行政法論証集のための判例引用リンク集

契約締結の拒否による行政目的の達成

最決平成1.11.8(武蔵野市マンション事件)

 なお、原判決の認定によると、被告人らが本件マンションを建設中のA建設及びその購入者から提出された給水契約の申込書を受領することを拒絶した時期には、既に、A建設は、武蔵野市の宅地開発に関する指導要綱に基づく行政指導には従わない意思を明確に表明し、マンションの購入者も、入居に当たり給水を現実に必要としていたというのである。そうすると、原判決が、このような時期に至ったときは、水道法上給水契約の締結を義務づけられている水道事業者としては、たとえ右の指導要綱を事業主に順守させるため行政指導を継続する必要があったとしても、これを理由として事業主らとの給水契約の締結を留保することは許されないというべきであるから、これを留保した被告人らの行為は、給水契約の締結を拒んだ行為に当たると判断したのは、是認することができる。
 また、原判決の認定によると、被告人らは、右の指導要綱を順守させるための圧力手段として、水道事業者が有している給水の権限を用い、指導要綱に従わないA建設らとの給水契約の締結を拒んだものであり、その給水契約を締結して給水することが公序良俗違反を助長することとなるような事情もなかったというのである。そうすると、原判決が、このような場合には、水道事業者としては、たとえ指導要綱に従わない事業主らからの給水契約の申込であっても、その締結を拒むことは許されないというべきであるから、被告人らには本件給水契約の締結を拒む正当の理由がなかったと判断した点も、是認することができる。

 

保護されるべき信頼関係

最判昭和56.1.27

そこで、原審の右判断の当否について検討するのに、地方公共団体の施策を住民の意思に基づいて行うべきものとするいわゆる住民自治の原則は地方公共団体の組織及び運営に関する基本原則であり、また、地方公共団体のような行政主体が一定内容の将来にわたつて継続すべき施策を決定した場合でも、右施策が社会情勢の変動等に伴つて変更されることがあることはもとより当然であつて、地方公共団体は原則として右決定に拘束されるものではない。しかし、右決定が、単に一定内容の継続的な施策を定めるにとどまらず、特定の者に対して右施策に適合する特定内容の活動をすることを促す個別的、具体的な勧告ないし勧誘を伴うものであり、かつ、その活動が相当長期にわたる当該施策の継続を前提としてはじめてこれに投入する資金又は労力に相応する効果を生じうる性質のものである場合には、右特定の者は、右施策が右活動の基盤として維持されるものと信頼し、これを前提として右の活動ないしその準備活動に入るのが通常である。このような状況のもとでは、たとえ右勧告ないし勧誘に基づいてその者と当該地方公共団体との間に右施策の維持を内容とする契約が締結されたものとは認められない場合であつても、右のように密接な交渉を持つに至つた当事者間の関係を規律すべき信義衡平の原則に照らし、その施策の変更にあたつてはかかる信頼に対して法的保護が与えられなければならないものというべきである。すなわち、右施策が変更されることにより、前記の勧告等に動機づけられて前記のような活動に入つた者がその信頼に反して所期の活動を妨げられ、社会観念上看過することのできない程度の積極的損害を被る場合に、地方公共団体において右損害を補償するなどの代償的措置を講ずることなく施策を変更することは、それがやむをえない客観的事情によるのでない限り、当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして違法性を帯び、地方公共団体の不法行為責任を生ぜしめるものといわなければならない。そして、前記住民自治の原則も、地方公共団体が住民の意思に基づいて行動する場合にはその行動になんらの法的責任も伴わないということを意味するものではないから、地方公共団体の施策決定の基盤をなす政治情勢の変化をもつてただちに前記のやむをえない客観的事情にあたるものとし、前記のような相手方の信頼を保護しないことが許されるものと解すべきではない。

 

行政指導の限界

最判昭和60.7.16(品川マンション事件)

 もつとも、右のような確認処分の留保は、建築主の任意の協力・服従のもとに行政指導が行われていることに基づく事実上の措置にとどまるものであるから、建築主において自己の申請に対する確認処分を留保されたままでの行政指導には応じられないとの意思を明確に表明している場合には、かかる建築主の明示の意思に反してその受忍を強いることは許されない筋合のものであるといわなければならず、建築主が右のような行政指導に不協力・不服従の意思を表明している場合には、当該建築主が受ける不利益と右行政指導の目的とする公益上の必要性とを比較衡量して、右行政指導に対する建築主の不協力が社会通念上正義の観念に反するものといえるような特段の事情が存在しない限り、行政指導が行われているとの理由だけで確認処分を留保することは、違法であると解するのが相当である。
 したがつて、いつたん行政指導に応じて建築主と付近住民との間に話合いによる紛争解決をめざして協議が始められた場合でも、右協議の進行状況及び四囲の客観的状況により、建築主において建築主事に対し、確認処分を留保されたままでの行政指導にはもはや協力できないとの意思を真摯かつ明確に表明し、当該確認申請に対し直ちに応答すべきことを求めているものと認められるときには、他に前記特段の事情が存在するものと認められない限り、当該行政指導を理由に建築主に対し確認処分の留保の措置を受忍せしめることの許されないことは前述のとおりであるから、それ以後の右行政指導を理由とする確認処分の留保は、違法となるものといわなければならない。

 

民事訴訟による執行

最判平成14.7.9(宝塚パチンコ条例事件)

 行政事件を含む民事事件において裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は,裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」,すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって,かつ,それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる(最高裁昭和51年(オ)第749号同56年4月7日第三小法廷判決・民集35巻3号443頁参照)。国又は地方公共団体が提起した訴訟であって,財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には,法律上の争訟に当たるというべきであるが,国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は,法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって,自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから,法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではなく,法律に特別の規定がある場合に限り,提起することが許されるものと解される。そして,行政代執行法は,行政上の義務の履行確保に関しては,別に法律で定めるものを除いては,同法の定めるところによるものと規定して(1条),同法が行政上の義務の履行に関する一般法であることを明らかにした上で,その具体的な方法としては,同法2条の規定による代執行のみを認めている。また,行政事件訴訟法その他の法律にも,一般に国又は地方公共団体が国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟を提起することを認める特別の規定は存在しない。したがって,【要旨1】国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は,裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たらず,これを認める特別の規定もないから,不適法というべきである。
 【要旨2】本件訴えは,地方公共団体である上告人が本件条例8条に基づく行政上の義務の履行を求めて提起したものであり,原審が確定したところによると,当該義務が上告人の財産的権利に由来するものであるという事情も認められないから,法律上の争訟に当たらず,不適法というほかはない。そうすると,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上によれば,第1審判決を取り消して,本件訴えを却下すべきである。

 

