがワイン好きで,気に入ったワインであれば,2時間から3時間でワイン1本(750ミリリットルの瓶入り)を一人で飲み切ることを知っていたことから,劇薬を混入したワインをVに飲ませてVを殺害しようと考えた。
 甲は,同月22日,Vが飲みたがっていた高級ワイン1本(750ミリリットルの瓶入り)を購入し,同月23日,甲の自宅において,同ワインの入った瓶に劇薬Xを注入し,同瓶を梱包した上,自宅近くのコンビニエンスストアからVが一人で住むV宅宛てに宅配便で送った。劇薬Xの致死量(以下「致死量」とは,それ以上の量を体内に摂取すると,人の生命に危険を及ぼす量をいう。)は10ミリリットルであるが,甲は,劇薬Xの致死量を4ミリリットルと勘違いしていたところ,Vを確実に殺害するため,8ミリリットルの劇薬Xを用意して同瓶に注入した。そのため,甲がV宅宛てに送ったワインに含まれていた劇薬Xの量は致死量に達していなかったが,心臓に特異な疾患があるVが,その全量を数時間以内で摂取した場合,死亡する危険があった。なお,劇薬Xは,体内に摂取してから半日後に効果が現れ,ワインに混入してもワインの味や臭いに変化を生じさせないものであった。
 同月25日,宅配業者が同瓶を持ってV宅前まで行ったが,V宅が留守であったため,V宅の郵便受けに不在連絡票を残して同瓶を持ち帰ったところ,Vは,同連絡票に気付かず,同瓶を受け取ることはなかった。
3 同月26日午後1時,Vが熱中症の症状を訴えてA病院を訪れた。公務員ではない医師であり,A病院の内科に勤務する乙(30歳,男性)は,Vを診察し,熱中症と診断した。乙からVの治療方針について相談を受けた甲は,Vが生きていることを知り,Vに劇薬Yを注射してVを殺害しようと考えた。甲は,劇薬Yの致死量が6ミリリットルであること,Vの心臓には特異な疾患があるため,Vに致死量の半分に相当する3ミリリットルの劇薬Yを注射すれば,Vが死亡する危険があることを知っていたが,Vを確実に殺害するため,6ミリリットルの劇薬YをVに注射しようと考えた。そして,甲は,乙のA病院への就職を世話したことがあり,乙が甲に恩義を感じていることを知っていたことから,乙であれば,甲の指示に忠実に従うと思い,乙に対し,劇薬Yを熱中症の治療に効果のあるB薬と偽って渡し,Vに注射させようと考えた。
 甲は,同日午後1時30分,乙に対し,「VにB薬を6ミリリットル注射してください。私はこれから出掛けるので,後は任せます。」と指示し,6ミリリットルの劇薬Yを入れた容器を渡した。乙は,甲に「分かりました。」と答えた。乙は,甲が出掛けた後,甲から渡された容器を見て,同容器に薬剤名の記載がないことに気付いたが,甲の指示に従い,同容器の中身を確認せずにVに注射することにした。
 乙は,同日午後1時40分,A病院において,甲から渡された容器内の劇薬YをVの左腕に注射したが,Vが痛がったため,3ミリリットルを注射したところで注射をやめた。乙がVに注射した劇薬Yの量は,それだけでは致死量に達していなかったが,Vは,心臓に特異な疾患があったため,劇薬Yの影響により心臓発作を起こし,同日午後1時45分,急性心不全により死亡した。乙は,Vの心臓に特異な疾患があることを知らず,内科部長である甲の指示に従って熱中症の治療に効果のあるB薬と信じて注射したものの,甲から渡された容器に薬剤名の記載がないことに気付いたにもかかわらず,その中身を確認しないままVに劇薬Yを注射した点において,Vの死の結果について刑事上の過失があった。
4 乙は,A病院において,Vの死亡を確認し,その後の検査の結果,Vに劇薬Yを注射したことが原因でVが心臓発作を起こして急性心不全により死亡したことが分かったことから,Vの死亡について,Vに対する劇薬Yの注射を乙に指示した甲にまで刑事責任の追及がなされると考えた。乙は,A病院への就職の際,甲の世話になっていたことから,Vに注射した自分はともかく,甲には刑事責任が及ばないようにしたいと思い,専ら甲のために,Vの親族らがVの死亡届に添付してC市役所に提出する必要があるVの死亡診断書に虚偽の死因を記載しようと考えた。
 乙は,同月27日午後1時,A病院において,死亡診断書用紙に,Vが熱中症に基づく多臓器不全により死亡した旨の虚偽の死因を記載し,乙の署名押印をしてVの死亡診断書を作成し,同日,同死亡診断書をVの母親Dに渡した。Dは,同月28日,同死亡診断書記載の死因が虚偽であることを知らずに,同死亡診断書をVの死亡届に添付してC市役所に提出した。

 

