平成25年司法試験論文公法系第2問答案練習

問題

〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕と〔設問2〕の配点割合は,6:4〕)

 
 Aは,土地区画整理法(以下「法」という。)に基づいて1987年に設立されたB土地区画整理組合(以下「本件組合」という。)の組合員である。本件組合の施行する土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)については,当初,国及びC県からの補助金並びに保留地(事業費を捻出するために売却に用いられる土地をいう。)の処分による収入により実施する計画であったが,地価の下落により,保留地の処分が計画どおり進まなかったため,本件組合は,度々資金計画を変更して,補助金の増額や事業資金の借入れにより対応してきた。しかし,なおも地価の下落が続き,事業費不足が生じたため,本件組合は,組合員に対して総額15億円の賦課金の負担を求めることとした。
 本件組合は,2012年6月17日に開催された臨時総会(以下「本件臨時総会」という。)において,賦課金の新設を内容とする定款変更(以下「本件定款変更」という。その内容については,【資料1】を参照。)について議決した。また,本件臨時総会においては,賦課金の額及び徴収方法を定める賦課金実施要綱(以下「本件要綱」という。)が議決された。本件要綱によると,300平方メートル以下の小規模宅地の所有者又は借地権者(以下「所有者等」という。)には,賦課金は課されず,300平方メートルを超える宅地の所有者等に対して,300平方メートルを超える地積に比例して,賦課金が割り当てられる。すなわち,各組合員の賦課金の額は,{(地積-300㎡)×賦課金単価}とされ,賦課金単価は,{15億円÷(総地積-総賦課金免除地積)}とされている。本件臨時総会で,本件組合の理事Dは,小規模宅地の所有者等に対する政策的配慮から,小規模宅地の所有者等については一律に賦課金支払義務を免除した旨を説明した。
 本件臨時総会における本件定款変更の議決状況は,【資料2】のとおりである。書面による議決権行使の書類については,本件組合の理事Dが組合員により署名捺印された白紙のままの書面議決書500通を受け取り,後で議案に賛成の記載を自ら施していた。
 本件組合は,法第39条第1項の規定に基づき,本件定款変更について認可を申請し,C県知事は,2012年12月13日付けで,本件定款変更の認可(以下「本件認可」という。)を行った。
 本件事業の施行区域内に2000平方メートルの宅地を所有するAは,本件認可に不満を持ち,C県の担当部署を訪れて,本件認可を見直すよう申し入れるとともに,聞き入れられない場合には,本件認可の取消しを求めて訴訟を提起する考えを伝えた。しかし,C県職員からは,本件認可を見直す予定はないこと,及び,本件認可は取消訴訟の対象とならないことを告げられた。途方に暮れたAは,知り合いの弁護士Eに相談した。
 以下に示された【法律事務所の会議録】を読んだ上で,弁護士Eの指示に応じ,弁護士Fの立場に立って,設問に答えなさい。
 なお,土地区画整理法の抜粋は【資料3】に掲げてあるので,適宜参照しなさい。ただし,土地区画整理法及び同法施行令の規定によると,費用の分担に関する定款変更は総会の特別議決事項とされており,組合員の3分の2以上が出席し,出席組合員の(人数及び地積における)3分の2以上で決することとされているが,これに関する規定は【資料3】には掲げていない。

 
〔設問1〕
 本件認可は,取消訴訟の対象となる処分に当たるか。土地区画整理組合及びこれに対する定款変更認可の法的性格を論じた上で,本件認可の法的効果を丁寧に検討して答えなさい。

