平成26年司法試験予備試験論文(刑法)答案練習

問題

以下の事例に基づき,甲及び乙の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く。)。

1 甲(28歳,男性,身長178センチメートル,体重82キログラム)は,V(68歳,男性,身長160センチメートル,体重53キログラム)が密輸入された仏像を密かに所有していることを知り,Vから,売買を装いつつ,代金を支払わずにこれを入手しようと考えた。具体的には,甲は,代金を支払う前に鑑定が必要であると言ってVから仏像の引渡しを受け,これを別の者に託して持ち去らせ,その後,自身は隙を見て逃走して代金の支払を免れようと計画した。
 甲は,偽名を使って自分の身元が明らかにならないようにして,Vとの間で代金や仏像の受渡しの日時・場所を決めるための交渉をし,その結果,仏像の代金は2000万円と決まり,某日,ホテルの一室で受渡しを行うこととなった。甲は,仏像の持ち去り役として後輩の乙を誘ったが,乙には,「ホテルで人から仏像を預かることになっているが,自分にはほかに用事があるから,仏像をホテルから持ち帰ってしばらく自宅に保管しておいてくれ。」とのみ伝えて上記計画は伝えず,乙も,上記計画を知らないまま,甲の依頼に応じることとした。
2 受渡し当日,Vは,一人で受渡し場所であるホテルの一室に行き,一方,甲も,乙を連れて同ホテルに向かい,乙を室外に待たせ,甲一人でVの待つ室内に入った。甲は,Vに対し,「金は持ってきたが,近くの喫茶店で鑑定人が待っているので,まず仏像を鑑定させてくれ。本物と確認できたら鑑定人から連絡が入るので,ここにある金を渡す。」と言い,2000万円が入っているように見せ掛けたアタッシュケースを示して仏像の引渡しを求めた。Vは,代金が準備されているのであれば,先に仏像を引き渡しても代金を受け取り損ねることはないだろうと考え,仏像を甲に引き渡した。甲は,待機していた乙を室内に招き入れ,「これを頼む。」と言って,仏像を手渡したところ,乙は,準備していた風呂敷で仏像を包み,甲からの指示どおり,これを持ってそのままホテルを出て,タクシーに乗って自宅に帰った。乙がタクシーで立ち去った後,甲は,代金を支払わないまま同室から逃走しようとしたが,Vは,その意図を見破り,同室出入口ドア前に立ちはだかって,甲の逃走を阻んだ。
3 Vは,甲が逃げないように,護身用に持ち歩いていたナイフ(刃体の長さ約15センチメートル)の刃先を甲の首元に突き付け,さらに,甲に命じてアタッシュケースを開けさせたが,中に現金はほとんど入っていなかった。Vは,甲から仏像を取り返し,又は代金を支払わせようとして,その首元にナイフを突き付けたまま,「仏像を返すか,すぐに金を準備して払え。言うことを聞かないと痛い目に合うぞ。」と言った。また,Vは,甲の身元を確認しようと考え,「お前の免許証か何かを見せろ。」と言った。
4 甲は,このままではナイフで刺される危険があり,また,Vに自動車運転免許証を見られると,身元が知られて仏像の返還や代金の支払を免れることができなくなると考えた。そこで,甲は,Vからナイフを奪い取ってVを殺害して,自分の身を守るとともに,仏像の返還や代金の支払を免れることを意図し,隙を狙ってVからナイフを奪い取り,ナイフを取り返そうとして甲につかみ掛かってきたVの腹部を,殺意をもって,ナイフで1回突き刺し,Vに重傷を負わせた。甲は,すぐに逃走したが,部屋から逃げていく甲の姿を見て不審に思ったホテルの従業員が,Vが血を流して倒れているのに気付いて119番通報をした。Vは,直ちに病院に搬送され,一命を取り留めた。
5 甲は,身を隠すため,その日のうちに国外に逃亡した。乙は,持ち帰った仏像を自宅に保管したまま,甲からの指示を待った。その後,乙は,甲から電話で,上記一連の事情を全て打ち明けられ,引き続き仏像の保管を依頼された。乙は,先輩である甲からの依頼であるのでやむを得ないと思い,そのまま仏像の保管を続けた。しかし,乙は,その電話から2週間後,金に困っていたことから,甲に無断で仏像を500万円で第三者に売却し,その代金を自己の用途に費消した。

