平成22年司法試験論文刑事系2問答案練習

問題

〔第2問〕(配点:100)
次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。

 

【事 例】
1 暴力団A組は,けん銃を組織的に密売することによって多額の利益を得ていたが,同組では,発覚を恐れ一般人には販売せず,暴力団に属する者に対してのみ,電話連絡等を通じて取引の交渉をし,取引成立後,宅配等によりけん銃を引き渡すという慎重な方法が採られていた。司法警察員Pらは,A組による組織的な密売ルートを解明すべく内偵捜査を続けていたが,A組幹部の甲がけん銃密売の責任者であるとの情報や,甲からの指示を受けた組員らが,取引成立後,組事務所とは別の場所に保管するけん銃を顧客に発送するなどの方法によりけん銃を譲渡しているとの情報を把握したものの,顧客が暴力団関係者のみであることから,甲らを検挙する証拠を入手できずにいた。
 平成21年6月1日,Pらは,甲らによるけん銃密売に関する証拠を入手するため,A組の組事務所であるアパート前路上で張り込んでいたところ,甲が同アパート前公道上にあったごみ集積所にごみ袋を置いたのを現認した。そこで,Pらは,同ごみ袋を警察署に持ち帰り,その内容物を確認したところ,「5/20 1丁→N.H 150」などと日付,アルファベットのイニシャル及び数字が記載された複数のメモ片を発見したため,この裁断されていたメモ片を復元した[捜査①]。
 さらに,同月2日,Pらは,甲が入居しているマンション前路上で張り込んでいたところ,甲が同マンション専用のごみ集積所にごみ袋を置いたのを現認した。なお,同ごみ集積所は,同マンション敷地内にあるが,居住部分の建物棟とは少し離れた場所の倉庫内にあり,その出入口は施錠されておらず,誰でも出入りすることが可能な場所にあった。そこで,Pらは,同集積所に立ち入り,同所において,同ごみ袋内を確認したところ,「5/22 1丁→T.K 150」などと記載された同様のメモ片を発見したため,このメモ片を持ち帰り復元した[捜査②]。
 Pらが復元した各メモ片の内容を確認したところ,甲らが,同年5月中に,10名に対して,代金総額2250万円で合計15丁のけん銃を密売したのではないかとの嫌疑が濃厚となった。

2 その後,Pらは,更なる内偵捜査により,A組とは対立する暴力団B組に属する乙が,以前に甲からけん銃を入手しようとしたものの,その代金額について折り合いがつかずにけん銃を入手できなかったため,B組内で処分を受け,甲及びA組に対して強い敵意を抱いているとの情報を入手した。
 そこで,Pは,同年6月5日,乙と接触し,同人に対し,もう一度甲と連絡を取ってけん銃を譲り受け,甲を検挙することを手伝ってほしい旨依頼したところ,乙の協力が得られることとなった。この際,Pは,乙に対し,電話で甲に連絡をした際や直接会って話をした際には,甲との会話内容をICレコーダーに録音したいこと,さらに会話終了後には,引き続き,乙にその会話内容を説明してもらい,それも併せて録音したい旨を依頼し,乙の了解を得た。
 同月7日午前11時ころ,乙は,乙方近くのE公園において,自らの携帯電話から甲の携帯電話に電話をかけ,甲に対し,「前には金額で折り合わなかったが,やはり物を購入したい。もう一度話し合いたいんだ。」などと言い,甲から,「分かった。値段が張るのはやむを得ない。よく考えてくれよ。」などとの話を引き出した。乙の近くにいたPは,この会話を乙の携帯電話に接続したICレコーダーに録音し,さらに,同会話終了後にされた「自分は,平成21年6月7日午前11時ころ,E公園において,甲と電話で話したが,甲は自分にけん銃を売ることについての話合いに応じてくれた。明日午後1時ころ,F喫茶店で直接会って更に詳しい話合いをすることになった。」という乙による説明も録音した[録音①]。
 翌8日午後1時ころ,待ち合わせ場所のF喫茶店において,甲と乙は,けん銃の譲渡について話合いをした。その際,甲と乙は,代金総額300万円でけん銃2丁を譲渡すること,けん銃は後日乙の指定したマンションへ宅配便で配送すること,けん銃の受取後,代金を直接甲に支払う-6-ことなどを合意するに至った。隣のテーブルにいたPは,このけん銃譲渡に関する会話をICレコーダーに録音し,さらに,甲が同店を立ち去った後にされた「自分は,平成21年6月8日午後1時ころ,F喫茶店で甲と直接話合いをした。甲が自分にけん銃2丁を300万円で売ってくれることになった。けん銃2丁は宅配便で,りんごと一緒に自分のマンションに配送される。代金300万円は後で連絡を取り合って場所を決め,その時渡すことになった。」という乙による説明も録音した[録音②]。