行政処分の適正手続

最判昭和59.3.27

 憲法三八条一項の規定によるいわゆる供述拒否権の保障は、純然たる刑事手続においてばかりでなく、それ以外の手続においても、対象となる者が自己の刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を求めることになるもので、実質上刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続にはひとしく及ぶものと解される(最高裁昭和四四年(あ)第七三四号同四七年一一月二二日大法廷判決・刑集二六巻九号五五四頁。なお、同昭和二七年(あ)第八三八号同三二年二月二〇日大法廷判決・刑集一一巻二号八〇二頁参照)。
 ところで、国税犯則取締法は、収税官吏に対し、犯則事件の調査のため、犯則嫌疑者等に対する質問のほか、検査、領置、臨検、捜索又は差押等をすること(以下これらを総称して「調査手続」という。)を認めている。しかして、右調査手続は、国税の公平確実な賦課徴収という行政目的を実現するためのものであり、その性質は、一種の行政手続であつて、刑事手続ではないと解されるが(最高裁昭和四二年(し)第七八号同四四年一二月三日大法廷決定・刑集二三巻一二号一五二五頁)、その手続自体が捜査手続と類似し、これと共通するところがあるばかりでなく、右調査の対象となる犯則事件は、間接国税以外の国税については同法一二条ノ二又は同法一七条各所定の告発により被疑事件となつて刑事手続に移行し、告発前の右調査手続において得られた質問顛末書等の資料も、右被疑事件についての捜査及び訴追の証拠資料として利用されることが予定されているのである。このような諸点にかんがみると、右調査手続は、実質的には租税犯の捜査としての機能を営むものであつて、租税犯捜査の特殊性、技術性等から専門的知識経験を有する収税官吏に認められた特別の捜査手続としての性質を帯有するものと認められる。したがつて、国税犯則取締法上の質問調査の手続は、犯則嫌疑者については、自己の刑事上の責任を問われるおそれのある事項についても供述を求めることになるもので、「実質上刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する」ものというべきであつて、前記昭和四七年等の当審大法廷判例及びその趣旨に照らし、憲法三八条一項の規定による供述拒否権の保障が及ぶものと解するのが相当である。
 しかしながら、憲法三八条一項は供述拒否権の告知を義務づけるものではなく、右規定による保障の及ぶ手続について供述拒否権の告知を要するものとすべきかどうかは、その手続の趣旨・目的等により決められるべき立法政策の問題と解されるところから、国税犯則取締法に供述拒否権告知の規定を欠き、収税官吏が犯則嫌疑者に対し同法一条の規定に基づく質問をするにあたりあらかじめ右の告知をしなかつたからといつて、その質問手続が憲法三八条一項に違反することとなるものでないことは、当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第一〇一号同年七月一四日大法廷判決・刑集二巻八号八四六頁、昭和二三年(れ)第一〇一〇号同二四年二月九日大法廷判決・刑集三巻二号一四六頁)の趣旨に徴して明らかであるから(最高裁昭和三七年(あ)第一四九五号同三九年八月二〇日第一小法廷判決・裁判集刑事一五二号四九九頁、同昭和四八年(あ)第一八七二号同年一二月二〇日第一小法廷判決・裁判集刑事一九〇号九八九頁、同昭和五七年(あ)第六六六号同五八年三月三一日第一小法廷判決・裁判集刑事二三〇号六九七頁参照)、憲法三八条一項の解釈の誤りをいう所論は理由がない。

 

行政調査と犯則調査

最判昭和47.11.22

 たしかに、旧所得税法七〇条一〇号の規定する検査拒否に対する罰則は、同法六三条所定の収税官吏による当該帳簿等の検査の受忍をその相手方に対して強制する作用を伴なうものであるが、同法六三条所定の収税官吏の検査は、もつぱら、所得税の公平確実な賦課徴収のために必要な資料を収集することを目的とする手続であつて、その性質上、刑事責任の追及を目的とする手続ではない、
 また、右検査の結果過少申告の事実が明らかとなり、ひいて所得税逋脱の事実の発覚にもつながるという可能性が考えられないわけではないが、そうであるからといつて、右検査が、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものと認めるべきことにはならない。けだし、この場合の検査の範囲は、前記の目的のため必要な所得税に関する事項にかぎられており、また、その検査は、同条各号に列挙されているように、所得税の賦課徴収手続上一定の関係にある者につき、その者の事業に関する帳簿その他の物件のみを対象としているのであつて、所得税の逋脱その他の刑事責任の嫌疑を基準に右の範囲が定められているのではないからである。
 さらに、この場合の強制の態様は、収税官吏の検査を正当な理由がなく拒む者に対し、同法七〇条所定の刑罰を加えることによつて、間接的心理的に右検査の受忍を強制しようとするものであり、かつ、右の刑罰が行政上の義務違反に対する制裁として必ずしも軽微なものとはいえないにしても、その作用する強制の度合いは、それが検査の相手方の自由な意思をいちじるしく拘束して、実質上、直接的物理的な強制と同視すべき程度にまで達しているものとは、いまだ認めがたいところである。国家財政の基本となる徴税権の適正な運用を確保し、所得税の公平確実な賦課徴収を図るという公益上の目的を実現するために収税官吏による実効性のある検査制度が欠くべからざるものであることは、何人も否定しがたいものであるところ、その目的、必要性にかんがみれば、右の程度の強制は、実効性確保の手段として、あながち不均衡、不合理なものとはいえないのである。
 憲法三五条一項の規定は、本来、主として刑事責任追及の手続における強制について、それが司法権による事前の抑制の下におかれるべきことを保障した趣旨であるが、当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。しかしながら、前に述べた諸点を総合して判断すれば、旧所得税法七〇条一〇号、六三条に規定する検査は、あらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としないからといつて、これを憲法三五条の法意に反するものとすることはできず、前記規定を違憲であるとする所論は、理由がない。

最決平成16.1.20

法人税法(平成13年法律第129号による改正前のもの)156条によると,同法153条ないし155条に規定する質問又は検査の権限は,犯罪の証拠資料を取得収集し,保全するためなど,犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使することは許されないと解するのが相当である。しかしながら,上記質問又は検査の権限の行使に当たって,取得収集される証拠資料が後に犯則事件の証拠として利用されることが想定できたとしても,そのことによって直ちに,上記質問又は検査の権限が犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使されたことにはならないというべきである。

 

行政裁量

最判昭和52.12.20(神戸税関事件)

 ところで、国家公務員につき懲戒事由がある場合において、懲戒権者が懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかは、その判断が、懲戒事由に該当すると認められる行為の性質、態様等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、広範な事情を総合してされるべきものである以上、平素から庁内の事情に通暁し、部下職員の指揮監督の衝にあたる懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきであり、懲戒権者が右の裁量権を行使してした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。したがつて、裁判所が右の処分の適否を審査するにあたつては、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである(最高裁昭和四七年(行ツ)第五二号同五二年一二月二〇日第三小法廷判決参照)。

 

裁量判断の合理性

最判昭和53.6.16(余目町個室付浴場事件)

 本来、児童遊園は、児童に健全な遊びを与えてその健康を増進し、情操をゆたかにすることを目的とする施設(児童福祉法四〇条参照)なのであるから、児童遊園設置の認可申請、同認可処分もその趣旨に沿つてなされるべきものであつて、前記のような、被告会社のトルコぶろ営業の規制を主たる動機、目的とするa町のb児童遊園設置の認可申請を容れた本件認可処分は、行政権の濫用に相当する違法性があり、被告会社のトルコぶろ営業に対しこれを規制しうる効力を有しないといわざるをえない(なお、本件認可処分の適法性、有効性が争点となつていた被告会社対山形県間の仙台高等裁判所昭和四七年(行コ)第三号損害賠償請求控訴事件において被告会社のトルコぶろ営業に対する関係においての本件認可処分の違法・無効を認めた控訴審判決が、最高裁判所昭和四九年(行ツ)第九二号の上告棄却判決(本件認可処分は行政権の著しい濫用によるものとして違法であるとした。)により確定していることは、当裁判所に顕著である。)。

 

 

