私はこれまでにいろいろな労働問題解決方法を試みてきました。その実体験と周りで見聞きしたこと、それに法律等の知識を加えて、労働問題の解決方法を比較します。もし実際にどこかへ労働問題を相談しようと考えているならこの記事を読んでからでも遅くはありませんので、適した相談機関を探るためにも労働問題の解決方法の概略を知ってください。
(以下の内容を表にしたものです。画像をクリックすると大きく表示されます。)
1.同僚や上司に相談する
まずは同僚や上司に相談することをおすすめします。問題がどこにあるのかを見極めるためには、その職場のことをよく知っている他の人の意見を聞くのがよいです。以下で述べる様々な解決方法を利用するにせよ、職場内に味方がいることは大きな力になります。うまくいけば、同僚や上司が調整することで問題が解決することもあります。あるいは愚痴を聞いてもらうだけで気持ちが収まればそれはそれで解決です。さらに言うと、仮に職場を去ることになったとしても、新しい仕事を紹介してもらえることさえあるかもしれません。また、特に大企業では、職場内に相談窓口が存在することもあります。職場内ということで限界はあるにせよ、異動や注意で解決できそうな事柄であれば試してみるのも手でしょう。その際には相談する相手を吟味するのが重要であることは言うまでもありません。
2.親会社や業界団体に相談する
同じ職場内での解決が難しそうで、親会社や業界団体に相談できそうな状況であれば、それを試してみるのもよいでしょう。例えば、親会社の言いなりで動いている店長の下で働いているとしたら、その店長に文句を言っても仕方がありません。そうした店長がいざというときにどう動くのか見極めるためにも、親会社に直接アプローチしてみることが時には有効です。別の例を出すと、違法な業務をされられているのが苦痛だが、社内ではそれが当たり前になっているという時には、業界団体に相談することもできるでしょう。ただし業界や実際のケースによって状況が大きく異なるでしょうから、事前に下調べをすることをおすすめします。
3.あっせん(労働局、労働委員会、労政事務所、社労士会など)
感情的に対立していて当事者同士では解決できない場合にはあっせんと呼ばれる方法が使えます。あっせんとは第三者が当事者の間を取り持つことです。あっせんをしているのは労働局、労働委員会、労政事務所、社労士会など公的色合いの濃い団体です。労働局は労基署との住み分けのために労基法違反を取り扱わないが助言や指導もできる、労働委員会には使用者側と労働者側の委員がいる、労政事務所は総合的に相談を受け付けている、社労士会は専門職として解決を提案するといった細かな違いはありますが、およそ同じものであると考えてよいでしょう。場所や担当者の感触などでどのあっせんを用いるかを決めればよいと思います。無料のものがほとんどで、費用がかかるとしても数千円程度です。あっせんは当事者間の話し合いを取り持つだけなので強制力がありません。相手があっせんを拒否すればその時点で終了です。
4.労働組合
労働問題に主体的かつ柔軟に取り組む労働組合がおすすめです。 職場に労働組合が存在すればまずそちらを検討すべきでしょう。過去に似たような問題があったかもしれませんし、その職場独自の状況を踏まえて助言してくれるかもしれません。職場に労働組合が存在しない、あるいは存在しても親身に相談に乗ってくれなかい場合(男性正社員中心の労働組合では非正規やセクハラの問題がうまく扱えないといったことがあり得ます)は、ユニオンと呼ばれる一人でも加入できる地域の労働組合に当たってみるのがよいです。その業界内で活動している労働組合を知っていたら、そちらのほうでもよいでしょう。
労働組合で労働問題を解決しようとするなら大抵は団体交渉をすることになります。団体交渉は日本国憲法でも規定されているので学校で習ったことを覚えている人もいるでしょう。この団体交渉の何がすごいのかというと、団体交渉の申し入れを受けた使用者はよほどの理由がない限りそれを拒否できないということです。つまり、どれだけ末端の労働者であっても、責任者と直接話し合うことができるということです。「社長に直接文句を言いたい」といった願望なら満たせることも多いです。
正当な理由がないのに団体交渉を拒否する、団体交渉に形式的に応じても実質的な話し合いには応じないといったことになれば、労働委員会に救済を申し立てたり、団体行動をしたりすることで対抗します。団体行動も日本国憲法に規定されている権利です。具体的には職場周辺やインターネット上での抗議活動やストライキです。個人で抗議活動やストライキをしたら損害賠償や刑罰を受ける可能性がありますが、労働組合の正当な行為として行えば刑事上も民事上も免責になります。
このように、団体交渉で発言したり団体行動を行ったりするという主体性と粘り強さが必要とされます。そうしたことを一人で全てしなければならないわけではなく、担当者や他の組合員が応援してくれることでしょう。そして自分の問題が解決したら、今度は応援する側に回るのが理想的だと言えます。そうは言っても強制的に何かをさせられることはないでしょうし、脱退も自由なはずです。どこまで義理を果たすかのは難しいですが、労働組合に関わり続けることで知識や経験、仲間が増えるという側面もあります。