3 翌9日以降,Pらは,乙がけん銃を受け取ったことを確認し次第,甲をけん銃の譲渡罪で逮捕し,関係箇所を捜索しようと考え,度々乙と電話で連絡を取り,甲からけん銃2丁が配送されてきたか否か確認を続けた。しかし,同月14日午後9時ころ,Pらは,乙が電話に出なくなったことから不審に思い,乙の生命又は身体に危険な事態が発生した可能性があることからその安全を確認するため,乙方マンション管理人立会いの下,乙方に立ち入ると,乙が居間において,頭部右こめかみ付近から出血した状態で死亡しているのを発見した。乙の死体付近にはけん銃2丁が落ちており,その近くには開封された宅配便の箱があり,その中を確認するとりんごが数個入っていた。また,机上には乙の物とみられる携帯電話1台があった。Pらは,甲によるけん銃譲渡の被疑事実について,裁判官から捜索差押許可状の発付を得た上で,発見したけん銃2丁及び携帯電話1台を押収した。さらに,Pらは,押収した乙の携帯電話の発信歴や着信歴を確認したが,すべて消去されていたため,直ちに科学捜査研究所で,消去されたデータの復元・分析を図った[捜査③]。その結果,頻繁に発着信歴のある電話番号「090-7274-△△△△」が確認され,さらにこの契約者を捜査すると丙女であることが明らかとなった。なお,Pらは,乙方では遺書等を発見できず,押収したけん銃2丁には乙の右手指紋が付着していたものの,乙が死亡した原因を自殺か他殺か特定できなかった上,捜査の必要から,乙死亡についてマスコミ発表をしなかった。また,宅配便の箱に貼付されていた発送伝票の発送者欄には,住所,人名及び電話番号が記載されていたが,捜査の結果,それらはすべて架空のものであることが明らかとなった。

4 翌15日午後7時ころ,Pらが乙の携帯電話を持参して丙女方を訪ねると,丙女は,当初は乙を知らないと供述したものの,Pらが乙の携帯電話の電源を入れ,丙女の携帯電話番号の発着信歴が頻繁にあったことを告げると,ようやく,乙と約2年前から交際していたことを認め,乙から,今回警察の捜査に協力していることやそのためにA組の甲からけん銃を譲り受けることを打ち明けられていたなどと供述した。そのような事情聴取を継続中に,突然,乙の携帯電話の着信音が鳴った。Pらは,着信の表示番号が以前に乙から教わっていた甲の携帯電話番号であったので,甲からの電話であると分かり,とっさに,丙女から,電話に出ること及び会話の録音についての同意を得た上で,丙女に電話に出てもらうとともに,乙の携帯電話の録音機能を使用して録音を開始した。すると,甲と思われる男の声で,「もしもし,甲だ。物届いただろう。約束どおりりんごと一緒に届いただろう。300を早く支払ってくれよ。」との話があり,丙女が,乙が死亡してしまったこと,自分は乙の婚約者であることを告げると,甲と思われる男は,「婚約者なら乙の代わりに代金300万円を用意して持ってこい。物は約束どおり届いたはずだろう。」などと強く言ってきた。Pがメモ紙に代金は警察が用意するので待ち合わせ場所を決めるようにと記載して示すと,丙女は,その記載に従って,「分かりました。代金は,乙に代わって私が用意します。待ち合わせ場所を指定してください。」などと言い,同月17日に甲とF喫茶店で待ち合わせることになった。Pは,電話終了後,乙の携帯電話の録音機能を停止して再生し,丙女と甲と思われる男の会話内容が録音されていることを確認した[録音③]。