 
〔設問2〕
 本件認可は適法か。関係する法令の規定を挙げながら,適法とする法律論及び違法とする法律論として考えられるものを示して答えなさい。

 
【法律事務所の会議録】

 
弁護士E:Aさんは,本件認可の取消訴訟を提起したい意向です。そこで,まず,訴訟要件について検討しましょう。本件認可に処分性は認められるでしょうか。
弁護士F:「認可」という文言からして,処分性は問題なく認められるのではないでしょうか。
弁護士E:本件では,土地区画整理組合に対する認可である点に注意が必要です。Aさんの話では,C県の職員は,「本件組合は,行政主体としての法的性格を与えられている」と述べたそうです。
弁護士F:本件組合が行政主体であるとは,どういうことでしょうか。土地区画整理法にそのようなことが規定されているのでしょうか。
弁護士E:認可の法的性格を考える上で前提になりますから,検討をお願いします。それから,C県の職員は,「下級行政機関である本件組合に対する本件認可は,処分に該当しない」と明言していたようです。なぜ本件認可の処分性が否定されることになるのか,C県側の立脚している考え方について,整理してください。その際,C県側の主張の論拠となり得る土地区画整理法の規定があれば,挙げてください。
弁護士F:承知しました。ただ,本件認可の法的効果を幅広く検討することによって,処分性が認められる余地があるのではないでしょうか。
弁護士E:なるほど。本件認可の法的効果を条文に即して幅広く検討する必要がありますね。Aさんの話では,C県の職員は,「市町村が土地区画整理事業を行う場合には,定款ではなく施行規程を条例で定めることとされています。条例の制定行為に処分性が認められないのと同様に,本件認可は処分に該当するものではありません。」と述べたそうです。この主張がどのような法的根拠に基づいており,何を理由に処分性を否定する趣旨なのか,明らかにする必要があります。また,この主張に対してどのように反論すべきかについて,重要な点ですから,賦課金の具体的な仕組みに即した丁寧な検討をお願いします。
弁護士F:承知しました。
弁護士E:次に,本件認可の適法性について検討しましょう。Aさんの話では,本件事業は,地価が高騰しつつあったバブル経済期に計画され,保留地を高値で売却できることが資金計画の前提とされていました。ところが,バブル経済の崩壊により,この前提が大きく崩れたにもかかわらず,本件組合は,地価はいずれ持ち直すという楽観的な見通しのもとに資金計画を変更し,さらに資金計画の変更を迫られるということを繰り返しています。今回の資金計画の変更は,事業当初から数えて7回目に当たります。このような度重なる資金計画の変更は,本件組合が本件事業を遂行できるのかについて大きな疑問を抱かせるものであること,また,本件事業は既に実質的に破綻しており,賦課金の新設を認めることは違法であることなどが,Aさんの主張です。Aさんの主張が本件認可の違法事由として法律構成できるものなのかについて,土地区画整理法の条文に即して検討してください。
弁護士F:承知しました。
弁護士E:それから,Aさんの不満は,本件定款変更が本件臨時総会で議決された経緯にもあるようです。費用の分担に関する定款変更は,特別議決事項とされていますが,本件臨時総会の議決状況を見ると,形の上では,議決の要件を満たしていますね。ただ,書面議決書の取扱いに問題があるように思われますので,この点についての違法性を,C県側の反論も想定した上で,検討してください。
弁護士F:承知しました。Aさんは,賦課金の算定方法が不公平であるという点にも不満を持っておられるようですね。私の方で少し調査しましたところ,本件組合の組合員1人当たりの平均地積は約482平方メートルですが,300平方メートル以下の宅地の所有権等を有し,賦課金が免除される組合員は930名で,総組合員の約80パーセントを占めています。また,賦課金が免除される宅地の総地積は約23万平方メートルで,施行地区内の宅地の総地積の約41パーセントを占めています。
弁護士E:なるほど。そのデータを踏まえ,本件の賦課金の算定方法の違法性につき,土地区画整理法の規定に照らして,検討してください。ただ,賦課金の算定方法は本件定款において直接定められているわけではありませんので,C県側は,賦課金の算定方法の違法性が本件認可の違法性をもたらすわけではないという主張をしてくるかもしれません。これに対する反論についても検討をお願いします。
弁護士F:承知しました。
【資料1 本件定款変更の内容】
賦課金に関する規定を新設し,第6条第2号を挿入して同条第3号以下を繰り下げるとともに,第7条及び第8条を挿入して第9条以下を繰り下げる。変更後の第6条ないし第8条は,以下のとおりである。
(収入金)
第6条 この組合の事業に要する費用は,次の各号に掲げる収入金をもってこれに充てる。
一 補助金及び助成金
二 次条の規定による賦課金
三 第9条の規定による保留地の処分金
四 (略)
五 寄付金及び雑収入
(賦課金)
第7条 前条第2号の賦課金の額及び賦課金徴収の方法は,総会の議決に基づき定める。
(過怠金及び督促手数料)
第8条 前条の規定による賦課金の滞納に督促状を発した場合においては,督促1回ごとに80円の督促手数料及びその滞納の日数に応じて当該督促に係る賦課金の額に年利10.75パーセントの割合を乗じて得た金額を延滞金として徴収するものとする。

