消費税及び地方消費税の申告書(簡易課税用)の書き方設例解説

私は、塾講師を長くやりつつ、一昨年から、とある法人の経理事務員としても勤務しています。

 

3月決算の法人だと、この時期は消費税計算が待っています。

 

簡易課税ではありながらも、8%と10%の消費税が混在している今年度の計算は難しかったです。

 

昨年に8%だけの計算を前任者に教えてもらいながら経験していてよかったです。

 

国税庁が公表している201910_02.pdf(消費税及び地方消費税の申告書(簡易課税用)の書き方)を熟読するということに尽きるのですが、そこで挙げられている設例を、苦しんだ末に理解できたので、つまづきやすい点などをここに共有します。

 

0.基本的な考え方と作業の全体像

売上からそこにかかる消費税を算出し、仕入にかかる消費税を控除して、納付すべき消費税額を確定させるというのが大まかな作業の流れです。

 

簡易課税の場合は、仕入にかかる消費税額を、レシートなどから逐一計算するのではなく、事業の種類によって一律に定められているみなし仕入率から計算します。

 

201910_02.pdf(消費税及び地方消費税の申告書(簡易課税用)の書き方)p.6の設例のように、事業年度が8%の時期と10%の時期の両方にまたがっている場合は、以下のような順番で進めることになります。

 

付表4−2前半

 

付表4−1前半

 

付表5−2

 

付表5−1

 

付表4−2後半

 

付表4−1後半

 

第二表

 

第一表

 

最終目標は第一表ではありますが、急がばまわれで、この順番で作業することを強くおすすめします。

 

1.付表4−2前半(旧税率の売上にかかる消費税額の計算)

カッコつきの数字はすべて201910_02.pdf(消費税及び地方消費税の申告書(簡易課税用)の書き方)に対応していますので、それを手元に置きながらこの記事を読んでください。

 

「*」をつけた部分は私の一言コメントです。

 

(1) 旧税率(6.3%)の課税売上高÷1.08=課税資産の譲渡等の対価の額①-1

* 「×100/108」よりも「÷1.08」のほうが、考えやすく、電卓の操作も楽です。

(2) (1)の百の位を切り捨て=課税標準額①

(3) (2)×6.3%=消費税額②

(4) 貸倒回収に係る消費税額③

* この設例では貸倒回収がありません

(5) 課税売上の対価の返還等÷1.08×6.3%=返還等対価に係る税額⑤

* 消費税額本体を計算する際には百の位を切り捨ててから6.3%をかけましたが、ここでは切り捨てずに一気に6.3%をかけます。

 

2.付表4−1前半(新税率の売上にかかる消費税額の計算)

* 基本的に先ほどの付表4−2前半の計算と同じです。かけたり割ったりする数字が違う点にだけ注意してください。

(1) 6.24%適用分の課税売上高÷1.08=課税資産の譲渡等の対価の額①-1

   7.8%適用分の課税売上高÷1.1=課税資産の譲渡等の対価の額①-1

(2) (1)の百の位をそれぞれ切り捨て=課税標準額①

(3) (2)×6.24%=消費税額②

   (2)×7.8%=消費税額②

(4) 貸倒回収に係る消費税額③

(5) 課税売上の対価の返還等÷1.08×6.24%=返還等対価に係る税額⑤

   課税売上の対価の返還等÷1.1×7.8%=返還等対価に係る税額⑤

* ここでいちいち合計を計算すると面倒なので、各付表の合計金額は、最後に付表だけを見てまとめて計算することをおすすめします。

 

3.付表5−2(旧税率の仕入にかかる消費税額の計算)

■1 控除対象仕入税額の計算の基礎となる消費税額を付表4−2から転記して計算

■2 1種類の事業の専業者の場合の控除対象仕入税額

* 設例はここに該当せず。私が勤務している法人はここに該当したのでまだ楽でした。

■3 (1) 旧税率(6.3%)の課税売上高÷1.08−課税売上の対価の返還等÷1.08=事業区分別の課税売上高(税抜き)

  これを合計額と事業区分別とで繰り返し

* 数学的に考えて、(旧税率(6.3%)の課税売上高−課税売上の対価の返還等)÷1.08とすると、端数が合わなくなることがあるので注意。設例の注2を参照。

(2) 旧税率(6.3%)の課税売上高÷1.08×6.3%−課税売上の対価の返還等÷1.08×6.3%=事業区分別の課税売上高にかかる消費税額

  これを合計額と事業区分別とで繰り返し

* 201910_02.pdf(消費税及び地方消費税の申告書(簡易課税用)の書き方)ではここで付表5−1に移りますが、このまま付表5−2の2ページ目を完成させたほうがわかりやすいです。

iii

■1 (2)で求めた事業区分別の消費税額×その事業区分のみなし仕入率をそれぞれ足したもの×(控除対象仕入税額の計算の基礎となる消費税額/(2)で求めた事業区分別の合計額の消費税額)

* (2)で求めた事業区分別の消費税額×その事業区分のみなし仕入率をそれぞれ足したものだけでよさそうに思えるのですが、控除対象仕入税額の計算の基礎となる消費税額と(2)で求めた事業区分別の合計額の消費税額が異なるので、控除対象仕入税額の計算の基礎となる消費税額/(2)で求めた事業区分別の合計額の消費税額を最後にかけて調整すると考えるとまだ理解しやすいかもしれません。