委任命令

最判昭和33.5.1

 弁護人小倉庄八の上告趣意第一点は違憲をいうが、所論人事院規則一四―七は、国家公務員法一〇二条一項の委任に基き制定せられたものであり、そして国家公務員法一〇二条が憲法一四条又は二八条に違反するものでないことは当裁判所の判例とするものであるところ(昭和三一年(あ)六三五号、同三三、三、一二大法廷判決、昭和三一年(あ)六三四号、同三三、四、一六大法廷判決)、前記人事院規則は、右国家公務員法一〇二条一項に基き、一般職に属する国家公務員の職責に照らして必要と認められる政治的行為の制限を規定したものであるから、前記大法廷判決の趣旨に照らし、実質的に何ら違法、違憲の点は認められないばかりでなく、右人事院規則には国家公務員法の規定によつて委任された範囲を逸脱した点も何ら認められず、形式的にも違法ではないから、憲法三一条違反の主張はその前提を欠くものというべきである。それ故所論は採るを得ない。

最判平成3.7.9

 右に前記1で説示したところを併せ考えると、被勾留者には一般市民としての自由が保障されるので、法四五条は、被勾留者と外部の者との接見は原則としてこれを許すものとし、例外的に、これを許すと支障を来す場合があることを考慮して、(ア) 逃亡又は罪証隠滅のおそれが生ずる場合にはこれを防止するために必要かつ合理的な範囲において右の接見に制限を加えることができ、また、(イ) これを許すと監獄内の規律又は秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性が認められる場合には、右の障害発生の防止のために必要な限度で右の接見に合理的な制限を加えることができる、としているにすぎないと解される。この理は、被勾留者との接見を求める者が幼年者であっても異なるところはない。
 (三) これを受けて、法五〇条は、「接見ノ立会:::其他接見‥‥‥ニ関スル制限ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム」と規定し、命令(法務省令)をもって、面会の立会、場所、時間、回数等、面会の態様についてのみ必要な制限をすることができる旨を定めているが、もとより命令によって右の許可基準そのものを変更することは許されないのである。
 3 ところが、規則一二〇条は、規則一二一条ないし一二八条の接見の態様に関する規定と異なり、「十四歳末満ノ者ニハ在監者ト接見ヲ為スコトヲ許サス」と規定し、規則一二四条は「所長ニ於テ処遇上其他必要アリト認ムルトキハ前四条ノ制限ニ依ラサルコトヲ得」と規定している。右によれば、規則一二〇条が原則として被勾留者と幼年者との接見を許さないこととする一方で、規則一二四条がその例外として限られた場合に監獄の長の裁量によりこれを許すこととしていることが明らかである。しかし、これらの規定は、たとえ事物を弁別する能力の夫発達な幼年者の心情を害することがないようにという配慮の下に設けられたものであるとしても、それ自体、法律によらないで、被勾留者の接見の自由を著しく制限するものであって、法五〇条の委任の範囲を超えるものといわなければならない。

 

信義則

最判昭和62.10.30(青色申告事件)

租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、右課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、右法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて右法理の適用の是非を考えるべきものである。そして、右特別の事情が存するかどうかの判断に当たつては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、のちに右表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになつたものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の右表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠のものであるといわなければならない。

 

審査基準・意見陳述の機会

最判昭和46.10.28(個人タクシー事件)

おもうに、道路運送法においては、個人タクシー事業の免許申請の許否を決する手続について、同法一二二条の二の聴聞の規定のほか、とくに、審査、判定の手続、方法等に関する明文規定は存しない。しかし、同法による個人タクシー事業の免許の許否は個人の職業選択の自由にかかわりを有するものであり、このことと同法六条および前記一二二条の二の規定等とを併せ考えれば、本件におけるように、多数の者のうちから少数特定の者を、具体的個別的事実関係に基づき選択して免許の許否を決しようとする行政庁としては、事実の認定につき行政庁の独断を疑うことが客観的にもつともと認められるような不公正な手続をとつてはならないものと解せられる。すなわち、右六条は抽象的な免許基準を定めているにすぎないのであるから、内部的にせよ、さらに、その趣旨を具体化した審査基準を設定し、これを公正かつ合理的に適用すべく、とくに、右基準の内容が微妙、高度の認定を要するようなものである等の場合には、右基準を適用するうえで必要とされる事項について、申請人に対し、その主張と証拠の提出の機会を与えなければならないというべきである。免許の申請人はこのような公正な手続によつて免許の許否につき判定を受くべき法的利益を有するものと解すべく、これに反する審査手続によつて免許の申請の却下処分がされたときは、右利益を侵害するものとして、右処分の違法事由となるものというべきである。

 

手続違反

最判昭和60.1.22(旅券発給拒否事件)

 旅券法一四条は、外務大臣が、同法一三条の規定に基づき一般旅券の発給をしないと決定したときは、すみやかに、理由を付した書面をもつて一般旅券の発給を申請した者にその旨を通知しなければならないことを規定している。一般に、法律が行政処分に理由を付記すべきものとしている場合に、どの程度の記載をなすべきかは、処分の性質と理由付記を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきである(最高裁昭和三六年(オ)第八四号同三八年五月三一日第二小法廷判決・民集一七巻四号六一七頁)。旅券法が右のように一般旅券発給拒否通知書に拒否の理由を付記すべきものとしているのは、一般旅券の発給を拒否すれば、憲法二二条二項で国民に保障された基本的人権である外国旅行の自由を制限することになるため、拒否事由の有無についての外務大臣の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、拒否の理由を申請者に知らせることによつて、その不服申立てに便宜を与える趣旨に出たものというべきであり、このような理由付記制度の趣旨にかんがみれば、一般旅券発給拒否通知書に付記すべき理由としては、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して一般旅券の発給が拒否されたかを、申請者においてその記載自体から了知しうるものでなければならず、単に発給拒否の根拠規定を示すだけでは、それによつて当該規定の適用の基礎となつた事実関係をも当然知りうるような場合を別として、旅券法の要求する理由付記として十分でないといわなければならない。この見地に立つて旅券法一三条一項五号をみるに、同号は「前各号に掲げる者を除く外、外務大臣において、著しく且つ直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行う虞があると認めるに足りる相当の理由がある者」という概括的、抽象的な規定であるため、一般旅券発給拒否通知書に同号に該当する旨付記されただけでは、申請者において発給拒否の基因となつた事実関係をその記載自体から知ることはできないといわざるをえない。したがつて、外務大臣において旅券法一三条一項五号の規定を根拠に一般旅券の発給を拒否する場合には、申請者に対する通知書に同号に該当すると付記するのみでは足りず、いかなる事実関係を認定して申請者が同号に該当すると判断したかを具体的に記載することを要すると解するのが相当である。そうであるとすれば、単に「旅券法一三条一項五号に該当する。」と付記されているにすぎない本件一般旅券発給拒否処分の通知書は、同法一四条の定める理由付記の要件を欠くものというほかはなく、本件一般旅券発給拒否処分に右違法があることを理由としてその取消しを求める上告人の本訴請求は、正当として認容すべきである。原判決が右の程度の理由の記載をもつて旅券法一四条の要求する理由付記として欠けるところがないとしたのは、法律の解釈適用を誤つたものといわざるをえず、これをいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件一般旅券発給拒否処分を取り消した第一審判決は結論において正当であり、被上告人の控訴はこれを棄却すべきものである。

 

