20世紀末は、オーウェルの悪夢のような日々だった。ソフトウェアの科学的な研究の発表を妨害する法律、ソフトウェアの共有を妨害する法律、開発を阻害するソフトウェア特許の氾濫、ユーザーから所持、秘密保護、共有、ソフトウェアの動作原理の理解などのあらゆる自由を奪うエンドユーザーライセンス契約。リチャード・M・ストールマンによるこの評論、講演集は、これらの問題の多くを取り上げる。何よりもまず、ストールマンは、フリーソフトウェア運動の哲学を論じる。この運動は、ソフトウェアの自由の理想を普及させるために、連邦法による抑圧や、悪意に満ちたエンドユーザーライセンス契約と戦う。
フリーソフトウェアは、GNU ソフトウェアと GNU/Linux オペレーティングシステムの開発に携わる数十万人のプログラマの力で Internet をコントロールするサーバという地点を死守してきた。そして、デスクトップコンピュータ市場への浸透が進むとともに、Microsoft を始めとする私有ソフトウェア企業にとっては脅威になりつつある。
本書の評論は、広い範囲の読者を対象として書かれている。本作で展開されている哲学や思想を理解するために、コンピュータ科学の基礎知識は不要である。ただし、専門家ではない読者のために、「ソフトウェアについてのコメント」では、コンピュータ科学でよく使われる専門用語や概念を解説した。また、適宜脚注が加えられている。
評論の多くは、最初に発表された形態から書き換えられ、訂正されている。1つ1つの評論には、本文に一切の変更を加えない複製の再頒布を許可する文が付加されている。
これらの評論は、18年を越える長期にわたってそれぞれ独立に書かれたものなので、並べられている順番には特別な意味はなく、このように読まなければならないという順番もない。第1部「GNUプロジェクトとフリーソフトウェア」は、フリーソフトウェアとGNUプロジェクトの歴史、哲学に親しんでいただくことを意図してまとめてある。また、この部分は、プログラマ、教育者、ビジネスピープルが、それぞれの集団、業務、生活にブラグマティックにフリーソフトウェアを組み込むためのロードマップになるはずである。第2部「コピーライト、コピーレフト、特許」は、著作権、特許制度の哲学的、政治的基礎と、過去数百年の間にそれらがどのように変化してきたかを論じる。また、特許と著作権に関連する現行法と各種規制が、ソフトウェア、音楽、映画などの媒体の消費者やエンドユーザーの利益を最大限に守るものにはなっていないことも指摘する。むしろ、これらの法律は、企業や政府が個人の自由を破壊することを助けるように作られていることを論じる。第3部「自由、社会、ソフトウェア」は、引き続き自由と権利の議論を展開し、私有ソフトウェア、著作権法、グローバリズム、「トラステッド(信託) コンピューティング」などの社会的に有害な規則、規制、政策が、自由と権利をいかに阻害しているかを論じる。産業界や政府は、特定の権利や自由を諦めるように人々を誘導するための手段の一つとして、情報、アイディア、ソフトウェアの共有が悪であるかのようなニュアンスを持つ用語を使っている。そこで、この部分には、混乱を起こしやすく、避けたほうがよい単語を説明する評論を加えた。第4部の「ライセンス」には、GNU プロジェクトの基礎である GNU 一般公開使用許諾書、GNU準一般公開使用許諾書*1、GNU自由公開文書使用許諾書を収録した。
自分用、授業用、あるいは頒布用に本書を購入したい場合には、sales@fsf.org または http://order.fsf.org/のフリーソフトウェア財団 (FSF) に申し込んでいただきたい。また、ソフトウェアの自由のためにさらに助力したいと考えておられる場合には、http://donate.fsf.org/か donations@fsf.org (趣旨を詳しく書きたい場合)を通じてFSF に寄付を提供することをご検討いただきたい。FSFには、+1-617-542-5942という電話番号でも連絡を取ることができる。
GNU プロジェクトへの貢献に感謝を捧げるべき人々は、おそらく数千人を超えるだろう。しかし、1枚のリストにそれらの人々の名前をすべてまとめることは不可能である。そのため、私の謝意は、それら無名のすべてのハッカーたち、フリーソフトウェアの開発、推進、世界中への普及を助けたすべての人々に及ぶものと考えていただきたい。
本書が世に出たことについて、以下の方々に感謝の意を捧げたい。
ジュリー・サスマン、P.P.A.は、発展過程のさまざまな段階で複数のバージョンを編集し、「本書について」を執筆し、句読点の付け方から章の順番に至るまで、さまざまなアイディアを提供してくれた。
リサ(オーパス)ゴールドスタインとブラッドリー・M・クーンは、構成、校正など、本書を実現するために必要なこと全般を助けてくれた。
クレア・H・アビタビル、リチャード・バックマン、トム・シュネル、そして(特に)ステファン・コンパルは、本書全体を綿密に校正してくれた。
カール・ベリー、ボブ・チャッセル、マイケル・マウントニー、M・ラマクリシュナンは、本書をTEXinfo (http://www.texinfo.org/)で整形、編集する上で、それぞれの熟練した技術を提供してくれた。
マッツ・ベンソンは、Lilypond(http://www.gnu.org/software/lilypond/)でフリーソフトウェアの歌を整形するのを助けてくれた。
エチエンヌ・スヴァサは、以前からアートの分野でFSFに力を貸してくれているが、本書でも、各部冒頭の挿画を描いてくれた。
メラニー・フラナガンとジェイソン・ポランは、一般の読者について貴重なヒントを提供してくれた。また、自動車の変速機について詳しく教えてくれた Paul'sTransmission Repair のボブ・トッキオには、特に感謝している。
さらに、人はよって立つ理想のために生きるべきだということを教えるとともに、2人の兄弟、3人の姉妹を生むことによって共有の重要性を初めて学ぶ機会を与えてくれた父母、ウェインおよびジョアン・ゲイに謝意を捧げたい。
最後になってしまったが、GNUの哲学、すばらしいソフトウェア、優れた論文を世界中で共有できるようにしてくれたもっとも重要な人、すなわちリチャード・M・ストールマンその人に感謝の意を捧げたい。
ジョシュア・ゲイ
josh@gnu.org
本文に一切の変更を加えず、この著作権表示を残す限り、この文章全体のいかなる媒体における複製および頒布も許可する。