平成24年司法試験論文公法系第2問答案練習

問題

〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,4:4:2〕)
 Pは,Q県が都市計画に都市計画施設として定め,建設を計画している道路(以下「本件計画道路」という。)の区域内に,土地(以下「本件土地」という。)及び本件土地上の鉄骨2階建ての店舗兼住宅(以下「本件建物」という。)を所有して,商店を営業している。Pは,1965年に,本件土地を相続により取得し,本件建物を建築して営業を始めた。本件計画道路に係る都市計画(以下「本件計画」という。)は,1970年に決定され(以下,この決定を「本件計画決定」という。),現在に至るまで基本的に変更されていない。本件計画によれば,本件計画道路は,延長を1万5000メートル,幅員を32メートルとされ,R市を南北に縦断するように,a地点を起点とし,他の道路(県道)と交差する交差点(b地点)を経由して,c地点を終点とするものと定められている。a地点とc地点のほぼ中間にb地点が位置し,本件土地はb地点とc地点のほぼ中間に位置している。
 Q県は,本件計画道路のうちa地点からb地点までの区間については,交通渋滞を緩和させる必要性が高かったため,1975年から徐々に事業を施行した。予算の制約や関係する土地建物の所有者等の反対があり,計画を実現するには長期間を要したが,2000年には道路の整備が完了した。これに対し,本件計画道路のうちb地点からc地点までの区間(以下「本件区間」という。)については,やはり関係する土地建物の所有者等の反対もあって,1970年から現在まで全く事業が施行されておらず,事業を施行するための具体的な準備や検討も一切行われていない。Q県の財政事情が逼迫しているため,事業の施行は財政上もますます困難になっている。
 こうした状況において,Q県は,b地点とc地点の間の交通需要が2030年には2010年比で約40パーセント増加するものと推計し,この将来の交通需要に応じるために,本件計画道路の区間や幅員を縮小する変更をせずに本件計画を存続させている。もっとも,Q県が5年ごとに行っている都市計画に関する基礎調査によれば,R市の旧市街地に位置するc地点の付近において事業所及び人口が減少する「空洞化」の傾向が見られ,b地点とc地点の間の交通量は1990年から漸減し,2010年までの20年間に約20パーセント減少している。しかし,c地点の付近で営業する事業者の多くは,空洞化に歯止めを掛けて街のにぎわいを取り戻すために,本件区間を整備する必要があると,Q県に対して強く主張し続けている。こうした地元の主張に配慮して,Q県も,本件区間の整備を進めれば,c地点付近の旧市街地の経済が活性化し,それに伴いb地点とc地点の間の交通需要が増えていくと予測して,上記のように将来交通需要を推計している。
 あわせて,Q県は,本件区間を整備しないと,本件区間付近において道路密度(都市計画において定められた道路の1平方キロメートル当たりの総延長)が過少になることも,本件区間について縮小する変更をせずに本件計画を存続させることの理由に挙げている。Q県は,道路密度が,住宅地においては1平方キロメートル当たり4キロメートル,商業地においては1平方キロメートル当たり5キロメートルは最低限確保されるように(これらの数値を,以下「基準道路密度」という。),道路に係る都市計画を定める運用をしている。本件区間付近は,住宅地及び本件土地のような商業地から成るが,いずれにおいても,本件区間を整備しないと,道路密度が基準道路密度を1キロメートル前後下回ることになるため,Q県は本件計画をそのまま存続させる姿勢を崩していない。
 最近になって,Pは,持病が悪化して商店を休業することが多くなった。また,本件建物は,建築から45年以上を経過して老朽化し,一部が使用できない状態になった。そこで,Pは,商店の営業をやめて本件建物を取り壊し,鉄筋コンクリート8階建てのマンションを建築して,自らも居住しながらマンションを経営して老後の生活を送ることを考えるようになった。しかし,このことをQ県の職員に話したところ,「本件土地は,本件計画道路の区域内にあるため建築が制限され(以下,この制限を「本件建築制限」という。),そのような高層の堅固な建物の建築は認められない。」と言われた。Pは,承服できず,訴訟を提起するために弁護士Sに相談した。Pは,8階建てマンションへの建て替えを第一に要望しているが,もしそれが無理であれば,Q県に対し,本件土地の地価が本件建築制限により低落している分に相当する額の支払を請求し(以下,この請求を「本件支払請求」という。),本件建物を鉄骨2階建てのバリアフリーの住宅に建て替えることを考えている。
 【資料1 法律事務所の会議録】を読んだ上で,弁護士Tの立場に立って,弁護士Sの指示に応じ,設問に答えなさい。
 なお,都市計画法及び都市計画法施行規則の抜粋を,【資料2 関係法令】に掲げてあるので,適宜参照しなさい。

