伊丹敬之、加護野忠男『ゼミナール 経営学入門』(日本経済新聞社、第3版、2003)演習問題解答例

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第4章 多角化と事業ポートフォリオ

1.
 ビール会社が工場跡地を使って不動産事業へ多角化する場合には、範囲の経済の源泉は遊休資産の活用にある。よってその効果のタイプは相補効果であり、遊休資産の使用には限りがあるのでさらなる多角化への発展性は低い。
 ビール生産に必要な酵母の技術を使って医薬品・バイオ事業へ多角化する場合には、範囲の経済の源泉は技術という資産の活用にある。技術という資産は同時にいくらでも活用できるのでその効果のタイプは相乗効果であり、多角化をすることでさらに技術という資産が蓄えられて、さらなる多角化へと発展する可能性もある。

2.
 既存事業との距離が短い分野への多角化することは、短期的には既存の事業で獲得した資産の転用可能性の高さから多角化に成功しやすいというメリットがあるが、両方の事業が共に衰退した場合にはリスクの分散にならないというデメリットがある。長期的には相補効果・相乗効果により両方の事業で高いシェアを占めることができるかもしれないというメリットがあるが、新しい事業に進出しているのだという心理的効果は比較的小さいというデメリットがある。

3.
 企業のドメインは、完全に事後的に設定されるのでも事前に設定されるのでもなく、中間的に設定されるのがよい。完全に事後的に設定すると、既存の事業に合わせて空疎なドメインを設定しがちであり、そうなることを避けられたとしてもドメインに合わせて今ある事業を整理・縮小することには多大な困難が伴う。他方で完全に事前に設定をするとドメインに合わせて無理な多角化をする、あるいは有効な多角化のチャンスを逃す可能性が高くなり、多角化の現実的可能性が低くなる。状況に合わせて現実的に柔軟に多角化しつつ、その過程でドメインを調整し、適度なドメインが形成されるようにするのが理想的である。


作成:浅野直樹
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