浅野直樹の学習日記

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2015 / 6月

平成26年司法試験予備試験論文(民法)答案練習

問題

次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。

【事実】

1.Aは,自宅近くにあるB所有の建物(以下「B邸」という。)の外壁(れんが風タイル張り仕上げ)がとても気に入り,自己が所有する別荘(以下「A邸」という。)を改修する際は,B邸のような外壁にしたいと思っていた。
2.Aは,A邸の外壁が傷んできたのを機に,外壁の改修をすることとし,工務店を営むCにその工事を依頼することにした。Aは,発注前にCと打合せをした際に,CにB邸を実際に見せて,A邸の外壁をB邸と同じ仕様にしてほしい旨を伝えた。
3.Cは,B邸を建築した業者であるD社から,B邸の外壁に用いられているタイルがE社製造の商品名「シャトー」であることを聞いた。CはE社に問い合わせ,「シャトー」が出荷可能であることを確認した。
4.Cは,Aに対し,Aの希望に沿った改修工事が可能である旨を伝えた。そこで,AとCは,工事完成を1か月後とするA邸の改修工事の請負契約を締結した。Aは,契約締結当日,Cに対し,請負代金の全額を支払った。
5.工事の開始時に現場に立ち会ったAは,A邸の敷地内に積み上げられたE社製のタイル「シャトー」の色がB邸のものとは若干違うと思った。しかし,Aは,Cから,光の具合で色も違って見えるし,長年の使用により多少変色するとの説明を受け,また,E社に問い合わせて確認したから間違いないと言われたので,Aはそれ以上何も言わなかった。
6.Cは,【事実】5に記したA邸の敷地内に積み上げられたE社製のタイル「シャトー」を使用して,A邸の外壁の改修を終えた。ところが,Aは,出来上がった外壁がB邸のものと異なる感じを拭えなかったので,直接E社に問い合わせた。そして,E社からAに対し,タイル「シャトー」の原料の一部につき従前使用していたものが入手しにくくなり,最近になって他の原料に変えた結果,表面の手触りや光沢が若干異なるようになり,そのため色も少し違って見えるが,耐火性,防水性等の性能は同一であるとの説明があった。また,Aは,B邸で使用したタイルと完全に同じものは,特注品として注文を受けてから2週間あれば製作することができる旨をE社から伝えられた。
7.そこで,Aは,Cに対し,E社から特注品であるタイルの納入を受けた上でA邸の改修工事をやり直すよう求めることにし,特注品であるタイルの製作及び改修工事のために必要な期間を考慮して,3か月以内にその工事を完成させるよう請求した。

〔設問1〕
【事実】7に記したAの請求について,予想されるCからの反論を踏まえつつ検討しなさい。

【事実(続き)】
8.【事実】7に記したAの請求があった後3か月が経過したが,Cは工事に全く着手しなかった。そこで,嫌気がさしたAは,A邸を2500万円でFに売却し,引き渡すとともに,その代金の全額を受領した。
9.なお,A邸の外壁に現在張られているタイルは,性能上は問題がなく,B邸に使用されているものと同じものが用いられていないからといって,A邸の売却価格には全く影響していない。

〔設問2〕
Aは,A邸をFに売却した後,Cに対し,外壁の改修工事の不備を理由とする損害の賠償を求めている。この請求が認められるかを,反対の考え方にも留意しながら論じなさい。なお,〔設問1〕に関して,AのCに対する請求が認められることを前提とする。

 

 

練習答案(実際の試験での再現答案)

(A評価)