 

〔設問1〕
 本件計画決定は,抗告訴訟の対象となる処分に当たるか。本件計画決定がどのような法的効果を有するかを明らかにした上で,そのような法的効果が本件計画決定の処分性を根拠付けるか否かを検討して答えなさい。

 

〔設問2〕
 Q県が本件計画道路の区間又は幅員を縮小する変更をせずに本件計画を存続させていることは適法か。都市計画法の関係する規定を挙げながら,適法とする法律論及び違法とする法律論として考えられるものを示して答えなさい。

 

〔設問3〕
 Q県が本件計画を変更せずに存続させていることは適法であると仮定する場合,PのQ県に対する本件支払請求は認められるか。請求の根拠規定を示した上で,請求の成否を判断するために考慮すべき要素を,本件に即して一つ一つ丁寧に示しながら答えなさい。

 

【資料1 法律事務所の会議録】
弁護士S:本日は,Pの案件について基本的な処理方針を議論したいと思います。まず,本件土地の現況はどうなっていますか。

弁護士T:本件土地は,都市計画法上の近隣商業地域にあります。本件計画がなければ,Pが要望している高層の堅固なマンションを建築することに,法的な支障はありません。実際に,本件土地の周辺では,高層の堅固な建物が建築されています。

弁護士S:しかし,PはQ県の職員から,本件計画があるために建築が認められないと言われたのですね。

弁護士T:はい。確かに,都市計画施設の区域内でも,都市計画法第53条の許可を受ければ,建築が可能です。しかし,鉄筋コンクリート8階建てという高層の堅固な建物になりますと,都市計画法が建築制限を定める趣旨から言って,許可を受けることは難しいと思います。そして,建築基準法の制度によれば,本件計画が定めるような都市計画施設の区域内では,都市計画法第53条の許可を受けていない建物は建築確認を受けられないことになります。

弁護士S:そうですね。それでは,本件計画が違法なのでPの建物は都市計画法第53条の建築制限の適用を受けないと主張する方向で検討することにしましょう。したがって,Pが考えているマンションが,都市計画法第53条の許可の要件を満たすか否かは,検討しなくて結構です。しかし,1970年において本件計画決定が違法であったと主張することも,難しそうですね。

弁護士T:はい。どの都道府県でも,道路に係る都市計画は,高度経済成長期に人口増加と経済成長を前提に定められた結果として増えたのですが,地方公共団体の財政が悪化して,事業が全部又は一部施行されていない計画が残されている状況にあります。Q県でも,道路に係る都市計画全体のうち道路の延べ延長にして約50パーセントが,事業未施行の状態です。そこで,Q県は,2005年から,Q県でも近年進行している少子高齢化による人口減少や低成長経済を前提にして,道路に係る都市計画を全面的に見直すことにしました。見直しの結果,道路の区間や幅員を縮小するように都市計画を変更した例もあります。しかし,本件区間については本件計画を変更せずに存続させることにしたのです。

弁護士S:では,現時点において本件計画を変更せずに存続させていること,ここでは単に計画の存続ということにしますが,このことが違法といえるかどうかを検討してください。本件計画決定が1970年において違法であったという主張は,検討の対象から外してください。それでも,都市計画の存続を違法とした先例はなかなか見当たりませんので,計画の存続を適法とする法律論と違法とする法律論の双方を示して,都市計画法の関係規定を挙げながら,本件の具体的な事情に即して綿密に検討するようにお願いします。