再現答案

以下刑法については条数のみを示す。

第1 甲の罪責
 (1) 劇薬Xを混入したワインを送付した行為
 殺人罪(199条)について検討する。甲は劇薬Xを8ミリリットル混入したワインを自宅近くのコンビニエンスストアからV宅宛てに宅配便で送った。これをVが数時間で全部飲み、Vが死亡したとすれば、殺人罪が成立する。故意に欠ける部分もないし、違法性を阻却する事由もない。
 実際にはVはこのワインを飲まず死亡しなかった。そこで殺人未遂罪(203条)の成否を検討する。未遂とは、犯罪の実行に着手したがその犯罪を遂げなかった場合のことである。実行の着手は、犯罪の結果の危険性が生じたときにあったと判断する。本件において、劇薬Xを混入したワインを送付した行為は、実行に着手したと言える。というのも、宅配便で送れば業者がまず間違いなく宛先に届けるし、甲からワインが届けばVは数時間でワイン1本を一人で飲み切り、そうすればV死亡の危険があったと認められるからである。こうした事情は客観的事実であり、甲が認識していた事実でもある。よって甲には殺人未遂罪が成立する。なお、殺人未遂罪が成立する前のどこかの時点で殺人予備罪(201条)が成立するが、これは殺人未遂罪に吸収されるので、そのことを論じる実益はない。
 (2) 乙をして劇薬YをVに注射させた行為
 (1)と同様に殺人罪を検討する。劇薬Yが6ミリリットル入った注射をすることによりVが死亡している。しかしこの注射を直接したのは乙であり、甲の罪責となるかが問題となる。人を道具として用いた場合には間接正犯として犯罪が成立する。人ではない道具を用いた場合と区別する必要がないからである。甲は、乙は自分に恩義を感じていて自分の指示に忠実に従うと思って注射を指示しているので、乙を道具として用いている。乙は容器に薬剤名の記載がないことに気づいたにもかかわらず、その中身を確認しないままVに劇薬Yを注射した点において過失があったとのことであるが、それでも道具性は失われていない。というのも、乙の過失は確認をしないという不作為であり、自分の意思で積極的な行動をしたわけではないからである。よって甲には間接正犯として殺人罪が成立する。
 (3)結論
 以上より、甲には、殺人未遂罪と殺人罪が成立し、これらは併合罪(47条)となる。これらはどちらもVの生命を保護法益にしているが、別個の機会の別個の行為なので、併合罪となる。

第2 乙の罪責
 (1) 劇薬YをVに注射した行為
 業務上過失致死罪(211条)を検討する。「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた」ことがその構成要件である。ここでいう「業務」とは「社会生活上反復・継続して行う行為で、人の生命に危険をもたらすおそれのあるもの」である。
 乙は医師であり、Vに注射をした行為は、上記の業務上だと言える。Vの死の結果について刑事上の過失があったとのことなので、乙には業務上過失致死罪が成立する。
 (2) 虚偽の死因を死亡診断書に記載してC市役所に提出した行為
 虚偽診断書等作成罪(160条)及び同行使罪(161条1項)を検討する。構成要件はそれぞれ「医師が公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書に虚偽の記載をした」ことと、「前二条の文書……を行使した」ことである。
 乙は医師である。死亡診断書は公務所に提出すべき死亡証書である。乙はそこに虚偽の死因を記載している。よって乙には虚偽診断書等作成罪が成立する。そしてこれをC市役所に提出しているので、同行使罪も成立する。乙はこれを専ら甲のためにしたとのことであるが、そのために乙に犯罪が成立しないということはないし、犯罪に何ら関わっていない甲が罪に問われるということもない。
 (3)結論
 以上より、乙には、業務上過失致死罪、虚偽診断書等作成罪、同行使罪が成立し、後二者と前者とは併合罪(47条)となる。後二者はけん連犯である。

第3 共犯関係
 甲と乙との間には、犯罪について意思連絡がなかったので、共犯は成立しない。

以上

 

修正答案

以下刑法については条数のみを示す。

第1 甲の罪責
 (1) 劇薬Xを混入したワインを送付した行為
 殺人未遂罪(199条、203条)の成否を検討する。殺人罪の構成要件は人を殺すことである。未遂とは実行の着手があったものの所定の結果が発生しなかった場合のことである。実行の着手は、犯罪の結果の客観的な危険性が生じたときにあったと判断する。甲は劇薬Xを8ミリリットル混入したワインを自宅近くのコンビニエンスストアからV宅宛てに宅配便で送った。宅配便で送ると業者がまず間違いなく宛先に届け、甲からワインが届けばVは数時間でワイン1本を一人で飲み切り、そうすればV死亡の危険があったと認められるから、この時点で実行の着手があったと言える。
 劇薬X8ミリリットルでは通常人の致死量には達しないが、心臓に特異な疾患があるVにとっては死亡の危険があったので、不能犯ではなく未遂犯である。また、甲はこれらの事情を認識していたので、故意に欠けるところもない。
 以上より、甲には殺人未遂罪が成立する。
 (2) 乙に劇薬Yの入った容器を渡してVに注射するよう指示した行為
 殺人罪(199条)の成否を検討する。甲が乙に対して劇薬Yが6ミリリットル入った容器を渡してこれをVに注射をするよう指示した。そして乙がその注射をするにことによってVが死亡した。Vを殺すという行為を直接行ったのは乙であるため、間接正犯についてまず検討する。間接正犯は、①利用者が被利用者の行為を利用して自己の犯罪を実行する意思、②利用者による被利用者の行為の支配、の2点が満たされた場合に認められる。本件において、甲は乙の行為を利用してV殺害という自己の犯罪を実行する意思があった。乙は事情を知らなかったので、甲が乙の行為を支配していたと言える。よって、甲は間接正犯である。
 次に因果関係について検討する。条件関係を前提として、社会通念上相当であるかどうかによって判断する。甲が乙に劇薬Yの入った容器を渡してVに注射するように指示しなければ、乙がこれをVに注射することもなく、Vが死亡することもなかった。よって条件関係はある。また、年上で恩義も感じている医師である甲から注射の指示を受けて実際に注射をするという因果関係は社会通念上相当である。乙は容器に薬剤名の記載がないことに気づいたにもかかわらず、その中身を確認しないままVに劇薬Yを注射した点において過失があったとのことであるが、その乙の過失は確認をしないという不作為であり、自分の意思で積極的な行動をしたわけではないので、因果関係は切断されない。
 以上より、甲には間接正犯として殺人罪が成立する。
 (3)結論
 以上より、甲には、殺人未遂罪と殺人罪が成立し、これらは併合罪(47条)となる。これらはどちらもVの生命を保護法益にしているが、別個の機会の別個の行為なので、併合罪となる。