 
【資料2 本件臨時総会における本件定款変更の議決状況】

 
総組合員数 1161名
宅地の総地積 56万平方メートル
出席組合員数 907名
(投票者287名,書面による議決権行使者620名)
賛成した出席組合員数 795名
(投票者225名,書面による議決権行使者570名)
賛成した出席組合員が所有権又は借地権を有する宅地総地積 39万平方メートル
(投票者18万平方メートル,書面による議決権行使者21万平方メートル)

 
【資料3 土地区画整理法(昭和29年5月20日法律第119号)(抜粋)】

 
(この法律の目的)
第1条 この法律は,土地区画整理事業に関し,その施行者,施行方法,費用の負担等必要な事項を規定することにより,健全な市街地の造成を図り,もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。
(定義)
第2条 この法律において「土地区画整理事業」とは,都市計画区域内の土地について,公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため,この法律で定めるところに従つて行われる土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業をいう。
2~8 (略)
(土地区画整理事業の施行)
第3条 (略)
2 宅地について所有権又は借地権を有する者が設立する土地区画整理組合は,当該権利の目的である宅地を含む一定の区域の土地について土地区画整理事業を施行することができる。
3 (略)
4 都道府県又は市町村は,施行区域の土地について土地区画整理事業を施行することができる。
5 (略)
(設立の認可)
第14条 第3条第2項に規定する土地区画整理組合(以下「組合」という。)を設立しようとする者は,7人以上共同して,定款及び事業計画を定め,その組合の設立について都道府県知事の認可を受けなければならない。(以下略)
2~4 (略)
(定款)
第15条 前条第1項(中略)の定款には,次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 組合の名称
二 施行地区(中略)に含まれる地域の名称
三 事業の範囲
四 事務所の所在地
五 (略)
六 費用の分担に関する事項
七~十二 (略)
(設立の認可の基準等及び組合の成立)
第21条 都道府県知事は,第14条第1項(中略)に規定する認可の申請があつた場合においては,次の各号(中略)のいずれかに該当する事実があると認めるとき以外は,その認可をしなければならない。
一 申請手続が法令に違反していること。
二 定款又は事業計画若しくは事業基本方針の決定手続又は内容が法令(中略)に違反していること。
三 (略)
四 土地区画整理事業を施行するために必要な経済的基礎及びこれを的確に施行するために必要なその他の能力が十分でないこと。
2~7 (略)
(組合員)
第25条 組合が施行する土地区画整理事業に係る施行地区内の宅地について所有権又は借地権を有する者は,すべてその組合の組合員とする。
2 (略)
(総会の組織)
第30条 組合の総会は,総組合員で組織する。
(総会の議決事項)
第31条 次に掲げる事項は,総会の議決を経なければならない。-6-
一 定款の変更
二 事業計画の決定
三 事業計画又は事業基本方針の変更
四~六 (略)
七 賦課金の額及び賦課徴収方法
八~十二 (略)
(議決権及び選挙権)
第38条 1,2 (略)
3 組合員は書面又は代理人をもつて(中略)議決権及び選挙権を行うことができる。
4 前項の規定により議決権及び選挙権を行う者は,(中略)出席者とみなす。
5,6 (略)
(定款又は事業計画若しくは事業基本方針の変更)
第39条 組合は,定款又は事業計画若しくは事業基本方針を変更しようとする場合においては,その変更について都道府県知事の認可を受けなければならない。(以下略)
2 (中略)第21条第1項(中略)の規定は前項に規定する認可の申請があつた場合又は同項に規定する認可をした場合について準用する。(以下略)
3~6 (略)
(経費の賦課徴収)
第40条 組合は,その事業に要する経費に充てるため,賦課金として(中略)組合員に対して金銭を賦課徴収することができる。
2 賦課金の額は,組合員が施行地区内に有する宅地又は借地の位置,地積等を考慮して公平に定めなければならない。
3 (略)
4 組合は,組合員が賦課金の納付を怠つた場合においては,定款で定めるところにより,その組合員に対して過怠金を課することができる。
(賦課金等の滞納処分)
第41条 組合は,賦課金(中略)又は過怠金を滞納する者がある場合においては,督促状を発して督促し,その者がその督促状において指定した期限までに納付しないときは,市町村長に対し,その徴収を申請することができる。
2 (略)
3 市町村長は,第1項の規定による申請があつた場合においては,地方税の滞納処分の例により滞納処分をする。(以下略)
4 市町村長が第1項の規定による申請を受けた日から30日以内に滞納処分に着手せず,又は90日以内にこれを終了しない場合においては,組合の理事は,都道府県知事の認可を受けて,地方税の滞納処分の例により,滞納処分をすることができる。
5 前2項の規定による徴収金の先取特権の順位は,国税及び地方税に次ぐものとする。
(施行規程及び事業計画の決定)
第52条 都道府県又は市町村は,第3条第4項の規定により土地区画整理事業を施行しようとする場合においては,施行規程及び事業計画を定めなければならない。(以下略)
2 (略)
(施行規程)
第53条 前条第1項の施行規程は,当該都道府県又は市町村の条例で定める。
2 前項の施行規程には,左の各号に掲げる事項を記載しなければならない。
一 土地区画整理事業の名称
二 施行地区(中略)に含まれる地域の名称-7-
三 土地区画整理事業の範囲
四 事務所の所在地
五 費用の分担に関する事項
六~八 (略)
(換地処分)
第103条 換地処分は,関係権利者に換地計画において定められた関係事項を通知してするものとする。
2 換地処分は,換地計画に係る区域の全部について土地区画整理事業の工事が完了した後において,遅滞なく,しなければならない。(以下略)
3 個人施行者,組合,区画整理会社,市町村又は機構等は,換地処分をした場合においては,遅滞なく,その旨を都道府県知事に届け出なければならない。
4 国土交通大臣は,換地処分をした場合においては,その旨を公告しなければならない。都道府県知事は,都道府県が換地処分をした場合又は前項の届出があつた場合においては,換地処分があつた旨を公告しなければならない。
5,6 (略)
(報告,勧告等)
第123条 国土交通大臣は都道府県又は市町村に対し,都道府県知事は個人施行者,組合,区画整理会社又は市町村に対し,市町村長は個人施行者,組合又は区画整理会社に対し,それぞれその施行する土地区画整理事業に関し,この法律の施行のため必要な限度において,報告若しくは資料の提出を求め,又はその施行する土地区画整理事業の施行の促進を図るため必要な勧告,助言若しくは援助をすることができる。
2 (略)
(組合に対する監督)
第125条 都道府県知事は,組合の施行する土地区画整理事業について,その事業又は会計がこの法律若しくはこれに基づく行政庁の処分又は定款,事業計画,事業基本方針若しくは換地計画に違反すると認める場合その他監督上必要がある場合においては,その組合の事業又は会計の状況を検査することができる。
2~7 (略)