弁護士T:承知しました。それから,計画の存続の違法性を主張するために,どのような訴えを提起するべきかという問題もあります。

弁護士S:そのとおりです。最高裁判所は,大法廷判決で,土地区画整理事業の事業計画の決定に処分性を認める判例変更をしましたね(最高裁判所平成20年9月10日大法廷判決,民集62巻8号2029頁)。ただし,都市計画施設として道路を整備する事業は,都市計画決定とそれに基づく都市計画事業認可との2段階を経て実施されるのですが,土地区画整理事業の事業計画の決定は,道路に係る都市計画でいえば,事業認可の段階に相当します。

弁護士T:そのためか,Q県の職員は,道路に係る都市計画決定は,この大法廷判決の射程の外にあり,事業の「青写真」の決定にすぎず,処分性はない,と解釈しているようなのです。

弁護士S:私たちとしては,この大法廷判決の射程をよく考えながら,道路に係る都市計画決定の法的効果を分析して,本件計画決定に処分性が認められるかどうか,判断する必要があります。都市計画決定の法的効果を分析する際には,その次の段階に位置付けられる都市計画事業認可の法的効果との関係も考慮に入れてください。綿密な検討をお願いします。

弁護士T:承知しました。本件計画決定に処分性が認められる場合,本件計画の変更を求める義務付け訴訟や,本件計画決定の失効確認訴訟を提起することになるのでしょうか。

弁護士S:いろいろ考えられますが,今の段階では,こうした個々の抗告訴訟の適法性を検討することまでは,していただかなくて結構です。また,本件計画決定の処分性が認められない場合に,どのような訴えを提起するべきかも問題ですが,この点についても,今の段階では,処分性の検討の際に必要な範囲で考慮するだけで結構です。

弁護士T:分かりました。

弁護士S:それで,Pは,絶対にマンションを建築したいという希望なのですか。

弁護士T:強い希望を持っています。建築資金も調達できるとのことです。マンションの設計の依頼まではしていませんが,それは,高い費用を掛けてマンションの設計を依頼しても,法的にマンションを建築できないことになると,設計費用が無駄になるからであって,意欲や財源がないからではありません。ただし,本件建築制限が適法とされる可能性があることは十分承知していて,その場合は,代わりに本件支払請求をすることを要望しています。

弁護士S:そのような本件支払請求が可能かどうかを検討する場合,いろいろな要素を考慮する必要がありますね。Pに有利な要素も不利な要素も一つ一つ示しながら,検討してください。請求の根拠規定やごく基本的な考慮要素も,丁寧に挙げてください。当然ながら,箇条書にとどめないでください。税法に関わる問題もありそうですが,その点は考慮しなくて結構です。

弁護士T:承知しました。

 

【資料2 関係法令】

 

○ 都市計画法(昭和43年6月15日法律第100号)(抜粋)

 

