浅野直樹の学習日記

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平成30(2018)年司法試験予備試験論文再現答案一般教養科目

[設問1]
 再配分の特徴は、資源や富といった財を平等主義的に配分することに主眼が置かれ、それを所有する人間の個性やアイデンティティは問われないということである。例えば、統計的に女性のほうが所得が低いとしても、生活保護法では所得や資産などの要件を満たせば一律に扶助を受けられるのであって、性別などの属性が問われることはない。これは昔から社会正義の実現のための手段の中心とされてきた。
 承認の特徴は、人間の個性やアイデンティティといった多様性を尊重することである。例えば、性的マイノリティの人たちに配慮して、行政手続で必要とされる書類の性別欄で男か女のどちらかに丸をつけることを強制することをできるだけしないでおこうといったことである。これは社会正義の実現のための手段としては、比較的最近になって主張されるようになってきたものである。

[設問2]
 再配分と承認の両方が必要であるという筆者の見解の論拠は、現実問題として承認への要求が高まっているのだから、それと再配分とを切り離しておくのは得策ではないということである。
 確かにこの筆者の現状認識は的を射ている。しかしながら、私は筆者のこの主張には反対である。その理由は、承認は公共的な社会正義にはなじまないということである。
 公共的な存在である大学が、これまでは女子大だったのをこれからはトランスジェンダーの人も受け入れようとする動きがある。そうなると、大学がトランスジェンダーであるかどうかを判断しなければならなくなる。しかし本来的に性自認というものは私的なものである。大学の授業料を無償化したり、給付型奨学金を拡充したりするほうが、その人の性自認が何であれ、大学に通いやすくなる。
 当然のことながら、トランスジェンダーの人たちに対する侮辱発言などは問題である。しかしそれは対象がトランスジェンダーの人たちであっても少数民族の人たちであっても、侮辱することそのものが問題なのであって、大学が公共的にトランスジェンダーの人たちの認めることで解決する問題ではない。



平成30(2018)年司法試験予備試験論文再現答案刑事訴訟法

以下、刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

[設問1]
第1 強制捜査と任意捜査
 197条1項に規定される強制捜査は、個人の意思に反し、身体、住居、財産などを制約して強制的に捜査目的を達成しようとするものであって、刑事訴訟法に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。

第2 職務質問
 警察官職務執行法(以下「警執法」という。)2条1項を根拠として、警察官は職務質問をすることができる。そしてこの職務質問を実効力のあるものにするために、有形力の行使も含めて、強制捜査に至らない一定の処置をすることができると解されている。

第3 下線部①の行為の適法性
 ①の行為をするまでに、甲が自主的に歩き出したことを契機として、甲の腹部がPの右手に当たり、何か固い物が触れた感覚があったことから、甲が服の下に凶器等を隠している可能性が高まっていた。そして甲は職務質問に答えなかった。このような状況では、Pやその他周囲にいる人たちの安全のため、また職務質問を実効的なものにするため、①の行為をすることは適法である。服の上から触るという方法は相当である。

第4 下線部②の行為の適法性
 ①の行為から②の行為の直前までに、甲が凶器等を隠し持っている可能性は低下していた。また、背後から羽交い締めにすることは実質的な逮捕である。服の中に手を入れて、スボンのウエスト部分に挟まれていた物を取り出すことは、個人のプライバシーを大きく侵害し、個人の意思に反する。こうした事情から、②の行為は強制捜査に当たるので、違法である。

[設問2]
第1 違法収集証拠
 違法に収集された証拠といえども、物の客観的な性質に変わりはなく、一律に排除するのは適当でない。他方で、違法でも何でもとにかく証拠を集めて提出すれば裁判で取り扱われるとなると、違法な捜査に歯止めがかかりにくくなる。そこで、違法収集証拠に関しては、憲法及び刑事訴訟法の令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来の違法な捜査を抑制する観点から許容できないようなものは、証拠能力が否定されると考える。