第2 乙の罪責
 (1) 劇薬YをVに注射した行為
 業務上過失致死罪(211条)の成否を検討する。「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた」ことがその構成要件である。ここでいう「業務」とは「社会生活上反復・継続して行う行為で、人の生命に危険をもたらすおそれのあるもの」である。
 乙は医師であり、Vに注射をした行為は、上記の業務上だと言える。Vの死の結果について刑事上の過失があったとのことなので、必要な注意を怠ったと言え、乙には業務上過失致死罪が成立する。この過失がなければVは死亡しなかったという条件関係があり、医師が薬剤の確認を怠ると患者が死亡するというのは社会通念上相当な因果関係である。
 (2) 虚偽の死因を死亡診断書に記載してC市役所に提出した行為
 虚偽診断書等作成罪(160条)及び同行使罪(161条1項)の成否を検討する。構成要件はそれぞれ「医師が公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書に虚偽の記載をした」ことと、「前二条の文書……を行使した」ことである。乙は医師である。死亡診断書は公務所に提出すべき死亡証書である。乙はそこに虚偽の死因を記載している。よって乙には虚偽診断書等作成罪が成立する。そしてこれをDに渡して、DがC市役所に提出しているので、同行使罪も成立する(第1で述べた間接正犯に当てはまる)。
 次に証拠隠滅罪(104条)の成否を検討する。構成要件は「他人の刑事事件に関する証拠を…偽造」することである。甲という他人の殺人罪という刑事事件に関する死亡診断書という証拠を偽造しているので、証拠隠滅罪が成立する。自己の刑事事件に関する証拠であるとも言えなくないが、専ら甲のために証拠を偽造しているので、証拠隠滅罪は成立する。
 (3)結論
 以上より、乙には、(A)業務上過失致死罪、(B)虚偽診断書等作成罪、(C)同行使罪、(D)証拠隠滅が成立し、(A)と(B)ないし(D)は併合罪(47条)、(B)及び(C)は牽連犯、(B)及び(D)は観念的競合である。

第3 共犯関係
 甲と乙との間には、犯罪について意思連絡がなかったので、共犯は成立しない。

以上

 

 

 



平成29(2017)年司法試験予備試験論文(民事訴訟法)答案練習

問題

次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。

【事例】
 Yは,甲土地の所有者であったが,甲土地については,Aとの間で,賃貸期間を20年とし,その期間中は定額の賃料を支払う旨の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結しており,Aはその土地をゴルフ場用地として利用していた。その後,甲土地は,XとYとの共有となった。しかし,甲土地の管理は引き続きYが行っており,YA間の本件賃貸借契約も従前どおり維持されていた。そして,Aからの賃料については,Yが回収を行い,Xに対してはその持分割合に応じた額が回収した賃料から交付されていた。
 ところが,ある時点からYはXに対してこれを交付しないようになったので,Xから委任を受けた弁護士LがYと裁判外で交渉をしたものの,Yは支払に応じなかった。そこで,弁護士Lは,回収した賃料のうちYの持分割合を超える部分についてはYが不当に利得しているとして,Yに対して不当利得返還請求訴訟を提起することとした。
 なお,弁護士Lが確認したところによると,Aが運営するゴルフ場の経営は極めて順調であり,本件賃貸借契約が締結されてからこの10年間本件賃貸借契約の約定どおりに賃料の支払を続けていて,これまで未払はないとのことであった。

〔設問1〕
 下記の弁護士Lと司法修習生Pとの会話を読んだ上で,訴え提起の時点では未発生である利得分も含めて不当利得返還請求訴訟を提起することの適法性の有無について論じなさい。

弁護士L:今回の不当利得返還請求訴訟において,Xは,何度も訴訟を提起したくないということで,この際,残りの賃貸期間に係る利得分についても請求をしたいと希望しています。そうすると,訴え提起の時点では未発生である利得分についても請求することになりますが,何か問題はありそうですか。
修習生P:そのような請求を認めると,相手方であるYに不利益が生じてしまうかもしれません。特に口頭弁論終結後に発生する利得分をどう考えるかが難しそうです。
弁護士L:そうですね。その点にも配慮しつつ,今回の不当利得返還請求訴訟において未発生の利得分まで請求をすることが許されないか,検討してみてください。

【事例(続き)】
 弁護士Lは,Xと相談した結果,差し当たり,訴え提起の時点までに既に発生した利得分の合計300万円のみを不当利得返還請求権に基づいて請求することとした。
 これに対し,Yは,この訴訟(以下「第1訴訟」という。)の口頭弁論期日において,Xに対して有する500万円の貸金債権(以下「本件貸金債権」という。)とXの有する上記の不当利得返還請求権に係る債権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。
 第1訴訟の受訴裁判所は,審理の結果,Xの不当利得返還請求権に係る債権については300万円全額が認められる一方,Yの本件貸金債権は500万円のうち450万円が弁済されているため50万円の範囲でのみ認められるとの心証を得て,その心証に従った判決(以下「前訴判決」という。)をし,前訴判決は確定した。
 ところが,その後,Yは,本件貸金債権のうち前訴判決において相殺が認められた50万円を除く残額450万円はいまだ弁済されていないとして,Xに対し,その支払を求めて貸金返還請求訴訟(以下「第2訴訟」という。)を提起した。

〔設問2〕
 第2訴訟において,受訴裁判所は,貸金債権の存否について改めて審理・判断をすることができるか,検討しなさい。

 

再現答案

以下民事訴訟法については条数のみを示す。

〔設問1〕
 将来の給付を求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起することができる(135条)。将来給付の訴えを無制限に認めると、被告が不安定な地位に立たされるので、このように制限されているのである。本件に即して言うと、Yが賃料が得られなくなったのに、Xへの支払い義務が残るといった場合である。
 115条1項3項などから、判決の基準時は口頭弁論終結時であると考えられる。よって、口頭弁論終結後に発生する利得分の請求は将来の給付を求める訴えになる。本件では、Aが運営するゴルフ場の経営は極めて順調であり、ここ10年に渡って約定どおりに賃料が支払われている。よってこれから10年も定額の賃料が支払われると予想できる。それでも今後賃料が支払われなくなるとか、Yが死亡するとかいうことも考えられないではないが、そのようなことを言うと、およそ将来給付訴訟が認められなくなってしまう。他方で、Xとしてはできる限りのことをしてから本件訴訟の提起に至ったのである。Xはこの賃料で生計を立てようとしているのかもしれない。よって、あらかじめその請求をする必要がある場合に当たり、訴え提起の時点では未発生である利得分も含めて不当利得返還請求訴訟を提起することができる。