 

練習答案(実際の試験での再現答案)

(F評価)

以下刑法についてはその条数のみを示す。

[甲の罪責]

1.詐欺罪(第246条第1項)
 甲は2000万円が入っているように見せ掛けたアタッシュケースを示しつつ仏像の鑑定をすると言ってVを欺き、その結果Vは錯誤に陥って本件仏像を甲に交付したので、詐欺罪(第246条第1項)の構成要件を満たす。Vは本件仏像の所有権を甲に移すまでの意思はなかったが、その占有を移す意思はあったので、交付したと言える。違法性阻却事由や責任能力に欠けるという事情はない。

2.強盗罪(第236条第2項)及び強盗致死傷罪(第240条)
 甲は仏像の返還や代金の支払を免れることを意図して、Vからナイフを奪い取り、それでVの腹部を突き刺して重傷を負わせた。これは反抗を抑圧するのに十分な暴行である。それにより仏像の返還又は代金の支払を免れるという財産上不法の利益を甲は得たので、強盗罪(第236条第2項)の構成要件を満たす。同時にVを負傷させているので、強盗致傷罪(第240条)の構成要件も満たす。
 しかしながら、甲に正当防衛(第36条第1項)が成立する余地がある。甲はVからナイフを首元に突き付けられたために、自分を守ろうとしてVからナイフを奪い取り、Vの腹部を突き刺した。Vは仏像の返還又は2000万円の支払を求めてナイフを甲に突き付けたのであるが、財産のために身体・生命を危険にさらしているので、不正の侵害である。甲はこのような事態を予測していなかったので急迫でもある。そして甲は自らの身体・生命という権利を防衛するためにやむを得ずナイフで刺した。周囲に人がいなかったので助けを求めることは困難であった。強盗の意図が併存していても正当防衛の成立を妨げない。ただし、これは防衛の程度を超えた行為である(第36条第2項)。例えばVの足を刺して動けなくするということでも防衛することはできた。よって過剰防衛なので、情状により、その刑を減刑し、又は免除することができる。責任能力の疑問を抱かせる事情はない。

 以上より、甲には詐欺罪と強盗罪・強盗致傷罪が成立する。しかしここで詐欺罪が保護しようとしている法益と強盗罪が保護しようとしている法益は、仏像又は2000万円の支払という同一のものであるので、詐欺罪は強盗罪に吸収される。同様に強盗罪は強盗致傷罪に吸収される。そしてそれが過剰防衛により任意的に刑の減免を受ける。

[乙の罪責]

1.盗品等保管罪(第256条第2項)
 乙は甲の財産に対する罪に当たる行為によって領得された仏像を受け取って運搬している。しかしこの時点で乙は本件仏像が財産に対する罪に当たる行為によって領得されたもの(以下盗品等とする)に当たるとは認識しておらず、故意がなかった。その後も甲から電話で一連の事情を全て打ち明けられるまでは本件仏像が盗品等であることを知らなかった。ただ、それからは盗品等であることを知りつつ仏像を保管している。これだけでも十分に財産に対する罪を助長しているので、盗品等保管罪の構成要件を満たす。先輩だからという理由だけは違法性が阻却されない。責任能力にも問題ない。

2.横領罪(第252条第1項)
 乙は、甲に無断で、仏像を500万円で第三者に売却し、その代金を自己の用途に費消した。自己の占有する他人の物を横領したことになるので単純横領罪(第252条第1項)の構成要件を満たす。本件仏像は甲が財産に対する罪に当たる行為によってVから得たものであるが、それでも一応は甲が占有していた物なので、横領になる。1と同様、違法性阻却事由や責任能力は問題とならない。

3.証拠隠滅罪(第104条)
 本件仏像は、甲という他人の刑事事件に関する証拠であり、乙はそれを第三者に売却することで隠滅しているので、証拠隠滅罪(第104条)の構成要件を満たす。

