第15章 人の配置、育成、選抜
1.
「同じ釜の飯を食う」とは文字通りに受け取ると同じ釜に入っているごはんを分け合うということであり、拡張して受け取ると食事を共にするような物理的・心理的に近接した関係であるということである。それは日常的に接することで感情的なつながりを強め、インフォーマル・グループの形成を促進するような働きを仲間の人間に対して果たしている。
2.
終身雇用あるいは長期雇用の雇用慣行は、人の育成という観点からみると、長期的な育成ができるという長所を持っている反面、効率性に劣りがちであるという短所を持っている。上記の雇用慣行下では、目先のことにとらわれずに、大きな視野に立つことができる。学ぶのに不器用で時間がかかるが着実に進歩するような従業員を長期的に育成することも可能であるし、時間をかけてローテーションをすることでその企業のことを深く知ることのできるような育成も可能である。他方で即戦力となる人物を中途採用してピンポイントの育成をする、仕事に必要な能力を限定して短期的な成果も求めつつ育成するといったことが難しくなる。
3.
日本では、長期雇用を前提として総合職や一般職という枠で主に新卒一括採用をするという慣行により、配置起点の遅いスピードの人事になっていると考えられる。採用の時点では一般的な能力や社風に合うかといった観点が重視され、採用後にともかくどこかに配置をして、長くその会社にいてもらうのだから早期に昇進に差をつけてやる気をなくすといった事態を避けようとするということである。
アメリカでは、雇用の流動性が高くスキルベースで人材を見ることが主流であるために選抜起点の速いスピードの人事になっていると考えられる。職務を遂行するのに必要な能力を基準に選抜をしてから採用をして、その職務での実績に応じて比較的早く人事を行い評価をフィードバックすることになる。
この違いは、この違いが生まれる理由となった事態をさらに強化するという循環につながる。従業員は、配置起点の遅いスピードの人事であれば少なくとも出世に差がつくまではその企業にとどまろうと考えるであろうし、選抜起点の速いスピードの人事であれば人事に不満があれば転職を考えることになるだろう。