処分性一般

最判昭和39.10.29

 しかし、行政事件訴訟特例法一条にいう行政庁の処分とは、所論のごとく行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものであることは、当裁判所の判例とするところである
(昭和二八年(オ)第一三六二号、同三〇年二月二四日第一小法廷判決、民集九巻二号二一七頁)。そして、かかる行政庁の行為は、公共の福祉の維持、増進のために、法の内容を実現することを目的とし、正当の権限ある行政庁により、法に準拠してなされるもので、社会公共の福祉に極めて関係の深い事柄であるから、法律は、行政庁の右のような行為の特殊性に鑑み、一方このような行政目的を可及的速かに達成せしめる必要性と、他方これによつて権利、利益を侵害された者の法律上の救済を図ることの必要性とを勘案して、行政庁の右のような行為は仮りに違法なものであつても、それが正当な権限を有する機関により取り消されるまでは、一応適法性の推定を受け有効として取り扱われるものであることを認め、これによつて権利、利益を侵害された者の救済については、通常の民事訴訟の方法によることなく、特別の規定によるべきこととしたのである。従つてまた、行政庁の行為によつて権利、利益を侵害された者が、右行為を当然無効と主張し、行政事件訴訟特例法によつて救済を求め得るには、当該行為が前叙のごとき性質を有し、その無効が正当な権限のある機関により確認されるまでは事実上有効なものとして取り扱われている場合でなければならない。

 

都市計画

最判平成20.9.10

そうすると,施行地区内の宅地所有者等は,事業計画の決定がされることによって,前記のような規制を伴う土地区画整理事業の手続に従って換地処分を受けるべき地位に立たされるものということができ,その意味で,その法的地位に直接的な影響が生ずるものというべきであり,事業計画の決定に伴う法的効果が一般的,抽象的なものにすぎないということはできない。
イ もとより,換地処分を受けた宅地所有者等やその前に仮換地の指定を受けた宅地所有者等は,当該換地処分等を対象として取消訴訟を提起することができるが,換地処分等がされた段階では,実際上,既に工事等も進ちょくし,換地計画も具体的に定められるなどしており,その時点で事業計画の違法を理由として当該換地処分等を取り消した場合には,事業全体に著しい混乱をもたらすことになりかねない。それゆえ,換地処分等の取消訴訟において,宅地所有者等が事業計画の違法を主張し,その主張が認められたとしても,当該換地処分等を取り消すことは公共の福祉に適合しないとして事情判決(行政事件訴訟法31条1項)がされる可能性が相当程度あるのであり,換地処分等がされた段階でこれを対象として取消訴訟を提起することができるとしても,宅地所有者等の被る権利侵害に対する救済が十分に果たされるとはいい難い。そうすると,事業計画の適否が争われる場合,実効的な権利救済を図るためには,事業計画の決定がされた段階で,これを対象とした取消訴訟の提起を認めることに合理性があるというべきである。
(2) 以上によれば,市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定は,施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって,抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということができ,実効的な権利救済を図るという観点から見ても,これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である。したがって,上記事業計画の決定は,行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると解するのが相当である。

 

民法上の行為

最判昭和46.1.20

 なお、法八〇条に基づく農林大臣の認定、あるいは同条に基づく農林大臣の売払いを行政処分とみる見解があるが、右認定は、その申立て、審査等対外的の手続につき特別の定めはなく、同条の定める要件を充足する事実が生じたときにはかならず行なうべく覊束された内部的な行為にとどまるのであるから、これを独立の行政処分とみる余地はないし、また、昭和三七年法律第一六一号による改正前の法八五条が法三九条一項所定の農地等の売渡通知書の交付に関しては、訴願による不服申立方法を認めていたのにかかわらず、法八〇条の土地売払いに関してはそのような不服申立方法を認めていなかつたこと、および法三九条一項の売渡通知書による売渡しの対価の徴収には農地対価徴収令の定めがあり、その不払いには国税徴収の例による処分がされるが(法四三条)、右売払いの対価にはそのような定めのないことから考えても、売払いを行政処分とみることはできない。

 

通知

最判昭和45.12.24

 3、税務署長が、支払者の納付額を過少とし、またはその不納付を非とする意見を有するときに、これが納税者たる支払者に通知されるのは、前記の納税の告知によるのであり、この点において、納税の告知は、あたかも申告納税方式による場合の更正または決定に類似するかの観を呈するのであるが、源泉徴収による所得税の税額は、前述のとおり、いわば自働的に確定するのであつて、右の納税の告知により確定されるものではない。すなわち、この納税の告知は、更正または決定のごとき課税処分たる性質を有しないものというべきである。
 もし、これに反して、右の納税の告知がそれ自体として税額を確定させる行為(課税処分)であるとすると、取消判決等によりその効力が否定されないかぎり、支払者において、納税の告知により確定された税額を徴収して国に納付すべき義務の存することを争いえず、また従つて受給者において、旧所得税法四三条(新法二二二条)に基づく支払者の請求等を拒みえないこととなるのである(支払者において徴収義務を負担するとは、すなわち、受給者において源泉納税義務を負うことにほかならず、両者は表裏をなす関係にあり、したがつて、もし納税の告知が課税処分であるとすれば、そこにおいて確定された税額およびその前提となる徴収義務の存在は、右処分が取り消されないかぎり、支払者はもとより受給者においても、これを否定しえないこととなるのである)が、現行法上、かかる見地は許容されえない。けだし、源泉徴収による所得税の税額が納税の告知によつて確定されるとするのは、所得の支払の時に所得税を徴収すべきものとする制度の本旨に反するのみならず、もし、納税の告知によつて、支払者の納税義務とともに、受給者の源泉納税義務の範囲(およびその前提となる当該義務の成立)が確定されるものであるとすれば、納税の告知は支払者および受給者の双方に対してなされることを要すべきところ、法二条五号は支払者のみを納税者とし、したがつて、納税の告知は支払者に対してのみなされるのであつて、これが税法の建前とするところであるからである。すなわち、納税の告知は、納税者たる支払者に対してのみなされるにかかわらず、これにより支払者の納税義務の範囲(および成立)が公定力をもつて確定されるものとすれば、同時に、しかも受給者不知の間に、その源泉納税義務の範囲(および成立)が公定力をもつて確定されることとなるのであるが、かかる結果は、とうてい法の予定するところとは解しえないのである。
 4、一般に、納税の告知は、法三六条所定の場合に(なお、資産再評価法七一条四項参照)、国税徴収手続の第一段階をなすものとして要求され、滞納処分の不可欠の前提となるものであり、また、その性質は、税額の確定した国税債権につき、納期限を指定して納税義務者等に履行を請求する行為、すなわち徴収処分であつて(ただし、賦課課税方式による場合において法三二条一項一号に該当するときは、納税の告知が、同時に賦課決定の通知として、税額確定の効果をあわせもつ例外の場合にあたる)、それ自体独立して国税徴収権の消滅時効の中断事由となるもの(法七三条一項)であるが、源泉徴収による所得税についての納税の告知は、前記により確定した税額がいくばくであるかについての税務署長の意見が初めて公にされるものであるから、支払者がこれと意見を異にするときは、当該税額による所得税の徴収を防止するため、異議申立てまたは審査請求(法七六条、七九条)のほか、抗告訴訟をもなしうるものと解すべきであり、この場合、支払者は、納税の告知の前提となる納税義務の存否または範囲を争つて、納税の告知の違法を主張することができるものと解される。けだし、右の納税の告知に先だつて、税額の確定(およびその前提となる納税義務の成立の確認)が、納税者の申告または税務署長の処分によつてなされるわけではなく、支払者が納税義務の存否または範囲を争ううえで、障害となるべきものは存しないからである。
 5、以上のとおり、源泉徴収による所得税についての納税の告知は、課税処分ではなく徴収処分であつて、支払者の納税義務の存否・範囲は右処分の前提問題たるにすぎないから、支払者においてこれに対する不服申立てをせず、または不服申立てをしてそれが排斥されたとしても、受給者の源泉納税義務の存否・範囲にはいかなる影響も及ぼしうるものではない。したがつて、受給者は、源泉徴収による所得税を徴収されまたは期限後に納付した支払者から、その税額に相当する金額の支払を請求されたときは、自己において源泉納税義務を負わないことまたはその義務の範囲を争つて、支払者の請求の全部または一部を拒むことができるものと解される(支払者が右の徴収または納付の時以後において受給者に支払うべき金額から右税額相当額を控除したときは、その全部または一部につき源泉納税義務のないことを主張する受給者は、支払者において法律上許容されえない控除をなし、その残額のみを支払つたのは債務の一部不履行であるとして、当該控除額に相当する債務の履行を請求することができる)。
 支払者は、一方、納税の告知に対する抗告訴訟において、その前提問題たる納税義務の存否または範囲を争つて敗訴し、他方、受給者に対する税額相当額の支払請求訴訟(または受給者より支払者に対する控除額の支払請求訴訟)において敗訴することがありうるが、それは、納税の告知が課税処分ではなく、これに対する抗告訴訟が支払者の納税義務また従つて受給者の源泉納税義務の存否・範囲を訴訟上確定させうるものでない故であつて、支払者は、かかる不利益を避けるため、右の抗告訴訟にあわせて、またはこれと別個に、納税の告知を受けた納税義務の全部または一部の不存在の確認の訴えを提起し、受給者に訴訟告知をして、自己の納税義務(受給者の源泉納税義務)の存否・範囲の確認について、受給者とその責任を分かつことができる。

