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第13章 科学は著作権を離れなければならない

 科学文献が科学的知識の普及のために存在し、科学雑誌がその作業を促進するために存在することは、言うまでもないことである。そのため、科学文献の使用規則は、この目標の達成を助けるようなものでなければならない。

 現在存在する著作権と呼ばれる法制は、コピーの一元的な大量製造方法という本質を持つ印刷機の時代に確立されたものである。印刷機の時代には、雑誌記事の著作権は、雑誌出版社のみに制限を加えるものだった。出版社は、論文を出版する許可を得なければならない。許可を得ずに出版すれば、剽窃者になってしまう。この制度は、論文の書き手であり、読み手でもある科学者や学生の有用な仕事の障害になることなく、雑誌の運営と知識の普及を助けるものだった。規則と体制がうまくフィットしていたのである。

 しかし、現代の科学出版テクノロジーはWebである。Web上で科学論文や知識を最大限に普及させられるようにするには、どのような規則が良いのだろうか?

 論文は、非私有フォーマットで、誰からもアクセスできる形で頒布されるようにすべきである。そして、すべての人が論文の「ミラーリング」、すなわち適切な帰属情報を付加した上で、本文に一切の変更を加えずに再出版する権利を持たなければならない。

 これらの規則は、過去の論文だけではなく、最初から電子形式で流通する将来の論文にも適用すべきである。しかし、紙の形式の雑誌に適用される現行の著作権制度に特に変更を加える必要はない。その分野には問題はないからである。

 残念ながら、誰もが本稿の冒頭で述べた当然のことを当然のこととは考えないものらしい。多くの雑誌出版社は、科学文献の目的は、科学者や学生からの購読予約を集めて科学雑誌を出版できるようにすることにあると思っているようである。そのような考え方は、「手段と目的の転倒」と呼ぶべきものである。

 出版社の手法は、雑誌を購入でき、料金を支払う人間以外に対しては、科学文献を読むことさえ制限するというものである。出版社は、コンピュータネットワークに対しては不適切な面を持ちながらまだ法的な効力を失っていない現行の著作権法を言い訳として、科学者が新しい法制を選ぶのを押し留めようとしている。

 科学者の協力と人類の未来のために、私たちはそのような手法を根本から拒否しなければならない。つまり、単に今までに制定されてきた悪法に反対するだけではなく、その根拠となった優先順位の誤りも正していかなければならないということである。

 雑誌出版社は、オンラインアクセスには強力なサーバマシンが必要であり、サーバの運営のためにはアクセス料を徴収しなければならないと主張することがある。この「問題」は、出版社の「解決方法」が必然的に招いた結果である。需要に応じてすべての人にミラーリングの自由を与え、世界中の図書館にミラーサイトのセットアップを認めればよい。このような中央主権的ではない解決方法は、ネットワークの帯域幅にかかる負担を削減し、高速アクセスを提供する上に、学術記録が事故によって失われることも防いでくれる。

 出版社は、編集者に給与を支払うためにアクセス料が必要だと主張することもある。編集者に給与を与えなければならないという前提条件には同意しよう。しかし、本末転倒である。一般的な論文の編集コストは、論文を書くための研究プロジェクトの資金の1%から3%までの間である。そのようなごくわずかのコストを、研究成果の自由な利用を妨げる理由とするのはほとんど無理というものだろう。

 編集コストは、たとえば、著者が負担するページ料として取り戻せばよいだろう。著者は、ページ料をそのまま資金提供者に転嫁する。資金提供者は、現在でも大学図書館の雑誌購読料という間接費を介するというより煩雑な方法で出版社にお金を払っているのだから、これを新しい出費だと考えてはならない。研究資金提供者に編集コストを負担させるように経済モデルを変更すれば、アクセス制限の明白な理由はなくなる。組織や企業に所属しておらず、資金提供者を持たない著者のページ料は免除し、その分は組織に属する著者が負担すればよい。

 オンライン出版のアクセス料の言い訳としては、紙版の雑誌のバックナンバーをオンライン形式に変換するために資金が必要だというものもある。この仕事はぜひとも行わなければならないものだが、作業成果へのアクセスを妨げない別の資金調達方法を追求すべきである。作業自体は、通常の作業以上に難しいものではなく、それ以上にコストがかかるものではない。バックナンバーをデジタル化しながら、アクセスを制限して成果を無駄にするなら、本末転倒である。

 合衆国憲法は、著作権は「科学の進歩を促進するため」に存在すると述べている。著作権が科学の進歩を妨げるなら、科学は著作権を離れなければならない。

初出: http://www.nature.com の Web Debates セクション、1991年。このバージョンは、"Free Software, Free Society: Selected Essays of Richard M. Stallman", 2002, GNU Press (http://www.gnupress.org/); ISBN 1-882114-98-1の一部である。

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