 以下民法についてはその条数のみを示す。

[設問1]
 私はこのAの請求が認められるべきだと考える。
 本件のA邸の改修工事は請負契約であり、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる(第632条)。ここでの「仕事」は「A邸の外壁をB邸と同じ仕様にすること」である。Cは「シャトーを用いてA邸の外壁を改修すること」がここでの仕事だと反論するかもしれないが、AはCにB邸を実際に見せてこれと同じ仕様にしてほしい旨を伝えているのであって、シャトーを用いるというのはCの判断である。
 そうであるなら、シャトーを用いていても、B邸の外壁とは異なる状態では、仕事の目的物に瑕疵があると言える。耐火性等の性能が同一だったとしても、Aは色などに着目して仕事を依頼しているのであるから、瑕疵だと言える。そのとき、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる(第634条第1項)。AはCに対し、特注品であるタイルの政策及び改修工事のために必要な期間を考慮して、3か月以内にその工事を完成させるよう請求したので、相当の期間を定めていると言える。Cは、その修補に過分の費用を要する(第634条第1項ただし書き)と主張するかもしれないが、Aが求めているタイルは注文を受けてから2週間あれば製作できることからしても、過分の費用を要することはないと考えられる。
 Cは、仕事の目的物の瑕疵が注文者の与えた指図によって生じた(第636条)と反論するかもしれないが、前述のように、AはB邸を実際に見せてこれと同じ仕様にしてほしい旨を伝えたのであるから、注文者であるAの指図によって生じたとは言えない。また、AはA邸の外壁の改修が終わってからすぐに本件請求をしていると読み取れるので、瑕疵の修補は仕事の目的物を引き渡した時から1年以内にしなければならない(第637条第1項)という期間も満たしていると思われる。
 以上より、本件請負契約の仕事はA邸の外壁をB邸と同じ仕様にすることなので、その仕事がまだ完成していないと考えるにせよ、仕事の目的物に瑕疵があると考えるにせよ、AはCに対し、本件請求をすることができる。

[設問2]
 この請求が認められると私は考える。
 [設問1]で述べたように、本件請負契約の仕事の目的物に瑕疵があるなら、注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる(第634条第2項)ので、注文者であるAは、請負人であるCに対し、外壁の改修工事の不備を理由とする損害の賠償を請求することができる。仮に仕事の目的物に瑕疵がなかったとしても、[設問1]のAのCに対する請求が認められるのであれば、Cは改修工事をやり直す債務を負っているので、債務不履行による損害賠償を請求することができる(第415条)。
 AはA邸を2500万円で売却し、引き渡すとともに、その代金の全額を受領していて、現在張られているタイルでもB邸と同じタイルでも売却価格には全く影響していないのだから、損害が発生していないとの反対の考え方があるかもしれない。しかしこの反論は本末転倒である。AはA邸の外壁を自分が望むようなB邸と同じ仕様にできなかったために仕方なくA邸を売却したのである。よってそのために損害の賠償が認められないということはない。

以上

 

 

修正答案

 以下民法についてはその条数のみを示す。

[設問1]
第1 Aの請求
 本件のA邸の改修工事は請負契約であり、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる(632条)。ここでの「仕事」は「A邸の外壁をB邸と同じ仕様にすること」である。「仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる」(634条1項)ので、注文者Aは、請負人Cに対し、【事実】7の請求をしていると考えられる。
第2 瑕疵
 Cは「シャトーを用いてA邸の外壁を改修すること」がここでの仕事であり、その仕事を瑕疵なく完成させたと反論するかもしれない。しかし、AはCにB邸を実際に見せてこれと同じ仕様にしてほしい旨を伝えているのであるから、その仕様とは主として外観を意味するのであって、シャトーを用いるというのはCの判断に過ぎない。そうであるなら、シャトーを用いていても、B邸の外壁とは異なる状態では、仕事の目的物に瑕疵があると言える。耐火性等の性能が同一だったとしても、Aは色などに着目して仕事を依頼しているのであるから、瑕疵だと言えるのである。そしてこの瑕疵は本件請負契約の主目的に関わっているので、重要でない瑕疵ではない。
第3 相当の期間
 Cは相当の期間が定められていないと反論するかもしれない。しかし、Aが求めている特注品のタイルはて注文を受けてから2週間あれば製作することができるのだから、Aが定めた3か月以内というのは相当な期間である。もともとの工事が1か月で完成させるという契約になっていたことからしても、3か月という期間は相当であることがわかる。
第4 過分の費用
 Cは、その修補に過分の費用を要する(第634条第1項ただし書き)と主張するかもしれないが、Aが求めているタイルは注文を受けてから2週間あれば製作できることからしても、過分の費用を要することはないと考えられる。仮に過分の費用を要するものであったとしても、先に検討したように重要でない瑕疵ではないので、同項ただし書きが適用されることはない。
第5 注文者の指図
 Cは、仕事の目的物の瑕疵が注文者の与えた指図によって生じた(第636条)と反論するかもしれないが、前述のように、AはB邸を実際に見せてこれと同じ仕様にしてほしい旨を伝えたのであるから、注文者であるAの指図によって生じたとは言えない。
第6 結論
 以上より、Aは、【事実】7に記した請求をすることができる。

