伊丹敬之、加護野忠男『ゼミナール 経営学入門』(日本経済新聞社、第3版、2003)演習問題解答例

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第18章 企業成長のパラドックス

1.
 明治維新をなしとげた薩摩、長州、土佐各藩の下級武士団は、主流である徳川将軍から距離の離れた傍流であった。その中でも特に次男以下は相続ができないので失うものがほとんど何もなかったので、自らが繁栄するために捨て身で行動しやすい状況にあった。また、イギリスと接触するなどして、変革の時期というチャンスを利用しうる状況にあったとも言える。

2.
 「イノベーションには偶然が必要である」というのは、イノベーションはこれまで成し得なかったような革新なので、通常考えられる方法から外れることが求められ、偶然がそれをもたらすという意味である。実際、過去を振り返ってみても偶然がイノベーションをもたらしたように見えることが多い。「イノベーションは偶然だけではだめで、必然のプロセスが必要である」というのは、偶然はそこら中に存在しているのだから、その偶然からイノベーションへとつなげるという必然性が求められるということである。田中耕一さんの例でも、コバルトの微粉末に誤ってグリセリンをたらし,これをマトリックスとして使ったという偶然が必要だったのであり、またその偶然を成果につなげるという必然のプロセスが必要だったのである。その実験結果を田中さんが大切なものとしてつかめたのは、「化学の専門知識にとらわれずにやったのが良かったのかもしれない」と本人が語っているように、狭い専門にとらわれず広く本質的な思考をしていたからだと思われる。

3.
 企業は組織体であるので、一度何らかの成功を収めると、ちょっとやそっとのことではその方向性を変えようとはしないのが通例である。しかしその間にも他社が参入するなどして市場環境は変化し、収益が低下する。もうこれ以上は耐えられないほどに矛盾が蓄積すると、一度はある方針で成功した企業もその方針を変えようとする。それは戦略の変更かもしれないし、技術的なイノベーションかもしれない。ともあれその変革に成功すると、その企業は再び成長する。このように、企業は成功→停滞→矛盾の蓄積→変革→成功→…というプロセスをたどりがちなので、急激な成長期とゆるやかな成長期が交互にあらわれるという現象が起こりやすい。


作成:浅野直樹
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