5 同月17日午後3時ころ,丙女がF喫茶店に赴いたところ,甲が現れたので,Pらは,甲をけん銃2丁の譲渡罪で緊急逮捕した。
 甲は勾留後,否認を続けたが,検察官は,本件けん銃2丁,甲乙間及び甲丙女間の本件けん銃譲渡に関する[録音①],[録音②]及び[録音③]を反訳した捜査報告書【資料】,丙女の供述等-7-を証拠に,同年7月8日,甲をけん銃2丁の譲渡罪で起訴した。
 被告人甲は,第一回公判期日において,「自分は,乙に対してけん銃2丁を譲り渡したことはない。」旨述べた。その後の証拠調べ手続において,検察官は,「甲乙間の本件けん銃譲渡に関する甲乙間及び甲丙女間の会話の存在と内容」を立証趣旨として,前記捜査報告書を証拠調べ請求したところ,弁護人は,不同意とした。

 

〔設問1〕 下線部の[捜査①]から[捜査③]の適法性について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。

 

〔設問2〕 【事例】中の捜査報告書の証拠能力について,前提となる捜査の適法性を含めて論じなさい。

 

【資料】
捜査報告書
平成21年6月18日
○○県□□警察署
司法警察員 警視 P 殿
○○県□□警察署
司法警察員 巡査部長 K ,
被疑者 甲
(本籍,住居,職業,生年月日省略)
上記の者,平成21年6月17日,銃砲刀剣類所持等取締法違反被疑事件の被疑者として緊急逮捕したものであるが,被疑者は,乙及び丙女との間で電話等による会話をしており,その状況を録音したICレコーダー及び携帯電話を本職が再生して反訳したところ,下記のとおり判明したので報告する。