[設問2]
第1 Aの請求
 「注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる」(634条2項)。Aの請求はこの損害賠償の請求である。
第2 請求時
 Aが本問の請求をしたのは、[設問1]の請求をしてから3か月が経過し、FにA邸を売却した後のことである。そこで請求時にもはや瑕疵修補の対象物を保持していない場合にも、634条2項の損害賠償請求が認められるか否かが問題となり得る。確かにこの損害賠償請求権は瑕疵修補を基礎とはしているが、瑕疵修補に代えて請求することができることからもわかるように、瑕疵修補請求権とは別個の権利である。物権的な権利であるというわけでもない。よって、本件のように、請求時に瑕疵修補の対象物を保持していなくても、損害賠償を請求することができる。このように解釈しないと、本件のように瑕疵修補がなされない場合にも対象物を保持し続けることが求められ、不合理である。
第3 損害の性質
 AはA邸をFに売却したのであるが、その際に本件瑕疵が売却価格に全く影響していない。つまりAには財産的損害は発生しておらず精神的損害しか発生していない。そのような精神的損害は「通常生ずべき損害」(416条1項)には含まれず、また予見のできた特別損害(416条2項)でもなかったという反論が想定される。634条2項の損害賠償も、415条の債務不履行による損害賠償の特則なので、416条は適用される。
 確かに本件請負契約締結時には、このような特別損害を予見できなかったかもしれないが、瑕疵修補を請求されたときには十分に予見できた。634条2項の損害賠償は瑕疵修補を基礎とした損害賠償なので、予見可能性を判断する基準時は、瑕疵修補請求時だと考えるのが合理的である。そのように解釈しないと、本件のように財産的損害が発生せず契約時には予見できない精神的損害のみが発生する場合には、瑕疵修補は認められても損害賠償は認められないという結果になり、634条の趣旨に適合しなくなる。
第4 結論
 以上より、本問のAの請求は認められる。

以上

 

 

感想

実際の試験で書いた答案がAではあったのですが、さらによくしようと大きく修正してみました。

 