(定義)
第4条 この法律において「都市計画」とは,都市の健全な発展と秩序ある整備を図るための土地利用,都市施設の整備及び市街地開発事業に関する計画で,次章の規定に従い定められたものをいう。
2~4 (略)
5 この法律において「都市施設」とは,都市計画において定められるべき第11条第1項各号に掲げる施設をいう。
6 この法律において「都市計画施設」とは,都市計画において定められた第11条第1項各号に掲げる施設をいう。
7~14 (略)
15 この法律において「都市計画事業」とは,この法律で定めるところにより第59条の規定による認可又は承認を受けて行なわれる都市計画施設の整備に関する事業及び市街地開発事業をいう。
16 (略)
(都市計画区域)
第5条 都道府県は,市又は人口,就業者数その他の事項が政令で定める要件に該当する町村の中心の市街地を含み,かつ,自然的及び社会的条件並びに人口,土地利用,交通量その他国土交通省令で定める事項に関する現況及び推移を勘案して,一体の都市として総合的に整備し,開発し,及び保全する必要がある区域を都市計画区域として指定するものとする。(以下略)
2~6 (略)
(都市計画に関する基礎調査)
第6条 都道府県は,都市計画区域について,おおむね5年ごとに,都市計画に関する基礎調査として,国土交通省令で定めるところにより,人口規模,産業分類別の就業人口の規模,市街地の面積,土地利用,交通量その他国土交通省令で定める事項に関する現況及び将来の見通しについての調査を行うものとする。
2~5 (略)
(都市施設)
第11条 都市計画区域については,都市計画に,次に掲げる施設を定めることができる。(以下略)
一 道路,都市高速鉄道,駐車場,自動車ターミナルその他の交通施設
二~十一 (略)
2 都市施設については,都市計画に,都市施設の種類,名称,位置及び区域を定めるものとするとともに,面積その他の政令で定める事項を定めるよう努めるものとする。
3~6 (略)
(都市計画基準)
第13条 都市計画区域について定められる都市計画(中略)は,(中略)当該都市の特質を考慮して,次に掲げるところに従つて,土地利用,都市施設の整備及び市街地開発事業に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを,一体的かつ総合的に定めなければならない。(以下略)
一~十 (略)
十一 都市施設は,土地利用,交通等の現状及び将来の見通しを勘案して,適切な規模で必要な位置に配置することにより,円滑な都市活動を確保し,良好な都市環境を保持するように定めること。(以下略)
十二~十八 (略)
十九 前各号の基準を適用するについては,第6条第1項の規定による都市計画に関する基礎調査の結果に基づき,かつ,政府が法律に基づき行う人口,産業,住宅,建築,交通,工場立地その他の調査の結果について配慮すること。
2~6 (略)
(都市計画の図書)
第14条 都市計画は,国土交通省令で定めるところにより,総括図,計画図及び計画書によつて表示するものとする。
2 計画図及び計画書における区域区分の表示又は次に掲げる区域の表示は,土地に関し権利を有する者が,自己の権利に係る土地が区域区分により区分される市街化区域若しくは市街化調整区域のいずれの区域に含まれるか又は次に掲げる区域に含まれるかどうかを容易に判断することができるものでなければならない。
一~六 (略)
七 都市計画施設の区域
八~十四 (略)
3 (略)
(都市計画の告示等)
第20条 都道府県又は市町村は,都市計画を決定したときは,その旨を告示し,かつ,都道府県にあつては国土交通大臣及び関係市町村長に,市町村にあつては国土交通大臣及び都道府県知事に,第14条第1項に規定する図書の写しを送付しなければならない。
2 都道府県知事及び市町村長は,国土交通省令で定めるところにより,前項の図書又はその写しを当該都道府県又は市町村の事務所に備え置いて一般の閲覧に供する方法その他の適切な方法により公衆の縦覧に供しなければならない。
3 都市計画は,第1項の規定による告示があつた日から,その効力を生ずる。
(都市計画の変更)
第21条 都道府県又は市町村は,都市計画区域又は準都市計画区域が変更されたとき,第6条第1項若しくは第2項の規定による都市計画に関する基礎調査又は第13条第1項第19号に規定する政府が行う調査の結果都市計画を変更する必要が明らかとなつたとき,(中略)その他都市計画を変更する必要が生じたときは,遅滞なく,当該都市計画を変更しなければならない。
2 第17条から第18条まで及び前二条の規定は,都市計画の変更(中略)について準用する。(以下略)
(建築の許可)
第53条 都市計画施設の区域又は市街地開発事業の施行区域内において建築物の建築をしようとする者は,国土交通省令で定めるところにより,都道府県知事の許可を受けなければならない。(以下略)
一~五 (略)
2・3 (略)
(許可の基準)
第54条 都道府県知事は,前条第1項の規定による許可の申請があつた場合において,当該申請が次の各号のいずれかに該当するときは,その許可をしなければならない。
一・二 (略)
三 当該建築物が次に掲げる要件に該当し,かつ,容易に移転し,又は除却することができるものであると認められること。
イ 階数が二以下で,かつ,地階を有しないこと。