 

練習答案

[設問1]
 1.土地区画整理組合の法的性質
 C県の職員が述べているように本件の土地区画整理組合が下級行政機関であれば、本件認可は処分に該当しないことになる。というのも、行政事件訴訟法の規律を受ける処分とは私人を名あて人にしたものだからである。通達のように行政機関内部でのやり取りはもっぱら行政権に関わるものであり、三権分立の観点から司法審査になじまない。法律の文言上は「認可」となっていても、それが行政機関内部でのやり取りであるならば、やはり司法審査になじまない。
 このC県側の主張の論拠となり得る土地区画整理法の規定がいくつかある。まず第3条の第2項と第4項で、土地区画整理事業の試行主体として、土地区画整理組合と都道府県又は市町村が並列的に挙げられている。そして第123条で都道府県知事や市町村長が土地区画整理組合に対して報告の要求や勧告ができると規定されている。さらに第125条で都道府県知事による組合に対する監督が規定されている。しかし土地区画整理組合が都道府県や市町村から命じられたことをしなければならないわけでもなく、これが下級行政機関であるとは言えない。
 2.本件定款変更認可の法的性格
 C県の職員が言うように、条例の制定行為は基本的に処分性が認められない。その理由は、条例が一般に不特定多数を一般的・抽象的に対象とするものであり、民主主義や住民自治の観点から、議会に委ねられるべきだという点にある。逆に言うと、条例という形式をとっていても、特定の者に義務を負わせるのであれば、それは処分に該当すると言える。
 本件認可は賦課金を新設する定款変更に対する認可である。その賦課金の具体的な仕組みは300平方メートルを超える宅地の所有者等に対して、300平方メートルを超える地積に比例して賦課金が割り当てられるというものであり、Aほか約200名に限って義務を負うことになる。よって先の基準からすると条例という形式であっても行政事件訴訟法で規律される処分に該当するとAは反論することができ、それが認められるべきである。
 3.結論
 以上より、本件認可は、取消訴訟の対象となる処分に当たる。