第2 本件覚せい剤の証拠能力
 [設問1]で述べたように、本件覚せい剤は違法な捜査により収集されたものである。その違法は、無令状で実質的な逮捕を行いプライバシーを大きく侵害するという重大な違法であった。しかしながら、P及びQは、特に甲を狙いうちにしたというわけではなく、職務質問をきっかけとして甲を知るようになったのであり、②の行為の直前ではその可能性が低くなっていたものの、甲が凶器等を隠し持っている可能性もあった。そのような状況下でQがとっさの判断で行ったことであり、将来の違法な捜査を抑制する観点から許容できないとまでは言えないから、本件覚せい剤の証拠能力は否定されない(肯定される)。

以上



平成30(2018)年司法試験予備試験論文再現答案刑法

第1 甲の罪責
 1.横領の罪
 甲がVから預かった500万円を横領したと言えるかどうかについて検討する。
  ①業務性
   業務上横領罪(253条)の業務とは、人が社会生活上繰り返して行うことのことである。投資会社の事業資金として甲がVから500万円を受け取ったのは一回限りのことなので、業務ではない。
  ②自己の占有する他人の物
   現金が「自己の占有する他人の物」に該当するかどうかは問題となり得る。現金には個性がなく、量的な価値を表したものだからである。とはいえ、使途が指定され、自己の有する現金と交じらないようにしていれば、自己の占有する他人の物に当たる。本件では、投資会社の事業資金というように使途が定められ、専用口座に保管されていたので、自己の占有する他人の物に当たる。現代においては、預金も現金と同視してよい。
  ③横領した
   横領したというためには、所有者でなければできないような処分をして不法領得の意思を発現させなければならない。自己の借入金の返済として乙に現金500万円を手渡すことは、所有者でなければできないような処分なので、XはVから預かった500万円を横領したと言える。
  ④結論
   以上より、甲は、Vから預かった500万円につき、横領罪(252条1項)が成立する。
 2.詐欺の罪
 甲がA銀行B支店にて500万円を引き出したことにつき、詐欺罪の成否を検討する。
 詐欺罪(246条1項)の成立には、欺罔→錯誤→それに基づく交付→財産的損害という一連の流れが必要である。甲は「証書を紛失してしまった」と欺罔している。そしてCが錯誤に陥り、現金500万円を甲に渡しているので、一見詐欺罪が成立するかのようにも思える。しかしCがおちいった錯誤は「証書を紛失してしまった」ことと「証書を別の人の預けた」こととの錯誤であって、その錯誤がなかったとしても、所定の手続きに従って甲に500万円を交付していたと思われる。よって詐欺罪は成立しない。
 3.強盗の罪
 V方を訪れたことに関して、強盗の罪の成否を検討する。
  ①暴行又は脅迫を用いて
   強盗罪の暴行又は脅迫を用いてとは、一般人の反抗を抑圧するに足りる暴行又は脅迫のことである。本件において甲はサバイバルナイフを手に持ってVの目の前に示しながら500万円を放棄する念書を書けと迫っている。これは一般人の反抗を抑圧するに足りる脅迫である。
  ②財産上不法の利益を得
   甲はVに対して500万円を返済するという債務を負っており、それを消滅させることは、財産上不法の利益を得たと言える。
  ③他人の財物を強取(共犯からの離脱)
   後述するように、上記の2項強盗は甲と乙との共犯であり、Vの10万円に関して乙には1項強盗罪が成立する。そもそも共犯が処罰されるのは、犯罪を共同することにより犯罪の実現が物理的・心理的に容易になるからである。そこで、共犯からの離脱は、そうした容易さが消滅しているかどうかで判断する。本件において、甲は乙の手を引いてV方から外へ連れ出し、サバイバルナイフを取り上げて立ち去った。また、某年9月1日の謀議でもVから10万円を奪うという話は出ておらず、同月5日にV方を訪問した際にも乙が一方的に10万円払えと言っているだけで、甲はそれに同意もしていない。こうした事情から、乙がVから10万円を強取ことに関して、甲による物理的・心理的な容易さは消滅しているので、甲は共犯から離脱しており、1項強盗罪は成立しない。Vが恐怖のあまり身動きできないでいたのは結果的にそうなっていただけである。
 4.結論
  以上より、甲には横領罪(252条1項)と強盗罪(236条2項)が成立し、これらは併合罪(45条)となる。これらはVの500万円という同一の法益の侵害であるが、1か月以上の間があり、また犯罪の態様も異なるので、併合罪である。