ロ 主要構造部(中略)が木造,鉄骨造,コンクリートブロツク造その他これらに類する構造であること。
(施行者)
第59条 都市計画事業は,市町村が,都道府県知事(中略)の認可を受けて施行する。
2 都道府県は,市町村が施行することが困難又は不適当な場合その他特別な事情がある場合においては,国土交通大臣の認可を受けて,都市計画事業を施行することができる。
3 国の機関は,国土交通大臣の承認を受けて,国の利害に重大な関係を有する都市計画事業を施行することができる。
4~7 (略)
(認可又は承認の申請)
第60条 前条の認可又は承認を受けようとする者は,国土交通省令で定めるところにより,次に掲げる事項を記載した申請書を国土交通大臣又は都道府県知事に提出しなければならない。
一・二 (略)
三 事業計画
四 (略)
2 前項第3号の事業計画には,次に掲げる事項を定めなければならない。
一 収用又は使用の別を明らかにした事業地(都市計画事業を施行する土地をいう。以下同じ。)
二 設計の概要
三 事業施行期間
3 第1項の申請書には,国土交通省令で定めるところにより,次に掲げる書類を添附しなければならない。
一 事業地を表示する図面
二 設計の概要を表示する図書
三~五 (略)
4 第14条第2項の規定は,第2項第1号及び前項第1号の事業地の表示について準用する。
(認可等の基準)
第61条 国土交通大臣又は都道府県知事は,申請手続が法令に違反せず,かつ,申請に係る事業が次の各号に該当するときは,第59条の認可又は承認をすることができる。
一 事業の内容が都市計画に適合し,かつ,事業施行期間が適切であること。
二 (略)
(都市計画事業の認可等の告示)
第62条 国土交通大臣又は都道府県知事は,第59条の認可又は承認をしたときは,遅滞なく,国土交通省令で定めるところにより,施行者の名称,都市計画事業の種類,事業施行期間及び事業地を告示し,かつ,国土交通大臣にあつては関係都道府県知事及び関係市町村長に,都道府県知事にあつては国土交通大臣及び関係市町村長に,第60条第3項第1号及び第2号に掲げる図書の写しを送付しなければならない。
2 市町村長は,前項の告示に係る事業施行期間の終了の日(中略)まで,国土交通省令で定めるところにより,前項の図書の写しを当該市町村の事務所において公衆の縦覧に供しなければならない。
(建築等の制限)
第65条 第62条第1項の規定による告示(中略)があつた後においては,当該事業地内において,都市計画事業の施行の障害となるおそれがある土地の形質の変更若しくは建築物の建築その他工作物の建設を行ない,又は政令で定める移動の容易でない物件の設置若しくは堆積を行なおうとする者は,都道府県知事の許可を受けなければならない。
2・3 (略)
(都市計画事業のための土地等の収用又は使用)
第69条 都市計画事業については,これを土地収用法第3条各号の一に規定する事業に該当するものとみなし,同法の規定を適用する。
第70条 都市計画事業については,土地収用法第20条(中略)の規定による事業の認定は行なわず,第59条の規定による認可又は承認をもつてこれに代えるものとし,第62条第1項の規定による告示をもつて同法第26条第1項(中略)の規定による事業の認定の告示とみなす。
2 (略)
(監督処分等)
第81条 国土交通大臣,都道府県知事又は指定都市等の長は,次の各号のいずれかに該当する者に対して,都市計画上必要な限度において,(中略)工事その他の行為の停止を命じ,若しくは相当の期限を定めて,建築物その他の工作物若しくは物件(中略)の改築,移転若しくは除却その他違反を是正するため必要な措置をとることを命ずることができる。
一 この法律若しくはこの法律に基づく命令の規定若しくはこれらの規定に基づく処分に違反した者(以下略)
二~四 (略)
2~4 (略)
第91条 第81条第1項の規定による国土交通大臣,都道府県知事又は指定都市等の長の命令に違反した者は,1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
○ 都市計画法施行規則(昭和44年8月25日建設省令第49号)(抜粋)
(都市計画の図書)
第9条 (略)
2 法(注:都市計画法)第14条第1項の計画図は,縮尺2500分の1以上の平面図(中略)とするものとする。
3 (略)
第47条 法第60条第3項(中略)の規定により同条第1項(中略)の申請書に添附すべき書類は,それぞれ次の各号に定めるところにより作成(中略)するものとする。
一 事業地を表示する図面は,次に定めるところにより作成するものとする。
イ 縮尺50000分の1以上の地形図によつて事業地の位置を示すこと。
ロ 縮尺2500分の1以上の実測平面図によつて事業地を収用の部分は薄い黄色で,使用の部分は薄い緑色で着色し,事業地内に物件があるときは,その主要なものを図示すること。収用し,若しくは使用しようとする物件又は収用し,若しくは使用しようとする権利の目的である物件があるときは,これらの物件が存する土地の部分を薄い赤色で着色すること。
二 設計の概要を表示する図書は,次に定めるところにより作成するものとする。
イ 都市計画施設の整備に関する事業にあつては,縮尺2500分の1以上の平面図等によつて主要な施設の位置及び内容を図示すること。
ロ (略)
三 (略)