〔設問2〕
 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有し(114条1項)、相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する(114条2項)。相殺をもって対抗した額は50万円なので、それを除く残額450万円には既判力が働かないというのがYの主張であると考えられる。
 既判力が設けられたのは、被告の応訴する負担と裁判所の訴訟不経済を防ぐためである。実質的に同じ訴訟を繰り返して紛争を蒸し返すことが許されないのである。本件では、第1訴訟でYの本件貸金債権が全額審理されている。このような外側説と呼ばれるやり方は一般に採用されているものである。よって第2訴訟は実質的に第1訴訟の蒸し返しである。第1訴訟で紛争が解決したというXと裁判所の期待が裏切られている。しかしYが主張するように、114条の文言から既判力とすることはできない。そうしてしまうとそれはそれで当事者の期待を裏切ってしまう。そこで、信義に反するとして(2条)、受訴裁判所は、貸金債権の存否について改めて審理・判断をすることはできないと考えるべきである。

以上

 

修正答案

以下民事訴訟法については条数のみを示す。

〔設問1〕
 判決の基準となる時は最終口頭弁論終結時である。よって、訴え提起の時点では未発生であっても、最終口頭弁論終結時までに発生した利得分は、問題なく判決の対象となる。
 最終口頭弁論終結時より後に発生する利得分は、将来給付の訴え(135条)となる。そこでこれが認められるかどうかを検討する。
 将来の給付を求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起することができる(135条)。そこでまず必要性について考える。Xから委任を受けた弁護士LがYと裁判外で交渉をしたものの、Yは支払に応じなかったという事情があるので、任意での支払は期待できないため、あらかじめ請求をする必要性があると言える。
 135条で将来給付の訴えが規定されているのだけれども、将来のことは不確定であり、およそどのような将来給付の訴えも適法であるということではなく、一定の条件を満たす場合にのみ例外的に認められていると解すべきである。その一定の条件とは、①権利発生の基礎をなす関係が既に存在していて、②その権利の消滅など債務者にとって有利な事情の発生が明確に予測できる事由に限られ、③その債務者に有利な事情を請求異議の訴えで主張すべしとしても格別不公平ではない、という条件である。本件においては、不当利得返還請求権の基礎をなす甲土地のXY間での共有及び甲土地をAに賃貸するという契約(契約期間は20年であり契約が締結されてからこの10年間本件賃貸借契約の約定どおりに賃料の支払が滞りなく続けられていた)が既に存在し、その権利の消滅はXY間の共有関係の解消やAの賃料不払いなどに限られ、それらははっきりとした事情であるため請求異議の訴えでYが主張すべしだとしても格別不公平ではない。
 以上より、最終口頭弁論終結時の前後を問わず訴え提起の時点では未発生である利得分も含めて不当利得返還請求訴訟を提起することは適法である。

〔設問2〕
 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有し(114条1項)、相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する(114条2項)。第2訴訟で支払を請求されている本件貸金債権は第1訴訟の主文に包含されていないので、もっぱら114条2項が問題となる。
 第1訴訟でのXの請求金額は300万円であり、それに対してYは500万円の本件貸金債権による相殺を主張したので、相殺をもって対抗した額はこれら金額の重複する部分である300万円である。よって、その本件貸金債権300万円のうち、50万円が成立し250万円が成立しないという判断には既判力が働く。そのため、本件貸金債権のうち300万円については、第2訴訟において、受訴裁判所は、改めて審理・判断をすることができない。
 本件貸金債権のうち、残りの200万円については既判力が働かないため、第2訴訟での審理・判断の対象となるように一見思われる。しかし、一部請求の場合にいわゆる外側説で判断をする裁判所は、本件貸金債権の500万円全額につき第1訴訟で審理・判断した結果、50万円だけが存在するという心証を得たのである。既判力が設けられたのは、実質的に同一の訴訟の繰り返しを避けて被告の応訴する負担と裁判所の訴訟不経済を防ぐためであるのだから、この理は残りの200万円についても妥当する。そこで、本件貸金債権のうち、残りの200万円については、信義に反するとして(2条)、受訴裁判所は、貸金債権の存否について改めて審理・判断をすることはできないと考えるべきである。

以上

 

 

 

 



平成29(2017)年司法試験予備試験論文(商法)答案練習

問題

次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。

1.X株式会社(以下「X社」という。)は,会社法上の公開会社であり,株券発行会社ではない。X社は,種類株式発行会社ではなく,その発行可能株式総数は10万株であり,発行済株式の総数は4万株(議決権の総数も4万個)である。X社の事業年度は6月1日から翌年5月31日までであり,定時株主総会の議決権の基準日は5月31日である。
2.X社は,主たる事業である電子機器の製造・販売業は堅調であったが,業績拡大の目的で多額の投資を行って開始した電力事業の不振により多額の負債を抱え,このままでは債務超過に陥るおそれがあった。
 そこで,X社は,この状況から脱却するため,電力事業を売却し,同事業から撤退するとともに,募集株式を発行し,債権者に当該募集株式を引き受けてもらうことにより負債を減少させる計画を立てた。
3.X社は,同社に対して5億円の金銭債権(弁済期平成28年7月1日)を有するA株式会社(以下「A社」という。)に対し,A社のX社に対する同債権を利用して,募集株式1万株を発行することとして(払込金額は5万円,出資の履行の期日は平成28年5月27日),A社にその旨の申入れをしたところ,A社の了解を得ることができた。
 なお,当該募集株式の払込金額5万円は,A社に特に有利な金額ではない。また,A社は,当該募集株式の発行を受けるまで,X社の株式を有していなかった。