平成26年司法試験予備試験論文(法律実務基礎科目(刑事))答案練習

問題

次の【事例】を読んで,後記〔設問〕に答えなさい。

【事 例】
1 A(男性,22歳)は,平成26年2月1日,V(男性,40歳)を被害者とする強盗致傷罪の被疑事実で逮捕され,翌2日から勾留された後,同月21日,「被告人は,Bと共謀の上,通行人から金品を強取しようと企て,平成26年1月15日午前零時頃,H県I市J町1丁目2番3号先路上において,同所を通行中のV(当時40歳)に対し,Bにおいて,Vの後頭部をバットで1回殴り,同人が右手に所持していたかばんを強く引いて同人を転倒させる暴行を加え,その反抗を抑圧した上,同人所有の現金10万円が入った財布等2点在中の前記かばん1個(時価合計約1万円相当)を強取し,その際,同人に加療約1週間を要する頭部挫創の傷害を負わせた。」との公訴事実が記載された起訴状により,I地方裁判所に公訴を提起された。なお,B(男性,22歳)は,Aが公訴を提起される前の同年2月6日に同裁判所に同罪で公訴を提起されていた。
2 Aの弁護人は,Aが勾留された後,数回にわたりAと接見した。Aは,逮捕・勾留に係る被疑事実につき,同弁護人に対し,「私は,平成26年1月14日午後11時頃,友人Bの家に居た際,Bから『ひったくりをするから,一緒に来てくれ。車を運転してほしい。ひったくりをする相手が見付かったら,俺だけ車から降りてひったくりをするから,俺が戻るまで車で待っていてほしい。俺が車に戻ったらすぐに車を発進させて逃げてくれ。』と頼まれた。Bからひったくりの手伝いを頼まれたのは,この時が初めてである。私は,Bが通行人の隙を狙ってかばんなどを奪って逃げてくるのだと思った。私は金に困っておらず,ひったくりが成功した際に分け前をもらえるかどうかについては何も聞かなかったが,私自身がひったくりをするわけでもないので自動車を運転するくらいなら構わないと思い,Bの頼みを引き受けた。その後,私は,先にBの家を出て,その家に来る際に乗ってきていた私の自動車の運転席に乗った。しばらくしてから,Bが私の自動車の助手席に乗り込んだ。Bが私の自動車に乗り込んだ際,私は,Bがバットを持っていることに気付かなかった。そして,私が自動車を運転して,I市内の繁華街に向かった。車内では,どうやってかばんなどをひったくるのかについて何も話をしなかった。私は,しばらく繁華街周辺の人気のない道路を走り,翌15日午前零時前頃,かばんを持って一人で歩いている男性を見付けた。その男性がVである。Bも,Vがかばんを持って歩いていることに気付き,私に『あの男のかばんをひったくるから,車を止めてくれ。』と言ってきた。私が自動車を止めると,Bは一人で助手席から降り,Vの後を付けて行った。この時,周囲が暗く,私は,Bがバットを持っていることには気付かなかったし,BがVに暴力を振るうとは思っていなかった。その後,私からは,VとBの姿が見えなくなった。私は,自動車の運転席で待機していた。しばらくすると,Bが私の自動車の方に走ってきたが,VもBの後を追い掛けて走ってきた。私は,Bが自動車の助手席に乗り込むや,すぐに自動車を発進させてその場から逃げた。Bがかばんを持っていたので,私は,ひったくりが成功したのだと思ったが,BがVに暴力を振るったとは思っていなかった。私とBは,Bの家に戻ってから,一緒にかばんの中身を確認した。かばんには財布と携帯電話機1台が入っており,財布の中には現金10万円が入っていた。Bが,私に2万円を渡してきたので,私は,自動車を運転した謝礼としてこれを受け取った。残りの8万円はBが自分のものにした。財布や携帯電話機,かばんについては,Bが自分のものにしたか,あるいは捨てたのだと思う。私は,Bからもらった2万円を自分の飲食費などに使った。」旨説明した。Aは,前記1のとおり公訴を提起された後も,同弁護人に前記説明と同じ内容の説明をした。
3 受訴裁判所は,同年2月24日,Aに対する強盗致傷被告事件を公判前整理手続に付する決定をした。検察官は,同年3月3日,【別紙1】の証明予定事実記載書を同裁判所及びAの弁護人に提出・送付するとともに,同裁判所に【別紙2】の証拠の取調べを請求し,Aの弁護人に当該証拠を開示した。Aの弁護人が当該証拠を閲覧・謄写したところ,その概要は次のとおりであった。
(1) 甲第1号証の診断書には,Vの受傷について,同年1月15日から加療約1週間を要する頭部挫創の傷害と診断する旨が記載されていた。
(2) 甲第2号証の実況見分調書には,司法警察員が,Vを立会人として,同日午前2時から同日午前3時までの間,Vがかばんを奪われるなどの被害に遭った事件現場としてH県I市J町1丁目2番3号先路上の状況を見分した結果が記載されており,同所付近には街灯が少なく,夜間は非常に暗いこと,同路上の通行量はほとんどなく,実況見分中の1時間のうちに通行人2名が通過しただけであったことなども記載されていた。
(3) 甲第3号証のバット1本は,木製で,長さ約90センチメートル,重さ約1キログラムのものであった。
(4) 甲第4号証のVの検察官調書には,「私は,平成26年1月15日午前零時頃,勤務先から帰宅するためI市内の繁華街に近い道路を一人で歩いていたところ,いきなり何者かに後頭部を固い物で殴られ,右手に持っていたかばんを強く引っ張られて仰向けに転倒した。私は,仰向けに転倒した拍子にかばんから手を離した。すると,この時,私のすぐそばに男が立っており,その男が左手にバットを持ち,右手に私のかばんを持っているのが見えた。そこで,私は,その男にバットで後頭部を殴られたのだと分かった。男は,私のかばんを持って逃げたが,その際,バットを地面に落としていった。かばんには,財布と携帯電話機1台を入れており,財布の中には,現金10万円を入れていた。男にかばんを奪われた後,私は,すぐに男を追い掛けたが,男が自動車に乗って逃げたため,捕まえることはできなかった。」旨記載されていた。