 

規範定立行為

最判平成18.7.14

本件別表の無効確認を求める被上告人らの訴えは,本件改正条例の制定行為が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たることを前提に,行政事件訴訟法3条4項の無効等確認の訴えとして,本件改正条例により定められた本件別表が無効であることの確認を求めるものである。しかしながら,抗告訴訟の対象となる行政処分とは,行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいうものである。本件改正条例は,旧高根町が営む簡易水道事業の水道料金を一般的に改定するものであって,そもそも限られた特定の者に対してのみ適用されるものではなく,本件改正条例の制定行為をもって行政庁が法の執行として行う処分と実質的に同視することはできないから,本件改正条例の制定行為は,抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないというべきである。

 

通達

最判昭和43.12.24(墓地埋葬法通達変更事件)

元来、通達は、原則として、法規の性質をもつものではなく、上級行政機関が関係下級行政機関および職員に対してその職務権限の行使を指揮し、職務に関して命令するために発するものであり、このような通達は右機関および職員に対する行政組織内部における命令にすぎないから、これらのものがその通達に拘束されることはあつても、一般の国民は直接これに拘束されるものではなく、このことは、通達の内容が、法令の解釈や取扱いに関するもので、国民の権利義務に重大なかかわりをもつようなものである場合においても別段異なるところはない。このように、通達は、元来、法規の性質をもつものではないから、行政機関が通達の趣旨に反する処分をした場合においても、そのことを理由として、その処分の効力が左右されるものではない。また、裁判所がこれらの通達に拘束されることのないことはもちろんで、裁判所は、法令の解釈適用にあたつては、通達に示された法令の解釈とは異なる独自の解釈をすることができ、通達に定める取扱いが法の趣旨に反するときは独自にその違法を判定することもできる筋合である。
 このような通達一般の性質、前述した本件通達の形式、内容および原判決の引用する一審判決議定の事実(拳示の証拠に照らし肯認することができる。)その他原審の適法に確定した事実ならびに墓地、埋葬等に関する法律の規定を併せ考えれば、本件通達は従来とられていた法律の解釈や取扱いを変更するものではあるが、それはもつぱら知事以下の行政機関を拘束するにとどまるもので、これらの機関は右通達に反する行為をすることはできないにしても、国民は直接これに拘束されることはなく、従つて、右通達が直接に上告人の所論墓地経営権、管理権を侵害したり、新たに埋葬の受忍義務を課したりするものとはいいえない。また、墓地、埋葬等に関する法律二一条違反の有無に関しても、裁判所は本件通達における法律解釈等に拘束されるものではないのみならず、同法一三条にいわゆる正当の理由の判断にあたつては、本件通達に示されている事情以外の事情をも考慮すべきものと解せられるから、本件通達が発せられたからといつて直ちに上告人において刑罰を科せられるおそれがあるともいえず、さらにまた、原審において上告人の主張するような損害、不利益は、原判示のように、直接本件通達によつて被つたものということもできない。
 そして、現行法上行政訴訟において取消の訴の対象となりうるものは、国民の権利義務、法律上の地位に直接具体的に法律上の影響を及ぼすような行政処分等でなければならないのであるから、本件通達中所論の趣旨部分の取消を求める本件訴は許されないものとして却下すべきものである。

 

原告適格

最判平成1.2.17(新潟空港事件)

 取消訴訟の原告適格について規定する行政事件訴訟法九条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであるが、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益をもつぱら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するということができる(最高裁昭和四九年(行ツ)第九九号同五三年三月一四日第三小法廷判決・民集三二巻二号二一一頁、最高裁昭和五二年(行ツ)第五六号同五七年九月九日第一小法廷判決・民集三六巻九号一六七九頁参照)。そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規及びそれと目的を共通する関連法規の関係規定によつて形成される法体系の中において、当該処分の根拠規定が、当該処分を通して右のような個々人の個別的利益をも保護すべきものとして位置付けられているとみることができるかどうかによつて決すべきである。

 

訴えの利益

最判平成4.1.24

本件認可処分は、本件事業の施行者であるD町に対し、本件事業施行地域内の土地につき土地改良事業を施行することを認可するもの、すなわち、土地改良事業施行権を付与するものであり、本件事業において、本件認可処分後に行われる換地処分等の一連の手続及び処分は、本件認可処分が有効に存在することを前提とするものであるから、本件訴訟において本件認可処分が取り消されるとすれば、これにより右換地処分等の法的効力が影響を受けることは明らかである。そして、本件訴訟において、本件認可処分が取り消された場合に、本件事業施行地域を本件事業施行以前の原状に回復することが、本件訴訟係属中に本件事業計画に係る工事及び換地処分がすべて完了したため、社会的、経済的損失の観点からみて、社会通念上、不可能であるとしても、右のような事情は、行政事件訴訟法三一条の適用に関して考慮されるべき事柄であって、本件認可処分の取消しを求める上告人の法律上の利益を消滅させるものではないと解するのが相当である。

 

取消訴訟の排他的管轄が及ばない場面

最判昭和36.3.7

 行政処分が当然無効であるというためには、処分に重大かつ明白な瑕疵がなければならず、ここに重大かつ明白な瑕疵というのは、「処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大・明白な瑕疵がある場合」を指すものと解すべきことは、当裁判所の判例である(昭和三二年(オ)第二五二号同三四・九・二二第三小法廷判決、集一三巻一一号一四二六頁)。右判例の趣旨からすれば、瑕疵が明白であるというのは、処分成立の当初から、誤認であることが外形上、客観的に明白である場合を指すものと解すべきである。もとより、処分成立の初めから重大かつ明白な暇疵があつたかどうかということ自体は、原審の口頭弁論終結時までにあらわれた証拠資料により判断すべきものであるが、所論のように、重大かつ明白な瑕疵があるかどうかを口頭弁論終結時までに現われた証拠及びこれにより認められる事実を基礎として判断すべきものであるということはできない。また、瑕疵が明白であるかどうかは、処分の外形上、客観的に、誤認が一見看取し得るものであるかどうかにより決すべきものであつて、行政庁が怠慢により調査すべき資料を見落したかどうかは、処分に外形上客観的に明白な瑕疵があるかどうかの判定に直接関係を有するものではなく、行政庁がその怠慢により調査すべき資料を見落したかどうかにかかわらず、外形上、客観的に誤認が明白であると認められる場合には、明白な瑕疵があるというを妨げない。原審も、右と同旨の見解に出たものと解すべきであつて、所論は、右に反する独自の見解を前提とするものであり、すべて採用のかぎりでない。