 

練習答案

[設問1]
 抗告訴訟(行政事件訴訟法3条)の対象となる処分とは、行政庁が特定の者を名あて人として、その者の権利を制限したりその者に義務を負わせたりする行為のことである。行政庁は私人に対し一方的にこうした処分をするので両者が対等の当事者であるとは言い難く、民事訴訟法の規定が行政事件訴訟法により修正されている。本件計画決定が処分に当たるかどうかを検討する際には、先に述べた処分の定義や趣旨から考えなければならない。
 都市計画とは、都市計画法(以下「法」とする)4条にあるように、都市の健全な発展と秩序ある整備を図るための土地利用、都市施設の整備及び市街地開発事業に関する計画である。本件計画決定は、その都市計画をQ県が決定したものであり、その旨の告示や指定された図書を公衆の縦覧に供しなければならないものである(法20条1項、2項)。
 本件計画に含まれる本件道路は都市計画施設である(法4条6項、11条1項1号)。よってその区域内の本件土地上で建築物の建築をしようとする者であるPは、Q県知事の許可を受けなければならない(法53条1項)。P自身もそのように考え、Q県の職員に8階建てマンションの建築について話したところ、Q県知事の許可は得られないだろうと言われている。
 このように、Pは自己所有の土地上に自分の希望する建物を建築するという権利を本件計画決定により制限されている。本件計画決定は表面的にPを名あて人としたものではないが、公衆の縦覧に供しなければならない指定された図書は、土地に関し権利を有する者が、自己の権利に係る土地が都市計画施設の区域に含まれるかどうかを容易に判断することができるものでなければならない(法14条1項、2項)ので、実質的にはPほか都市計画施設の区域の土地に権利を有する特定の者を名あて人にしているに等しい。*①を挿入
 以上より、本件計画決定は、Q県がPを名あて人として、Pが自己所有の土地上に自分の希望する建物を建築する権利を制限するものなので、抗告訴訟の対象となる処分に当たる。本件計画決定は事業の「青写真」の決定にすぎず処分性はないとするQ県の職員の主張は、最高裁判所平成20年9月10日大法廷判決の解釈を誤ったものであり、失当である。

 

[設問2]
 Q県が本件計画道路の区間又は幅員を縮小する変更をせずに本件計画を存続させていることは適法である。
 1.適法とする法律論
 そもそも都市計画を定めることはQ県の裁量の範囲内である。都市計画法に「都市計画を定めなければならない」や「都市計画を定めてはならない」といった規定は見当たらない。よって当不当の問題はさておき、都市計画が違法となるのはよほどの場合に限られる。
 本件計画決定がなされた1970年当時に適法であったことに争いはない。確かに本件計画道路の交通量が1990年から2010年までに約20パーセント減少しているという事実はあるが、他方で本件区間の整備を進めれば交通需要が増えていくという予測があるし、基準道路密度を満たすためという事情もある。都市計画区域は一体の都市として総合的に整備するものであり(法5条1項)、都市計画は当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを、一体的かつ総合的に定めなければならない(法13条1項)のであるから、1つの否定的な要素があっても他の肯定的な要素を合わせて総合的に考えて本件計画を存続させていることは適法である。
 2.違法とする法律論
 都道府県は、法第6条第1項の規定による都市計画に関する基礎調査の結果都市計画を変更する必要が明らかとなったときは、遅滞なく、当該都市計画を変更しなければならない(法21条1項)。Q県が5年ごとに行っている都市計画に関する基礎調査で本件計画道路の交通量が1990年から2010年までに約20パーセント減少しているという結果が出ているので、本件計画を変更する必要は明らかであり、Q県は遅滞なく本件計画を変更しなければならない。その調査結果が出されてからも本件計画を存続させていることは、法21条1項に反し違法である。
 3.結論
 法21条1項の「都市計画を変更する必要が明らかとなったとき」というのは、そもそものQ県の裁量や、他の要素も含めた総合的な都市整備という見地を考慮してもなお都市計画を変更する必要が明らかなときを指すのであり、本件ではそこまで至っていないので、本件計画を存続させていることは適法である。