■2 控除対象仕入税額の計算の基礎となる消費税額×(2)で求めた事業区分別の消費税額のうち75%以上を占めるもののみなし仕入率

■3 ((2)で求めた事業区分別の消費税額のうち合計して75%以上を占める二つのもののうちみなし仕入率が高い方のもの×その事業区分のみなし仕入率+((2)で求めた事業区分別の合計額の消費税額−(2)で求めた事業区分別の消費税額のうち合計して75%以上を占める二つのもののうちみなし仕入率が高い方のもの)×もう一つの事業区分のみなし仕入率)×(控除対象仕入税額の計算の基礎となる消費税額/(2)で求めた事業区分別の合計額の消費税額)

* これを言葉で説明するのはややこしすぎるので201910_02.pdf(消費税及び地方消費税の申告書(簡易課税用)の書き方)の数値例を見てください。

v

■1から■3のいずれかから選択した金額を記載

* 最も大きい金額を選択するのが有利です。

 

4.付表5−1(新税率の仕入にかかる消費税額の計算)

■1 控除対象仕入税額の計算の基礎となる消費税額を付表4−1から転記して計算

■2 1種類の事業の専業者の場合の控除対象仕入税額

■3 (1) 新税率(6.24%)の課税売上高÷1.08−課税売上の対価の返還等÷1.08=事業区分別の課税売上高(税抜き)

     新税率(7.8%)の課税売上高÷1.1−課税売上の対価の返還等÷1.1=事業区分別の課税売上高(税抜き)

  これを合計額と事業区分別とで繰り返し

  (2) 新税率(6.24%)の課税売上高÷1.08×6.24%−課税売上の対価の返還等÷1.08×6.24%=事業区分別の課税売上高にかかる消費税額

     新税率(7.8%)の課税売上高÷1.1×7.8%−課税売上の対価の返還等÷1.1×7.8%=事業区分別の課税売上高にかかる消費税額

  これを合計額と事業区分別とで繰り返し

iv

* iiiとまったく同じ計算です。

■1 (2)で求めた事業区分別の消費税額×その事業区分のみなし仕入率をそれぞれ足したもの×(控除対象仕入税額の計算の基礎となる消費税額/(2)で求めた事業区分別の合計額の消費税額)

■2 控除対象仕入税額の計算の基礎となる消費税額×(2)で求めた事業区分別の消費税額のうち75%以上を占めるもののみなし仕入率

■3 ((2)で求めた事業区分別の消費税額のうち合計して75%以上を占める二つのもののうちみなし仕入率が高い方のもの×その事業区分のみなし仕入率+((2)で求めた事業区分別の合計額の消費税額−(2)で求めた事業区分別の消費税額のうち合計して75%以上を占める二つのもののうちみなし仕入率が高い方のもの)×もう一つの事業区分のみなし仕入率)×(控除対象仕入税額の計算の基礎となる消費税額/(2)で求めた事業区分別の合計額の消費税額)

vi

■1から■3のいずれかから選択した金額を記載

 

 

5.付表4−2後半(納付(還付)税額の計算)

(1) 控除対象仕入税額を付表5−2より転記

(2) 課税売上のうち貸倒処理した金額÷1.08×6.3%=貸倒れに係る税額

(3)〜(6) 付表4−2に印字されている指示に従って計算・記入

(7) 合計差引地方消費税の課税標準となる消費税額÷63×17

* 8%の消費税のうち、地方消費税が1.7%、残る部分が6.3%ということです。

 

6.付表4−1後半(納付(還付)税額の計算)

(1) 控除対象仕入税額を付表5−1より転記

(2) 貸倒れに係る税額の計算

* 設例では新税率の貸倒はないです。

(3)〜(6) 付表4−1に印字されている指示に従って計算・記入

(7) 合計差引地方消費税の課税標準となる消費税額÷78×22

* 10%の消費税のうち、地方消費税が2.2%、残る部分が7.8%ということです。軽減税率の場合は、8%の消費税のうち、地方消費税が1.76%、残る部分が6.24%ということで、いずれにしても同じ比率になっています。

 

7.第二表

下準備1 付表4−2と付表5−2の一番右の列の旧税率分小計を完成

* 設例では旧税率が6.3%だけなのでただ写すだけです。

下準備2 下準備1で完成させた旧税率分小計をそれぞれ付表4−2と付表5−2に転記し、それも含めて一番右の列の合計欄を完成

付表4−1、4−2から必要な情報を転記して第二表を完成させる

 

8.第一表

第二表、付表4−1、付表5−1から必要な情報を転記し、第一表の印字に従い計算をして、⑮と⑯以外の必要な箇所を完成

* ⑮は①とほぼ同じ金額になりますが、設例のように免税売上があると結構ずれます。

* ⑯は2年前のこの第一表を探し出して、その2年前の⑮に相当する金額を書きます。

 

 

お疲れさまでした。遠回りに見えても、意味を理解しながら付表を埋めることさえできれば、第二表と第一表はすぐに完成できます。

 

この記事を、自分で簡易課税の消費税計算をしなければならないすべての経理事務員に捧げます。




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