(5) 甲第5号証のBの検察官調書には,「私は,サラ金に約50万円の借金を抱え,平成26年1月15日に事件を起こす1週間くらい前から,遊ぶ金欲しさに,通行人からかばんなどをひったくることを考えていた。通行人からかばんなどをひったくる際には抵抗されることも予想し,そのときは相手を殴ってでもかばんなどを奪おうと考えていた。私は,同月14日午後11時頃,私の自宅に来ていた友人Aに『ひったくりをするから,一緒に来てくれないか。車を運転してほしい。ひったくりをする相手が見付かったら,俺が一人で車から降りてひったくりをするから,その間,車で待っていてくれ。俺が車に戻ったら,すぐに車を走らせて逃げてほしい。』と頼んだ。Aは,快く引き受けてくれて,Aの自動車でI市内の繁華街に行くことを話し合った。私は,かばんなどを奪う相手に抵抗されたりした場合にはその相手をバットで殴ったり脅したりしようと考え,自分の部屋からバット1本を持ち出し,そのバットを持ってAの自動車の助手席に乗った。そして,Aが自動車を運転して繁華街に向かい,その周辺の道路を走行しながら,ひったくりの相手を探した。車内では,どうやってかばんなどを奪うのかについて話はしなかった。私は,かばんを持って一人で歩いている男性Vを見付けたので,Aに停車してもらってから,私一人でバットを持って降車し,Vの後を付けて行った。私がバットを持って自動車に乗ったことや,バットを持って自動車から降りたことは,Aも自動車の運転席に居たのだから,当然気付いていたと思う。私は,降車してしばらくVを追跡してから,同月15日午前零時頃,背後からVに近付き,いきなりVが右手に持っていたかばんをつかんで後ろに引っ張った。この時,Vが後方に転倒して頭部を地面に打ち付け,かばんから手を離したので,私は,すぐにかばんを取ることができた。私は,Vを転倒させようと思ってかばんを引っ張ったわけではなく,バットで殴りもしなかった。かばんを奪った直後,私は,手を滑らせてバットをその場に落としてしまったが,Vがすぐに立ち上がって私を捕まえようとしたので,バットをその場に残したままAの自動車まで走って逃げた。私は,Vに追い掛けられたが,私がAの自動車の助手席に乗り込むとAがすぐに自動車を発進させてくれたので,逃げ切ることができた。その後,私とAは,私の自宅に戻り,Vのかばんの中身を確認した。かばんには,財布と携帯電話機1台が入っており,財布には現金10万円が入っていた。そこで,私は,Aに,自動車を運転してくれた謝礼として現金2万円を渡し,残り8万円を自分の遊興費に使った。財布や携帯電話機,かばんは,私がいずれもゴミとして捨てた。」旨記載されていた。
(6) 乙第1号証のAの警察官調書には,Aの生い立ちなどが記載されており,乙第2号証のAの検察官調書には,前記2のとおりAが自己の弁護人に説明した内容と同じ内容が記載されていた。乙第3号証の身上調査照会回答書には,Aの戸籍の内容が記載されていた。
4 Aの弁護人は,【別紙1】の証明予定事実記載書及び【別紙2】の検察官請求証拠を検討した後,①同証明予定事実記載書の内容につき,受訴裁判所裁判長に対して求釈明を求める方針を定め,また,②検察官に対し,【別紙2】の検察官請求証拠の証明力を判断するため,類型証拠の開示を請求した。そこで,検察官は,当該開示請求に係る証拠をAの弁護人に開示した
その後,同年3月14日,Aに対する強盗致傷被告事件につき,第1回公判前整理手続期日が開かれた。裁判長は,Aの弁護人からの前記求釈明の要求に応じて,検察官に釈明を求めた。そこで,検察官は,今後,証明予定事実記載書を追加して提出することにより釈明する旨述べた。
第1回公判前整理手続期日が終了した後,検察官は,追加の証明予定事実記載書を受訴裁判所及びAの弁護人に提出・送付した。Aの弁護人は,BがVの後頭部をバットで殴打したか否かなどの実行行為の態様については,甲第4号証のVの検察官調書が信用性に乏しく,甲第5号証のBの検察官調書が信用できると考えた。その上で,③Aの弁護人は,前記2のAの説明内容に基づいて予定主張記載書面を作成し,これを受訴裁判所及び検察官に提出・送付した。同月28日,第2回公判前整理手続期日が開かれ,受訴裁判所は,争点及び証拠を整理し,V及びBの証人尋問が実施されることとなった。そして,同裁判所は,争点及び証拠の整理結果を確認して審理計画を策定し,公判前整理手続を終結した。公判期日は,同年5月19日から同月21日までの連日と定められた。
5 その後,Bに対する強盗致傷被告事件の公判が,同年4月21日から同月23日まで行われた。Bは,同公判の被告人質問において,「実は,起訴されるまでの取調べにおいては嘘の話をしていた。本当は,平成26年1月14日午後11時頃,自宅において,Aに対し本件犯行への協力を求めた際,Aから『バットを持って行けばよい。』と勧められた。また,Vを襲った時,バットでVの後頭部を殴ってから,Vのかばんを引っ張った。」旨新たに供述した。そこで,Aの公判を担当する検察官が,同年4月24日にBを取り調べたところ,Bは自己の公判で供述した内容と同旨の供述をしたが,その一方で「Aの前では,Aに責任が及ぶことについて話しづらいので,Aの公判では,できることなら話したくない。今日話したことについては,供述調書の作成にも応じたくない。」旨供述した。④同検察官は,取調べの結果,Bが自己の公判で新たにした供述の内容が信用できると判断した