〔設問1〕
 X社がA社に対してX社の募集株式1万株を発行するに当たって,上記3のA社のX社に対する5億円の金銭債権を利用するには,どのような方法が考えられるか,論じなさい。なお,これを論ずるに当たっては,その方法を採る場合に会社法上必要となる手続についても,言及しなさい。

4.X社は,電力事業の売却及び上記3の募集株式の発行により負債額を減少し,債権者に対する月々の弁済額を減額することができたが,電力事業によって生じた負債が完全に解消されたわけではなかった。また,主たる事業においても,大口の取引先が倒産したことなどによって事業計画に狂いが生じ,新たに資金調達をする必要が生じた。そこで,X社代表取締役Yは,Yの親族が経営し,X社と取引関係のないZ株式会社(以下「Z社」という。)に3億円を出資してもらってX社の募集株式を発行することとした(払込金額は5万円,出資の履行の期日は平成29年2月1日)。ところが,X社において当該募集株式についての募集事項の決定をした後,Yは,Z社から,同社が行っている事業が急激に悪化したことにより,3億円を払い込むことができない旨を告げられた。Z社の払込みがされずに,当該募集株式の発行ができないこととなると,X社の財務状態に対する信用が更に悪化するだけでなく,払込みをすることができなかったZ社の信用も悪化することが懸念された。そこで,YとZ社は,協議した上で,Z社がX社の連帯保証を受けて金融機関から3億円を借り入れ,これを当該募集株式の払込金額の払込みに充てるとともに,当該払込金をもって直ちに当該借入金を弁済することとした。
5.Z社は,平成29年2月1日,X社の連帯保証を受けて,金融機関(X社が定めた払込取扱機関とは異なる。)から3億円を借り入れ,同日,当該3億円をもって当該募集株式の払込金額の払込みに充て,X社は,Z社に対して,当該募集株式6000株を発行した。
 なお,当該募集株式の払込金額5万円は,Z社に特に有利な金額ではない。また,Z社は,当該募集株式の発行を受けるまで,X社の株式を有していなかった。
6.X社は,平成29年2月2日,当該払込金をX社の預金口座から引き出して,上記5のZ社の借入金債務を弁済した。
7.その後も,Z社の事業の状態は,悪化の一途をたどった。Z社の債権者であるB株式会社(以下「B社」という。)は,このままではZ社から弁済を受けることができなくなることを危惧し,Z社の保有する上記5のX社の株式をもって,Z社のB社に対する債務を代物弁済するよう求め,Z社もこれに応ずることとした。
 そこで,平成29年5月29日,Z社は,B社に当該株式の全部をもって代物弁済し,また,B社は,当該株式について,X社から株主名簿の名義書換えを受けた。

〔設問2〕
(1)上記5の募集株式の発行に関して,X社の株主であるCが,Y及びZ社に対して,会社法上どのような責任を追及することができるか,その手段を含めて論じなさい。
(2)上記7の代物弁済を受けたB社は,X社の定時株主総会において,当該株式につき議決権を行使することができるか,論じなさい。なお,これを論ずるに当たっては,上記5の募集株式の発行の効力についても,言及しなさい。

 

再現答案

以下会社法については条数のみを示す。

〔設問1〕
 A社は、当該募集株式の発行を受けるまで、X社の株式を有していなかったので、株主への割当ではないので募集株式の発行について検討する。株式会社は、その発行する株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集株式について199条1項各号に定める事項を定めなければならない(199条1項)。公開会社ではその事項を取締役会の決議によらなければならない(201条1項、199条2項)。X社は公開会社である。よって募集株式の数が1万株であること(199条1項1号)、募集株式の払込金額が5万円であること(同項2号)、A社のX社に対する金銭債権を出資の目的とすること及びその金額が5億円であること(同項3号)、その財産の給付の期日が平成28年5月27日であること(同項4号)、「資本金が5億円増加する」や「資本金が2億5千万円、資本準備金が2億5千万円増加する」といったような増加する資本金及び資本準備金に関する事項(同項5号)を、取締役会で決議しなければならない。
 それから、現物出資財産の価額を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをしなければならない(207条1項)。
 出資の履行がなされると、混同(民法520条)により、X社のA社に対する債務は消滅する。

〔設問2〕
 (1)Z社に対する責任追及
 募集株式の出資の履行を仮装した場合には、払込みを仮装した払込金額の全額の支払をする義務を負う(213条の2第1項1号)。Z社は金融機関から3億円を借り入れて、当該募集株式の払込みに充て、その3億円はX社の預金口座から引き出されて金融機関に返済された。出資されたのは金融機関からZ社が借りた3億円であり、平成29年2月1日にそれを借り入れて募集株式の払込みに充て、その翌日である2月2日に3億円を返済している。X社でこれが運用されていない。よってこれは見せ金と評価でき、出資の履行を仮装したと言える。以上より、Z社は、3億円の支払をする義務を負う。
 本来であれば、X社が提訴して、この責任を追及するのが筋である。しかしこの仮装を共同したXがそうするとは期待できない。そこでX社の株主であるCは、X社に代わって、Z社の責任を追及する訴訟を提起することができる(847条1項)。これはX社にZ社を訴えるように請求してから60日が経過してからのことである(847条3項)。
 Yに対する責任追及
 X社はZ社が金融機関から借りた3億円の債務の連帯保証をしている。これはZ社の利益になると同時に、X社の損害になる。Z社はYの親族が経営しているので、Z社の利益はYの利益とも言える。よってこれは利益相反取引である(356条1項3号)。そしてこの利益相反取引によってX社に損害が生じたと言える。きちんと返済されたのでX社に損害はなかったではないかという反論が想定されるが、それは結果論であり、保証をした時点で損害が発生している。よってYは任務を怠ったものと推定される(423条3項1号)。
 Cによる責任追及の方法は、先に述べたZ社のときと同様である。
 (2)
 (1)で述べたように、Z社の出資の履行は仮装であり、無効である。ただしこれと株式の効力とは別であり、株式自体は有効である。そう解さないと、B社のように、何の落ち度もない者が議決権を行使できなくなってしまう。外形的には株式が発行されていたのである。
 X社の定時株主総会の議決権の基準日は5月31日であるので、5月29に株式を譲り受け名義書換も受けたB社は議決権を行使できる。

