伊丹敬之、加護野忠男『ゼミナール 経営学入門』(日本経済新聞社、第3版、2003)演習問題解答例

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第21章 コーポレートガバナンス

1.
 日本で90年代になると株主の発言力を高めるべきだという意見が大きくなってきた理由として、まず世界的なグローバル資本主義への流れが挙げられる。ソ連の解体に象徴される社会主義体制の崩壊とその裏返しである資本主義への移行、インターネットに典型的に表れているグローバル化が相まって、日本もグローバル資本主義の一員となるべきであり、そのためには株主の発言力が高くならないと外国人が安心して株式投資できないという理由である。日本の株価は90年代初頭のバブル崩壊からは大幅に下落していたので、株価を上げるためという理由も考えられる。
 株主の発言力が高まったせいで短期的な利益に追われて過度なリストラや非正規雇用化を推し進めて、その結果長期的な競争力を失った企業が多いと考えられるので、私はこの意見に反対である。

2.
 問題文にもあるように、三井組の前身は江戸時代の商家三井家であり、伝統的に番頭たちによって経営が担われてきた。新しく株式会社を作るといっても、当然ながらこれまでの経緯を無視できず、勢い番頭の力が大きくなった。それに加えて、明治維新の前後に、幕府の御用金を大幅に減額させ、三井銀行の設立に尽力した、番頭の三野村利左衛門の存在も大きい。
 戦後の財閥解体の後の旧財閥系企業の経営が株式持ち合いのサラリーマン経営になったことは、過去との断絶が強調されているという点で、異なっている。所有と経営がはっきりと分離されないという点では似ている。

3.
 従業員の権利をきちんと認めるトップマネジメントへのチェックメカニズムとして、労働組合が経営陣にプレッシャーをかけるという形がありうる。匿名で公益通報をできるという制度も、部分的にではあるがこの目的に役立つ。インターネット上の掲示板などへ書き込みを行うことも、取引先や顧客への影響があるので、それなりの効力を有している。
 確かに現行の会社法はもっぱら株主とその代理人としての取締役についての規定であるが、従業員の権利を制限しているわけではないので、従業員の権利を認めても株式会社制度の根幹と抵触せざるを得ないということはない。逆に、労働組合や公益通報、言論の自由は法律や憲法で保障されている。


作成:浅野直樹
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