 以上より、乙には盗品等保管罪、横領罪、証拠隠滅罪が成立し、それらは併合罪になる。甲との共犯は問題にならない。

以上

 

 

修正答案

以下刑法についてはその条数のみを示す。

 

第1 甲の罪責
1.詐欺罪(246条1項)
 本件仏像は密輸入されたものであるが、そのことから直ちに所有者・占有者の権利が否定されるというわけではないので、詐欺罪で保護される客体に当たる。
 甲は本件仏像の代金として2000万円を支払う意思はないのにVに対してそれがあるように見せかけたので、Vを欺いている。そしてVは代金の支払があるものと誤信して本件仏像を甲に交付した。この時点で本件仏像の占有が甲に移転し、詐欺罪(246条1項)は既遂に達する。
2.強盗殺人未遂罪(240条、243条)
 Vは甲に対して本件仏像の代金の支払又は仏像の返還を求める権利を有している。甲はVから奪い取ったナイフをVの腹部に突き刺すことでVの反抗を抑圧し、前述のVの甲に対する権利を行使できないようにさせて、財産上不法の利益を得た。よってこの時点で少くとも強盗罪(236条2項)の構成要件を満たす。さらに、甲はVを殺害しようとして上記の行為をしたが、V死亡という結果は発生しなかったので、強盗殺人罪(240条)の未遂(243条)の構成要件を満たす。強盗殺人罪の既遂・未遂は、同罪が主として保護している生命侵害の既遂・未遂を基準として判断するのが適切である。
 甲は自分の身を守るために上記の行為をしたので、正当防衛(36条1項)の成立が問題となる。Vが突然刃体の長さ約15センチメートルのナイフを甲の首元に突き付けて言うことを聞かなければ痛い目を見るぞと言ったことは、急迫不正の侵害である。Vとしては代金か仏像のどちらかを取り返そうとしてそのような行為に及んだのであるが、財産的損害に対して生命侵害の危険を作り出しているので、不正の侵害であると言える。甲は自らの生命・身体を守るためにナイフを奪い取ってVの腹部を刺したので、自己の権利を防衛するためであったと言える。強盗の意図が併存していても正当防衛の成立を妨げない。しかし体格で勝る甲が自らの生命・身体を守るためにはVからナイフを取り上げるだけで十分であり、腹部を刺すことはやむを得ずした行為であるとは言えない。よって甲には正当防衛(36条1項)は成立せず、過剰防衛(36条2項)が成立するにとどまる。
 以上より、甲には強盗殺人未遂罪が成立する。
3.結論
 甲には詐欺罪と強盗殺人未遂罪が成立するが、これらは同じ本件仏像またはその代金という財物に対する罪なので、より重い強盗殺人未遂罪だけを評価すれば足りる(詐欺罪は吸収される)。そしてその刑は過剰防衛により任意的減免の余地がある。
第2 乙の罪責
1.詐欺罪(246条1項)及び強盗殺人罪(240条)
 乙が上で検討した甲の詐欺罪及び強盗殺人未遂罪の共犯となることはない。乙には甲との共謀も幇助の故意も見られないからである。
2.盗品等保管罪(256条2項)
 本件仏像は甲の詐欺罪によって領得されたものである。乙はそれを保管したので盗品等保管罪(256条2項)が成立する。乙は甲から一連の事情を電話で打ち明けられるまでは本件仏像が詐欺罪によって領得されたものだと知らなかったので故意がなかったが、その事情を知ってからは故意に仏像を保管し続けたのである。盗品等保管罪は継続犯であり仏像という財物への侵害は続いているので(事情を知ってから警察に届けるなどして財物の返還を容易にすることはできるので)、事情を知ってから保管を始めた場合と、保管を始めてから事情を知った場合とを区別して後者を不可罰とする理由はない。
3.横領罪(252条1項)
 本件仏像は、甲に所有権が帰属するかはともかく、甲が占有したものであって、乙はその保管を甲から委託された。その仏像を甲に無断で売却して不法に領得したので、乙には横領罪(252条1項)が成立する。
4.結論
 以上より、乙には盗品等保管罪と横領罪が成立し、これらは併合罪(45条)になる。