k01

k02

〔設問1〕
下線部①につき,Aの弁護人が求釈明を求める条文上の根拠を指摘するとともに,同弁護人が求釈明を求める事項として考えられる内容を挙げ,当該求釈明の要求を必要と考える理由を具体的に説明しなさい。

〔設問2〕
下線部②につき,Aの弁護人が甲第4号証のVの検察官調書の証明力を判断するために開示を請求する類型証拠として考えられるものを3つ挙げ,同弁護人が当該各証拠の開示を請求するに当たり明らかにしなければならない事項について,条文上の根拠を指摘しつつ具体的に説明しなさい。ただし,当該各証拠は,異なる類型に該当するものを3つ挙げることとする。

〔設問3〕
下線部③につき,Aの弁護人は,Aの罪責についていかなる主張をすべきか,その結論を示すとともに理由を具体的に論じなさい。

〔設問4〕
下線部④につき,検察官は,Bが自己の公判で新たにした供述の内容をAの公訴事実の立証に用いるためにどのような訴訟活動をすべきか,予想されるAの弁護人の対応を踏まえつつ具体的に論じなさい。

 

練習答案(実際の試験での再現答案)

(F評価)

 以下刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

[設問1]
 Aの弁護人が求釈明を求める条文上の根拠は第316条の16である。そして乙第1号証に関し、その必要性について求釈明を求めると考えられる。これは裁判官に予断を抱かせる危険があるからである。

[設問2]
 第316条の15に基づいて以下の証拠の開示を請求する。
(1) 被告人の供述録取書(第316条の15第1項第7号)
甲第4号証との食い違いを確かめるため。
(2) 第321条第2項に規定する裁判所又は裁判官の検証の結果を記載した書面(第316条の15第1項第2号)
甲第4号証との食い違いを確かめるため。
(3) 第321条第3項に規定する書面又はこれに準ずる書面(第316条の15第1項第3号)
甲第4号証との食い違いを確かめるため。

[設問3]
 BはVから、すぐにかばんを取ることができ、Vを転倒させようと思ってかばんを引っ張ったわけではなく、バットで殴りもしなかった。そこでは反抗を抑圧するほどの暴行がなされていないので、強盗致傷は成立しない。実行行為者であるBについて強盗致傷が成立しない以上、その共犯であるAに強盗致傷は成立しない。