第2 乙の罪責
 1.2項強盗罪
  二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする(60条)。共同して犯罪を実行したと言えるためには、共同で犯罪を実行することの意思連絡が必要である。甲と乙は某年9月1日に、V方に押し掛けて脅して500万円の債権を放棄させるという謀議をなした。そして実際に同年9月5日に共同して犯罪を実行している。2項強盗罪が成立することについては、「他人にこれを得させた」という点が異なるほかは、先ほど甲について述べたとの同様である。
 2.1項強盗罪
  暴行又は脅迫を用いての意味は先述の通りである。自分がすでに一般人の反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫をした後では、その状態を利用するだけで、暴行又は脅迫を用いたことになると考える。本件では、乙が甲とともにそうした脅迫をした後で、その状態を利用して乙がV所有の財布から10万円を抜き取って立ち去った。以上より、乙には1項強盗罪も成立する。
 3.結論
  以上より、乙には、236条1項の強盗罪と2項の強盗罪が成立し、これらは併合罪となる。自然的社会的に観察して1個の行為とは言えないので、これでよい。

以上



平成30(2018)年司法試験予備試験論文再現答案行政法

[設問1]
第一 処分性
 抗告訴訟の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法3条2項)とは、公権力を行使する主体たる国又は地方公共団体の行為であって、その行為により直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定させるもののことをいう。

第二 本件勧告
 地方公共団体であるY県の知事が本件勧告を行った。Xは株式会社であるが、日本国憲法22条1項の職業選択の自由などの権利はその性質上可能な限り法人(株式会社は法人である)にも及ぼすべきなので、Xも国民に含まれる。そして本件勧告により、Xに浄水器の販売に際し、条例25条4号の定める不適正な取引行為をしてはいけないという義務が形成されたので、本件勧告は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」である。
 そのような義務は道義上の義務であって、法的義務ではないというY県の反論が想定される。しかしこの義務に違反すると本件公表を受けるという地位に立たされるという効果があるので、法的義務であると言える。
 また、処分性を判断するためには、どの段階で抗告訴訟により争わせるべきかという観点も重要となる。本件においては、一度公表されてしまうと取り返しがつかないので、その観点からしても、本件勧告に処分性が認められる。

第三 本件公表
 地方公共団体であるY県の知事が本件公表を行った。Xが国民に含まれることは先述した通りである。本件公表により、Xは金融機関Aからの融資が停止されるというように、権利を奪われている。よって本件公表は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」である。
 それは本件公表の直接的な効果ではなく、間接的な効果に過ぎないというY県の反論が想定される。しかしながら、インターネットなどの情報技術が発達し、消費者意識や企業のコンプライアンス意識が高まっている今日において、公表により何らの効果も直接的に発生しないとするのは非現実的である。現にAはXへの融資を停止することは容易に想定され、そうなるとXの経営に深刻な影響が及ぶ。以上より、本件公表に処分性が認められる。

[設問2]
第一 本件勧告の性質
 「勧告することができる」という条例48号の文言からしても、勧告の性質からしても、勧告をするかどうかにY県知事の裁量が認められる。よって、Xとしては、そのXの裁量権に逸脱・濫用があったことを主張することになる。