 

再修正答案

【2015年6月5日追記。通りすがり様のコメントを受けて再修正してみました。】

以下刑法についてはその条数のみを示す。

第1 甲の罪責
1.詐欺罪(246条1項)
 詐欺罪(246条1項)の構成要件は「人を欺いて財物を交付させた」ことである。財産に対する罪の特性として、「不法領得の意思」と「財産的損害」も書かれざる構成要件となる。
 本件仏像は密輸入されたものであるが、そのことから直ちに所有者・占有者の権利が否定されるというわけではないので、詐欺罪で保護される財物に当たる。甲はその仏像の引き渡しを、2000万円が入っているように見せ掛けたアタッシュケースを示しながら求めた。これにより、Vは代金が準備されているのであれば先に仏像を引き渡しても代金を受け取り損ねることはないだろうと誤信し、本件仏像を甲に交付した。甲はその仏像を自己が支配し利用または処分するつもりであったので、不法領得の意思に欠けるところはない。Vは仏像の代金債権を獲得するとはいえ、その回収は非常な困難が予想されるので、財産的損害が発生していると言える。以上より、甲はVを欺いて仏像という財物を交付させたことになるので、この時点で詐欺罪は既遂に達する。
2.強盗殺人未遂罪(240条、243条)
 強盗殺人罪(240条)の構成要件は「強盗が殺意をもって人を死亡させた」ことである。同罪は未遂も罰する(243条)が、その既遂・未遂は、同罪が主として保護している生命侵害の既遂・未遂を基準として判断するのが適切である。
 「暴行又は脅迫を用いて、財産上不法の利益を得」た者は強盗である(236条2項)。Vは甲に対して本件仏像の代金の支払又は仏像の返還を求める権利を有している。甲は、Vから奪い取ったナイフをVの腹部に1回突き刺すことで重傷を負わせ、自分はすぐに逃走した。甲はこのようにしてVの反抗を抑圧し、前述のVの甲に対する権利を行使できないようにさせて、財産上不法の利益を得た。よってこの時点で少くとも強盗罪(236条2項)の構成要件を満たし、強盗となる。甲はVを殺害しようとして上記の行為をしたが、Vは死亡しなかた。以上より甲には強盗殺人未遂罪が成立する。
 甲は自分の身を守るために上記の行為をしたので、「急迫不正の侵害に対して、自己の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為」である正当防衛(36条1項)の成立が問題となる。Vが突然刃体の長さ約15センチメートルのナイフを甲の首元に突き付けて言うことを聞かなければ痛い目を見るぞと言ったことは、急迫不正の侵害である。Vとしては代金か仏像のどちらかを取り返そうとしてそのような行為に及んだのであるが、財産的損害に対して生命侵害の危険を作り出しているので、不正の侵害であると言える。甲は自らの生命・身体を守るためにナイフを奪い取ってVの腹部を刺したので、自己の権利を防衛するためであったと言える。強盗の意図が併存していても正当防衛の成立を妨げない。しかし体格で勝る甲が自らの生命・身体を守るためにはVからナイフを取り上げるだけで十分であり、腹部を刺すことはやむを得ずした行為であるとは言えない。よって甲には正当防衛(36条1項)は成立せず、過剰防衛(36条2項)が成立するにとどまる。
 以上より、甲には強盗殺人未遂罪が成立する。
3.結論
 甲には詐欺罪と強盗殺人未遂罪が成立するが、これらは同じ本件仏像またはその代金という財物に対する罪なので、より重い強盗殺人未遂罪だけを評価すれば足りる(詐欺罪は吸収される)。そしてその刑は過剰防衛により任意的減免の余地がある。
第2 乙の罪責
1.詐欺罪(246条1項)及び強盗殺人罪(240条)
 乙が上で検討した甲の詐欺罪及び強盗殺人未遂罪の共犯となることはない。乙には甲との共謀も幇助の故意も見られないからである。
2.盗品等保管罪(256条2項)
 盗品等保管罪(256条2項)の構成要件は「盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物を保管した」ことである。
 本件仏像は甲の詐欺罪によって領得されたものであり、乙はそれを保管したので盗品等保管罪が成立する。乙は甲から一連の事情を電話で打ち明けられるまでは本件仏像が詐欺罪によって領得されたものだと知らなかったので故意がなかったが、その事情を知ってからは故意に仏像を保管し続けたのである。盗品等保管罪は継続犯であり仏像という財物への侵害は続いているので(事情を知ってから警察に届けるなどして財物の返還を容易にすることはできるので)、事情を知ってから保管を始めた場合と、保管を始めてから事情を知った場合とを区別して後者を不可罰とする理由はない。
3.横領罪(252条1項)
 横領罪(252条1項)の構成要件は「自己の占有する他人の物を横領した」ことである。
 本件仏像は、甲に所有権が帰属するかはともかく、甲が占有したものであって、乙は甲から委託されてそれを保管しているので、自己の占有する他人の物に該当する。その仏像を甲に無断で売却して不法に領得したので、横領したと言える。以上より、乙には横領罪が成立する。
4.結論
 以上より、乙には盗品等保管罪と横領罪が成立し、これらは併合罪(45条)になる。