 

違法性の承継

最判平成21.12.17

以上のとおり,建築確認における接道要件充足の有無の判断と,安全認定における安全上の支障の有無の判断は,異なる機関がそれぞれの権限に基づき行うこととされているが,もともとは一体的に行われていたものであり,避難又は通行の安全の確保という同一の目的を達成するために行われるものである。そして,前記のとおり,安全認定は,建築主に対し建築確認申請手続における一定の地位を与えるものであり,建築確認と結合して初めてその効果を発揮するのである。
(2) 他方,安全認定があっても,これを申請者以外の者に通知することは予定されておらず,建築確認があるまでは工事が行われることもないから,周辺住民等これを争おうとする者がその存在を速やかに知ることができるとは限らない(これに対し,建築確認については,工事の施工者は,法89条1項に従い建築確認があった旨の表示を工事現場にしなければならない。)。そうすると,安全認定について,その適否を争うための手続的保障がこれを争おうとする者に十分に与えられているというのは困難である。仮に周辺住民等が安全認定の存在を知ったとしても,その者において,安全認定によって直ちに不利益を受けることはなく,建築確認があった段階で初めて不利益が現実化すると考えて,その段階までは争訟の提起という手段は執らないという判断をすることがあながち不合理であるともいえない。
(3) 以上の事情を考慮すると,安全認定が行われた上で建築確認がされている場合,安全認定が取り消されていなくても,建築確認の取消訴訟において,安全認定が違法であるために本件条例4条1項所定の接道義務の違反があると主張することは許されると解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

 

理由の差し替え

最判平成11.11.19(逗子市情報公開条例事件)

2 【要旨第二】本件条例九条四項前段が、前記のように非公開決定の通知に併せてその理由を通知すべきものとしているのは、本件条例二条が、逗子市の保有する情報は公開することを原則とし、非公開とすることができる情報は必要最小限にとどめられること、市民にとって分かりやすく利用しやすい情報公開制度となるよう努めること、情報の公開が拒否されたときは公正かつ迅速な救済が保障されることなどを解釈、運用の基本原則とする旨規定していること等にかんがみ、非公開の理由の有無について実施機関の判断の慎重と公正妥当とを担保してそのし意を抑制するとともに、非公開の理由を公開請求者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えることを目的としていると解すべきである。そして、そのような目的は非公開の理由を具体的に記載して通知させること(実際には、非公開決定の通知書にその理由を付記する形で行われる。)自体をもってひとまず実現されるところ、本件条例の規定をみても、右の理由通知の定めが、右の趣旨を超えて、一たび通知書に理由を付記した以上、実施機関が当該理由以外の理由を非公開決定処分の取消訴訟において主張することを許さないものとする趣旨をも含むと解すべき根拠はないとみるのが相当である。したがって、上告人が本件処分の通知書に付記しなかった非公開事由を本件訴訟において主張することは許されず、本件各文書が本件条例五条(2)アに該当するとの上告人の主張はそれ自体失当であるとした原審の判断は、本件条例の解釈適用を誤るものであるといわざるを得ない。

 

実質的当事者訴訟

最判平成17.9.14

 3 本件の予備的確認請求に係る訴えは,公法上の当事者訴訟のうち公法上の法律関係に関する確認の訴えと解することができるところ,その内容をみると,公職選挙法附則8項につき所要の改正がされないと,在外国民である別紙当事者目録1記載の上告人らが,今後直近に実施されることになる衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において投票をすることができず,選挙権を行使する権利を侵害されることになるので,そのような事態になることを防止するために,同上告人らが,同項が違憲無効であるとして,当該各選挙につき選挙権を行使する権利を有することの確認をあらかじめ求める訴えであると解することができる。
 選挙権は,これを行使することができなければ意味がないものといわざるを得ず,侵害を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができない性質のものであるから,その権利の重要性にかんがみると,具体的な選挙につき選挙権を行使する権利の有無につき争いがある場合にこれを有することの確認を求める訴えについては,それが有効適切な手段であると認められる限り,確認の利益を肯定すべきものである。そして,本件の予備的確認請求に係る訴えは,公法上の法律関係に関する確認の訴えとして,上記の内容に照らし,確認の利益を肯定することができるものに当たるというべきである。なお,この訴えが法律上の争訟に当たることは論をまたない。
 そうすると,【要旨3】本件の予備的確認請求に係る訴えについては,引き続き在外国民である同上告人らが,次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において,在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を請求する趣旨のものとして適法な訴えということができる。

 

公務員個人の被害者に対する責任

最判昭和30.4.19

 次に上告人等の損害賠償等を請求する訴について考えてみるに、右請求は、被上告人等の職務行為を理由とする国家賠償の請求と解すベきであるから、国または公共団体が賠償の責に任ずるのであつて、公務員が行政機関としての地位において賠償の責任を負うものではなく、また公務員個人もその責任を負うものではない。従つて県知事を相手方とする訴は不適法であり、また県知事個人、農地部長個人を相手方とする請求は理由がないことに帰する。のみならず、原審の認定するような事情の下においてとつた被上告人等の行為が、上告人等の名誉を毀損したと認めることはできないから、結局原判決は正当であつて、所論は採用することはできない。

 

国家賠償と取消訴訟

最判昭和36.4.21

また、行政処分が違法であることを理由として国家賠償の請求をするについては、あらかじめ右行政処分につき取消又は無効確認の判決を得なければならないものではないから、本訴が被上告人委員会の不法行為による国家賠償を求める目的に出たものであるということだけでは、本件買収計画の取消後においても、なおその無効確認を求めるにつき法律上の利益を有するということの理由とするに足りない。よつて、所論は、すべて採用しない。

 

 

職務を行うについて

最判昭和31.11.30

 原判決は、その理由において、国家賠償法第一条の職務執行とは、その公務員が、その所為に出づる意図目的はともあれ、行為の外形において、職務執行と認め得べきものをもつて、この場合の職務執行なりとするのほかないのであるとし、即ち、同条の適用を見るがためには、公務員が、主観的に権限行使の意思をもつてした職務執行につき、違法に他人に損害を加えた場合に限るとの解釈を排斥し、本件において、D巡査がもつぱら自己の利をはかる目的で警察官の職務執行をよそおい、被害者に対し不審尋問の上、犯罪の証拠物名義でその所持品を預り、しかも連行の途中、これを不法に領得するため所持の拳銃で、同人を射殺して、その目的をとげた、判示のごとき職権濫用の所為をもつて、同条にいわゆる職務執行について違法に他人に損害を加えたときに該当するものと解したのであるが同条に関する右の解釈は正当であるといわなければならない。けだし、同条は公務員が主観的に権限行使の意思をもつてする場合にかぎらず自己の利をはかる意図をもつてする場合でも、客観的に職務執行の外形をそなえる行為をしてこれによつて、他人に損害を加えた場合には、国又は公共団体に損害賠償の責を負わしめて、ひろく国民の権益を擁護することをもつて、その立法の趣旨とするものと解すべきであるからである。(所論は憲法一七条を云為するけれども、原判決は、同条の解釈を示したものでないから、所論は、結局、国家賠償法一条に関する原判決の解釈を争うに帰するものと解すべきである。)