1 平成21年6月7日午前11時ころ~午前11時5分ころ,電話による通話等
⑴乙 「もしもし,乙ですが,この間は申し訳なかったね。」「やはり,物必要なんだ。前には金額で折り合わなかったが,やはり物を購入したい。もう一度話し合いたいんだ。」
甲 「今更何言ってるの。物って何のことよ。」
乙 「とぼけないでくださいよ。×××のことですよ。」
甲 「前は,高過ぎるとか,ほんとに良い物なのかとか,うるさかったじゃない。うちのは××××とは違うんだよ。」
乙 「悪かったね。やはりどうしても欲しいんだ。助けてほしい。」
甲 「分かった。うちの回転×××の×××は物が良いので,値段が張るのはやむを得ない。よく考えてくれよ。」
乙 「よく分かったよ。明日1時に前回と同じF喫茶店でどうだい。」
甲 「分かった。明日会おう。」
ここで,甲乙間の会話が終了し(なお×××部分は聞き取れず),引き続き,乙の声で,
⑵乙 「自分は,平成21年6月7日午前11時ころ,E公園において,甲と電話で話したが,甲は自分にけん銃を売ることについての話合いに応じてくれた。明日午後1時ころ,F喫茶店で直接会って更に詳しい話合いをすることになった。」との話が録音されていた。
2 同月8日午後1時ころ,F喫茶店における会話等
⑴乙 「お久しぶり。この前は悪かったね。」
甲 「だから,この間の条件で買っておけばよかったんだよ。うちの条件は前回と同じ,1丁150万円,2丁なら×××××,物がいいんだからびた一文負けられないよ。」
乙 「分かったよ。それでいいよ。物どうやって受け取るんだい。」
甲 「うちのやり方は,直接渡したりはしないんだ。そこでパクられたら,所持で逃げようないからね。あんたのマンションへ宅配便で送るよ。りんごの箱に入れて,一緒に送るから。受け取ったら,×××渡してくれよ。場所はまた連絡する。」
乙 「それでいこう。頼むね。」
ここで,甲乙間の会話が終了し(なお×××部分は聞き取れず),引き続き,乙の声で,
⑵乙 「自分は,平成21年6月8日午後1時ころ,F喫茶店で甲と直接話合いをした。
甲が自分にけん銃2丁を300万円で売ってくれることになった。けん銃2丁は宅配便で,りんごと一緒に自分のマンションに配送される。代金300万円は後で連絡を取り合って場所を決め,その時渡すことになった。」との話が録音されていた。
3 同月15日午後7時15分ころ~午後7時20分ころ,電話による通話
甲 「もしもし,甲だ。物届いただろう。約束どおりりんごと一緒に届いただろう。300を早く支払ってくれよ。」
丙女「私は,乙の婚約者の丙女です。乙は死んでしまいました。」
甲 「ええ。死んだ。本当かよ。どうして死んだんだ。××か。」
丙女「分かりません。でも,遺書はありませんし,近くにけん銃が落ちていました。」
甲 「それはお気の毒だ。でも物は届いたんだろう。それなら,あんたが代わりに300万円払ってくれ。」
丙女「そんなお金は持っていません。」
甲 「婚約者なんだろ。婚約者なら乙の代わりに代金300万円を用意して持ってこい。物は約束どおり届いたはずだろう。」
丙女「分かりました。代金は,乙に代わって私が用意します。待ち合わせ場所を指定してください。」
甲 「本当に用意できるのか。それじゃあ。明後日の17日午後3時,F喫茶店に金を持ってきてくれ。××には言うなよ。」
丙女「分かりました。必ず行きます。」
ここで甲丙女間の会話が終了した(なお××部分は聞き取れず)。

 

練習答案

以下刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
第1 捜査の適法性一般
 捜査については、その目的を達するために必要な取調をすることができるが、強制の処分は刑事訴訟法に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない(197条1項)。そこでは何が強制の処分に該当し、何が強制の処分に該当せず任意の処分に該当するかが問題となる。ここでは、対象者の身体、財産、プライバシーなどの法益が侵害されれば強制の処分で、そうでなければ任意の処分であると考える。
 司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、捜索又は検証をすることができる(218条1項)。また、司法警察職員は、被疑者その他の者が遺留した物又は所有者若しくは保管者が任意に提出した物は、これを領置することができる(221条)。
第2 捜査①の適法性
 Pは司法警察職員であるので遺留物の領置をすることができる。公道上にあったごみ集積所に置いてあったごみ袋は遺留物である。よってPは令状なしでも本件ごみ袋を領置することができる。公道上にあるごみ集積所にある物を置くということは、その物の所有権やプライバシーの権利などを放棄する行為なので、それを領置するのは任意の処分である。
 またPは検証をすることができ、裁断されていたメモ片を復元してそこに記載された文字等を記み【原文ママ】取る行為は検証であるので、メモ片の復元も適法である。
第3 捜査②の適法性
 捜査②は捜査①とかなり似ているので捜査①についての先ほどの記述を前提として、相違点のみを考える。
 その相違点は、ごみ袋があった集積所が公道上ではなく甲が入居しているマンションの敷地内にあったということである。そしてそうなるとそこにあったごみ袋は遺留物ではなくなるので領置できず、令状により差押えすべき物品となる。というのも、マンションの敷地内に存在する物はマンションの管理者の権限が及ぶ物であるからである。捜査②で持ち帰られたごみ袋には同マンション管理者の所有権が及び、甲のプライバシーの権利も同マンションの管理者や入居者に対してのみ放棄されているにすぎない。このことから本件ごみ袋を持ち帰るのは強制の処分であると言える。よって令状に基づき差押えすべきところを令状なしで領置したこの捜査②は違法である。
第4 捜査③の適法性
 捜査③は裁判所から捜索差押許可状(令状)を得た上でなされているので、その点については適法である。問題になり得るのは消去されたデータの復元・分析を図ったことである。
 仮に乙が生きていて同意していたら法益が侵害されることもないのでデータの復元・分析を任意の処分として行うことができる。しかし乙が死亡しているので同意を得ることはできない。そこでこのデータの復元・分析が何らかの法益を侵害しないかを検討する。乙は死亡しているので乙の法益を考える必要はない。乙の携帯電話は相続人の財産となるのでその財産権を侵害してはならないが、データの復元・分析で携帯電話の財産的価値を損なうことはないと考えられるので、相続人の財産権を侵害するということもない。
 以上より令状の発付などの手続に問題はなく、データの復元・分析も法益を侵害しない任意の処分としてできるので、捜査③は適法である。