 

感想

本番での答案でもそれなりにがんばっていたのにF評価というのがショックでした。詐欺罪の交付と強盗殺人未遂罪の罪名を出せなかったのが致命的だったのでしょうか。

 



  • 刑法も私にとって結構好きな科目です。

    致命的なのは答案の書き方にあるのかもしれません。
    書いてあることはどれも間違ってはいないのですが、点が入りにくい気がします。

    ・全体的にどの構成要件の認定をしているのか少しわかりづらい気がしました。
    ・構成要件は「」で文言抜き出したほうがよいかもしれません。
    ・構成要件は出来るだけ1つずつ検討したほうが良いかと思います。あまり構成要件の文言を意識せず、ぐちゃっとまとめて書いている印象を受けました。
    ・三段論法をもっと意識して書いたほうが良い気がします。
    ・故意などを除き、罪刑法定主義からすべての構成要件は必ず検討すべきだと思います。
    ・刑法は各構成要件の定義がほかの科目に比べ重視されると思いますので、定義を正確に理解しそれを意識して論証したほうが良いと思います。
    ・事実と評価がごっちゃになっている印象を受けました。事実の引用とその評価はできるだけ分けて書くべきだと思います。

    とりあえず甲の詐欺罪で気になったところをコメントしてみます。

    ・「財物」「人を欺いて」「交付」、財産上の損害、不法領得の意思の5つの構成要件をそれぞれ漏れなく検討すべきかと思います。

    ・「2000万円を支払う意思はないのにVに対してそれがあるように見せかけた」
    →少し意訳しすぎかなと思います。原則的には問題文の事実は簡潔に評価を含めずに引用すべき(要約してもよい)と言われていますので、事実と評価はできるだけ分けるように心がけるべきかと思います。

    ・欺く行為とVの誤信との間に因果関係があることがわかるような書き方をしたほうが良いかもしれません。(「そして」という接続詞ではなく)

    ・損害不要説ですか?詐欺罪の損害不要説は結構有力な考え方みたいですのでよいかもしれません。

    ・故意が問題にならない場合は省略して良いとされていますが、不法領得の意思は書かれざる構成要件要素ですので、明らかでも省略せずに簡潔に記載すべきかと思います。
    ちなみに他に書かなくて良いものとしては、本罪が成立する場合の予備罪などがあると思います。(殺人罪が成立する場合は殺人予備は書かなくて良い)。

    • 通りすがり様

      刑法のほうも丁寧に見ていただいてありがとうございます。これはもう一度大きく書き直したほうがよさそうなので、時間を見つけて書き直してからコメントへの返答をさせていただきます。

      • 書き直してみました。再修正答案の部分です。

        >損害不要説ですか?
        いいえ、私は財産的損害(の危険性)が必要だという立場です。預金通帳の詐取では、それが振り込み詐欺などに使われて銀行が損害賠償責任を負う危険性があるので詐欺罪が成立するという理解です。答案で財産的損害の検討ができていなかったので誤解されたのだと思います。