 

権限の不行使

最判平成1.11.24

 宅地建物取引業法(昭和五五年法律第五六号による改正前のもの。以下「法」という。)は、第二章において、宅地建物取引業を営む者(以下「宅建業者」という。)につき免許制度を設け、その事務所の設置場所が二以上の都道府県にわたるか否かにより免許権者を建設大臣又は都道府県知事(以下「知事等」という。)に区分し(三条一項)、免許の欠格要件を定め(五条一項)、この基準に従って免許を付与し、三年ごとにその更新を受けさせ(三条二項)、免許を受けない者の営業等を禁止し(一二条)、第六章において、免許を付与された宅建業者に対する知事等の監督処分を定め、右業者が免許制度を定めた法の趣旨に反する一定の事由に該当する場合において、業務の停止(六五条二項)、免許の取消(六六条)をはじめ、必要な指導、助言及び勧告(七一条)、立入検査等(七二条)を行う権限を知事等に付与し、業務の停止又は免許の取消を行うに当たっては、公開の聴聞(六九条)及び公告(七〇条一項)の手続を義務づけている。法がかかる免許制度を設けた趣旨は、直接的には、宅地建物取引の安全を害するおそれのある宅建業者の関与を未然に排除することにより取引の公正を確保し、宅地建物の円滑な流通を図るところにあり、監督処分権限も、この免許制度及び法が定める各種規制の実効を確保する趣旨に出たものにほかならない。もっとも、法は、その目的の一つとして購入者等の利益の保護を掲げ(一条)、宅建業者が業務に関し取引関係者に損害を与え又は与えるおそれが大であるときに必要な指示をする権限を知事等に付与し(六五条一項一号)、営業保証金の供託を義務づける(二五条、二六条)など、取引関係者の利益の保護を顧慮した規定を置いており、免許制度も、究極的には取引関係者の利益の保護に資するものではあるが、前記のような趣旨のものであることを超え、免許を付与した宅建業者の人格・資質等を一般的に保証し、ひいては当該業者の不正な行為により個々の取引関係者が被る具体的な損害の防止、救済を制度の直接的な目的とするものとはにわかに解し難く、かかる損害の救済は一般の不法行為規範等に委ねられているというべきであるから、知事等による免許の付与ないし更新それ自体は、法所定の免許基準に適合しない場合であっても、当該業者との個々の取引関係者に対する関係において直ちに国家賠償法一条一項にいう違法な行為に当たるものではないというべきである。また、業務の停止ないし免許の取消は、当該宅建業者に対する不利益処分であり、その営業継続を不能にする事態を招き、既存の取引関係者の利害にも影響するところが大きく、そのゆえに前記のような聴聞、公告の手続が定められているところ、業務の停止に関する知事等の権限がその裁量により行使されるべきことは法六五条二項の規定上明らかであり、免許の取消については法六六条各号の一に該当する場合に知事等がこれをしなければならないと規定しているが、業務の停止事由に該当し情状が特に重いときを免許の取消事由と定めている同条九号にあっては、その要件の認定に裁量の余地があるのであって、これらの処分の選択、その権限行使の時期等は、知事等の専門的判断に基づく合理的裁量に委ねられているというべきである。したがって、当該業者の不正な行為により個々の取引関係者が損害を被った場合であっても、具体的事情の下において、知事等に監督処分権限が付与された趣旨・目的に照らし、その不行使が著しく不合理と認められるときでない限り、右権限の不行使は、当該取引関係者に対する関係で国家賠償法一条一項の適用上違法の評価を受けるものではないといわなければならない。

 

過失

最判昭和62.2.6

 学校の教師は、学校における教育活動により生ずるおそれのある危険から生徒を保護すべき義務を負つており、危険を伴う技術を指導する場合には、事故の発生を防止するために十分な措置を講じるべき注意義務があることはいうまでもない。本件についてこれをみるに、所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができ、右の事実関係によれば、D教諭は、中学校三年生の体育の授業として、プールにおいて飛び込みの指導をしていた際、スタート台上に静止した状態で頭から飛び込む方法の練習では、水中深く入つてしまう者、空中での姿勢が整わない者など未熱な生徒が多く、その原因は足のけりが弱いことにあると判断し、次の段階として、生徒に対し、二、三歩助走をしてスタート台脇のプールの縁から飛び込む方法を一、二回させたのち、更に二、三歩助走をしてスタート台に上がつてから飛び込む方法を指導したものであり、被上告人Bは、右指導に従い最後の方法を練習中にプールの底に頭部を激突させる事故に遭遇したものであるところ、助走して飛び込む方法、ことに助走してスタート台に上がつてから行う方法は、踏み切りに際してのタイミングの取り方及び踏み切る位置の設定が難しく、踏み切る角度を誤つた場合には、極端に高く上がつて身体の平衡を失い、空中での身体の制御が不可能となり、水中深く進入しやすくなるのであつて、このことは、飛び込みの指導にあたるD教諭にとつて十分予見しうるところであつたというのであるから、スタート台上に静止した状態で飛び込む方法についてさえ未熟な者の多い生徒に対して右の飛び込み方法をさせることは、極めて危険であるから、原判示のような措置、配慮をすべきであつたのに、それをしなかつた点において、D教諭には注意義務違反があつたといわなければならない。もつとも、同教諭は、生徒に対して、自信のない者はスタート台を使う必要はない旨を告げているが、生徒が新しい技術を習得する過程にある中学校三年生であり、右の飛び込み方法に伴う危険性を十分理解していたとは考えられないので、右のように告げたからといつて、注意義務を尽くしたことにはならないというべきである。したがつて、右と同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

 

物的性状瑕疵

最判昭和53.7.4

 ところで、国家賠償法二条一項にいう営造物の設置又は管理に瑕疵があつたとみられるかどうかは、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきものであるところ、前記事実関係に照らすと、本件防護柵は、本件道路を通行する人や車が誤つて転落するのを防止するために被上告人によつて設置されたものであり、その材質、高さその他その構造に徴し、通行時における転落防止の目的からみればその安全性に欠けるところがないものというべく、上告人の転落事故は、同人が当時危険性の判断能力に乏しい六歳の幼児であつたとしても、本件道路及び防護柵の設置管理者である被上告人において通常予測することのできない行動に起因するものであつたということができる。したがつて、右営造物につき本来それが具有すべき安全性に欠けるところがあつたとはいえず、上告人のしたような通常の用法に即しない行動の結果生じた事故につき、被上告人はその設置管理者としての責任を負うべき理由はないものというべきである。本件道路の設置又は管理に所論の瑕疵はないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

 

供用関連瑕疵

最判昭和56.12.16

 国家賠償法二条一項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が有すべき安全性を欠いている状態をいうのであるが、そこにいう安全性の欠如、すなわち、他人に危害を及ぼす危険性のある状態とは、ひとり当該営造物を構成する物的施設自体に存する物理的、外形的な欠陥ないし不備によつて一般的に右のような危害を生ぜしめる危険性かある場合のみならず、その営造物が供用目的に沿つて利用されることとの関連において危害を生ぜしめる危険性がある場合をも含み、また、その危害は、営造物の利用者に対してのみならず、利用者以外の第三者に対するそれをも含むものと解すべきである。すなわち、当該営造物の利用の態様及び程度が一定の限度にとどまる限りにおいてはその施設に危害を生ぜしめる危険性がなくても、これを超える利用によつて危害を生ぜしめる危険性がある状況にある場合には、そのような利用に供される限りにおいて右営造物の設置、管理には瑕疵があるというを妨げず、したがつて、右営造物の設置・管理者において、かかる危険性があるにもかかわらず、これにつき特段の措置を講ずることなく、また、適切な制限を加えないままこれを利用に供し、その結果利用者又は第三者に対して現実に危害を生ぜしめたときは、それが右設置・管理者の予測しえない事由によるものでない限り、国家賠償法二条一項の規定による責任を免れることができないと解されるのである。