[設問2]
 1.本件事業の実態(実質的に破綻しているので違法であるというAの主張)
 本件認可は土地区画整理法第39条第1項に規定される組合の定款変更に係る都道府県知事の認可であり、同2項により第21条第1項の規定が準用される。そこで第21条第1項を見ると、その第四号にある「土地区画整理事業を施行するために必要な経済的基礎及びこれを的確に施行するために必要なその他の能力が十分でないこと」に該当する事実がある場合は、同項の反対解釈によりその認可をしてはならないことになる。Aによる本件事業は既に実質的に破綻しているという主張は、土地区画整理法第21条第1項第四号に該当するとして、本件認可の違法事由として法律構成できる。C県側としては、本件事業は既に実質的に破綻しているとは言えず、むしろ事業を施行するために必要な経済的な基礎を固めるためにも本件認可が必要であると反論するだろう。
 2.書面決議書の取扱い
 本件臨時総会において、本件組合の理事Dが組合員により署名捺印された白紙のままの書面議決書500通を受け取り、後で議案に賛成の記載を自ら施していた。書面議決そのものは土地区画整理法第38条第3項及び第4項により可能であるが、Dが賛成の記載を後からしていたことが問題になり得る。この500通の書面議決書が無効になれば組合員の3分の2以上の出席という要件を満たさなくなるので、本件認可は違法となる。しかし第38条第3項及び第4項では代理人による議決も認められているのでこの書面議決書が無効にはならないとC県は反論できる。白紙のままの書面議決書に署名捺印してDに渡すことは、Dに本件議決の代理を委任するに等しいという根拠がある。
 3.本件賦課金の算定方法の違法性
 問題文に示されたデータによると、本件賦課金を課されるのは、総組合員の約20パーセントに過ぎず、総地積から計算しても60パーセントに満たない。土地区画整理法第40条第2項に「賦課金の額は、組合員の試行区域内に有する宅地又は借地の位置、地積等を考慮して公平に定めなければならない」とあるところ、これに反する疑いが濃厚である。ただ、賦課金の算定方法は本件定款において直接定められているわけではないので、C県側は、賦課金の算定方法の違法性が本件認可の違法性をもたらすわけではないという主張をしてくるかもしれない。しかしながら、定款に直接定められていないといっても、本文中に記載された方法で賦課金が徴収されることはほぼ確実である。そのような事情下で違法だと判断しないことは、行政一般に妥当する公平の原則にもとる。
 4.結論
 本件認可が違法であると言えるほどに本件事業が破綻しているとは認められない。また、書面決議書の取扱いに多少の問題はあったとしても、それが無効になるほどではない。しかし本件賦課金の算定方法は著しく不公平であり、それを許すことになる本件認可は違法である。

以上

 

 

修正答案

[設問1]
 1.土地区画整理組合の法的性質
 C県の職員が述べているように本件の土地区画整理組合が下級行政機関であり、本件認可が行政機関の間での内部行為であれば、それは処分に該当しないことになる。というのも、行政事件訴訟法の規律を受ける処分とは、国民の権利義務ないし法律上の地位に直接具体的な法律上の影響を与えるものだからである。通達のように行政機関内部でのやり取りはもっぱら行政権に関わるものであり、三権分立の観点から司法審査になじまない。法律の文言上は「認可」となっていても、それが実質的に行政機関内部でのやり取りであるならば、やはり司法審査になじまない。
 このC県側の主張の論拠となり得る土地区画整理法の規定がいくつかある。まず第3条の第2項と第4項で、土地区画整理事業の試行主体として、土地区画整理組合と都道府県又は市町村が並列的に挙げられている。より具体的には、第25条第1項で組合につき強制加入制がとられていること、第40条や第41条で賦課金及び過怠金の賦課徴収及び滞納処分申請の権限が組合に付与されていること、第103条第3項で換地処分の権限が組合に付与されていることが規定され、地方自治体類似の権能が与えられている。そして第123条で都道府県知事や市町村長が土地区画整理組合に対して報告の要求や勧告ができると規定されており、さらに第125条で都道府県知事による組合に対する監督が規定されている。これらの点から、土地区画整理組合が都道府県や市町村の下級行政機関という側面を有していると言える。
 しかしながら、本件認可は下級行政機関という側面を有する土地区画整理組合に対するものであるとはいえ、Aをはじめとした組合員に賦課金の納入という義務を負わせる効果を生じさせるので、行政機関内部でのやり取りに収まらず、処分性が認められる余地がある。
 2.本件定款変更認可の法的性格
 本件定款変更認可はAをはじめとした組合員に賦課金の納入という義務を負わせる効果を生じさせるので処分性が認められる余地があるとしても、本件認可から直ちに組合員が賦課金の納入義務を負うわけではなく、賦課金の徴収といった土地区画整理事業を施行する場合には施行規程を定めなければならず(土地区画整理法第52条)、その施行規程は当該都道府県又は市町村の条例で定められる(土地区画整理法第53条第1項)。C県の職員が言うように、条例の制定行為に処分性が認められないとすると、条例の制定とセットになっている本件認可にも処分性が認められないという主張が成り立つ。条例の制定に処分性が認められない理由は、条例が不特定多数を一般的・抽象的に対象とするものであり、民主主義や住民自治の観点から、議会に委ねられるべきだという点にある。逆に言うと、条例という形式をとっていても、特定の者に義務を負わせるのであれば、それは処分に該当すると言える。
 本件認可は賦課金を新設する定款変更に対する認可である。その賦課金の具体的な仕組みは、定款変更と同時に議決された本件要綱に基づき300平方メートルを超える宅地の所有者等に対して、300平方メートルを超える地積に比例して賦課金が割り当てられるというものであり、Aほか約200名に限って義務を負うことになる。よって先の基準からすると条例という形式であっても特定の者に直接具体的な義務を負わせるので行政事件訴訟法で規律される処分に該当するとAは反論することができ、それが認められるべきである。
 3.結論
 以上より、本件認可は、取消訴訟の対象となる処分に当たる。