        • お疲れ様です。

          三段論法を意識していることがとても伝わりました。
          ただ、答案のような構成要件全て先出しするスタイルは、個々の構成要件と当てはめとの対応がわかりづらくなりやすい気がします。そのため、対応関係をわかりやすくするための工夫が少し必要なのかなと思いました。
          当てはめの中で条文の文言を「」で抜き書きしたり、改行したりすると対応関係がわかりやすくなるかもしれません。また、「」で文言を抜き出すと欠かれざる構成要件との区別にもなって良いと思います。
          また、答案にメリハリがついていないように思いました。争点だと思うところは厚く論じると良いかもしれません。

          甲の罪責
          詐欺
          ・「本件仏像を甲に交付した。」
          →どの構成要件を検討しているのかわかりませんでした。処分行為の検討かなと思いましたが、もしかしたら「交付させた」かもしれません。どっちでしょうか?

          ・「甲はVを欺いて仏像という財物を交付させたことになるので、この時点で詐欺罪は既遂に達する。」
          →既遂時点は「交付させた」時点ということですね。「交付させた」の意義を明らかにすると良いのかもしれません。私は「交付させた」を占有の移転(財物の移転)と捉えています。

          ・「私は財産的損害(の危険性)が必要だという立場です。」「預金通帳の詐取では、それが振り込み詐欺などに使われて銀行が損害賠償責任を負う危険性があるので詐欺罪が成立するという理解です。」
          →危険性というと詐欺罪が危険犯のように聞こえてきますね。それになんか全体財産の減少を損害と捉える古い立場のようにも聞こえます。
          財物の交付それ自体を損害と捉えるけど、それに加えて危険性も要求するということでしょうか?書籍などの裏があるならそれで良いと思います。

          ・詐欺罪は教科書や予備校本には「①欺網行為、②錯誤、③処分行為、④財物の移転、⑤①~④の各過程に因果関係があること」みたいに条文を意識せずに書かれていることが多いですが、これらの要素と条文の文言との関係を一度整理しておくとよいかもしれません。

          強殺未遂
          ・「Vは甲に対して本件仏像の代金の支払又は仏像の返還を求める権利を有している。」という記述は「財産上不法の利益」の検討だと思いますが、ぱっと見てそのことがわかりづらい気がします。(最初は暴行脅迫の検討から始まるだろうという読み手の予測もあって)。

          ・「甲は、Vから奪い取ったナイフをVの腹部に1回突き刺すことで重傷を負わせ、」→これが相手の犯行を抑圧するに足る暴行だと認定したほうが良いと思います。

          ・「自分はすぐに逃走した。」→どの構成要件の話かわかりません。

          ・「甲はこのようにしてVの反抗を抑圧し」
          →実際に相手の反抗を抑圧したことを要するという通説ですね。これが書かれざる構成要件要素なのか因果関係の枠組みの話なのか明らかにしたほうが良いかもしれません。

          ・「前述のVの甲に対する権利を行使できないようにさせて、財産上不法の利益を得た。」
          →判例もあるところなので説明がいるかもしれません。Vは死亡していないので権利行使できないのは一時的なものと捉え、財産上不法の利益が認められないという認定も十分考えられますので。

          ・「この時点で少くとも強盗罪(236条2項)の構成要件を満たし」
          →気持ちは分かりますが、あまりよくない書き方かもしれません。純粋な時系列ではこのときに強殺未遂は成立していると思いますし。

          ・「甲はVを殺害しようとして上記の行為をしたが」
          →明確に「殺人の故意」または「殺意がある」と書くべきかと思います。

          ・「財産的損害に対して生命侵害の危険を作り出しているので、不正の侵害であると言える。」
          →よくわかりません。ナイフ突きつけているので生命身体の侵害で良いのでは。それに、「不正」の要件で財産的損害と生命侵害を比べる理由がわかりません。「不正」の要件は対物防衛くらいでしか問題にならないので、「急迫」要件と合わせて論じてしまえばよいのではと思います。この記述はカットして良いかもしれません。

