平成30(2018)年司法試験予備試験論文再現答案刑事訴訟法

以下、刑事訴訟法についてはその条数のみを示す。

[設問1]
第1 強制捜査と任意捜査
 197条1項に規定される強制捜査は、個人の意思に反し、身体、住居、財産などを制約して強制的に捜査目的を達成しようとするものであって、刑事訴訟法に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。

第2 職務質問
 警察官職務執行法(以下「警執法」という。)2条1項を根拠として、警察官は職務質問をすることができる。そしてこの職務質問を実効力のあるものにするために、有形力の行使も含めて、強制捜査に至らない一定の処置をすることができると解されている。

第3 下線部①の行為の適法性
 ①の行為をするまでに、甲が自主的に歩き出したことを契機として、甲の腹部がPの右手に当たり、何か固い物が触れた感覚があったことから、甲が服の下に凶器等を隠している可能性が高まっていた。そして甲は職務質問に答えなかった。このような状況では、Pやその他周囲にいる人たちの安全のため、また職務質問を実効的なものにするため、①の行為をすることは適法である。服の上から触るという方法は相当である。

第4 下線部②の行為の適法性
 ①の行為から②の行為の直前までに、甲が凶器等を隠し持っている可能性は低下していた。また、背後から羽交い締めにすることは実質的な逮捕である。服の中に手を入れて、スボンのウエスト部分に挟まれていた物を取り出すことは、個人のプライバシーを大きく侵害し、個人の意思に反する。こうした事情から、②の行為は強制捜査に当たるので、違法である。

[設問2]
第1 違法収集証拠
 違法に収集された証拠といえども、物の客観的な性質に変わりはなく、一律に排除するのは適当でない。他方で、違法でも何でもとにかく証拠を集めて提出すれば裁判で取り扱われるとなると、違法な捜査に歯止めがかかりにくくなる。そこで、違法収集証拠に関しては、憲法及び刑事訴訟法の令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来の違法な捜査を抑制する観点から許容できないようなものは、証拠能力が否定されると考える。

第2 本件覚せい剤の証拠能力
 [設問1]で述べたように、本件覚せい剤は違法な捜査により収集されたものである。その違法は、無令状で実質的な逮捕を行いプライバシーを大きく侵害するという重大な違法であった。しかしながら、P及びQは、特に甲を狙いうちにしたというわけではなく、職務質問をきっかけとして甲を知るようになったのであり、②の行為の直前ではその可能性が低くなっていたものの、甲が凶器等を隠し持っている可能性もあった。そのような状況下でQがとっさの判断で行ったことであり、将来の違法な捜査を抑制する観点から許容できないとまでは言えないから、本件覚せい剤の証拠能力は否定されない(肯定される)。

以上




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です