5.労働基準監督署
労働問題と聞くと労働基準監督署(労基署)をまず思い浮かべる人が多いと思います。しかし労基署には大きな弱点があります。それは労働基準法(とそれに類する法律)違反しか取り扱えないということです。賃金・残業代・解雇予告手当の未払いや最低賃金違反などは労基署で取り扱ってもらえますが、セクハラ・パワハラ・解雇のトラブルは労基署では難しいでしょう。加えて対象となる労働問題であっても、迅速かつ丁寧に動いてくれることはあまりありません。労基署は権限上は逮捕もできるような公的機関であり、人員も限られているので、相談にやって来た個人を守るというよりも、社会全体の労基法違反を取り締まる役割を果たしていると考えたほうが実態に即しています。
6.労働審判
強制力を働かせたくて裁判を考えているなら、その前に労働審判をやってみる価値があります。労働審判とは労働関係のトラブルを裁判のような手続で解決する制度です。2006年に始まってから利用件数は着実に増えています。公開の法廷ではなく会議室のような場所でするとはいえ、裁判所内で裁判官の指揮下で行われます。ですので、それなりに法律の勉強をするか、弁護士等を代理人として立てるかすることになります。最大で3回の期日しかありませんので、およそ3ヶ月という短期間で決着します。労働審判に不服なら通常の裁判に移行することとなりますが、労働審判では柔軟な和解が強く提案され、実際にかなりの割合が労働審判で解決しています。
7.裁判
最後は裁判です。ほとんどの場合は弁護士に依頼することになるのでそれなりの費用がかかりますし、数ヶ月から数年単位の時間がかかることも覚悟しなければなりません。それでも裁判に訴えると相手はそれを無視することはできませんし、勝てば強制執行をかけることのできる債務名義も得られます(実際に執行をかけて債権を回収する際に苦労することもありますが)。裁判をするためには自分の主張を法的な土俵にのせなければなりませんし、裁判を有利に進めるためには判例なども参考にしながらうまく立ち振る舞うことも求められます。
8.その他関連事項
労働問題一般の解決方法として私が思いつくのは以上の7つです。労働問題の内容によっては他に有効な方法が存在することもあります。例えば労災なら全国各地の労働安全センターのような団体に事例が集積されているでしょうし、セクハラなら雇用均等室が相談窓口になっています。労働審判や裁判を考えているけれども弁護士費用を出せずに悩んでいるなら法テラスで分割払いにしてもらうこともできます。解雇をされてそれを争うにしても当座の生活に困り、役所に生活保護申請の相談をしても追い返されたとしたら、生活保護支援法律家ネットワークを頼ることもできましょう。職場の不正をメディアに訴えかけていきたいのならNPO法人に相談して取り上げてもらうということもできるかもしれません。
9.各解決方法の組み合わせ
応用編として、この記事で紹介した各解決方法の組み合わせをいくつか提示します。
(1) 同僚や上司への相談+あっせん
あまり事を荒げずにあくまでも自主的な話し合いによる解決を求めるならこの組み合わせです。まずは職場内での解決を模索し、それで行き詰ると労働局などの第三者にあっせんを依頼するという道です。ここで紹介した解決方法の中では比較的穏やかな手段であるといっても、あっせんの通知が来ると動揺してさらに問題を悪化させる使用者もかなりいると想像されるので、それなりの覚悟と立ち回りが求められます。
(2) 労働組合+裁判
(1)とは逆に徹底的にやり合うならこの組み合わせでしょう。労働組合でできる限りのことをしてあとは必要に応じて裁判を併用するという形から、裁判をメインに進めるつもりでそのための材料を出すために団体交渉をするという形もあり得ます。いずれにしても労働組合の人とよく相談して方針を共有する必要があります。
(3) 労働組合+労基署+労働審判
それぞれの解決方法の特性を最大限に活用するならこの組み合わせです。労働問題はいろいろな問題が複合していることのほうが多いです。労基法違反の部分は労基署で、法的に勝てそうな部分は労働審判で、残りの部分は労働組合で取り扱うということです。
10.実際に動き出す前に
実際に動く際のポイントをこの記事の最後に書きます。初めにどこが問題なのかをはっきりとさせてください。「店長がむかつく」とか「不当な解雇だ」というだけでは問題が明確になっていません。「店長が対価型のセクハラを約1年にわたって続けている」とか「整理解雇の四要件のうち手続の相当性が満たされていない解雇だ」となればかなり明確になっています。次にその問題を解決するためにどれくらいリスクを負えるかを冷静に判定してください。問題解決に動き出したものの途中で放り投げてしまうとよくないです。そしてそれらを踏まえてどのあたりの解決方法を試みるかを大まかに決めて、それに応じたところへ相談しに行ってください。労働局、労基署、労働組合なら直接相談しに行けばいいですし、労働審判や裁判なら弁護士に勝ち目や依頼の条件も含めた相談です。正しい方法で取り組めば、およそどのような問題でも一定の解決に落ち着くはずです。
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