 

[設問2]
第1 違法収集証拠(おとり捜査)
 本件捜査報告書が違法に収集したものであれば証拠能力が否定されることがある。
 [設問1]で捜査②は違法であると結論づけたが、この捜査②がなくても捜査①などから甲のけん銃密売の嫌疑は導けるので、その違法が本件捜査報告書の証拠能力を否定することはない。
 Pが乙らと協力して行った捜査はいわゆるおとり捜査であり、その適法性が問題となり得る。おとり捜査は捜査機関がわざわざ犯罪を作り出すものであると言えるからである。しかし本件では捜査機関が働きかける前から甲が乙にけん銃の売買を持ちかけており、その時の交渉を再開させたにすぎないので、新たに犯罪を作り出したとは言えない。また、執ように犯罪行為をそそのかしたということもない。さらに本件で疑われているのはけん銃の売買という重大犯罪であり、他の手段で甲らを検挙する証拠を入手することもできなかったという事情もある。こうしたことから、本件でPが乙らと協力して行った捜査は適法である。
 以上より、本件捜査報告書が違法収集証拠としてその証拠能力を否定されることはない。
第2 伝聞証拠
 本件捜査報告書の要証事実は甲がけん銃の譲渡を行ったことである。それを裏づける甲、乙、丙女の供述は後半で反対尋問にさらすのが原則であり、一定の例外を除いては書面で証拠とすることはできない(320条1項)。以下では3にんそれぞれについて例外(伝聞例外)に該当しないかを検討する。
 (1) 甲について
 322条1項に沿って検討する。甲は被告人である。署名も押印もないが、ICレコーダーは機械的正確性でもって記録するので、この要件は不要である。署名や押印を求める理由は、被告人の供述を聞いて記録した者が内容をねじ曲げていないかどうかをチェックすることであり、本件のようにICレコーダーを用いればその危険はないので、この要件を不要としてもよいのである。そしてけん銃の譲渡という不利益な事実を承認していて、任意にされたものではない疑いもない。以上より甲の発言部分は322条1項の伝聞例外に該当するので証拠能力が肯定される。
 (2) 乙について
 321条1項3号に沿って検討する。乙は被告人以外の者である。署名や押印は先ほどと同じ理由で必要ない。その供述は裁判官の面前でも検察官の面前でもされていないので三号の書面になる。供述者の乙は死亡していて公判期日において供述することができない。この捜査報告書がほぼ唯一の有力な証拠なので、犯罪事実の存否の証明に欠くことができない。電話でのプライベートな会話であり特に信用すべき情況の下にされている。以上より乙の発言部分は321条1項3号の伝聞例外に該当するので証拠能力が肯定される。
 (3) 丙女について
 乙と同様に321条1項3号に沿って検討する。丙女は死亡その他の理由で公判期日において供述することができないとは認められないので伝聞例外には該当しない。よって丙女の発言部分の証拠能力は否定される。
 以上より、本件捜査報告書の証拠能力は、丙女発言部分のみ否定される。

