平成25年司法試験予備試験論文(憲法)答案練習

問題

 202*年時点では,衆議院小選挙区選出議員における,いわゆる「世襲」議員の数が増加する傾向にある。「世襲」議員とは,例えば,国会議員が引退する際に,その子が親と同一の選挙区から立候補して当選した場合の当選議員をいう。「世襲」議員には,立候補時において,一般の新人候補者に比べて,後援会組織,選挙資金,知名度等のメリットがあると言われている。このような「世襲」議員については賛否両論があるが,政党A及び政党Bでは,世論の動向も踏まえて何らかの対応策を採ることとし,立候補が制限される世襲の範囲や対象となる選挙区の範囲等について検討が行われた。その結果,政党Aから甲案が,政党Bから乙案が,それぞれ法律案として国会に提出された。
 甲乙各法律案の内容は,以下のとおりである。
  (甲案)政党は,その政党に所属する衆議院議員の配偶者及び三親等内の親族が,次の衆議院議員選挙において,当該議員が選出されている小選挙区及びその小選挙区を含む都道府県内の他の小選挙区から立候補する場合は,その者を当該政党の公認候補とすることができない。
  (乙案)衆議院議員の配偶者及び三親等内の親族は,次の衆議院議員選挙において,当該議員が選出されている小選挙区及びその小選挙区を含む都道府県内の他の小選挙区から立候補することができない。

 政党Cに所属する衆議院議員Dは,次の衆議院議員選挙では自らは引退した上で,長男を政党Cの公認候補として出馬させようとして,その準備を着々と進めている。Dは,甲案及び乙案のいずれにも反対である。Dは,甲案にも乙案にも憲法上の問題があると考えている。

 

〔設 問〕
Dの立場からの憲法上の主張とこれに対して想定される反論との対立点を明確にしつつ,あなた自身の見解を述べなさい。

 

練習答案

以下日本国憲法についてはその条数のみを示す。

 

第1 Dの主張
 1 平等権
  すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない(14条1項)。
  衆議院議員の配偶者及び三親等内の親族というのは門地である。仮に門地でないとしても14条1項の保障する範囲内であることは明らかである。それにより衆議院議員選挙において一定の小選挙区から立候補できないということは大きな政治的差別であり、経済的又は社会的関係における差別である。衆議院議員は政治に携わるための最有力の道であり、職業として収入も得られ、社会的な影響力も大きいからである。
  以上より、甲案も乙案も平等権を侵害し違憲である。
 2 衆議院議員に立候補する権利
  衆議院議員に立候補する権利(以下「本件権利」とする)は明文で規定されていないものの、憲法で保障されている。まず、公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である(15条1項)。より具体的には、国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成し(42条)、両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織し(43条1項)、両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める、但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならない(44条)からである。
  このように本件権利は憲法上保障されているところ、甲案も乙案もそれを侵害しているので違憲である。
第2 想定される反論
 1 平等権
  平等権は機械的、画一的に保障されるものではなく、合理的な区別はむしろ実質的な平等に資するものとして許される。
  「世襲」議員が増加しているということは、後援会組織、選挙資金、知名度等で劣る「世襲」でない人が差別されている状態であり、それを是正して実質的な平等を志向する甲案、乙案とも合憲である。
 2 本件権利
  両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める(44条)のであって、現に25歳以上でなければ衆議院議員の被選挙権がなく(公職選挙法10条1項1号)、一定の犯罪をした者もそうである(公職選挙法11条、11条の2)。
  このように、法律によって本件権利を制約することも可能である。
第3 私自身の見解
 1 平等権
  合理的な区別であれば許されるというのは想定される反論の通りなので、合理的な区別かどうかを検討する。ただし、Dが主張するように14条1項に列挙された項目によるものなので、合理性は厳格に判定されなければならない。
  想定される反論が主張するように、甲案、乙案ともにかなりの合理性を有している。加えて、衆議院議員になるための実質的な平等という目的のためには、他のより制限的でない方法は思い当たらない。そして両案とも世論を背景として国会に提出されたという手続的な正当性も有している。
  以上より、甲案、乙案とも違憲ではない。
 2 本件権利
  本件権利は民主主義の根幹をなす重大な権利である。よって法律でその権利を制約できるとしても、その制約は最小限でなければならない。
  想定される反論が挙げる年齢制限については被選挙権については求められる熟慮も大きくなるので選挙権よりも少しだけ厳しい制限を課すというのは最小限度であるし、一定の犯罪も選挙の公正を保つのに最小限度となるように慎重に規定されている。
  甲案、乙案とも立候補が禁止されるのは1回の選挙だけであり、しかも1つの都道府県の小選挙区に限定されている。さらに甲案では当該政党の公認候補とすることができないだけで、他の政党からや無所属でなら立候補できる。
  「世襲」議員は当選しやすいのである種の不正な選挙に近いと考えれば甲案は最小限度の制約として許容されるが、不正そのものではないので乙案の制約は広すぎる。
  以上より、甲案は合憲であるが、乙案は違憲であると私は考える。