[設問2]
 1.本件事業の実態(実質的に破綻しているので違法であるというAの主張)
 本件認可は土地区画整理法第39条第1項に規定される組合の定款変更に係る都道府県知事の認可であり、同2項により第21条第1項の規定が準用される。そこで第21条第1項を見ると、その第4号にある「土地区画整理事業を施行するために必要な経済的基礎及びこれを的確に施行するために必要なその他の能力が十分でないこと」に該当する事実がある場合は、同項の反対解釈によりその認可をしてはならないことになる。Aによる本件事業は既に実質的に破綻しているという主張は、土地区画整理法第21条第1項第4号に該当するとして、本件認可の違法事由として法律構成できる。C県側としては、本件事業は既に実質的に破綻しているとは言えず、むしろ事業を施行するために必要な経済的な基礎を固めるためにも本件認可が必要であると反論するだろう。
 2.書面決議書の取扱い
 本件臨時総会において、本件組合の理事Dが組合員により署名捺印された白紙のままの書面議決書500通を受け取り、後で議案に賛成の記載を自ら施していた。書面議決そのものは土地区画整理法第38条第3項及び第4項により可能であるが、Dが賛成の記載を後からしていたことが問題になり得る。この500通の書面議決書が無効になれば組合員の3分の2以上の出席という要件を満たさなくなるので、本件認可は違法となる。しかし第38条第3項及び第4項では代理人による議決も認められているのでこの書面議決書が無効にはならないとC県は反論できる。白紙のままの書面議決書に署名捺印してDに渡すことは、Dに本件議決の代理を委任するに等しいという根拠がある。
 3.本件賦課金の算定方法の違法性
 問題文に示されたデータによると、本件賦課金を課されるのは、総組合員の約20パーセントに過ぎず、総地積から計算しても60パーセントに満たない。土地区画整理法第40条第2項に「賦課金の額は、組合員の試行区域内に有する宅地又は借地の位置、地積等を考慮して公平に定めなければならない」とあるところ、これに反する疑いが濃厚である。ただ、賦課金の算定方法は本件定款において直接定められているわけではないので、C県側は、賦課金の算定方法の違法性が本件認可の違法性をもたらすわけではないという主張をしてくるかもしれない。しかしながら、定款に直接定められていないといっても、本件要綱が定款変更と同時に議決されているので、本文中に記載された方法で賦課金が徴収されることはほぼ確実である。そのような事情下で違法だと判断しないことは、土地区画整理法第40条第2項の趣旨に反する。
 4.結論
 本件認可が違法であると言えるほどに本件事業が破綻しているとは認められない。また、書面決議書の取扱いに多少の問題はあったとしても、それが無効になるほどではない。しかし本件賦課金の算定方法は著しく不公平であり、それを許すことになる本件認可は違法である。

以上

 

 

感想

[設問2]はまだマシだったとしても、[設問1]が意図をつかめずひどい答案を書いてしまいました。全体的に国語力で解いているような気がしてなりません。




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