          ・「体格で勝る甲が」
          →これは評価ですよね。事実を書いたほうが良いかもしれません。

          • 通りすがり様

            再検討をしていただきありがとうございます。

            再修正答案はかなり意識的にスタイルを変えてみました。もっと問題を多く解いて自分なりのスタイルを確立したいです。

            >どの構成要件を検討しているのかわかりませんでした。処分行為の検討かなと思いましたが、もしかしたら「交付させた」かもしれません。どっちでしょうか?
            「交付させた」のつもりでした。主語が「Vは」となっているので「交付させた」ではなく「交付した」としました。このような文法上明らかな書き換えは許されると思うのですがまずいでしょうか。

            >危険性というと詐欺罪が危険犯のように聞こえてきますね。それになんか全体財産の減少を損害と捉える古い立場のようにも聞こえます。
            財物の交付それ自体を損害と捉えるけど、それに加えて危険性も要求するということでしょうか?書籍などの裏があるならそれで良いと思います。
            「危険性」という言葉が誤解を招くなら「可能性」に書き換えます。預金通帳を詐取された場合、銀行に財産的損害が必ずしも発生するわけではありませんが、その後犯罪に利用されるなどして銀行が不当利得の返還義務または不法行為による損害賠償責任を負う場合は財産的損害が発生するので、その可能性がある時点で財産的損害があると言ってよい、という理屈です。西田典之『刑法各論』(弘文堂、2012)pp.206-210を参照しました。

            >どの構成要件の話かわかりません。
            逃走して行方をくらませることで仏像または債権の回収を極めて困難にさせ、財産上不法の利益を得たことにつながります。後述(このコメント欄の2つ下の項目)の財産上不法の利益を得たかどうかという問題に関わります。

            >実際に相手の反抗を抑圧したことを要するという通説ですね。これが書かれざる構成要件要素なのか因果関係の枠組みの話なのか明らかにしたほうが良いかもしれません。
            実はそこまで考えておらず、暴行の定義のつもりで書いていました。ご指摘を受けて、ようやく客観的な暴行の程度と被害者が主観的に受けた程度とを分けて考えるべきだと気づきました。

            >判例もあるところなので説明がいるかもしれません。Vは死亡していないので権利行使できないのは一時的なものと捉え、財産上不法の利益が認められないという認定も十分考えられますので。
            問題文から想像するに、このような怪しい取引ではお互い身分や住所を明かしていないでしょうし、偽名や変装をしていることも十分に考えられるので、行方をくらまされると事実上権利行使ができないのではないかと考えました。

            >よくわかりません。ナイフ突きつけているので生命身体の侵害で良いのでは。それに、「不正」の要件で財産的損害と生命侵害を比べる理由がわかりません。「不正」の要件は対物防衛くらいでしか問題にならないので、「急迫」要件と合わせて論じてしまえばよいのではと思います。この記述はカットして良いかもしれません。
            もしもVが甲にナイフを突き付けた行為がVにとっての正当防衛になれば(例えば甲から激しく殴り続けられていたことに対して自分の身を守るために防衛したとすれば)、そのVの行為が不正ではなくなる可能性があるからです。