以上

 

修正答案

以下刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

 

[設問1]
第1 捜査の適法性一般
 捜査については、その目的を達するために必要な取調をすることができるが、強制の処分は刑事訴訟法に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない(197条1項)。そこでは何が強制の処分に該当し、何が強制の処分に該当せず任意の処分に該当するかが問題となる。ここでは、対象者の身体、財産、プライバシーなどの法益が侵害されれば強制の処分で、そうでなければ任意の処分であると考える。
 司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、捜索又は検証をすることができる(218条1項)。また、司法警察職員は、被疑者その他の者が遺留した物又は所有者若しくは保管者が任意に提出した物は、これを領置することができる(221条)。そして差押状または捜索状の執行及び押収物については必要な処分をすることができる(222条1項、111条)
第2 捜査①の適法性
 Pは司法警察職員であるので遺留物の領置をすることができる。公道上にあったごみ集積所に置いてあったごみ袋は遺留物である。よってPは令状なしでも本件ごみ袋を領置することができる。公道上にあるごみ集積所にごみ袋を出すということは、その物の所有権やプライバシーの権利などを放棄する行為なので、それを領置するのは任意の処分である。また、Pは押収物について必要な処分をすることができるので、裁断されていたメモ片を復元する行為も適法である。
第3 捜査②の適法性
 捜査②は捜査①とかなり似ているので捜査①についての先ほどの記述を前提として、相違点のみを考える。
 その相違点は、ごみ袋があった集積所が公道上ではなく甲が入居しているマンションの敷地内にあったということである。そしてそうなるとそこにあったごみ袋は遺留物ではなくなるので領置できず、令状により差押えすべき物品となる。というのも、マンションの敷地内に存在する物はマンションの管理者の権限が及ぶ物であるからである。捜査②で持ち帰られたごみ袋には同マンション管理者の所有権が及び、甲のプライバシーの権利も同マンションの管理者や入居者に対してのみ放棄されているにすぎない。施錠されていなかったとはいえ、管理者に無断で本件マンションの敷地内に入り、そこにある本件ごみ袋を持ち去る行為は、管理者及び甲の法益を侵害している。このことから本件ごみ袋を持ち帰るのは強制の処分であると言える。よって令状に基づき差押えすべきところを令状なしで領置したこの捜査②は違法である。
第4 捜査③の適法性
 捜査③は裁判所から捜索差押許可状(令状)を得た上でなされているので、その点については適法である。問題になり得るのは消去されたデータの復元・分析を図ったことである。これが押収物についての必要な処分に該当するかどうかが問われるのである。
 仮に乙が生きていて同意していたら法益が侵害されることもないので、データの復元・分析を押収物についての必要な処分(任意の処分)として行うことができる。しかし乙が死亡しているので同意を得ることはできない。そこでこのデータの復元・分析が何らかの法益を侵害しないかを検討する。乙は死亡しているので乙の法益を考える必要はない。乙の携帯電話は相続人の財産となるのでその財産権を侵害してはならないが、データの復元・分析で携帯電話の財産的価値を損なうことはないと考えられるので、相続人の財産権を侵害するということもない。よってこのような本件の場合でもデータの復元・分析を押収物についての必要な処分(任意の処分)として行うことができる。
 以上より令状の発付などの手続に問題はなく、データの復元・分析も押収物についての必要な処分(任意の処分)としてできるので、捜査③は適法である。

 