[設問4]
 Bの供述内容をAの公訴事実の立証に用いるためには、BをAの公判で証人尋問するのが筋である。BはAの前では話しづらいと言っているので、不安や緊張を覚えるおそれがあり、付き添い人をつけることができる(第157条の2第1項)。Aの弁護人は、付き添い人が供述の内容に不当な影響を与える(第157条の2第2項)と反論するかもしれないが、そのようなことはないと主張すればよい。遮へい措置(第157条の3)やビデオリンク方式(第157条の4)で行うこともできる。Aの弁護人はそれでは被告人が証人の様子を観察できないと主張するかもしれないが、少なくとも弁護人は観察できるのだから大丈夫だと主張できる。
 また、Bが自己の公判でした供述を書面で提出することもできる。Aの弁護人は伝聞証拠だとしてその証拠能力を否定するだろうが、公判期日において供述することができないとき(第321条第1項第1号)として証拠とすることを求めることができる。

以上

 

 

修正答案

以下刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
 Aの弁護人が求釈明を求める条文上の根拠は刑事訴訟規則208条3項である。同弁護人が求釈明を求める事項として、証明予定事実記載書の「なお,被告人は,Bが乗車した際にバットを持っていることを認識していた」という部分に関して、いつどのようにしてそのような認識があったのかということが挙げられる。この認識は、被告人(A)に強盗罪が成立するか窃盗罪が成立するかを決める際の重要なポイントであり、弁護人が適切な防御活動を行うために、その態様をはっきりさせておく必要があるからである。

 

[設問2]
1.総論
 弁護人は、特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であると認められる類型証拠の開示を請求できる(316条の15第1項柱書)。その際には、その証拠の類型及び開示の請求に係る証拠を識別するに足りる事項(316条の15第2項1号)及び当該開示の請求に係る証拠が当該検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であることその他の被告人の防御の準備のために当該開示が必要である理由(316条の15第2項2号)を明らかにしなければならない。
2.開示を請求する類型証拠
 (1)Vの警察官に対する供述録取書(316条の15第1項5号ロ)
 Vの警察官に対する供述録取書は、甲第4号証の検察官調書と照らしあわせて矛盾がないかを確認することでその証明力を判断できるので重要である。
 (2)本件バットの鑑定書(316条の15第1項4号)
 本件バットの鑑定書により、Vの毛髪や血液が付着していたかどうかを確認することができ、甲第3号証の同バットの証明力を判断できるので重要である。
 (3)目撃者の供述録取書(316条の15第1項6号)
 本件犯行の目撃者がいてもおかしくはなく、その人の供述録取書が作成されている可能性がある。その内容から甲第4号証の証明力を判断できるので重要である。

 

[設問3]
1.実行行為者であるBに強盗罪が成立しない
 本件ではAとBは共犯であり、Bが実行行為を行っている。甲第4号証のVの検察官調書が信用性に乏しく、甲第5号証のBの検察官調書が信用できると考えられたので、その実行行為は反抗を抑圧するに足る暴行ではなかったので強盗罪には当たらず窃盗罪及び傷害罪にしか当たらないと言え、共犯者であるAの罪も窃盗罪及び傷害罪以上になることはないと主張できる。
2.共犯は傷害罪に及ばない
 Bは甲第5号証で「私がバットを持って自動車に乗ったことや,バットを持って自動車から降りたことは,Aも自動車の運転席に居たのだから,当然気付いていたと思う。」と述べているが、これはBの感想を述べただけであり、Aはバットを認識していなかったと言っているので、Bとの共謀が傷害罪には及ばないと主張できる。
3.共同正犯ではなく幇助にとどまる
 確かにAはBとひったくりの共謀をして、Aは運転行為を担当し、2万円の分け前ももらったが、運転行為が窃盗に果たした役割はそれほど大きくなく、分け前も運転行為の対価に相当するほどの低額であったので、Aは窃盗の共同正犯ではなく幇助にとどまると主張できる。
4.結論
 以上より、Aには窃盗罪の幇助が成立するにとどまる。

 

[設問4]
 検察官は、BをAの公判の証人として尋問することを請求すべきである。Aの弁護人からは、公判前整理手続が終わった後に証拠調べを請求することはできない(316条の32第1項)との反論が想定されるが、Bが公判前整理手続終了後に新たな供述をしたというやむを得ない事情があると主張すべきである。Aの前では話したくないとBは言っているので、Aと顔を合わせずにすむように尋問の際の遮へい措置(157条の3)を請求すべきである。

 

感想

本当に難しく感じます。調べて書いた修正答案にも自信がありません。

 




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