            上で取り上げなかった他のご指摘はそうだなと単純に納得しました。

            お書きいただいた答案はスマートで書き慣れた答案だなぁと感じました。

  • うれしくなって甲の罪責も書いてみました!ちょっと分量多いですね。

    第1 甲の罪責(2枚と8行くらい)
    1 甲が、Vに嘘を言い、仏像の引渡しを受けた行為につき、①1項詐欺罪(刑法246条1項)が成立する。
    (1)仏像は密輸品であるが、財産法秩序を維持するため、当該仏像も「財物」にあたると解すべきである。
    (2) 甲は2000万円が入っているように見せ掛けたアタッシュケースを示しながら仏像の引渡しを求め「人を欺いて」いる。当該行為によりVは代金を受け取り損ねることはないだろうと誤信し、本件仏像を甲に渡している。
    そして、仏像を乙に託してホテルに持ち去らせることで、Vは仏像の取戻しが相当程度困難になる。この時点で仏像の占有が移転したと評価でき「交付させた」といえる。
    甲は代金を支払わずに仏像を入手しようと考えていたので不法領得の意思が認められる。
    よって、1項詐欺罪が成立する。
    2 甲が、ナイフでVを刺した行為につき、②強盗殺人未遂罪(240条、243条)が成立する。
    (1) 甲は「強盗」にあたる。
    ア 「暴行」(236条2項)とは、相手の反抗を抑圧するに足る程度の暴行をいう。
    本件では、甲は、28歳、身長178センチ、体重82キロで、一方Vは68歳、身長160センチ、体重53キロであるから、甲はVよりも年齢・体格で優っている。甲が刃体の長さ約15センチのナイフで腹部を刺した行為は、内蔵を損傷させ死に至らしめる危険の高い行為である。
    したがって、当該行為は相手の反抗を抑圧するに足る程度の暴行といえ、「暴行」にあたる。
    イ 本件で、Vは病院に搬送され債権の行使ができなくなってはいるが、Vは死亡しておらず一時的なものにとどまるから、具体性確実性のある財産的利益の移転があったとはいえない。
    よって、「財産上不法の利益を得」たといえない。
    ウ したがって、強盗未遂罪となり、甲は「強盗」にあたる。
    (2) Vは死亡していない。
    (3) 甲は、行為時に殺意を有していた。
    (4) 甲は仏像の返還や代金の支払を免れる意図を有していたのであるから、不法領得の意思が認められる。
    (5) 甲に正当防衛(36条1項)は成立しない。
    ア Vが甲の首元にナイフを突き付けたことは「急迫不正の侵害」に当たる。
    イ 「防衛するため」とは、防衛の意思で行為することをいう。
    本件では、甲の行為に自分の身を守る意図と仏像の返還等を免れる意図が併存している。そればかりか、殺意をもってBの腹部をナイフで突き刺しており、当該行為はVの攻撃に乗じて積極的な加害行為に出たものといえる。
    したがって、防衛の意思で行為したとは言えず、「防衛するため」とは認められない。正当防衛は成立しない。
    (6) よって、強盗殺人未遂罪が成立する。
    3 罪数
    ①と②は本件仏像またはその代金という同一の利益に対して行われたものであるから、詐欺罪は重い強盗殺人未遂罪に吸収される。

    • 刑事系はスタイルの確立がしやすいので、浅野さんならすぐにできるようになる気がします。

      ・「交付させた」のつもりでした。主語が「Vは」となっているので「交付させた」ではなく「交付した」としました。このような文法上明らかな書き換えは許されると思うのですがまずいでしょうか。
      →それは別に良いかと思います。ただ、欺網行為や錯誤の認定は単に事実を書いているだけなのに、「交付」だけ文言を引用しているのは少し統一感がなく読みにくいかもしれません。あとそうすると処分行為の認定がなくなってしまいますね。

      ・「西田典之『刑法各論』(弘文堂、2012)pp.206-210を参照しました。」
      →実質的個別財産説の1つなんですかね。どっちにしろ裏があるなら問題ないですね!

      ・「逃走して行方をくらませることで仏像または債権の回収を極めて困難にさせ、財産上不法の利益を得たことにつながります」
      →理解できました。説明を加えるなど少し書き方を工夫したほうがわかりやすいかもしれません。
      きっと「甲~突き刺す~逃走した。」の評価と結論が「甲はこのようにしてVの反抗を抑圧し~財産上不法の利益を得た。」の一文なんですね。やはり複数の構成要件をいっぺんに検討するのは対応関係ががわかりづらくなるので書き方を工夫したほうがよいかもしれません。

      ・「問題文から想像するに、~考えました」
      →このような素晴らしい認定が答案から読み取れるようにすると点数が跳ね上がるのかもしれません。(単に私が読み取れていないだけの可能性もあります)

      ・「もしもVが甲にナイフを突き付けた行為がVにとっての正当防衛になれば、そのVの行為が不正ではなくなる可能性があるからです。」
      →確かにそうですね。正当防衛が成立しないと一言明示するとわかりやすいかもしれません。


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