以上

 

修正答案

以下日本国憲法についてはその条数のみを示す。

第1 Dの主張
 1 平等権
  すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない(14条1項)。
  衆議院議員の配偶者及び三親等内の親族というのは社会的身分又は門地である。それにより衆議院議員選挙において一定の小選挙区から立候補できないということは大きな政治的差別であり、経済的又は社会的関係における差別である。衆議院議員は政治に携わるための最有力の道であり、職業として収入も得られ、社会的な影響力も大きいからである。
  以上より、甲案も乙案も平等権を侵害し違憲である。
 2 衆議院議員に立候補する権利
  衆議院議員に立候補する権利(以下「本件権利」とする)は明文で規定されていないものの、憲法で保障されている。まず、公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である(15条1項)。より具体的には、国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成し(42条)、両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織し(43条1項)、両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める、但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならない(44条)からである。
  このように本件権利は憲法上保障されているところ、甲案も乙案もそれを侵害しているので違憲である。
第2 想定される反論
 1 平等権
  平等権は機械的、画一的に保障されるものではなく、合理的な区別はむしろ実質的な平等に資するものとして許される。
  「世襲」議員が増加しているということは、後援会組織、選挙資金、知名度等で劣る「世襲」でない人が差別されている状態であり、それを是正して実質的な平等を志向する甲案、乙案とも合憲である。
 2 本件権利
  両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める(44条)のであって、現に25歳以上でなければ衆議院議員の被選挙権がなく(公職選挙法10条1項1号)、一定の犯罪をした者もそうである(公職選挙法11条、11条の2)。
  このように、法律によって本件権利を制約することも可能である。
第3 私自身の見解
 1 平等権
  合理的な区別であれば許されるというのは想定される反論の通りなので、合理的な区別かどうかを検討する。ただし、Dが主張するように14条1項に列挙された項目によるものなので、合理性は厳格に判定されなければならない。
  想定される反論が主張するように、甲案、乙案ともにかなりの合理性を有している。加えて、衆議院議員になるための実質的な平等という目的のためには、他のより制限的でない方法は思い当たらない。そして両案とも世論を背景として国会に提出されたという手続的な正当性も有している。
  以上より、甲案、乙案とも違憲ではない。
 2 本件権利
  本件権利は民主主義の根幹をなす重大な権利である。よって法律でその権利を制約できるとしても、その制約は最小限でなければならない。
  想定される反論が挙げる年齢制限については被選挙権については求められる熟慮も大きくなるので選挙権よりも少しだけ厳しい制限を課すというのは最小限度であるし、一定の犯罪も選挙の公正を保つのに最小限度となるように慎重に規定されている。
  甲案、乙案とも立候補が禁止されるのは1回の選挙だけであり、しかも1つの都道府県の小選挙区に限定されている。さらに甲案では当該政党の公認候補とすることができないだけで、他の政党からや無所属でなら立候補できる。
  「世襲」議員は当選しやすいのである種の不正な選挙に近いと考えれば甲案は最小限度の制約として許容される。しかし、「世襲」議員は不正そのものではなく、政党の公認候補になれないとするだけでも「世襲」議員に対する不公平感もかなりの程度払拭できるので、他の政党所属や無所属となっても立候補できないとする乙案の制約は広すぎる。
  甲案については、政党がその公認候補を自由に選定・決定するという政党の自律権を侵害するという反論もあり得るが、政党の自律権といえども選挙の公正を守るための法律の規制には服さなければならないので、甲案は合憲である。
  以上より、甲案は合憲であるが、乙案は違憲であると私は考える。

以上

 

 

感想

最後のほうは時間切れで無理矢理まとめましたが、時間を計って手書きで書いた練習答案もそれなりの評価になると信じたいです。というよりも、時間をかけてもそれ以上の記述があまり思いつきませんでした。自分の中で理解があまりすっきりしていません。

 




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