伊丹敬之、加護野忠男『ゼミナール 経営学入門』(日本経済新聞社、第3版、2003)演習問題解答例

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第16章 矛盾、学習、心理的エネルギーのダイナミックス

1.
 一人の人間の成長のプロセスでは、その発達段階に応じて、さまざまな矛盾や不均衡があらわれる。例えば、思春期には身体的な力は成人とほぼ等しくなるのに親や教師などから抑えつけられがちであるといった矛盾があらわれたり、老年期には身体能力や記憶能力の低下からこれまでにしてきた仕事ができなくなるといった不均衡があらわれたりする。これは個人の能力と環境とのずれから生まれるのであるが、そのずれを解消するように環境を調整したり自分の中で折り合いをつけたりして人は成長する。企業成長についても、例えば急速に成長したIT企業は資金や人材が豊富であっても社会的な信用のせいでプロ野球球団のオーナーになりにくい(逆に成熟企業は資金や人材が不足していても社会的な信用からプロ野球球団のオーナーにとどまるべきだとされがちである)といったように、企業の能力と社会的環境とのずれから矛盾や不均衡が生じる。ただし、個人の成長には生物学的要素が大きく関与しているのに対し、企業の成長ではそうではないという違いがある。

2.
 学習をするのはあくまでも個人であるので、組織の学習といっても基本的には個人の学習を合わせたものであるという点で、両者は同じものであると言ってよいほど似ている。組織学習は個人の学習の集積であると定義される。他方で、企業によって特徴的な学習がなされるなど、個人の学習を超えた組織の学習と呼ぶべきものも存在するように思われる。学習を行うのは個人であるとしても、その個人が利用可能な情報資源や、その個人に学習を促す感情的要素は、組織ごとに大きく異なるからである。この点で、個人の学習と組織の学習は違うとも言える。

3.
 戦争直後は復興しなければならないというネガティブエネルギーが大きく働いたと考えられる。そしてそのエネルギーで多くの企業が発展し、成功する過程でポジティブエネルギーが発生するようになり、70年代までの高度経済成長、それから世界第二位のGDPとなるほどまでの90年代までのさらなる経済成長へと至った。バブル崩壊以降の90年代から00年代にかけては「失われた十年」と揶揄されているが、それでも一時的な落ち込みであって日本は豊かな国であるという慢心から、日本企業にはネガティブエネルギーが大きく生まれなかったのだと考えることができる。

 

作成:浅野直樹
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