修正答案

以下会社法については条数のみを示す。

〔設問1〕
 A社は、当該募集株式の発行を受けるまで、X社の株式を有していなかったので、株主への割当ではないので募集株式の発行について検討する。募集株式の発行に関しては、金銭出資と現物出資の2種類がある。
第1 金銭出資
 金銭出資の場合に本件金銭債権を利用するには、出資金の払込義務と本件金銭債権とを相殺する必要がある。しかしながら、そのような相殺は208条3項により禁止されている。これは現物出資の規制の潜脱を防ぐという趣旨である。この趣旨からすると、同項では会社からの相殺については触れられていないが、これも同様に禁止されていると解すべきである。よってこの方法は採り得ない。
第2 現物出資
 現物出資の場合は、基本的に、その価額を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをしなければならない(207条1項)。同条9項には例外的に検査役の選任を申し立てなくてもよい場合が列挙されている。本件は同項1号ないし3項には該当しない。同項4号にあるように、価額が相当であることについて弁護士、弁護士法人、公認会計士、監査法人、税理士又は税理士法人の証明を受けた場合は、検査役の選任を申し立てなくてもよい。また、会社が本件金銭債権の期限の利益を放棄すれば、同項5号に該当するので、この場合も検査役の選任を申し立てなくてもよい。
第3 手続き
 X社は、その発行する株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集株式について199条1項各号に定める事項を定めなければならない(199条1項)。X社は公開会社であり、本件募集株式の発行は有利発行ではないので、199条1項各号に定める事項を取締役会の決議による(201条1項、199条2項)。

〔設問2〕
 (1)
(A)Z社に対する責任追及
 募集株式の出資の履行を仮装した場合には、払込みを仮装した払込金額の全額の支払をする義務を負う(213条の2第1項1号)。この点につき、いわゆる見せ金が払込みの仮装と言えるかが問題となるが、①払込金が引き出されるまでの期間の長短、②払込金の運用の有無、③会社の資金関係に及ぼす影響、の3点から判断する。出資されたのは金融機関からZ社が借りた3億円であり、平成29年2月1日にそれを借り入れて募集株式の払込みに充て、その翌日である2月2日に3億円を返済している。X社でこれが運用されていない。また、財務状況が悪化している中での3億円の返済はX社の資金関係に及ぼす影響が大きい。よってこれは見せ金と評価でき、出資の履行を仮装したと言える。以上より、Z社は、3億円の支払をする義務を負う。
 本来であれば、X社が提訴して、この責任を追及するのが筋である。しかしこの仮装を共同したX社がそうするとは期待できない。そこでX社の株主であるCは、X社に代わって、Z社の責任を追及する訴訟を提起することができる(847条1項)。これはX社にZ社を訴えるように請求してから60日が経過してからのことである(847条3項)。
(B)Yに対する責任追及
 (A)で述べたように本件では出資の履行を仮装したと言えるので、これに関与したYも出資の履行として3億円の支払をする義務を負う(213条の3第1項)。
 さらに、利益相反取引により任務を怠ったものとして、役員であるYの責任を追及することもできる。「株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき」は利益相反取引に当たる(356条1項3号)。Z社はYの親族が経営しているのでZ社の債務を保証するに際してはX社とYとの利益が相反する。そしてこの利益相反取引によってX社に損害が生じたと言える。きちんと返済されたのでX社に損害はなかったではないかという反論が想定されるが、それは結果論であり、保証をした時点で損害が発生している。よってYは任務を怠ったものと推定される(423条3項1号)。
 Cによる責任追及の方法は、先に述べたZ社のときと同様である。
 (2)
 (1)で述べたように、Z社の出資の履行は仮装であり、無効である。そして株式発行の無効は834条1項2号に基づいて訴えを提起し、その訴えが認容されれば株式の発行が将来に向かって効力を失う。逆に言えば、訴えが認容されるまでは有効に扱われるということである。以上より、その訴えが認容されたという事情のない本件においては、X社の定時株主総会の議決権の基準日は5月31日であるので、5月29に株式を譲り受け名義書換も受けたB社は、悪意又は重過失がなければ議決権を行使できる(209条3項)。

 

 