 

[設問3]
 法には本件支払請求の根拠となりそうな規定がないので、Pは日本国憲法29条3項に基づいて損失補償を請求することになる。しかしその請求は認められない。
 Pが主張するように、本件建築制限により本件土地の地価が低落しているかどうかはわからない。建築制限があるといっても2階建ての住宅などは建てることができるのであるから、ほとんど制限されていないと言え、地価が低落しないことも十分考えられる。また、仮に地価が低落しているとしても、それは受忍限度内である。日本国憲法29条1項に保障される財産権といえども、絶対無制約ではあり得ず、公共の福祉のために制限されることがある。本件では適法な都市計画の一環で建築制限を受けているにすぎないず[原文ママ]、その制限もわずかなものなので、受忍限度内である。

*①また、これに従わなければ罰則もある(法81条1項、91条)

以上

 

 

 

修正答案

[設問1]
 抗告訴訟(行政事件訴訟法3条)の対象となる処分とは、行政庁が特定の者を名あて人として、その者の権利を制限したりその者に義務を負わせたりする行為のことである。行政庁は私人に対し一方的にこうした処分をするので両者が対等の当事者であるとは言い難く、民事訴訟法の規定が行政事件訴訟法により修正されている。本件計画決定が処分に当たるかどうかを検討する際には、先に述べた処分の定義や、どの段階で行政事件訴訟法の規律に服させるべきかという点から検討しなければならない。
 都市計画とは、都市計画法(以下「法」とする)4条にあるように、都市の健全な発展と秩序ある整備を図るための土地利用、都市施設の整備及び市街地開発事業に関する計画である。本件計画決定は、その都市計画をQ県が決定したものであり、その旨の告示や指定された図書を公衆の縦覧に供しなければならないものである(法20条1項、2項)。
 本件計画に含まれる本件道路は都市計画施設である(法4条6項、11条1項1号)。よってその区域内の本件土地上で建築物の建築をしようとする者であるPは、Q県知事の許可を受けなければならない(法53条1項)。P自身もそのように考え、Q県の職員に8階建てマンションの建築について話したところ、Q県知事の許可は得られないだろうと言われている。
 このように、Pは自己所有の土地上に自分の希望する建物を建築するという権利を本件計画決定により一定程度制限されている。しかしながら本件計画決定はPを名あて人としたものではなく、一般的な制限である。よって処分の定義に該当しない。
 また、どの段階で行政事件訴訟法の規律に服させるべきかという点からも、本件都市計画決定に処分性を見出す意義が認められない。というのも、Q県の職員が主張するように、都市計画決定は変更されることもある「青写真」であって、後続する都市計画事業認可の段階で処分性を認めれば足りるからである。この都市計画事業認可の段階になると、厳しい建築制限が課され(法65条1項)、その土地が収用又は使用されるという地位に個別に立たされる(法69条、法施行規則47条)。最高裁判所平成20年9月10日大法廷判決の基準からすればこのような結論となる。
 以上より、本件計画決定は、Pを含む一定の者に一定の建築制限を課すという法的効果を有するが、処分には当たらない。後続する都市計画事業認可は、特定の者に強度の建築制限を課し土地を収用又は使用される地位に立たせるという法的効果を有し、処分に当たる。

 