[設問2]
第1 違法収集証拠(おとり捜査、秘密録音)
 本件捜査報告書が違法に収集したものであれば証拠能力が否定されることがある。そこでまずその点につき検討する。
 [設問1]で捜査②は違法であると結論づけたが、この捜査②がなくても捜査①などから甲のけん銃密売の嫌疑を導いて本件捜査報告書が得られたと考えられるので、その違法が本件捜査報告書の証拠能力を否定することはない。
 (1) おとり捜査
 Pが乙及び丙女と協力して行った捜査は、犯罪行為をするように働きかけるいわゆるおとり捜査であり、その適法性が問題となり得る。おとり捜査は捜査機関がわざわざ犯罪を作り出すものであると言えるからである。しかし本件では捜査機関が働きかける前から甲が乙にけん銃の売買を持ちかけており、その時の交渉を再開させたにすぎないので、新たに犯罪を作り出したとは言えない。そしてけん銃の売買は被害者が発生する犯罪類型でもない。また、Pが乙及び丙女を通じて甲に対して執拗に犯罪行為をそそのかしたということもない。さらに本件で疑われているのはけん銃の売買という重大犯罪であり、他の手段で甲らを検挙する証拠を入手することもできなかったという事情もある。こうしたことから、本件でPが乙らと協力して行った捜査は許容される(適法である)。
 (2) 秘密録音
 甲の発言を甲の同意を得ずに録音したことが秘密録音として違法にならないかも検討する。甲は自分の発言が録音されることに同意していないが、乙及び丙女は同意している。電話で会話する場合には自分の発言が相手、さらには電話口の近くにいる人に聞かれることを想定しているはずである。その通話相手である乙及び丙女が自分の聞いたことを司法警察職員のPに伝えるのは自由であり、そのためにメモや録音することも乙及び丙女の自由である。つまり甲の法益を侵害していないので、任意の処分として行うことができ、適法である。
 (3) 結論
 以上より、本件捜査報告書が違法収集証拠としてその証拠能力を否定されることはない。
第2 伝聞証拠
 本件捜査報告書の要証事実は甲乙間の本件けん銃譲渡に関する甲乙間及び甲丙女間の会話の存在と内容であり、それらの会話の録音を司法警察職員のKが聞いて反訳したものであるから、これは司法警察職員の検証の結果を記載した書面である。よってKが公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、これを証拠とすることができる(321条3項)。
 (1) 捜査報告書1(1)、2(1)、3について
 捜査報告書1(1)、2(1)、3については、会話の内容の真実性ではなく、そうした会話が存在したことに意味があるので(甲が乙にけん銃を譲渡したという内容が見られないので)、伝聞証拠には該当せず、証拠能力が肯定される。
 (2) 捜査報告書1(2)、2(2)について
 捜査報告書1(2)、2(2)については、甲が乙にけん銃を売ることについての話し合いに応じてくれたこと、そしてけん銃を売ってくれるようになったということの内容に意味があるので、伝聞証拠に該当する。そうすると321条ないし328条に規定する場合(伝聞例外)を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とすることができない(320条1項)。本件で伝聞例外になる可能性があるのは321条1項3号であり、それに沿って検討する。
 乙は被告人以外の者であって、その供述は裁判官の面前でも検察官の面前でもされていない。署名も押印もないが、ICレコーダーは機械的正確性でもって記録するので、この要件は不要である。署名や押印を求める理由は、被告人の供述を聞いて記録した者が内容をねじ曲げていないかどうかをチェックすることであり、本件のようにICレコーダーを用いればその危険はないので、この要件を不要としてもよいのである。供述者の乙は死亡していて公判期日において供述することができない。この捜査報告書がほぼ唯一の有力な証拠なので、犯罪事実の存否の証明に欠くことができない。甲との会話の直後に乙が自主的に録音したものであり、乙方でりんごの箱とともに発見されたけん銃2丁などの客観的状況とも整合しているので、特に信用すべき情況の下にされている。以上より乙の発言部分は321条1項3号の伝聞例外に該当するので証拠能力が肯定される。
 (3) 結論
 以上より、Kが公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、捜査報告書の全部につき証拠能力が肯定される。

以上

 

 

感想

定番の論点ながらも多くのミスをしてしまいました。[設問1]では222条1項で準用される111条という必要な処分を書けなかったのが悔やまれます。そして何より[設問2]のKについて全く触れていなかったのは致命的です。次からはこのようなひどいミスをしないように強く意識します。

 




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