平成29(2017)年司法試験予備試験論文(民法)答案練習

問題

次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。

【事実】
1.Aは,年来の友人であるBから,B所有の甲建物の購入を持ち掛けられた。Aは,甲建物を気に入り,平成23年7月14日,Bとの間で,甲建物を1000万円で購入する旨の契約を締結し,同日,Bに対して代金全額を支払った。この際,法律の知識に乏しいAは,甲建物を管理するために必要であるというBの言葉を信じ,Aが甲建物の使用を開始するまでは甲建物の登記名義を引き続きBが保有することを承諾した。
2.Bは,自身が営む事業の資金繰りに窮していたため,Aに甲建物を売却した当時から,甲建物の登記名義を自分の下にとどめ,折を見て甲建物を他の者に売却して金銭を得ようと企てていた。もっとも,平成23年9月に入り,親戚から「不動産を買ったのならば登記名義を移してもらった方がよい。」という助言を受けたAが,甲建物の登記を求めてきたため,Bは,法律に疎いAが自分を信じ切っていることを利用して,何らかの方法でAを欺く必要があると考えた。そこで,Bは,実際にはAからの借金は一切存在しないにもかかわらず,AのBに対する300万円の架空の貸金債権(貸付日平成23年9月21日,弁済期平成24年9月21日)を担保するためにBがAに甲建物を譲渡する旨の譲渡担保設定契約書と,譲渡担保を登記原因とする甲建物についての所有権移転登記の登記申請書を作成した上で,平成23年9月21日,Aを呼び出し,これらの書面を提示した。Aは,これらの書面の意味を理解できなかったが,これで甲建物の登記名義の移転は万全であるというBの言葉を鵜呑みにし,書面を持ち帰って検討したりすることなく,その場でそれらの書面に署名・押印した。同日,Bは,これらの書面を用いて,甲建物について譲渡担保を登記原因とする所有権移転登記(以下「本件登記」という。)を行った。
3.平成23年12月13日,Bは,不動産業者Cとの間で,甲建物をCに500万円で売却する旨の契約を締結し,同日,Cから代金全額を受領するとともに,甲建物をCに引き渡した。この契約の締結に際して,Bは,【事実】2の譲渡担保設定契約書と甲建物の登記事項証明書をCに提示した上で,甲建物にはAのために譲渡担保が設定されているが,弁済期にCがAに対し【事実】2の貸金債権を弁済することにより,Aの譲渡担保権を消滅させることができる旨を説明し,このことを考慮して甲建物の代金が低く設定された。Cは,Aが実際には甲建物の譲渡担保権者でないことを知らなかったが,知らなかったことについて過失があった。
4.平成24年9月21日,Cは,A宅に出向き,自分がBに代わって【事実】2の貸金債権を弁済する旨を伝え,300万円及びこれに対する平成23年9月21日から平成24年9月21日までの利息に相当する金額を現金でAに支払おうとしたが,Aは,Bに金銭を貸した覚えはないとして,その受領を拒んだ。そのため,Cは,同日,債権者による受領拒否を理由として,弁済供託を行った。

〔設問1〕
 Cは,Aに対し,甲建物の所有権に基づき,本件登記の抹消登記手続を請求することができるかどうかを検討しなさい。

【事実(続き)】
5.平成25年3月1日,AとCとの間で,甲建物の所有権がCに帰属する旨の裁判上の和解が成立した。それに従って,Cを甲建物の所有者とする登記が行われた。
6.平成25年4月1日,Cは甲建物をDに賃貸した。その賃貸借契約では,契約期間は5年,賃料は近隣の賃料相場25万円よりも少し低い月額20万円とし,通常の使用により必要となる修繕については,その費用をDが負担することが合意された。その後,Dは,甲建物を趣味の油絵を描くアトリエとして使用していたが,本業の事業が忙しくなったことから甲建物をあまり使用しなくなった。そこで,Dは,Cの承諾を得て,平成26年8月1日,甲建物をEに転貸した。その転貸借契約では,契約期間は2年,賃料は従前のDE間の取引関係を考慮して,月額15万円とすることが合意されたが,甲建物の修繕に関して明文の条項は定められなかった。
7.その後,Eは甲建物を使用していたが,平成27年2月15日,甲建物に雨漏りが生じた。Eは,借主である自分が甲建物の修繕費用を負担する義務はないと考えたが,同月20日,修理業者Fに甲建物の修理を依頼し,その費用30万円を支払った。
8.平成27年3月10日,Cは,Dとの間で甲建物の賃貸借契約を同年4月30日限り解除する旨合意した。そして,Cは,同年3月15日,Eに対し,CD間の甲建物の賃貸借契約は合意解除されるので,同年4月30日までに甲建物を明け渡すか,もし明け渡さないのであれば,同年5月以降の甲建物の使用について相場賃料である月額25万円の賃料を支払うよう求めたが,Eはこれを拒絶した。
9.平成27年5月18日,Eは,Cに対し,【事実】7の甲建物の修繕費用30万円を支払うよう求めた。

〔設問2〕
 CD間の賃貸借契約が合意解除された場合にそれ以後のCE間の法律関係はどのようになるかを踏まえて,【事実】8に記したCのEに対する請求及び【事実】9に記したEのCに対する請求が認められるかどうかを検討しなさい。

 

再現答案

以下民法については条数のみを示す。

 

〔設問1〕
第1 虚偽表示
 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とされ(94条1項)、その意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない(94条2項)。これは外観を信じて取引に入った者を保護するという趣旨であるので、相手方と通じてした意思表示でなくても、相手方にこれと同視できるほどの帰責性があれば94条2項を類推適用することができる。
 本件譲渡担保設定契約とそれを原因とする登記は、虚偽の意思表示に基づいてなされている。Bは相手方であるAと通じてはいないが、Aは契約書面を検討したりすることがなかったので帰責性があり、94条を類推適用することができる。Cは善意の第三者であると言えるので、Aは本件登記の無効をCに対抗することができない。
第2 弁済による代位
 債務の弁済は、第三者もすることができる(474条1項本文)。よってCはBのAに対する本件貸金債務を弁済することができる。これがBの意思に反してはいないが、仮に反していたとしても、474条2項の反対解釈により、利害関係を有するCは弁済することができる。
 実際にはAが受領を拒んだので、Cは弁済する代わりに供託をしている(494条)。同条によると、供託の効果は「債務を免れることができる」ことであるが、これは有効な弁済をしたという意味であり、弁済に伴うその他の効果も発生する。
 弁済をするについて正当な利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位する(500条)。Cは、本件登記抹消を請求しているのであり、正当な利益を有する者である。よって上記の弁済によって債権者Bに代位する【原文ママ】。以上より、Cは、本件登記抹消を請求することができる。なお、Bは虚偽表示の当事者であって無効を対抗できないが、先に述べたようにCは第三者なので、この結論でよい。