[設問2]
 Q県が本件計画道路の区間又は幅員を縮小する変更をせずに本件計画を存続させていることは適法である。
 1.適法とする法律論
 そもそも都市計画を定めることはQ県の裁量の範囲内である。都市計画法に「都市計画を定めなければならない」や「都市計画を定めてはならない」といった規定は見当たらない。都市計画には政策的、専門技術的な判断が求められるので、広範な裁量に委ねられているのである。よって当不当の問題はさておき、都市計画が違法となるのは不正な動機や事実誤認などのよほどの場合に限られる。
 本件計画決定がなされた1970年当時に適法であったことに争いはない。確かに本件計画道路の交通量が1990年から2010年までに約20パーセント減少しているという事実はあるが、他方で本件区間の整備を進めれば交通需要が増えていくという予測があるし、基準道路密度を満たすためという事情もある。都市計画区域は一体の都市として総合的に整備するものであり(法5条1項)、都市計画は当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを、一体的かつ総合的に定めなければならない(法13条1項)のであるから、1つの否定的な要素があっても他の肯定的な要素を合わせて総合的に考えて本件計画を存続させていることは適法である。
 2.違法とする法律論
 都道府県は、法第6条第1項の規定による都市計画に関する基礎調査の結果都市計画を変更する必要が明らかとなったときは、遅滞なく、当該都市計画を変更しなければならない(法21条1項)。Q県が5年ごとに行っている都市計画に関する基礎調査では、c地点の付近において事業所及び人口が減少する「空洞化」の傾向が見られ、本件計画道路の交通量が1990年から2010年までに約20パーセント減少しているという結果が出ているので、本件計画を変更する必要は明らかであり、Q県は遅滞なく本件計画を変更しなければならない。本件区間の整備を進めれば、c地点付近の旧市街地の経済が活性化し、それに伴いb地点とc地点の間の交通需要が増えていくと予測は、地元の主張に迎合して事実を歪めている可能性がある。このような状況下で本件計画を存続させていることは、法21条1項に反し違法である。
 基準道路密度は、数値がわずかでも下回ってはいけないというように機械的に運用するべきものではなく、地域の実態や財政状況にも配慮して目標とすべきものなので、その観点から本件計画を存続させるという正当性は薄い。
 3.結論
 法21条1項の「都市計画を変更する必要が明らかとなったとき」というのは、そもそものQ県の裁量や、他の要素も含めた総合的な都市整備という見地を考慮してもなお都市計画を変更する必要が明らかなときを指すのであり、本件ではそこまで至っていないので、本件計画を存続させていることは適法である。不正な動機や事実誤認がはっきりあるとも言えない。

 

[設問3]
 Q県が本件計画を変更せずに存続させていることは適法であると仮定する場合、国家賠償は請求できないので、損失補償を請求する道を探る。法には本件支払請求の根拠となりそうな規定がないので、Pは日本国憲法29条3項に基づいて損失補償を請求することになる。しかしその請求は認められない。
 日本国憲法29条1項に保障される財産権といえども、絶対無制約ではあり得ず、公共の福祉のために制限されることがあり、損失補償は特別の犠牲を被った場合にのみ認められる。本件は積極的な都市計画の一環としての制限なので、警察や安全などの消極的な目的のための制限と比べると、特別の犠牲が認定されやすい。しかしながら、Pが主張するように建築制限があるといっても、2階建ての住宅などは建てることができるのであるから、ほとんど制限されていないと言える。Pは従前からの商店営業を続けることができたのであるし、持病が悪化してからも本件土地上でバリアフリー住宅に住み続けることができるのである。地価が下落しているといっても、同じ土地に住み続けるのであれば、その損害も潜在的なものに過ぎない。制限されているのは8階建てのマンションを建てて新たにマンション経営をすることくらいなので、財産権の侵害といっても重大な侵害ではない。40年ほど建築制限を受けてきたといっても、Pがそれに不満を抱くようになったのは最近のことであると推察される。以上より本件は特別の犠牲には当たらず受忍限度内であるので、PのQ県に対する本件支払請求は認められない。

以上

 

 

 

感想

[設問1]は判例に習熟していないこともあって設問を意図を汲み取れておらず、修正答案で大きく書き直しました。[設問2]はまだましだったかなと。[設問3]は「特別の犠牲」というキーワードを出せなかったのが悔やまれます。また、時間不足で記述も足りませんでした。

 




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