 

道路と河川(人工公物と自然公物)

最判昭和59.1.26(大東水害事件)

 国家賠償法二条一項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠き、他人に危害を及ぼす危険性のある状態をいい(最高裁昭和五一年(オ)第三九五号同五六年一二月一六日大法廷判決・民集三五巻一〇号一三六九頁参照)、かかる瑕疵の存否については、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきものである(最高裁昭和五三年(オ)第七六号同年七月四日第三小法廷判決・民集三二巻五号八〇九頁)。
 ところで、河川の管理については、所論も指摘するように、道路その他の営造物の管理とは異なる特質及びそれに基づく諸制約が存するのであつて、河川管理の瑕疵の存否の判断にあたつては、右の点を考慮すべきものといわなければならない。すなわち、河川は、本来自然発生的な公共用物であつて、管理者による公用開始のための特別の行為を要することなく自然の状態において公共の用に供される物であるから、通常は当初から人工的に安全性を備えた物として設置され管理者の公用開始行為によつて公共の用に供される道路その他の営造物とは性質を異にし、もともと洪水等の自然的原因による災害をもたらす危険性を内包しているものである。したがつて、河川の管理は、道路の管理等とは異なり、本来的にかかる災害発生の危険性をはらむ河川を対象として開始されるのが通常であつて、河川の通常備えるべき安全性の確保は、管理開始後において、予想される洪水等による災害に対処すべく、堤防の安全性を高め、河道を拡幅・掘削し、流路を整え、又は放水路、ダム、遊水池を設置するなどの治水事業を行うことによつて達成されていくことが当初から予定されているものということができるのである。この治水事業は、もとより一朝一夕にして成るものではなく、しかも全国に多数存在する未改修河川及び改修の不十分な河川についてこれを実施するには莫大な費用を必要とするものであるから、結局、原則として、議会が国民生活上の他の諸要求との調整を図りつつその配分を決定する予算のもとで、各河川につき過去に発生した水害の規模、頻度、発生原因、被害の性質等のほか、降雨状況、流域の自然的条件及び開発その他土地利用の状況、各河川の安全度の均衡等の諸事情を総合勘案し、それぞれの河川についての改修等の必要性・緊急性を比較しつつ、その程度の高いものから逐次これを実施していくほかはない。また、その実施にあたつては、当該河川の河道及び流域全体について改修等のための調査・検討を経て計画を立て、緊急に改修を要する箇所から段階的に、また、原則として下流から上流に向けて行うことを要するなどの技術的な制約もあり、更に、流域の開発等による雨水の流出機構の変化、地盤沈下、低湿地域の宅地化及び地価の高騰等による治水用地の取得難その他の社会的制約を伴うことも看過することはできない。しかも、河川の管理においては、道路の管理における危険な区間の一時閉鎖等のような簡易、臨機的な危険回避の手段を採ることもできないのである。河川の管理には、以上のような諸制約が内在するため、すべての河川について通常予測し、かつ、回避しうるあらゆる水害を未然に防止するに足りる治水施設を完備するには、相応の期間を必要とし、未改修河川又は改修の不十分な河川の安全性としては、右諸制約のもとで一般に施行されてきた治水事業による河川の改修、整備の過程に対応するいわば過渡的な安全性をもつて足りるものとせざるをえないのであつて、当初から通常予測される災害に対応する安全性を備えたものとして設置され公用開始される道路その他の営造物の管理の場合とは、その管理の瑕疵の有無についての判断の基準もおのずから異なつたものとならざるをえないのである。この意味で、道路の管理者において災害等の防止施設の設置のための予算措置に困却するからといつてそのことにより直ちに道路の管理の瑕疵によつて生じた損害の賠償責任を免れうるものと解すべきでないとする当裁判所の判例(昭和四二年(オ)第九二一号同四五年八月二〇日第一小法廷判決・民集二四巻九号一二六八頁)も、河川管理の瑕疵については当然には妥当しないものというべきである。
 以上説示したところを総合すると、我が国における治水事業の進展等により前示のような河川管理の特質に由来する財政的、技術的及び社会的諸制約が解消した段階においてはともかく、これらの諸制約によつていまだ通常予測される災害に対応する安全性を備えるに至つていない現段階においては、当該河川の管理についての瑕疵の有無は、過去に発生した水害の規模、発生の頻度、発生原因、被害の性質、降雨状況、流域の地形その他の自然的条件、土地の利用状況その他の社会的条件、改修を要する緊急性の有無及びその程度等諸般の事情を総合的に考慮し、前記諸制約のもとでの同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていると認められるかどうかを基準として判断すべきであると解するのが相当である。そして、既に改修計画が定められ、これに基づいて現に改修中である河川については、右計画が全体として右の見地からみて格別不合理なものと認められないときは、その後の事情の変動により当該河川の未改修部分につき水害発生の危険性が特に顕著となり、当初の計画の時期を繰り上げ、又は工事の順序を変更するなどして早期の改修工事を施行しなければならないと認めるべき特段の事由が生じない限り、右部分につき改修がいまだ行われていないとの一事をもつて河川管理に瑕疵があるとすることはできないと解すべきである。そして、右の理は、人口密集地域を流域とするいわゆる都市河川の管理についても、前記の特質及び諸制約が存すること自体には異なるところがないのであるから、一般的にはひとしく妥当するものというべきである。

 

損失補償の内容

最判昭和48.10.18

 おもうに、土地収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、その収用によつて当該土地の所有者等が被る特別な犠牲の回復をはかることを目的とするものであるから、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもつて補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要するものというべく、土地収用法七二条(昭和四二年法律第七四号による改正前のもの。以下同じ。)は右のような趣旨を明らかにした規定と解すべきである。そして、右の理は、土地が都市計画事業のために収用される場合であつても、何ら、異なるものではなく、この場合、被収用地については、街路計画等施設の計画決定がなされたときには建築基準法四四条二項に定める建築制限が、また、都市計画事業決定がなされたときには旧都市計画法一一条、同法施行令一一条、一二条等に定める建築制限が課せられているが、前記のような土地収用における損失補償の趣旨からすれば、被収用者に対し土地収用法七二条によつて補償すべき相当な価格とは、被収用地が、右のような建築制限を受けていないとすれば、裁決時において有するであろうと認められる価格をいうと解すべきである。なるほど、法律上右のような建築制限に基づく損失を補償する旨の明文の規定は設けられていないが、このことは、単に右の損失に対し独立に補償することを要しないことを意味するに止まるものと解すべきであり、損失補償規定の存在しないことから、右のような建築制限の存する土地の収用による損失を決定するにあたり、当該土地をかかる建築制限を受けた土地として評価算定すれば足りると解するのは、前記土地収用法の規定の立法趣旨に反し、被収用者に対し不当に低い額の補償を強いることになるのみならず、右土地の近傍にある土地の所有者に比しても著しく不平等な結果を招くことになり、到底許されないものというべきである。

 

 

 




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