〔設問2〕
第1 合意解除後のCE間の法律関係
 CD間の賃貸借契約が合意解除されたからといって、CE間の法律関係が自動的に発生するわけではない。契約を締結したのは、それぞれCD、DEである。Cによる承諾は、612条1項の制限を解除するためのものである。
 CE間の法律関係が発生しないとなると、Cは甲建物の所有権に基づきEに明け渡しを請求できそうに見える。しかし、このように賃貸人と転貸人の意思によって転借人が賃貸物を明け渡さなければならないとすると、転借人の地位が極めて不安定になってしまう。そこで、このような場合には、明け渡しを請求することができないとするのが判例の立場である。
 以上より、CのEに対する明け渡し請求は認められない。
第2 相場賃料である月額25万円の賃料支払
 第1で述べたように、CE間に法律関係が発生するわけではないので、Cは、Eに対して、相場賃料である月額25万円の賃料支払を請求することはできない。CとD、DとEが契約したのだから、CはDの責任を追及するしかない。借地借家法32条1項の借賃増減請求の余地もない。
第3 修繕費用30万円の支払
 賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる(608条1項)。Eは賃借人である。甲建物は賃借物である。Cが賃貸人であるかどうかは問題となり得る。この規定は、通常はいち早く修繕の必要性などに気づくであろう賃借人に安心して修繕をしてもらう趣旨である。そこでの賃貸人とは修繕の効果が帰属する賃貸物の所有者であると解釈するのが合理的である。よってCは賃貸人である。雨漏りがしていると甲建物の使用及び収益ができないので、その修繕は必要費である。よって、Cは、Eに対し、直ちにその償還を請求することができる。よって修繕費用30万円の支払が認められる。CはDとの間では修繕についてはその費用をDが負担することが合意されていた。しかしDとEとの間では甲建物の修繕に関して明文の条項は定められなかったので、そうなると民法の規定に従うことになる。

以上

 

 

修正答案

以下民法については条数のみを示す。

 

〔設問1〕
 Cは、甲土地の所有及び本件登記の存在を主張しなければならない。本件登記の存在は問題なく認められるので、甲土地の所有について検討する。
第1 平成23年12月13日時点での甲土地の所有権
 平成23年7月14日に、Bが甲土地を所有していた。同日、売買により、甲土地の所有権は、Aに移転した。177条により登記をするまではAが甲土地の所有権を対抗することができないが、同年9月21日に登記を備えたので、この時点で甲土地の所有権は確定的にAに移転した。譲渡担保を登記原因としていたのだけれども、所有権移転登記であり、その点は問題ない。
 そうなるとCは同年12月13日に甲土地の売買契約をBとの間で締結したが、無権利者との売買であり、Aと対抗関係に立つわけではなく、この時点ではCが甲土地の所有権を取得できない。
第2 平成24年9月21日時点での甲土地の所有権
 その後、Cは、平成24年9月21日に、【事実】2の貸金債権及びその利息を、債権者Aによる受領拒否を理由として、弁済供託した。これによりCが甲土地の所有権を取得するか否かを検討する。
 平成23年9月21日のAとBの間での譲渡担保契約は、Aにその契約の意思がないため、原則的には無効である。しかしながら、譲渡担保が本件登記に表出されており、それを信じて取引に入った第三者を保護することも考えなければならない。通謀して虚偽の意思表示をしたに等しい帰責性が真の権利者にある場合には、虚偽表示(94条2項)及び権限外の行為の表見代理(110条)の法意からして、その外観を信頼して取引に入った第三者が善意無過失であれば保護されるべきだというのが判例の立場である。真の権利者であるAには、Bの言葉を鵜呑みにし,書面を持ち帰って検討したりすることなく,その場でそれらの書面に署名・押印したという帰責性がある。その外観を信頼して取引に入った第三者のCには、Aが実際には甲建物の譲渡担保権者でないことを知らなかったことについて過失があった。以上より、善意無過失ではないため、Cは保護されない。つまり、Cは甲土地の所有権を取得することができない。
第3 結論
 以上より、Cは,Aに対し,甲建物の所有権に基づき,本件登記の抹消登記手続を請求することができない。

〔設問2〕
第1 合意解除後のCE間の法律関係
 CD間の賃貸借契約が合意解除されたからといって、CE間の法律関係が自動的に発生するわけではない。契約を締結したのは、それぞれCD、DEである。Cによる承諾は、612条1項の制限を解除するためのものである。
 CE間の法律関係が発生しないとなると、Cは甲建物の所有権に基づきEに明け渡しを請求できそうに見える。しかし、このように賃貸人と転貸人の意思によって転借人が賃貸物を明け渡さなければならないとすると、転借人の地位が極めて不安定になってしまう。そこで、このような場合には、明け渡しを請求することができないとするのが判例の立場である。この考え方からすると、明け渡しを拒める限度でCD,DE間の契約が残存すると考えるべきである。
 以上より、CのEに対する明け渡し請求は認められない。
第2 相場賃料である月額25万円の賃料支払
 第1で述べたように、CE間に法律関係が発生するわけではなく、明け渡しを拒める限度でCD,DE間の契約が残存するので、Cは、Eに対して、相場賃料である月額25万円の賃料支払を請求することはできない。とはいえ、実際にDが介在して、E→D→Cと賃料が支払われる必然性はない。E→Cと支払われてもよい。ただその金額がCD間とDE間の契約のうちで小さい方の限度になる。よってCは、Eに対して、月額15万円の限度で支払い請求をすることができる。
第3 修繕費用30万円の支払
 賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる(608条1項)。Eは賃借人である。甲建物は賃借物である。Cが賃貸人であるかどうかは問題となり得る。この規定は、通常はいち早く修繕の必要性などに気づくであろう賃借人に安心して修繕をしてもらう趣旨である。そこでの賃貸人とは修繕の効果が帰属する賃貸物の所有者であると解釈するのが合理的である。よってCは賃貸人である。雨漏りがしていると甲建物の使用及び収益ができないので、その修繕は必要費である。よって、Cは、Eに対し、直ちにその償還を請求することができる。よって修繕費用30万円の支払が認められる。CはDとの間では修繕についてはその費用をDが負担することが合意されていた。しかしDとEとの間では甲建物の修繕に関して明文の条項は定められなかったので、そうなると民法の規定に従うことになる。

以上

 

 

 




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