第二 処分基準及び理由提示の不備
 本件勧告は不利益処分である。不利益処分に関しては、処分基準を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければならない(行政手続法12条1項)。確かに処分基準を定めて公表する義務は努力義務であるが、本件においてはその障害となる事情が存在しないので、処分基準を定めて公表しなかったことが違法となる。
 また、一般に行政手続で理由提示が求められるのは、行政行為の慎重と公正を期し、処分の名あて人などの不服申立てに便宜を図るためである。本件においては、適用条項が示されただけであり、理由提示に不備がある。よって違法である。不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならないと行政手続法14条1項に定められている。
 なお、こうした手続き違反は、勧告をするかどうかに関する裁量とは別次元の話である。

第三 裁量権の逸脱・濫用
 本件勧告に先立ってXに意見陳述の機会が付与されている。これは条例49条に定めれた義務である。Xはそこで①〜③の主張を行った。しかしY県知事は、それらの主張を考慮することなく、本件勧告を行った。いくら勧告をするかどうかに裁量権が認められるとしても、条例で義務付けられている意見陳述を全く無視することは裁量権の逸脱・濫用である。よって本件勧告は違法である。

以上



平成30(2018)年司法試験予備試験論文再現答案憲法

以下日本国憲法についてはその条数のみを示す。

 

第一 法律上の争訟性
 76条1項及びそれを受けた裁判所法3条1項の「法律上の争訟」とは、権利義務又は法律関係の紛争で、法令の適用により終局的に解決できるもののことである。地方議会のような団体には私的自治が認められるべきであるが、32条の裁判を受ける権利からしても、市民社会上の権利義務に関わることについては法律上の争訟に当たる。本件において、Xは処分2により除名されており、市民社会上の権利が奪われているので、法律上の争訟になる。

 

第二 21条で保障されるべき議員としての活動の自由
 1.Xの憲法上の主張
  21条で表現の自由が保障されているのは、前文及び1条の国民主権を担保することをその大きな目的としている。市議会議員として活動することはまさにそれである。よって、そのような表現の自由を制約するためには、やむにやまれぬ事由がなければならない。本件ではそうした事由がないのにXの議員としての活動の自由が処分2により制約されているので、違憲である。
 2.想定される反論
  表現の自由といえども、他の権利との調整といった内在的な制約に服する。特に内容中立的な規制が求められる場面は多々ある。本件においても、Dやその他の議員が安心して発言できるように、処分2が必要だった。
 3.私自身の見解
  上記のどちらの議論ももっともである。しかし表現(言論)には表現(言論)で対抗するのが基本である。本件においてXは除名処分を受けて言論の場そのものを奪われている。そのような制約をするにはやむにやまれぬ事由がなければならない。仮に処分1が正当だとしても、地方自治法135条3号の出席停止などの処分をすることもできた。出席停止処分をしても侮辱発言を繰り返すようなら除名もやむを得ないかもしれないが、そうではない本件において除名をする処分2は違憲である。

 

第三 19条で保障されるべき思想・良心の自由
 1.Xの憲法上の主張
  特定の内容の陳謝文を公開の議場において朗読されられることは、19条で保障されるべき思想・良心の自由を侵害して違憲である。
 2.想定される反論
  思想・良心の自由は、個人の内面にとどまる限り、絶対的に保障されるが、外的行為に関してはそうではない。国会の制定した立法や裁判所の判決に従って一定の外的行為が求められる場合もある。
 3.私自身の見解
  裁判の判決で謝罪広告を命じることは、その内容が一般的な謝罪の文言にとどまる限り、思想・良心の自由を侵害して違憲とならないという判例がある。本件の謝罪文の文言も、一般的な謝罪の文言である。よって処分1が思想・良心の自由を侵害して違憲となることはない。もっとも、自分の肉声で朗読することは、活字で掲載することよりも、思想・良心の自由を侵害する度合いが大きいと考えられる。しかし、国会で制定された地方自治法がそうした陳謝を想定しているのであって、やはり処分1が違憲となることはない。

以上




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